高齢者のフレイル


妻の父親が93歳、母親が89歳になり、二人とも病院へ定期的に通ってはいますが、入れ歯はしていないし、気力もしっかりして、介護を受けることもなく、自立して生活しています。

しかし、加齢により、かつてのような元気さは無いので、私の妻と妹が、何かと心配して、普段使う日用品、衣料品、食物を交互に運んで、様子を見に行くようにしています。

こんな時、男は何の役にも立ちませんが、親にとって娘がいることは、老齢に至って初めてありがたいと思うものかもしれません。


フレイルとは

フレイルとは、わかりやすく言えば「加齢により心身が老い衰えた状態」のことです。

運動機能や認知機能が衰えると、介護の必要な状態に陥るリスクも高まります。

心身が衰え、疲れやすくなり、家に閉じこもりがちになることも少なくありません。

しかしフレイルは、早く介入して対策を行えば元の健常な状態に戻る可能性があります。

高齢者のフレイルは、生活の質を落とすだけでなく、さまざまな合併症も引き起こす危険があります。


フレイルの語源

フレイルは、海外の老年医学の分野で使用されている英語の「Frailty(フレイルティ)」が語源となっています。

「Frailty」を日本語に訳すと「虚弱」や「老衰」、「脆弱」などを意味します。

日本老年医学会は高齢者において起こりやすい「Frailty」に対し、正しく介入すれば戻るという意味があることを強調したかったため、多くの議論の末、「フレイル」と共通した日本語訳にすることを2014年5月に提唱しました。

フレイルは、厚生労働省研究班の報告書では「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像」とされており、健康な状態と日常生活でサポートが必要な介護状態の中間を意味します。

多くの人は、フレイルを経て要介護状態へ進むと考えられていますが、高齢者においては特にフレイルが発症しやすいことがわかっています。

高齢者が増えている現代社会において、フレイルに早く気付き、正しく介入(治療や予防)することが大切です。


低栄養はフレイルを加速させる

フレイルを進行させないためには、栄養状態に気をつけることが重要です。

また、適切な食事や運動によって、フレイルを進行させないだけでなく、状態を改善し、健康な状態を取り戻すこともできます。


フレイルの基準

フレイルの基準には、さまざまなものがありますがFriedが提唱したものが採用されていることが多いです。

Friedの基準には5項目あり、3項目以上該当するとフレイル、1または2項目だけの場合にはフレイルの前段階であるプレフレイルと判断します。

フレイルを見極める5つの基準は、「体重減少」「筋力低下」「疲労感」「歩行速度の低下」「身体活動の低下」です。

1)体重減少:自分で意図しないのに、年間4.5kgまたは5%、或いは6か月で2~3kg以上の体重減少があることを指します

2)疲れやすい:わけもなく疲れたような感じがして、何をするのも面倒だと週に3-4日以上感じる

3)歩行速度の低下は、前に比べて歩くのが遅くなったと感じることです。

4)筋力低下(握力の低下)は、握力が男性では26kg未満、女性では18kg未満。

5)身体活動の低下は、①軽い運動・体操をしているか?②定期的な運動・スポーツをしているか?という質問に対して、いずれも「していない」場合をいいます。

フレイルには、体重減少や筋力低下などの身体的な変化だけでなく、気力の低下などの精神的な変化や社会的なものも含まれます。

特に筋力の減少、筋肉量の減少など、専門用語で「サルコペニア」と言いますが、こうしたことに注意した栄養のとり方が大切となってきます。


サルコペニアとフレイル

サルコペニアはフレイルと深い関係にあります。

低栄養によって筋肉量が減少したり、筋力の低下する状態を「サルコペニア」と呼んでいます。

サルコペニアになると、身体機能が低下します。

すると、活動度がおち、基礎代謝量も低下します。

その結果、食欲が低下し、食事の摂取量が減少します。

すると、さらに低栄養におちいってしまいます。

低栄養をきっかけに、筋力の低下する「サルコペニア状態」になり、それによって介護リスクの高くなる「フレイル状態」が進むという悪循環が加速します。

健康であるためには、悪循環を断ち切ってフレイルを予防することが大切です。


フレイル状態

フレイルの状態になると、死亡率の上昇や身体能力の低下が起きます。

また、何らかの病気にかかりやすくなったり、入院するなど、ストレスに弱い状態になっています。

例えば健常な人が風邪をひいても、体の怠さや発熱を自覚するものの数日すれば治ります。

しかし、フレイルの状態になっていると風邪をこじらせて肺炎を発症したり、怠さのために転倒して打撲や骨折をする可能性があります。

また、入院すると環境の変化に対応できずに、一時的に自分がどこにいるのかわからなくなったり、自分の感情をコントロールできなくなることもあります。

転倒による打撲や骨折、病気による入院をきっかけにフレイルから寝たきりになってしまうことがあります。

フレイルの状態に、家族や医療者が早く気付き対応することができれば、フレイルの状態から健常に近い状態へ改善したり、要介護状態に至る可能性を減らせる可能性があります。


オーラルフレイル

オーラルフレイル(英: oral frailty, oral frail)は東京大学高齢社会総合研究機構の特任教授辻哲夫・教授飯島勝矢らが示したフレイルの前段階であるプレフレイルです。

口から食べ物をこぼす、ものがうまく呑み込めない、滑舌が悪くなる等といった軽微な衰えを見逃した場合、全身的な機能低下が進むことを示し、これをオーラルフレイルと名付けました。

オーラルフレイルとは、ひとことで言うと、かむこと、飲み込むこと、話すことなどの”口の機能が衰えること”です。

このオーラルフレイルは、全身的なフレイル(虚弱)や要介護状態へと至る前段階のサインとして、注目を集めています。

オーラルフレイルの症状には、次のようなものがあります。
1)むせる、食べこぼす2)食欲がない、少ししか食べない
3)やわらかいものばかり食べる
4)滑舌の低下
5)口の中が乾く、臭いが気になる
6)自分の歯がない、あごの力が弱い

東京大学飯島教授の研究にて、介護認定のない65歳以上の高齢者2000人の口の健康状態を継続的に調査しました。

①自分の歯が20本未満
②滑舌の低下
③噛む力が弱い
④舌の力が弱い
⑤半年前と比べて硬いものが噛みにくくなった
⑥お茶や汁物でむせる

この6項目のうち、3つ以上に当てはまった人は、当てはまらなかった人と比べて、年齢や病気などその他の要因を考慮してもフレイルや介護認定を新たに受けた人、亡くなった人が約2倍多いという結果が出ています。

日本歯科医師会が『8020運動』というものを推進しています。

これは、「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という取り組みです。

厚生労働省の調査によると、20年前は1割程度だった8020達成者が、平成28年には5割を超えた、といった報告があります。

8020を達成した人は、非達成者よりも、生活の質(QOL)が良好で社会活動の意欲もああります。

さらに、残存歯数が多いほど寿命が長いといった調査報告もあります。

残存歯が少なくなっても、義歯を装着して、機能する歯を増やすことによって、生存率の低下を遅らせることができるということもわかっています。

入れ歯なども長い期間使用していると、かみ合わせがずれてしまうことがあるので、入れ歯を持っている人、持っていない人も半年に一度は歯の検診を受けることが推奨されます。


消化・吸収力の低下

消化管の消化機能、吸収機能は加齢と共に低下していきます。

大腸は80歳以上では便の排泄速度が遅くなるということも報告されています。

そのため水分吸収が過度に起こり、便秘のリスクが高くなります。

また基礎代謝は加齢と共に減少していきます。また男性の方が減少率が高いと報告されています。


高齢者は体重の落ちすぎに注意

BMIは、適正な体重の評価の目安となるもので、〔BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)〕であらわされる数値のことを言います。

BMIの増減をみることで、摂取エネルギーと消費エネルギーの収支のバランスがとれているかどうかがわかります。

フレイル予防を考慮し、65歳~74歳の目標とするBMIは21.5~24.9、75歳以上のBMIは21.5~24.9となり、範囲の下限が従来の20から21.5にひき上げられ、痩せ過ぎないように促されています。

この範囲に体重を維持するようにエネルギー摂取することが勧められます。

BMIというと、高くなりすぎることに注意しようと思いがちですが、高齢者は体重が落ちすぎないように、エネルギーをとることが大切です。


たんぱく質

加齢とともにたんぱく質合成が低下していきます。

高齢者が特にとるべき重要な栄養素がたんぱく質です。

たんぱく質は、人間が生きていくうえで重要な栄養素で、筋肉や内臓など、わたしたちの体のあらゆる組織が、たんぱく質でできています。

また、人間が活動するためのエネルギー源となっています。

栄養バランスのなかでたんぱく質の摂取量を確保しないと、筋肉の量や質が低下し、フレイルを招きやすくなります。

今回、高齢者のフレイル予防の観点から、65歳~74歳及び75歳以上いずれも、たんぱく質の摂取基準は、1日の摂取エネルギー量の15%から20%としています。

朝食に牛乳コップ1杯を必ず足して、夕食に豆腐を1/3丁加えると良いです。

65歳以上では、少なくとも1日に体重1キロあたり1グラム以上のたんぱく質を摂取することが望ましいとされています。(体重が60kgの人なら、60g)

たんぱく質が豊富に含まれている食品には、魚・肉・とうふ・乳製品などがあります。


ビタミンD

最近ではビタミンDが少ない人がフレイルになりやすいという研究結果がでています。

ビタミンDも、不足すると高齢者にとっては要介護のリスクにつながるので大事な栄養素です。

ビタミンDは骨の発育に欠かせない栄養素であり、特に高齢者でビタミンDの不足した状態が長く続くと、骨粗しょう症をきたし、骨折のリスクが高まります。

また、ビタミンDは筋力維持にも大きくかかわっており、ビタミンDが不足すると、転倒のリスクが高まります。

ビタミンDが不足することで骨折や転倒のリスクが上がり、結果的に介護の必要な状態になりやすくなってしまうのです。

ビタミンDは、きのこ類に含まれるビタミンD2と、魚に含まれるビタミンD3に分類されます。

また、食べてとるだけではなく、日光の紫外線を浴びることにより、皮膚でも作られます。

日照により、皮膚でビタミンDが産生されることを考えると、フレイル予防にあたっては、適度な日光浴は有効な手段です。


1日3食

1回に食べる量が減るため、1日3食の食事をとらないと、1日に必要なエネルギーや、たんぱく質が不足します。

規則正しい食事は、生活リズムを整えることになり、活動量が増えて食欲が増し、十分な食事をとれるようになります。


高齢者夫婦世帯や、独り暮らし世帯の孤食

毎回食事を作るのが大変だ、毎日同じものは飽きる、食事が楽しくない、1人だから簡単に済ませる(ご飯とお味噌汁のみ、菓子パンや麺類と単品メニューなど)、といったことから食事の回数が減り、低栄養になってしまう可能性があります。

家族や友人と一緒に食事をとると、コミュニケーションをとりながら食事ができ、「楽しく食べて、食欲が高まる」「品数も増えて、多様な食材を食べられる」ことにつながり、低栄養になることを避けることができます。


かむ力やのみこむ力など口腔機能の低下

入れ歯による痛みのために、肉や野菜などの硬い食べ物や食物繊維が多い食材を控えたり、柔らかくて食べやすいお粥やペースト状の食品が中心になったりすると、必要なエネルギーやたんぱく質が不足しがちになります。


活動量や味覚・嗅覚の低下

活動量の低下は、筋力の低下とともにフレイルを起こします。

また、味覚や嗅覚が低下すると味がわかりにくくなるため、食欲が減退します。

唾液の分泌も減少し、かむ力・のみこむ機能が低下することも加わって、エネルギー不足につながっていきます。


バランスよく食べる

菓子パンや麺類など単品メニューではなく、肉、魚、乳製品、大豆製品など、たんぱく質を多く含む食品をおかずに1品入れます。

好きなものだけに偏らず、少量でバランスよく食べることが大切です。

実際のメニューとしては、いろいろな工夫が考えられますが、高齢になると料理を作ること自体、ままならない場合もあります。

そんな時、冷蔵庫の中に乳製品や卵などを入れておけば、さっと出してそのまま食べたり、のんだりできて、必要なたんぱく質やビタミンをとることができます。

高齢者は食事が単調になりがちなので、なるべく多くの食品をとること、そしてよくかんで、ゆっくり食事をすることが大切です。


社会的要因

社会的要因と精神的要因はほぼ比例しています。

この2つの要因が基盤となり、身体的要因に発展していくのではとの見解もあります。

社会的要因は主に『社会との関わり』がなくなることが要因となります。

また『経済的な困窮』も要因の一つです。

高齢者の「孤独」、「閉じこもり」によりフレイルを招きます。


精神的要因

高齢になると妻や友人に先立たれ、精神的に苦痛を味わう機会が多くなります。

若い時は、自分自身も元気で、仲がいい友達も元気であることが多きです。

しかし高齢になると自分の体も、友達の体も動きにくくなります。

それによりコミュニケーションを図ることができにくい状況になります。

また高齢になればなるほど、仲間が亡くなる、最愛の夫や妻に先立たれるなどがあると、気持ち的にも滅入ってくることが多くなります。

さまざまな原因で部屋に閉じこもりになります。

そしてますます人との接触が減り、社会ともかかわることなく孤独になりがちです。

この生活が続くことで筋力が衰えていきます。
 
サルコペニア、フレイルを改善するためにも、「外にでる」「体を動かす」という機会を頻繁につくることが大切になります。

まずは外にでるだけでも良いです。

気持ちが晴れると、ご飯もおいしく食べれます。

ご飯をおいしく食べることができれば体も元気、心も元気になります。

「孤食」の人は、複数の人と食する人と比べ、低栄養になりやすかったり、歩行速度が遅くなったりする割合が高いことが報告されています。


レジスタンス運動

筋力低下を予防する方法として「運動」をすることです。

特に大切なことは、臥位・座位姿勢を減らしていくこと、日常生活の動作を容易に行うことです。

心身機能を持続的に使うことにより、廃用症候群をさけることができます。

運動をすることによりお腹が空くので、食事が進み栄養不足の改善にもつながります。
漸増負荷筋力強化運動=レジスタンス運動が有用です。

たんぱく質合成には、重いものを持ち上げたり、マラソンをするなど高負荷な運動をすることで効果があります。

「少し疲れたな」と感じる程度の運動を、「持続的」に行うことでフレイル・サルコペニアの予防に効果があります。


ADL動作

「筋肉を鍛える時間がない」「鍛えることに興味が持てない」という、特に女性の場合は日常生活の中の動作を一生懸命行います。

掃除を毎日全力で行うことも良いです。

毎日窓ガラスを磨くのも、車の掃除をするというのも良いかもしれません。

日常生活の動作は筋トレ並みの動作はたくさんあります。

日頃動いて疲れないのは、通常の動作を楽にしているからです。

歯を磨くとき、食器を洗う時は空気椅子で行う、下の物を取るときは、膝をしっかりまげて膝の屈伸運動を十分の行うということでも良いです。


歩く

動作の中で、最も簡単で重要なことは「歩く」ことです。

歩くことで、社会とのかかわりも出てきます。

最低でも1日8000歩歩くことを推奨されています。

散歩やウォーキングなどの無理のない運動を生活に取り入れることが大切です。

高齢者の歩行速度の研究から、1秒間に0.8メートル以下になると介護が必要になるリスクが高くなることが分かってきました。

筋肉の量ではなく筋力が重要で、足を蹴り出す力やももを持ち上げる力の衰えが歩幅を小さくして歩行速度を遅くします。

横断歩道の青信号は毎秒1メートルの速度で渡れるように設計されており、横断歩道を渡れなくなると要注意です。