高齢者の湿疹の原因


最近、90歳になる義母が湿疹に悩まされていると、妻から聞いて、主治医に相談することを勧めましたが、どのような事が考えられるのか調べて見ました。

高齢者では、加齢による肌の乾燥や免疫機能の低下などから、湿疹に悩まされることがよくあるようです。


老人性乾皮症

老人性乾皮症(ろうじんせいかんぴしょう)とは、加齢に伴い皮脂や汗の分泌が減少し、皮膚の角層の水分保持機能が低下することにより、皮膚が乾燥した状態のことです。

皮膚に浅い亀裂や白いふけのような鱗屑が生じ、掻痒(そうよう:かゆみ)を伴います。

乾皮症は膝と足首の間や背中に湿疹が出ることが多いです。

特に乾燥しやすい下腿部(膝と足首の間)や背中を中心に湿疹ができ、皮脂欠乏性湿疹とも呼ばれる症状が現れます。

特に冬場は皮脂分泌が少なくなりやすいため発症しやすくなります。

皮脂欠乏性湿疹の形状は、丸い形をしてやや膨らみのある貨幣状湿疹が一般的です。

大きさは様々ですが、単発あるいは比較的少数発生し、強い痒みを伴います。

年間を通して発症する可能性がありますが、乾燥する冬に増加・悪化する場合が多いです。

入浴は高齢者の皮膚を清潔に保つ一方で、皮膚にダメージを与え、乾燥を促進する要因でもあるため 注意が必要です。

まず、ナイロンタオルでゴシゴシ擦ったり、脱脂力の強い石鹸やボディーソープの使用による過度の洗浄 は皮脂を取りすぎるだけでなく、刺激による湿疹の原因になります。

しっかりと泡立てて、綿などのやわら かいタオルや、手でやさしく洗うことが勧められます。

また、熱すぎる湯船につかることも皮脂の取りすぎによる乾燥が助長されます。

高齢者は熱い湯が好き なのですが、体感よりややぬるめの39℃くらいが推奨されます。

アルコール や香辛料などの刺激物のとりすぎは、体温が上昇してかゆみがひどくなるために控えるようにします。


帯状疱疹

帯状疱疹(たいじょうほうしん)は、赤い湿疹、小さな水疱(水ぶくれ)、ズキズキとうずく痛みを発症します。

帯状疱疹は、水ぼうそうと同じウイルスで起こる皮膚の病気です。

発疹の約1週間前に患部に違和感やピリピリした痛みもでます。

水痘(すいとう)の原因ウイルスである水痘帯状疱疹ウイルスによる感染症です。

通常、皮膚症状に先行して痛みが生じます。

その後皮膚症状が現れると、ピリピリと刺すような痛みとなり、夜も眠れないほど激しい場合があります。

多くの場合、皮膚症状が治ると痛みも消えますが、神経の損傷によってその後も痛みが続くことがあります。

特に50歳台から発症率が高くなり、80歳までに約3人に1人が帯状疱疹を発症するといわれています。

高齢者では、過去に感染して水疱瘡(水痘)を発症したウイルスが神経細胞の周囲に潜伏し、加齢による免疫機能の低下とともに活性化して帯状疱疹を発症させます。

潜伏場所で発症し、神経に沿って感染を拡げ、湿疹が現れます。

治療は、通常、抗ウイルス剤を中心とした投薬治療で行われ、約1週間で水疱がかさぶたになって治癒します。

しかし、高齢者では、感染部位の神経が損傷を受けた結果として、帯状疱疹後神経痛と呼ばれるピリピリした痛みが残る可能性があります。

この後遺症を残さないためにも、帯状疱疹の治療はなるべく早期に行うべきであり、速やかに皮膚科を受診することが肝要です。


紅皮症

紅皮症は、炎症を伴う皮膚の病気が全身に広がって赤くなり、角質が「ふけ」になって落ちてくる状態をいいます。

紅皮症の原因となる皮膚の病気には、一般的な湿疹や皮膚の慢性炎症である乾癬(かんせん)、薬剤による発疹、皮膚のT細胞リンパ腫が多いと言われます。

皮膚のバリアー機能が低下している高齢者では紅皮症にかかりやすい傾向があります。

紅皮症患者は平均年齢75歳で、男女比はおよそ2対1といわれます。

皮疹が全身に広がる紅皮症の状態では、炎症が起きている皮膚に血液を行き渡らせようとして血管が拡張します。

皮膚の毛細血管が拡張したままになると発熱(37~38度)や悪寒 、脱水などが起こります。

特に、夏でも寒く感じるような体温調節障害による悪寒は紅皮症に特徴的な症状です。

さらに体で一番大きな臓器である皮膚に血管拡張があるために、循環させる血液量が増加します。

すると、ポンプとしての心臓に負担がかかり、持病の心不全などが悪化することもあります。

高齢者の紅皮症は、体力がない状態でマラソンをさせられているようなもので、もともとの心臓疾患などが重症化する危険をはらんでいると言われます。

さらに、炎症によって皮膚表面の角質が剥がれ落ちることで、大量のタンパク質が失われ、低栄養状態を招くことがあるといいます。

高齢者の紅皮症の治療では、原因となる皮膚疾患の治療が基本となります。

湿疹が元で紅皮症になり、持病の心臓病が悪化した患者が、ステロイド外用薬をきちんと塗ったところ、皮膚症状が改善し、動悸(どうき)が治まることもあるといいます。

また、薬剤による紅皮症では抗てんかん薬や抗菌薬が原因になることが多いので、まず該当する薬剤の使用を中止します。

紅皮症は全身状態に影響を及ぼす疾患であり、基本的に入院が必要になります。

皮膚の状態に注意し、急に症状が全身に拡大したら、速やかに皮膚科を受診することが必要です。


カンジダ症

カンジダ症では、指の間やワキの下、股間など、間擦部がジクジクして紅斑(こうはん)、鱗屑(りんせつ)がみられます。

原因となるカンジダ菌は健康な人の皮膚や口腔内に存在している菌ですが、高齢者など抵抗力や免疫力が低下していると菌数が増えます。

カンジダ症の診断は顕微鏡での検査が最も重要なポイントです。白癬との区別が難しいこともあります。早期に適切な治療を行うことで治癒する疾患です。

原因のほとんどは日常生活によるもので、風邪や疲労、ストレスなどで免疫機能が低下したときに皮膚や粘膜に発症します。

他には抗生物質を内服した後には常在菌がいなくなるために、カンジダ菌が異常に増殖して発症することがあります。

ステロイド内服中、糖尿病、がんの放射線治療や化学療法でも抵抗力が落ちて発症しやすくなります。

高温、多湿な環境で、摩擦の生じやすい局所に病気として症状があらわれます。

夏の時期にはカンジダが発症しやすくなっています。

粘膜、とくに口腔カンジダ症を予防するためには、口腔内のカンジダ菌を増殖させないために歯磨きやうがい、入れ歯を清潔にすることが重要です。

もっとも注意が必要なのは免疫力の低下です。

普段から疲労をためず、栄養価の高い食事をして生活環境を整えられるよう心がけてカンジダ症を引き起こす要因を取り除くことが一番の予防法です。


疥癬

疥癬(かいせん)は、人の皮膚角質層にダニが寄生することで「かゆみ」などを生じさせます。

特に、免疫力の低下した高齢者は感染することが多いため、注意が必要です。

疥癬は、ヒゼンダニ(ヒトヒゼンダニ)に感染することによって、 「発疹・かゆみ」が生じる疾患を指します。

ヒゼンダニは人の皮膚の角質層に寄生し、人から人へと感染してきます。

 最近では、介護施設や病院での集団感染も問題になっています。

ヒゼンダニは0.2~0.5㎜と小さいため、肉眼で発見することは困難です。

人のフケや垢・ホコリ・食べかすなどから皮膚の表面に住みつき、人から人に取り付きます。

手首や手の関節、お腹や胸、わきの下、ひじの内側など「柔らかい部分」に発生します。

激しいかゆみが生じます。

搔きむしってしまうため、傷や跡が増えます。

「結節」(けっせつ)という赤茶色の豆粒代のしこりが、手のひらや指、肘、足にできます。

疥癬は2種類のタイプがあります。

通常疥癬は、一般的な症状を指します。

感染力については、影響が小さいモノになります。

ノルウェー疥癬は、通常疥癬が「重篤化した症状」を指します。

感染力も影響が強いため、注意が必要です。

通常疥癬は、少し触れた程度で感染しません。

しかし、ノルウェー疥癬は「短時間での接触」「寝具の共有」からも感染してしまいます。

通常疥癬は、ヒゼンダニが寄生してから
「1~2ヵ月」で発症します。

対して、ノルウェー疥癬は
「4~5日、長くても約2週間」で発症します。

このため、一緒に暮らすご家族に症状が現れた際には、既に他の家族にも感染している恐れがあります。

「免疫力の弱った高齢者がいる場合」には特に注意が必要となります。

治療法は、一般的には、お医者さんから処方される「飲み薬・塗り薬」で治すことができます。

飲み薬は、イベルメクチン(製品名:ストロメクロール)を服用することで治療します。

薬の用量は、体重によって処方されます。

高脂肪食によって血中薬物濃度が上がることがあるため、空腹時に飲む必要があります。

副作用に肝障害があらわれることがあります。

塗り薬としてフェノトリンローション(製品名:スミスリンローション)という、 「殺虫剤の一種」のフェノトリンという物質を含んだ塗り薬を使用して治療します。

この殺虫剤は、人の血中に吸収されないため安心して使用できます。


内臓の異常

高齢者の皮膚のかゆみの原因として、内臓の異常によるかゆみが考えられます。

肝炎や肝硬変・腎不全・糖尿病・甲状腺機能異常・貧血・内臓悪性腫瘍などの、様々な病気の際に皮膚のかゆみを伴う場合があります。

従って、季節に無関係にかゆみが生じ、保湿剤を塗ったりかゆみ止めの薬を飲んでも症状が軽快しない場合には、内臓の異常によるかゆみの可能性を疑って、全身の精密な検査を行う必要があります。

その他、血液の流れをよくする薬や血圧を下げる薬などといった飲み薬によるかゆみや、ストレスなどの精神的な反応に伴ってかゆみが生じる場合もあり、高齢者の皮膚のかゆみの原因として様々なものが考えられます。

このようにかゆみが持続する場合には、原因の解明も含めてかかりつけの医師または皮膚科を受診されることが推奨されます。