右下腹部が痛くなったときに考えられること


いつからか忘れてしまいましたが、右下腹部が少し痛い状態が続いています。

眠られないほどではないし、外を歩き回っていると忘れてしまう程度の痛みです。

最初は腹筋による筋肉痛かと思っていましたが、長く続いているので少し心配になってきました。

腹痛は数ある自覚症状の中で最も頻繁に現れるもののひとつで、お腹の右下だけに痛みを感じることもよくあります。

おなかの痛みは、内臓痛、体性痛に分けられます。


内臓痛

一般的に多く起こりがちなのは、「内臓痛」と呼ばれる腹痛です。

内臓痛の特徴は下記の通りです。

1)痛い場所がはっきりしない

2)押されるような、しぼられるような鈍い痛み

3)痛みに波がある

内臓痛は、消化管などの内臓を取り巻く膜が痙攣(けいれん)して縮んだり、内圧がかかったりして、そこにある神経が刺激されて起こるものです。

内臓痛を引き起こすよくある原因は、暴飲暴食や刺激の強いもの(アルコールや冷たい水の飲み過ぎ、香辛料や脂肪の多い食事)によるものや、ウイルスの感染による胃腸炎です。

これらの場合は、数日ほど安静にしていれば自然に治ることが多いです。


体性痛

突き刺すような痛みが続くようなら「体性痛」(たいせいつう)である可能性があります。

体性痛は、おなかの中にある腹膜に炎症が加わったときに起こるもので、緊急手術が必要となるケースもあります。

そのようなケースとして有名なのが 虫垂炎(いわゆる「もうちょう」)です。

虫垂炎では、右下腹部(おなかの右下)が激しく痛くなることが多いです。

体性痛の特徴は下記の通りです。

1)痛む場所が限定されている(はっきりしている)

2)突き刺すような激しい痛み

3)痛い部位を押すと痛みが増す

4)歩いたり身体を動かしたりすると痛みが響く


虫垂炎(もうちょう)

右下腹部痛で注意が必要な病気として、虫垂炎があります。

虫垂炎(ちゅうすいえん)とは、大腸の一部である盲腸の虫垂と呼ばれる部位に炎症が起きることで痛みが出る疾患で、一般的に「盲腸(もうちょう)」と呼ばれている病気です。

虫垂が硬くなった便(糞石)や異物によってふさがってしまい、さらに細菌感染が起こって炎症を起こします。

一生のうち15人に1人はかかるといわれている頻度の高い病気で、どの年代でも発症する可能性はあります。

実際には、盲腸(もうちょう)は大腸の一部で、虫垂とは場所が少し違います。

虫垂炎では、痛みの部位が移動することがあります。

最初はみぞおち~へその周囲が痛かったのに、徐々に右下腹部が痛くなるといった具合です。

そのため、右下腹部痛ではないからと言って、虫垂炎ではないとは言えないことに注意が必要です。

この他、吐き気や嘔吐、発熱などの症状も伴います。

虫垂炎では炎症が強くなると、腹膜刺激症状と呼ばれる所見が出てきます。

腹膜刺激症状とは下記のような症状です。

1)反跳痛:おなかを手で圧迫し、手をはなすと痛みが強くなる

2)筋性防御:おなかが硬くなる

3)Rovsing徴候:左下腹部を手で圧迫すると、右下腹部に痛みが出る現象

4)Rosenstein徴候:あお向けより左向きで寝たときの方が、右下腹部を押したときに痛みが強くなる現象

歩くとおなかに響くような痛みをイメージすると分かりやすいかもしれません。

上記のような症状があれば、診断が難しくない場合が多いですが、おなかの痛みがあまりないなど典型的ではない症例もあり、診断が難しい場合があります。

診断のために、血液検査の他、腹部超音波(エコー)、腹部CTなどが行われます。

腹部超音波(エコー)、腹部CTで虫垂が腫れている所見を認めます。

治療としては、抗生剤の投与や外科手術があります。

治療せずに放置すると虫垂の壁に穴があき、症状は悪化します。

腸を覆っている腹膜まで炎症が広がる(腹膜炎)と39度を超える高熱が出ます。

血液中に細菌が侵入し全身を巡ると、悪寒や発熱、血圧低下、意識障害などを引き起こす敗血症になってしまう恐れがあり、命に関わってきます。

対処が遅れると重症になる場合があるため、上記のような虫垂炎を疑う症状がある場合は、速やかに病院を受診します。


大腸憩室炎

憩室(けいしつ)とは、慢性的に腸内の圧力が高いために、腸の壁の弱い部分が落ち込んでできたポケット状のくぼみのことです。

加齢や食物繊維の少ない食事などで消化管の壁が弱くなることが原因として考えられており、消化管のどこにでも発生します。

これが大腸にできると大腸憩室と呼ばれます。

憩室は大腸にできることが多く、お腹の右側または右下に位置する大腸の上行結腸や盲腸などで憩室ができて炎症した場合には右下腹痛が生じます。

また、発熱することもあり、憩室で出血が起きた場合には血便がみられる場合もあります。

憩室そのものは良性ですので、症状がなければ様子見で大丈夫です。

大腸憩室の中に細菌が入り込んで炎症を起こすと、痛みを生じることがあり、これを大腸憩室炎と言います。

盲腸や上行結腸の憩室に炎症が起きると、右下腹部痛が起きる場合があり、炎症がひどくなると、腸に穴があいたり、手術が必要になる場合があるため、速やかに病院を受診します。

早めに抗生剤を投与することで、重症になるのを防ぐことが出来ます。

また、大腸憩室は出血を起こし、血便の原因になることもあります。


便秘

便秘とは、排便が順調に行われない状態のことを指し、便がでない場合だけでなく、便の量が少ない、水分の少ない硬い便が出るなども含まれます。

お腹の左下にある大腸の一部のS字結腸に便が滞りやすいことから、左下腹痛が現れることが多いのですが、右下腹痛が生じることもあります。

原因によって異なりますが、腹痛のほかに腹部膨満感や食欲低下、吐き気・嘔吐などの症状が伴う場合もあります。

毎日の生活習慣,腸や骨盤底の働きの異常,全身の病気,薬など様々なことが便秘の原因になります。

偏食やダイエットにより食物繊維の摂取量が不足すると便が少なくなり便秘になりやすくなります。

また体を動かすことが少ないと腸の蠕動運動が不活発になり便秘になります。

その他にも自律神経の影響で腸の蠕動運動が低下する過敏性腸症候群や大腸がんなどの病気の初期徴候として便秘がみられることもあります。

特に腹痛などを伴う場合は便秘だけと決めつけず、消化器内科へ相談することが肝要です。


腸炎(特にカンピロバクター腸炎)

何らかの原因で腸に炎症が起こった状態を腸炎といいます。

腸炎では、細菌やウイルスによる感染、アレルギー、薬などが原因となって腸が炎症を起こします。

炎症が起きる部位によっては右下腹痛が現れます。

腹痛のほかに下痢が現れることも多く、原因によっては発熱や吐き気・嘔吐、血便などの症状が伴うこともあります。

盲腸や上行結腸に炎症が起こると、右下腹部痛が起きる場合があります。

腸炎の中でも注意したいのが、カンピロバクター腸炎です。

カンピロバクターとは、細菌の一種であり、細菌性食中毒の原因菌の半数以上を占めていると言われています。

カンピロバクター腸炎では、腹痛、下痢、血便、嘔吐、発熱などの症状が起きます。

カンピロバクター腸炎の腹痛は、右下腹部に起きることが多く、虫垂炎との鑑別が必要です。

治療としては、水分摂取が基本です。

水分を口から摂取出来ない場合は、点滴が必要になります。

重症の場合は、抗生剤の投与の検討が必要です。


過敏性腸症候群

過敏性腸症候群は、下記のような症状です。

1)腹痛

2)腹部不快感(腹痛とは言えない不快な感覚)

上記のような症状が繰り返し起こるのに、血液検査、内視鏡検査などをしても原因がはっきりとしないという概念の疾患です。

左下腹部痛みが比較的多いようですが、右下腹部痛が起こる場合もあります。

過敏性腸症候群の腹痛、腹部不快感は下記のような特徴があります。

・排便によって改善する

・排便の頻度の変化で始まる

・便形状(便の見た目)の変化で始まる

排便の状況によって、以下の4タイプに分けられます。

・便秘型:硬い便のことが多い

・下痢型:軟便のことが多い

・混合型:硬い便、軟便の繰り返し

・分類不能型:上記のいずれにも当てはまらない

※Rome III: The Functional Gastrointestinal Disorders, 2006より引用

日本では、過敏性腸症候群の患者様が多いとされています。

わが国における過敏性腸症候群の有病率は人口の14.2%とされます。

以下のような方は、過敏性腸症候群かもしれません。

1)昔から胃腸が弱いと感じている

2)すぐにトイレに行ける場所にいないと不安

3)繰り返しおなかの調子が悪くなるため検査を受けたが、異常なしと言われた


尿路感染症

尿は腎臓で作られ、尿管を通って膀胱に溜められ、トイレに行くと膀胱から尿道へ押し出されて排尿します。

この一連のルートを尿路といい、尿路のどこかで感染症が起きた場合に”尿路感染症”と呼ばれます。

尿路感染症は、感染が起こっている場所によって、膀胱炎と腎盂腎炎に分類されます。

”膀胱炎”は、下腹部を中心に痛みを引き起こし、右下腹部痛として自覚される場合があります。

膀胱炎が悪化して、細菌が腎臓まで達すると”腎盂腎炎(じんうじんえん)”となります。

腎臓は左右に2つあり、脇腹と背骨の中間あたり(背部)に位置します。

右側の腎臓が腎盂腎炎になった場合は、右の脇腹から腰にかけての痛みが起こります。

発熱や嘔吐、全身のだるさ(倦怠感)を伴うことが多く、血尿が出ることもあります。

腎盂腎炎で症状が強い場合には、入院、点滴での抗菌薬投与が必要になります。


尿管結石

尿路結石は尿の通り道に石ができることにより、様々な症状を起こします。

結石ができる場所によって上部尿路結石(腎結石、尿管結石)と下部尿路結石(膀胱結石、尿道結石)に分けられています。

原因としては動物性たんぱく質やアルコール、脂肪分の摂りすぎ、水分が充分に摂取できていないことなどが挙げられます。

突然の背中や腹部の激痛、血尿といった症状のほか、悪心、嘔吐、吐き気、冷や汗を伴うこともあります。

結石が膀胱近くまで下降していると、尿意が突然起きて我慢できない、排尿してもすっきりしないといった症状も見られます。

時間帯としては、夜から明け方に発症することが多いです。

尿管は腎臓と膀胱をつないでいる管のことで、ここに結石ができる状態を特に尿管結石といいます。

尿管結石は10人に1人は発症するといわれており、その割合は2.5:1と男性に多いことが知られています。

右の尿管に結石が詰まると、右下腹部痛を引き起こす場合があります。


ヘルニア

ヘルニアとは、臓器の一部が本来あるべき場所ではないところに飛び出してしまっている状態です。

腹膜や腸の一部が皮膚の下まで出てくる鼠径ヘルニア(一般的には脱腸で知られています)や、脚とお腹の境目にある鼠径靭帯の下から腸などの組織が出てしまう大腿ヘルニアなどは下腹部にヘルニアが起きている状態です。

立ち上がった状態で下腹部が膨らんでおり、寝っ転がったり手で押さえたりすると膨らみが引っ込む場合にはヘルニアの可能性があります。

痛みがある、お腹が張る、嘔吐といった症状のあるときは、飛び出したまま臓器が元にもどらない嵌頓(かんとん)になっていることもあり、その場合は緊急手術となることもあります。


腸結核

結核は肺だけの病気ではありません。

鼻や口を通って肺に侵入した結核菌は、血管やリンパ管などを通って全身に広がっていくことがあります。

結核菌による症状のうち肺以外のものを肺外結核と呼び、腸結核もその一種です。

腸結核のほとんどは、結核菌を含む痰を飲み込んでしまうことで発症します。

起こりやすい部位は下腹部の右下にあたる回盲部であり、ここに潰瘍ができます。

潰瘍が治る過程で周辺の組織を引き連れてしまい、その結果腸が固く縮こまってしまうこともあります。

症状としては右下腹部痛、下痢、腹部の膨満感(張っている感じ)、発熱などがみられます。


クローン病

クローン病は、口から肛門まで、全ての食事の通り道に炎症が起こる可能性がある病気です。

10~20歳代の若い人に起こりやすく、男性に多い病気とされています。

クローン病における炎症は、回盲部(小腸と大腸の境目)に起きることが多いです。

回盲部は右下腹部付近にあるため、クローン病では、右下腹部痛が多く見られます。

クローン病の特徴として、肛門で痛みや膿が出る症状があります。

また、繰り返す炎症で腸が狭くなり、吐き気、おなかの張りなどが出ることもあります。

クローン病は、比較的まれな病気ですが、年々増加傾向です。

これは食事の欧米化などが原因とされています。

クローン病は、厚生労働省によって医療費助成制度の対象となる「指定難病」の一つとなっています。


前立腺炎

前立腺に細菌が感染することなどをきっかけに炎症が起こる男性特有の病気です。

発熱、残尿感、排尿時不快感、頻尿、下腹部の痛みなどが起きます。

前立腺は下腹部にあるため、炎症の波及の仕方によっては、右下腹部痛を引き起こします。

排尿するときに痛みがあったり、排尿が困難であったり、頻尿になったりすることもあります。

長時間のドライブやサイクリング、過度の飲酒などが細菌感染のきっかけになります。


精巣上体炎

精巣にクラミジアや淋菌、大腸菌などの細菌が入り込んで感染し、炎症を起こす病気です。

陰嚢が腫れて熱をもち、押すと痛みがあることが特徴です。

この炎症の刺激が神経を伝わって右下腹部の痛みとして感じることがあります。