老母が腰痛になる


歳を取るほどにあちらこちらが痛くなるのは致し方ないとは思いますが、痛いのは中々辛抱できないことなので、なんとかしたいものです。

69歳の私にとってはそうでもありませんが、さらに80歳を超えた高齢者にとっては、毎日がそのような痛さとの闘いなのかもしれません。


高齢者の腰痛の原因

日本での腰痛を持つ人は2,800万人以上と言われています。

高齢者になると脊椎の骨が弱くなることにより圧迫骨折や脊柱管狭窄症を発症する割合が多くなるのが一つの特徴です。

そして割合的には女性が多いようです。

それに伴い、歩行時の腰の痛みや、お尻、足のしびれなどの辛い症状を引き起こします。

高齢者の腰痛の場合、変形性脊椎症・腰部脊柱管狭窄症・脊椎圧迫骨折などが原因となっている場合が多いです。

いずれも、骨やその間でクッションになっている部分が加齢によって弱くなったり、弾力性が失われたり、変形したりすることによって起こるため、慢性的に腰痛が続きます。

また、まれではありますが、腰痛が重篤な疾患である大動脈解離、化膿性脊椎炎・化膿性椎間板炎、悪性腫瘍の骨転移、膵炎・膵臓がん・尿管結石・尿路感染症の兆候となる場合もあります。

一般的な高齢者の腰痛には特徴があり、年を取ると骨がだんだん弱くなってくることが原因で、骨の変形に加えて、骨は潰れてきます。

腰の骨は後ろにある骨が強く、前にある骨の方が弱くて潰れやすい構造になっています。

年を取って前の骨が潰れてくると、背中が丸まってエビのように前かがみの姿勢になってしまいます。

背中の筋肉脊柱起立筋に姿勢を保つために力が加わり、大きな負担になって筋肉の痛みが出てきます。

それが筋筋膜性腰痛や筋肉の付着部の障害として腰痛を起こします。

あまりにも腰の痛みがひどく、起き上がることができない場合は、痛みが引くまで安静にし、動ける範囲で徐々に動かすようにします。


リハビリテーション

最初に行うのはリハビリテーションです。

人によっては非常に効果が高く、痛みが無くなることもあります。

体操と言っても、息が上がるような激しいものではなく、簡単な動きで継続しやすい有酸素運動を行います。

脊柱変形に対する特別な体操は一般的でなく、通常の腹筋・背筋トレーニングを行います。

後弯症の患者さんにとっては、特に背筋が重要です。

しかし、背中が曲がると背筋トレーニングがしづらくなります。

それは、背中や腰が曲がることで背筋が伸ばされた状態になり、その伸びきった筋肉を縮めるのに非常に力がいるからです。

また、背中が曲がっているので反らせようと思ってもできません。

ですから、まずはうつ伏せの姿勢を取ることから始めていきます。

痛みというのは不思議なもので、どこかに痛みがあると、そこから体のあちこちに痛みが広がっていくことがあります。

リハビリテーションは、背中の痛みを直接とり除く効果はありませんが、他の部分に広がっていく痛みに対しては効果があります。

そのような余計な痛みがなくなれば、より動けるようになり、すると本来の痛みも軽くなってくる人も多いです。

まったく痛みが無くなることはないかもしれませんが、変形があってもなくても、リハビリテーションを試してみることはとても意味があります。

少なくとも筋力は維持できますし、運が良ければ筋肉を増やせるかもしれません。

背骨(脊柱)を支えるためには筋肉量が重要であることがわかっています。

いかに筋肉を維持するか、筋肉を増やすか、ということが医学会の重要なテーマにもなっています。

腰痛になると、「痛いので腰を動かさないようにしよう。」と思ってしまいますが、逆に動かさなくなることで、骨を支えるべき筋肉が衰えてしまい、骨や関節に負担がかかることで痛みが悪化するケースが多いです。

腰が痛いときほど体操やストレッチでカラダを動かす必要があるのです。

高齢になると、筋肉をつけるのは時間を要しますが、動かさなければ衰えるのはあっという間です。

体操をすることで筋肉の緊張をほぐし、筋力低下を防ぐことができます。

マッサージやストレッチやはりきゅう治療を利用してみることも有効です。

自力で通院が困難な高齢者は医療保険を利用して訪問施術を受けることが可能(条件あり)です。

痛みが強いうちには腰痛ベルトや杖を利用して腰への負荷を軽減させることも有効です。

ただしそれに頼ってしまうようになると、あっという間に体幹の筋力は落ちてしまうので腰痛ベルトの常用には注意が必要です。


腰痛体操

背中後ろに5秒間反らせる



カラダを前に曲げる



上半身を横に曲げる



診断

症状の部位と経過、合併症状の有無、神経学的診察所見、およびレントゲンやMRIなどの画像検査により、総合的に診断されます。

感染や腫瘍が疑われる場合には採血が、また腰部脊柱管狭窄症が疑われる場合には脊髄造影検査も行われます。

最初の診察では診断がつかず、繰り返し画像検査を行うことで疾患がはっきりする場合もあります。


治療

変形性脊椎症、腰部脊柱管狭窄症の場合には、まず内服薬や理学療法による保存療法が選択されます。

保存療法の効果が不十分な場合は、ブロック注射や手術療法も選択肢となります。

圧迫骨折による場合は、コルセットによる脊柱の安静、骨粗鬆症の治療も疼痛軽減に有効です。


食事療法

高齢者の腰痛の原因としてよく言われる骨粗鬆症。骨粗鬆症の対策法としては骨量を増やすことです。

そのためには骨の成分であるタンパク質とカルシウムを十分に摂ることが対策法になります。

牛乳は毎日欠かさず飲むこと、小魚や乳製品をなるべく多く食べることが重要な対策法です。

またビタミンDを一緒に摂るとカルシウムの吸収率が高くなります。

筋肉を鍛えるためには適度な運動が必要です。

腰痛が緩和されたら起き上がり、家族との対話を楽しんだり、テレビを見たり、趣味を楽しんだりと寝込むという状況を避けるようにします。

普段から良質なタンパク質やカルシウムを摂取し、無理のない、年齢にあった運動を行ない、骨と筋肉の老化を防ぐことが大切な腰痛の対策法です。


薬物治療

痛みに対して鎮痛剤を投与します。

現在、後弯症の痛みに対して最も使用されているのはオピオイドという麻薬系の薬です。

もともと、がんやケガなどによる痛みに対して使われている薬ですが、ここ数年で、関節や背骨の痛みに対しての使用が確立されてきました。

以前は、非ステロイド性鎮痛薬が多く使われていて、効果は高いのですが長期に飲み続けると副作用で胃潰瘍になる人がとても多いことが問題でした。

そのような意味でも、オピオイドは特に高齢の人とっては負担の少ない薬と考えられています。

痛みをコントロールすることで、通院が不要になる患者さんも少なくありません。

痛みがなくなれば動くことができます。

動けることで、リハビリテーションもできるようになります。

それまで使われなかった筋肉を使えるようになり、結果的に筋力が増えることが期待できます。

また、動き始めるとどんどん活動の範囲が広がっていき、人付き合いも活発になります。

このような社会活動は人間の機能を維持するためにとても重要です。

家に閉じこもり、誰とも話をしないでいれば体の機能も落ちていきます。

薬ですべてを治そうということではなく、痛みのために動けない人が、動き出せるきっかけを作ることが治療薬の最大の効果です。


手術治療

リハビリテーションや薬物治療でも効果がない場合は手術の適応となります。

多くは背中や足の痛みが強い場合ですが、逆流性食道炎の症状がひどい場合や、見かけの問題で手術を希望する人もいます。

手術では、金属製のネジや棒を使って曲がっている骨をより自然に近い形に矯正し固定します。

場合によっては胸から腰、骨盤まで固定することもあり、とても大きな手術になります。

同じような手術でも、子供の場合は4-5時間で終わるものが、高齢者の場合は6~12時間と長い手術になります。

高齢者は骨も弱く、そのほかの組織も変化していることが多いため、より難しくなります。

また、手術をする範囲が大きくなれば出血量も多くなります。

背骨を矯正すると痛みが改善し、それまで寸胴に見えていた上体がすっと伸びます。

問題は背骨(脊柱)が動かなくなることです。

上体の大きな動きを必要とするような趣味や仕事、特にかがみこむような動作や農作業などはできなくなります。

その反面、同じ農作業でも、リンゴ農家など上を向いて行う作業はしやすくなります。


腰椎椎弓切除術

脊柱管狭窄症により狭くなった脊柱管を広げる手術方法です。

広範囲に椎弓を切除する広範囲椎弓切除術と、内視鏡下で行う切除が必要な部分だけ手術を行う部分椎弓切除術があります。

皮膚を1.5㎝~2cm切開した後に1.2㎝~1.8㎝の円筒型の手術器具を体内に挿入し、先端についているカメラから映し出される体内の様子をモニターで確認しながら椎弓の一部と靭帯を切除することで除圧を行います。

切開範囲が狭いため傷口も小さく、約1週間ほどで退院ができます。

しかし、部分椎弓切除術の場合、切開部分が狭い代わりに視野も狭くなるため複数箇所に狭窄がある場合や椎骨が安定していない場合は受ける事ができません。

また広範囲椎弓切除術の場合、切開範囲が広くなるため感染症や合併症のリスクが高くなります。

また一度広範囲に切除した場合は再手術ができないこともあります。