米情報機関が正式に「UAP」報告書を公開、事例144件の大半は2020年と2021年に発生、うち18の事例は推進手段が見あたらないにもかかわらず、空中での静止、高速移動、急な方向転換などが報告された。



US Navy

2021年6月25日、米国の情報機関を統括する国家情報長官室ODNIが、国防総省の動画公開で話題となったUFOあらため「UAP」に関する報告書を公開しました(Unidentified Aerial Phenomena、未確認空中現象)。

米国の政府機関が正式に認めたというのは画期的なことで、まるでテレビドラマ「Xファイル」を想起させます。

報告書によれば、2004年から2021年にかけて主に米軍内で記録された目撃・観測事例144件について、国防総省のUAPタスクフォースが調査したところ、1件のみ空気の抜けた気球であったと結論づけたものの、残りはデータ不足から解明できていないと明らかにしました。

大部分は複数の種類のセンサーや目視報告があることから実在の物体であると考えられること、うち18の事例については空中での静止や風に逆らうなど不自然な動きが観測されたこと、さらに一部は推進手段が確認できないにもかかわらず高速での移動、急激な方向転換、加速、あるいは観測を妨げる能力もしくは性質など、発達した技術をうかがわせるものがあったとしています。

報告書ではこうしたUAPについて、未確認の自然現象、ロシア・中国または別の国家や組織の技術によるもの、米国内の秘密計画により作られたものなど5つの可能性を挙げ、航空や国防への脅威となる可能性を認めつつ、解明には今後のさらなる調査・分析に向けた取り組みが必要となると結んでいます。



今回の米国の公式機関の見解は、UFOの存在を認めているわけではなく、何か説明のつかない現象があるということを認めただけです。

過去には、撮影された黒い影が、撮影した機体そのものが雲に映っていたとか、レーダーに映っていた影がジャミングされた結果であったとか、いろいろとそのトリックが解き明かされたことはあります。

それでも、うまく説明がつかない多くの現象としてUAPがあるということです。

説明のつかない飛行物体や空中の現象は歴史を通じて数多く目撃されてきましたが、20世紀以降は特に軍事的要請からの観測が飛躍的に進んだこともあり、世界中で多数の証言が残るようになりました。

未確認飛行物体の頭文字「UFO」は、1950年代の米空軍がそうした事象を指すために用いた言葉です。

しかし宇宙人の乗り物説がSF映画などのメディアを通じて浸透した結果、現在のいわゆるUFOのイメージが定着しました。

米軍や情報機関がこの「UFO」を調査してきたことは公式の記録から分かっていますが、今回改めて話題になったきっかけは、そうした調査計画に関わった職員が2017年に3つの動画をメディアにリークしたことです。

動画は2004年から2015年にかけて、空母ニミッツとセオドア・ルーズベルト所属の戦闘機が記録したものです。

高速に移動する正体不明の物体をパイロット含む数名が数分間にわたり目撃したほか、複数のセンサーに記録が残っています。

動画は世界でニュースになりましたが、半世紀以上にわたって「米軍が隠匿するUFOビデオ」ネタに慣れた世間は特に恐慌を来すこともなく、関係者の証言とともにスクープしたニューヨーク・タイムズは怪しい動画をセンセーショナルに伝えて世間の注目を浴びようとしている、UFO陰謀論者にお墨付きを与えると非難される始末でした。

しかしその後、国防総省は上院情報委員会からの照会に対しUAP調査計画の存在を認め、先にリークされていたものを含む動画を正式に公開しました。

今回の報告書はこれを受けて、一連の「UFO」調査と航空・国防上のリスクについて、国家情報長官室が予備的な評価を伝える目的で作成しました。

こうした性格から中身はごく短く、本格的な分析の結論を伝えるというより、現状でどこまで把握しているのか、情報収集はどのような状態なのか、今後の方針はどうすべきか簡潔に伝える内容となっています。

・とにかく情報が少なすぎて分からない。情報収集の体制が不十分。

・技術的には、軍が備える各種センサーはミサイルや軍用機など既知の対象に最適化されているため、想定外の観測には不適切であり充分なデータが記録できていない。

・制度的には、各軍や情報・諜報機関にはUAP目撃を正式に報告する仕組みも、情報集約の制度もなかった。

・逆にUAPを目撃した場合も、報告したり話題にすることで不利な扱いを受けるとの証言がパイロットや諜報・情報機関の分析官から寄せられた。

こうしたスティグマ(烙印)効果については、有力な科学者や政治家、軍や情報機関の高官が公の場でUAPを真摯な話題として扱うことで軽減されつつあるが、目撃者の多くは組織内での低評価を恐れ沈黙している可能性がある。

・UAP目撃時の正式な報告の仕組みは海軍が2019年3月に、空軍が2020年11月に導入するまで存在しなかった。

このため、今回の報告で評価した2004年から2021年にかけての事例144件の大半は2020年と2021年に発生している。

わずか1年の間に大半の事例が発生しているというのは驚きですが、まだ近接写真とか、確たる証拠が無いというのは事実のようです。

・UAP調査タスクフォースは他の目撃例についてもたびたび伝聞的に情報を得ているものの、今回は上記の報告システムに寄せられた軍関係者からの証言のみを対象とした。

・144件中、高い確度で正体を推定できたものは空気の抜けたバルーンと思われる1件のみでした。

・144件中、80件が複数のセンサーに記録されている。

・データセットが少なすぎ、傾向やパターンについて分析は難しい。

・うち18のUAPについて不自然な動きが報告されている(同じ対象について別々の目撃報告があったため、報告としては21件)。

・その18の事例は推進手段が見あたらないにもかかわらず、空中での静止、高速移動、急な方向転換などが報告された。

この高速移動とはどれくらいのスピードなのか、急な方向転換とは大きなGが想定されるものなのかよく分りませんが、人工物であれば、遠隔操縦なのでしょうか。

・いくつかの例では、UAPと関連すると思われる電波が観測されている。

・わずかながら、UAPが加速やある程度のシグネチャーマネジメントと思われる挙動、性質を示したデータがある。

・こうしたデータが意味するところや信頼性については、複数の専門家チームによる分析が必要。

軍事用語でのシグネチャーマネジメントはいわゆるステルスや熱光学迷彩など、識別を妨げる能力のこと。おそらくUFOの目撃証言にある変形や消失といった現象、センサーへの不自然な反応について述べているものと思われます。

目撃報告のスティグマ効果については、UAP(未確認空中現象)という用語自体も、軍や諜報関係者に忌避されるUFOという言葉を使わず「現象」としてニュートラルに扱う意味があります。


5つの可能性

データ不足としつつ、報告書では考えられる説明として5つの分類を挙げています。

・バルーンやドローンなど、大気中の障害物

・自然の大気現象

・米政府または民間の非公開プロジェクトの産物

・中国、ロシア他の国家、あるいは非政府組織のテクノロジーによるもの

・その他

その他は「分析、特定にさらなる科学的知識が必要になると考えられるもの」「理解には現在以上の科学的進展を待つ必要があるもの」という分類。

空のゴミや自然現象や秘密兵器ならば、原理はともかくそれが何なのかは分かりますが、「その他」は正体がわれわれの知らないものである場合の分類です。

報告書では一切言及していませんが、もし仮に本当に宇宙人の乗り物だった場合はここに入ることになります。


脅威の評価

・UAPは航空の安全を脅かす。国防上の脅威となる可能性もある (他国の偵察機であった場合を含む)

・パイロットがUAPとニアミスした報告は11件


調査に向けた取り組み

・UAPタスクフォースの長期的な目標は、従来以上に広範な目撃証言や観測記録を収集し、分析対象となるデータセットを拡充すること。

・当初の注力点として、人工知能 / 機械学習を用いてデータの類似点やパターンの発見を目指す。

・UAPタスクフォースは各軍や情報機関を横断した情報収集・分析ワークフローの開発を開始した。

・観測範囲が軍事施設や訓練エリアに偏っていることが課題。解決策として、蓄積されてきたレーダーのデータを先進的なアルゴリズムで精査する提案。

・UAPタスクフォースの予算増。

今回の報告書はあくまで予備的な報告であるため、議会はこれをもとにさらに詳しい説明や報告を求めるはずです。

ODNIは議会に対し、今後90日以内に改めて情報収集戦略の改善策について、収集・分析に必要な新テクノロジー開発のロードマップについて報告する見込みです。

国家情報長官室ODNIから議会へ提出された報告書は、
9頁(実質6頁)のPDFファイルで、誰でもダウンロード可能となっているようです。

下記の「レポートをダウンロード」をクリックすると見られます。

Preliminary Assessment: Unidentified Aerial Phenomena
予備評価:未確認の空中現象
 
開催日:2021年6月25日

国家情報長官室は、未確認空中現象タスクフォースが作成した未確認空中現象(UAP)に関する予備報告書を議会に提出した。

 

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