公正証書遺言書がある場合には遺産分割協議自体が必要ない

子どもがいない夫婦に配偶者以外の相続人がいる場合、遺産をすべて配偶者に残したいなら「遺言」を作成しておくことが大切です。

遺言は、本人の意思そのものですから、法定相続の規定よりも遺言のほうが優先します。

具体的には、遺言書に、「すべての遺産を妻に相続させる」と記載しておけば、原則として、その遺言の効力により全財産は妻のものになります。

特に、遺言書がない場合は、相続の手続きにあたって、ほかの相続人が亡くなっていることを証明するために、両親や兄弟姉妹の出生から死亡までの戸籍を取り寄せる必要があります。

かなりの手間になる可能性がありますので、手続きを簡単にするためにも、遺言書を残すことが推奨されます。


公正証書遺言

遺言には、さまざまな方式がありますが、おすすめはなんといっても公正証書遺言です。

公正証書遺言は、遺言者が口述した内容をもとに公証人が遺言書を作成します。

公正証書遺言は、公証役場にいくなどの手間と費用がかかる反面、公証人が関与するため無効になりにくい遺言方式です。

遺言書は公証役場で保管されるため、紛失や偽造などの心配もありません。

公正証書遺言は、公証役場で遺言者(作成した人)が120歳まで保管管理しています。

故人が残した公正証書遺言が見つからない場合、最寄りの公証役場で、遺言書の有無が確認できます。

このように公正証書遺言はたとえ紛失したとしても公証役場で存在の有無や写しが請求できます。

ただし、遺言書の写しは作成した公証役場でしか請求できないので注意が必要です。

公正証書遺言は、公証役場で作成しなければならないので、手続きの手間と費用がかかる点がデメリットです。

しかし、形式面も内容面でも無効となるリスクは限りなく低く、また、作成後は公証役場で保管してくれるため、紛失や改ざんの恐れがない点が大きなメリットです。

また公正証書遺言ならば、裁判所での検認が不要のため相続手続きが早くなります。

検認手続きとは、裁判所が相続人に対して遺言書の存在と内容を証明する手続きです。

検認手続きには、1ヶ月程度要してしまうため遺言の内容を執行するまでに時間が掛かってしまいます。

しかし、公正証書遺言ではそのような検認手続きが無くなるので、すぐに遺言内容の執行が可能になるのです。

遺言者の出生から死亡までの戸籍を取る必要なくなり、死亡時の戸籍のみで足りるので書類も簡略できます。

各財産の行き先がしっかり決まった、問題のない公正証書遺言書がある場合には、原則として遺産分割協議自体が必要ありません。

これは、遺産分割の話し合いをするまでもなく、遺言書で財産の行き先が決まっているためです。

財産の行き先が決まっている以上、あとは遺言書に書いてある通りに、粛々と名義変更などの手続きを進めていけば良いこととなります。

子供のいない夫婦の夫が無くなって、公正証書遺言で妻に全財産を譲ると書いてあると、妻が全財産を相続することになります。

この場合は、遺産分割協議書を作成する必要はありません。

その代わりその公正証書遺言の内容を実現するために遺言執行者が必要です。

遺言に遺言執行者の指定がなければ家庭裁判所に選任を申し立てます。

その際予め弁護士を候補者として申し出ておくことも可能です。

遺言執行者を立てない場合は相続人全員で妻に全財産を移転させることになります。

預貯金の引き出しについても各金融機関に提出する書面に都度全員の実印と印鑑証明が必要ですし、不動産の移転登記の場合も同じです。

法定相続人全員が協力的で連絡がつきやすければ遺言執行者を立てなくても良いでしょうが、そうでなければ家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てた方がスムーズです。


兄弟姉妹は遺留分が認めていない

相続人のうち、兄弟姉妹だけは遺留分が認められていません。

親子関係に比べれば、兄弟姉妹の関係は薄いことを理由としています。

したがって、相続人が妻と兄弟姉妹(甥姪が代襲相続人である場合はその甥姪)だけの場合は、遺言によって、全ての遺産を妻に相続させることができます。

上記の、夫の姉と甥がひとりずつ健在の夫婦の場合であれば、妻に全て遺産相続させるという遺言を作っておけば、姉と甥の権利は完全に失われ、全遺産が妻のものになります。

兄弟姉妹には遺留分が適用されないので、兄弟姉妹しか相続人がいない場合は遺言書を書いておけば財産についてあとから請求をうけるということはなくなります。


遺留分

子どもなし夫婦の遺産相続は、「遺言を作れば全て安心」というわけでもありません。

遺言の優先度には限界があり、「遺留分」の制度が優先されます。

遺留分とは相続人に最低限保障された遺産の取り分で、これは遺言者であっても侵すことはできません。

遺留分は直系尊属である親(親が亡くなっていた場合は祖父母)のみが相続人の場合は法定相続分の3分の1、それ以外の場合は法定相続分の2分の1と決まっています。

つまり、子どもなし夫婦で夫は一人っ子、夫の母親は顕在という場合、本来の法定相続割合は、妻が3分の2、母が3分の1です。

この状態で、夫が妻に全財産を残すという遺言を残すと、母には6分の1の遺留分請求権が生じることになります。

ただし、遺留分権者が1年間なにも請求しなければ、遺留分を請求する権利は失われ、遺産は完全に妻ひとりのものになります。


弁護士相談

弁護士への相談は、トラブルにならないとできないと考える方も少なくないようです。

しかし実際には、早ければ早いほど良いといえます。

遺産をどのように相続するか考えている時点で弁護士へ相談すれば、トラブルを未然に防げる可能性も高まります。

結果としてご自身の希望する相続がかなうだけではなく、遺族の方にとっても、ストレスの少ない相続を実現できるでしょう。

遺言書は、作成の方式・内容などについて法律的なアドバイスも得ながら作成することで、確実に遺言者の意思を反映した遺言にすることができます。

そのため、遺言書の作成を決めた時点で、弁護士に相談するのが良いタイミングでしょう。

弁護士は遺言の内容を確実に実行する「遺言執行者」になることも可能です。

また、遺言作成時に弁護士に相談しておくことで、自身亡き後、万が一親族とトラブルになったときにも、配偶者が迷うことなく相談をすることができるというメリットもあります。

相続発生後にトラブルが発生することが多い場面は、遺産分割協議です。遺産分割協議では、財産の分割方法を話し合いで決めることになりますが、相続人全員の合意が必要なので、相続人間の意見が対立すれば協議は成立しません。

配偶者からすると、義理の親や兄弟と意見が対立してしまえば、苦しい立場になるでしょう。

そういった場合、弁護士は法律相談ができることはもちろんのこと、代理人として親族と交渉を請け負うことができます。

遺言書の作成から携わり、事実関係を把握している弁護士がいれば、安心して依頼することができるので、精神的負担を大幅に軽減できます。