骨を強くする方法



歳をとると、骨が次第に弱くなり、骨折をしやすくなると言われます。

義母も10年前は背筋も真っ直ぐで、すっくと立って、どこへでも歩いていけましたが、最近は腰が曲がって、歩くのがとても不自由になりました。

歳とともに仕方がないとあきらめることは多いですが、骨が弱くなることを少しでも遅らせる方法とはどのようなことだろうと調べてみました。


骨粗しょう症のリスク

骨密度が減少し強度が低下して、骨折しやすくなる骨の病気を「骨粗鬆症(こつそしょうしょう)」といいます。

女性は男性に比べて年を取ってから骨がもろくなる人が多いです。

骨は強度を保つために、性ホルモンの働きによって常につくり替えられています。

しかし性ホルモンが減少する50歳前後、特に女性は閉経後、急激に骨量が低下します。

50歳以上の女性の24%、80歳以上の女性の約半数が骨粗鬆症と推測されています。

年齢による骨量の変化

実際、日本骨折治療学会によれば女性の骨折患者は男性の4倍近くにのぼるといいます。

その理由は、女性ホルモンにあります。

桜美林大学老年学総合研究所所長の鈴木隆雄さんは以下のように解説しています。

「骨は体の中で常に新しく作り替えられており、骨を作る『骨芽細胞(こつがさいぼう)』と骨を壊す『破骨細胞(はこつさいぼう)』がうまくバランスを取りながら働いて、骨の強度を保っています。

しかし、更年期以降は骨芽細胞の働きを活発にする女性ホルモンのエストロゲンが減少してしまいます。

そのため、閉経以降は骨を壊す『破骨細胞』の働きの方が強くなり、カルシウムが失われて骨がもろくなり、骨粗しょう症になるのです」(鈴木さん・以下同)


ビタミンD

エストロゲン量の低下と並んで女性の骨がもろくなる大きな原因となっているのは、過度な日焼け対策によるビタミンDの不足です。

「ビタミンDは骨を育てるために必要なカルシウムを体に吸収させるためになくてはならない栄養素です。

食物から摂取できるほか、日光を浴びると体内で合成されることが明らかになっています。

しかし過度に日焼け対策をしてしまえば、外に出て日光に当たってもビタミンDを吸収できません。

日焼け止めクリームを塗ったうえに日傘をさして、サングラスに手袋までするような生活をしている人は珍しくありませんが、骨にはよくありません」

鈴木さんによれば、日本人女性は世界と比べてもビタミンDが不足しているという。

「IOF(国際骨粗鬆症財団)の指標では、日本人女性のビタミンDの血中濃度は、著しく

低いと指摘されています。

確かに紫外線は皮膚がんのリスク要因ですが、日常生活で多少浴びる程度なら問題ありません。

むしろ紫外線を浴びないことのデメリットもあります」

ビタミンDの不足を防ぐには、ビタミンDを多く含む食品を積極的にとるとともに、適度に日光を浴びることが大切ですが、皮膚の下にある皮下脂肪には、ビタミンDのもとになるコレステロールの一種が含まれています。

このコレステロールに紫外線が当たると、ビタミンDが合成されます。

ビタミンDは、肝臓と腎臓で代謝されて「活性型ビタミンD」という形に変化し、カルシウムが小腸で吸収されるのを助ける、血液中のカルシウムが骨に沈着するのを助ける、骨をつくる「骨芽細胞」の働きを促して骨の形成を助けるなど、さまざまな働きをしています。

ビタミンDは、骨の健康にとって不可欠な栄養素で、骨粗しょう症の予防や治療にも役立ちます。


認知症のリスク

骨がもろくなることでまず懸念されるのは、骨粗しょう症のリスクです。

「骨粗しょう症は、骨からカルシウムが抜けて、スポンジのようにスカスカになっている状態です。

骨密度が下がるため、骨折のリスクが高くなり、軽い転倒でも骨折する可能性が高くなります」

骨粗しょう症の人が転倒してしまったとき、折れやすい部位は全身にあります。

「よくあるのは、転倒した瞬間に手をついて、肘から手首にかけての前腕骨(ぜんわんこつ)が折れてしまうケースです。

尻もちをついて大腿骨を骨折する人も少なくありません。

痛みがないため気づきづらいのが、背骨の圧迫骨折です。

自覚症状がないまま背中が曲がり、胃を圧迫して逆流性食道炎を起こしてしまうこともあります」

特に高齢者であれば、骨折が命取りになります。

「大腿骨を骨折すると、入院が必要になります。

リハビリによって元通りの生活を送られる人もいますが、そのまま病院のベッドから起き上がれずに、要介護状態になることもあります。

寝たきりになったことで認知症が悪化することもあります。

国内外のさまざまな調査では、大腿骨などを骨折した人の死亡率が高いこともわかっています」

実際、女優の赤木春恵さん(享年94)は91才のときに自宅で転倒して大腿骨を骨折しました。

その後は車いす生活を送り、そのまま復帰することなく亡くなりました。

2013年に全身がんを公表し、生涯女優活動を続けていた樹木希林さん(享年75)も、2018年、大腿骨骨折をきっかけに体調が悪化して、1か月後にこの世を去っています。


食生活

骨がもろくなっていれば、少しつまずいただけでも死に至るリスクがあります。

カルシウムとビタミンDを積極的に摂ることが大切です。

「日本人は牛乳やチーズといった乳製品の摂取量が、そもそも少ないです。

水道水もカルシウムの含有率が高い硬水ではなく軟水であるため、どうしても欧米に比べて不足しやすい状況です。

緑黄色野菜にもカルシウムは含まれますが、軟水で育った野菜はカルシウム量も低くなります。

牛乳やチーズなどの乳製品や小魚などから積極的に摂るようにすることが肝要です」

厚労省が定めるカルシウムの1日の推奨量は18~29歳男性で800mg、30~49歳男性で650mg、50歳以上の男性で700mg、18歳以上の女性で650mgとされています。

カルシウムの多い食品は、牛乳、小魚、海藻、大豆および大豆製品、緑黄色野菜などです。

例えば牛乳コップ1杯(200ml)には、約220mgのカルシウムが含まれていて、これは栄養素等表示基準値(日本人の1日に必要な量の平均的な値)700mgのおよそ1/3にあたります。

「カルシウムの吸収を助けるビタミンDやビタミンKも欠かせない栄養素です。

ビタミンDは鮭、さんま、きのこ類などに、ビタミンKは納豆、緑黄色野菜、卵などに多く含まれています」

きのこは天日干しして太陽の光をたっぷり浴びることでビタミンDが何倍にも増加します。

マグネシウムは骨を作る骨芽細胞(こつがさいぼう)に働きかけ、骨の中に入るカルシウム量を調節する役割をしています。


日光浴

鈴木さんは、ビタミンDを食事から摂取するのに加え、日光浴で増やすことも推奨しています。

「最もいいのは、日光を浴びて、自分の体でビタミンDを作り出すことです。

日光を浴びるのは顔でなくてもかまいません。

日焼けが嫌なら、1日に数分でいいので手のひらを日光にかざすなどしてほしい」と言います。

浴びる時間は1日最低15分くらい、直射日光を浴びない木陰でもOKと言われています。


たんぱく質

中村さんは、たんぱく質も強い骨を作る重要な要素だと説明します。

「骨は鉄筋コンクリートのような構造をしていて、たんぱく質は鉄筋の役割を果たしています。

コンクリートの部分にあたるのがカルシウムであるため、カルシウムだけでは強度が保てません。

カルシウムとその吸収を高めるビタミンD、さらに鉄筋の役割を果たすたんぱく質などもたっぷり摂ってほしい」(中村さん)と言います。

カルシウムだけをとっても丈夫な骨はできません。

骨密度を増やし骨を強くするには、カルシウムを定着させる「骨タンパク質」が必要です。

ネット状の骨タンパク質に、カルシウムがはまり込むことで、骨が作られます。

たんぱく質は、肉、魚、卵、乳製品、大豆製品に多く含まれます。

骨タンパク質の減少は、カルシウムが流出し骨密度の低下につながります。反対に、骨をもろくするものもあります。

「喫煙の習慣がある人は、骨粗しょう症になりやすいです。

たばこは女性ホルモンの分泌を妨げ、骨代謝を低下させます。」(鈴木さん)

年齢とともに、タンパク質の代謝が低下してきます。筋肉の衰えと比例して、骨タンパク質量も少なくなります。

それが骨密度が低下する一因になっています。

骨内のカルシウムを支えている骨タンパク質(ネット状の受け皿)が減ることで、カルシウムが骨内に留まることができず、骨密度は低下していきます。


ビタミンB群

たんぱく質が分解されるときに、ビタミンB群が不足していると、有害物質がたまって骨と血管を傷めることがわかっています。

ビタミンB群は、肉、魚、精製されていない穀物のほか、緑黄色野菜に多く含まれています。


エクササイズ

骨を育てる栄養素をしっかり摂ったら、鍛えるために運動をします。

中村さんは、強い骨を作るためには食事だけでなく、直接刺激を与えることも必要と説きます。

骨密度は栄養成分をとるだけでは増やせません。

骨を強くすることもできません。

運動によって骨に負荷をかけることが大切です。

骨には負荷がかかると、その負荷に応じて骨自身を強くする仕組みがあります。

運動をすることで負担(ダメージ)をかけた部分に、修復のために必要な栄養が集まってきます。

栄養はよく使われるところに優先される性質があります。

運動をするとその刺激を受けて骨にカルシウムが沈着しやすくなり、血流がよくなることで骨をつくる骨芽細胞(こつがさいぼう)が活発になります。

運動の直後は吸収力が高まっていますので、そのタイミングで栄養をとると、より骨を強くすることが期待できます。

骨は、重力に逆らう“タテ方向の刺激(負荷)”を与えることで、骨密度が高まります。

骨はその長軸(ちょうじく)に対して物理的刺激が加わると、微量の電流が骨に伝わり強さが増すといわれています。

一方で骨は通常腱を介して筋肉へとつながっているため、筋力トレーニングによって、骨に直接刺激を与える方法も効果的です。

垂直方向に刺激を加えることで、骨量が増えて骨が強くなると言われますが、実際、重力のない宇宙空間では骨からカルシウムが放出され、急速に骨量が減ることが知られています。

水泳選手も意外と骨粗しょう症になる人が多いそうです。

垂直方向に刺激を加える運動法には、縄跳びやジャンプなどがありますが、スクワットや立ち座りで下半身の骨に体重を加えるだけでも効果があります。


ウォーキング・片足立ち・かかとおとし

「カルシウムやビタミンDなどの材料がそろっていても、脳から『骨を強くしなさい』という指令が出なければもろいままです。

運動して骨に負荷をかけて刺激を与えると、負荷に耐えようとして骨は強くなります」(中村さん・以下同)

運動といっても、激しいものである必要はないです。

毎日30分、日光のもとウオーキングをするだけでも骨には刺激が加わるといいます。

階段は「ベタ足」を意識して上り下りをすると、かかとから足裏全体で自分の体重を支える動きになり、負荷がかかって骨によい刺激を与えることができます。

また、立つことも体重を支えることで、骨に負担をかけることができます。

特に片足立ちをすることで、脚の付け根(大腿骨頚部(だいたいこつけいぶ))に負荷が強くかかります。

左右の足それぞれ1分ずつを目安にします。

バランスを崩して転倒しないように手すりやテーブルなどつかまれる場所で行います。

骨密度を上げる運動

その場で立ち肩幅に足を広げかかとをあげて軽くストンと落とす「かかと落とし」も効果があります。

1日30回が目安です。


骨をたたく

自宅でも気軽にできる方法として中村さんがすすめるのは、骨を直接刺激して鍛える「骨たたき」です。

「いすに背筋を伸ばして座り、右のこぶしで右膝の上を、左のこぶしで左膝の上を交互にコツコツとたたきます。

たたくスピードは1分間に100回程度が目安です。

一度にまとめてたたいても、何度かに分けて行ってもかまいません。

骨は刺激を与えれば与えるほど強くなるので、回数がオーバーしてもいいです。

テレビを見ながら、トイレに入ったときなど、実践しやすい場所とタイミングで行えます」

太ももよりもより膝に近い部分をたたくのがコツだと中村さんはアドバイスします。

「骨が分厚い筋肉に覆われている太ももは、骨への刺激が伝わりにくいので、膝の上をたたくようにします。

骨は細長い形状をしていますが、膝から足首に向けた縦方向に刺激することで、骨に振動が伝わりやすく、効率がいいです」

ただし、強くたたきすぎると膝を痛めるので注意が必要です。

「胸のあたりから、小指側を下にして、力を抜いて自然にこぶしを落とすくらいの力加減がベストです。

膝や足腰に持病がある人はやらないこと、痛みを感じたらすぐに中断します」


貧乏ゆすり

いすに座ったままで骨を鍛える方法はほかにもあります。

東京学芸大学名誉教授で医学博士の宮崎義憲さんは「貧乏ゆすり」を推奨します。

「意外に思われるかもしれませんが、貧乏ゆすりで足を動かすことも、骨粗しょう症対策になります。

足を上下することで筋肉が骨をこすり、摩擦が生まれます。

これによって骨膜に膜電位が生じて、血中のカルシウムを骨に取り込んでくれるのです。

貧乏ゆすりの方法はいたって簡単です。

いすに座った状態で足をゆするだけです。

病状にもよりますが、車いすに座った状態でも行うことができます。

「1秒間に2~3回足を上下する貧乏ゆすりを、休憩をはさみながら左右それぞれ5分間×3セット行います。

おすすめのタイミングは、お風呂上がりです。

毛細血管が拡張しているため、より効果的です。

就寝の30分前に行うと、適度な運動効果で体が疲れるので、寝つきもよくなります」(宮崎さん)



スクワット

「スクワット」は、膝の曲げ伸ばしに関わる太ももの筋肉(大腿四頭筋)だけでなく、股関節の曲げ伸ばしに必要なお尻の筋肉(大殿筋)や太ももの裏の筋肉(ハムストリング)も鍛えられるので、トレーニング効果が高い運動です。


両脚を肩幅より少し広げて、足先を30度ほど外側に開きます。

腰を後ろに引くように5秒間かけて膝を曲げます。

このとき、膝がつま先よりも前に出ないようにします。

つま先より前に膝が出ると膝を痛めるので注意します。

5秒間かけて元に戻します。

5回~15回を1日2~3セット行います。