開発が進められている電動旅客機

 オランダのスタートアップ企業、「メーブ・アエロスペース」が左右4発ずつ、計8発のプロペラを用いて推進する44人乗りの新型電動旅客機案「メイブ01」の開発を進めています。


左右4発ずつ、計8発のプロペラ

オランダのスタートアップ企業、「メーブ・アエロスペース(Maeve Aerospace)」が44人乗りの新型電動旅客機案「メイブ01」の開発を本格化させています。同機は、左右4発ずつ、計8発のプロペラを用いて推進することをはじめ、現代の旅客機とは一線を画した設計を特徴とします。


「メーブ・アエロスペース」の新型旅客機案「メイブ01」のイメージ(画像:Maeve Aerospace)

「メイブ01」は全長28m、全幅36mとされ、ペイロード(搭載可能な重量)は5t弱(4.96t)。時速264ノット(約489km)で巡航でき、航続距離は550kmとのことです。電動航空機や「空飛ぶクルマ」で多いVTOL(垂直離着陸)機能は装備せず、通常の旅客機同様、滑走路を用いて離着陸するスタイルを採用。必要な滑走路長は1500mとしています。

 機体は内蔵の大型バッテリーにより稼働する完全電動となっており、35分以内で充電完了できる急速充電システムを備えます。このことにより二酸化炭素排出を完全カットできるほか、「1席あたりの運用コストを大きく削減できる」とコメントしています。


8発プロペラ

そして「メイブ01」の最大の特徴である8発プロペラ。このレイアウトとしたのは、いわゆる冗長性や安全性を確保するためとのことです。

 現代のプロペラ旅客機で一般的なジェット燃料を用いて動かすエンジン「ターボプロップ」と比べると、「メイブ01」の電動プロペラは1基あたりのユニットコストが非常に低いことから、そのぶん多くのプロペラを搭載できるとのこと。また、稼働部品も少なく抑えられていることで、メンテナンスコストや騒音が最小限に抑えられるともしており、騒音は従来比で40%程度削減できるとしています。

 同社は2020年にVenturi Aviationとして設立し、設計の骨子は2022年1月の計画発表時にほぼ固まりつつありました。2022年6月に同社は、最初の試作機を製造するため340万ユーロ(約4億8000万円)の資金を確保、これにあわせるように社名を「メーブ・アエロスペース」に変更しました。また、同月開催のILAベルリン航空ショーで「メイブ01」を発表予定であるなど、開発の本格化へ向け、精力的に動きを進めているようです。


Wright Spirit(ライト・スピリット)


© 提供元:https://tabi-labo.com/302004/wt-wright-spirit-zero-emissions-aircraft

米スタートアップ「Wright Electric(ライト・エレクトリック)」が開発中のフル電動旅客機です。

「Wright Spirit(ライト・スピリット)」と名付けられた100人乗りの旅客機の最大の特徴は、ゼロエミッションであることです。

運行が想定されるのは、ソウル-済州島、ロンドン-パリ、リオデジャネイロ-サンパウロ、サンフランシスコ-ロサンゼルスなど、1時間程度の距離ながら、利用者の多い路線です。
開発中の世界初の「フル電動旅客機」は2026年に運行開始とのことです。


エアバス、シーメンス、ロールスロイス




フランスに本社を置く航空機メーカーエアバスは、大手電気等の複合メーカーであるドイツのシーメンスと大手エンジン製造会社であるイギリスのロールス・ロイスと三社間パートナーシップを締結し、ハイブリッドの電動航空機(電気飛行機)を共同開発すると発表しました。

欧州委員会の航空業部門は、フライトパス2050というゴールを掲げており、2050年までの75%の二酸化炭素(CO2)削減、90%の窒素酸化物(NOx)の削減、そして65%の騒音削減を目標の一部として盛り込んでいます。

大まかには下記の通りに進められるようです。

エアバス:

担当:全体的な統合、ハイブリッド電気推進システムとバッテリーの制御アーキテクチャと、飛行制御との統合

ロールスロイス:

担当:ターボシャフトエンジン、2メガワットの発電機、パワーエレクトロニクス

シーメンス:

担当:2メガワットの電動モーター、そのパワーエレクトロニクスコントロールユニット、インバータ、DC / DCコンバータ、配電システム


航空機を電動化する方式


現在の航空機(ジェット機)は、化石燃料であるジェット燃料をジェットエンジンで燃焼して推進力を得ています。

ジェットエンジンは、前方から取り込んだ空気(図1:水色矢印)を圧縮機で高温高圧状態にし、そこにジェット燃料(図1:灰色点線矢印)を混合させて燃焼することで後方に排気(図1:オレンジ色矢印)し、その反作用による推進力(推力)を得ます。旅客機で用いられるターボファンエンジンの場合は、さらに燃焼によってタービンを回転させ、その回転力によってエンジン前方に配置した推進ファンを駆動し、より多くの推力を得ています。

一方で、今後20年間の航空輸送量は2.4倍に増加するという予測から、現在の化石燃料を使用した航空輸送を続けていくと、航空機から排出される二酸化炭素も倍増します。航空分野においても、地球温暖化対策として、航空機から排出される二酸化炭素を低減する国際的な取り組みが進められてきました。世界の航空輸送に関する基準の策定等を行う国際民間航空機関(ICAO)や世界の航空会社・旅行会社・旅行関連企業で構成される国際航空運送協会(IATA)などは、2050年には、2005年の二酸化炭素排出量を半減させる目標を掲げています。こうした国際動向の中、大きな推力を得るためのファンの大直径化による燃費改善が行われてきましたが、現在の機体の設計上、ファンの大直径化での対応だけでは限界にきています。

今後の増加が予測される輸送需要に応えつつ、二酸化炭素の排出量を削減するには、従来の機体設計を大きく変えるか、次世代の新しい技術による推進系によって対応するしかありません。そうした事情から、既存の航空機に適用させやすい解決策として、従来のジェット燃料を脱化石燃料に置き換え、バイオ燃料や水素燃料を使用することで二酸化炭素の排出を削減する方法や、電気自動車やハイブリット車など自動車分野で研究開発が進んでいる電気を使用する方法などが検討されています。

JAXAでは、ジェット燃料を電気に置き換える形でのエンジンの電動化、つまり電気によってエンジンの推力を得る方法を活用しながら、二酸化炭素の排出量の削減に取り組もうとしています。今回は、そこでどのような方式が検討されているのかを紹介します。


電動化を実現する3つの方式

ジェットエンジンの電動化にあたっては、現在3つの方式が検討されています。電気だけでエンジンの推力を得ようと考えた場合、ピュアエレクトリック方式があります。

ピュアエレクトリック方式



二次電池、電動モーター、推進ファンにより構成され、二次電池からの電気(図2:緑色点線矢印)で推進ファンを回転させます。この方式で推力を得る航空機を作れば、ジェット燃料を使用しないため、二酸化炭素は排出されません。

座席が数席といった小型機の場合、この方式で飛ぶことが可能です。しかし、現在のリチウムイオン電池のエネルギー密度を考えると、旅客機のような中~大型機をこの方式で飛ばすことができません。


航空機の電動化は、まず小型機で実現され、次にリージョナル機という段階的なステップを踏んでいくと考えられています。JAXAは、それらよりもっと輸送量が大きい中~大型機の旅客機の電動化により、二酸化炭素の排出量を削減することを目指しています。そのために考えられているのが、ジェットエンジンあるいはガスタービンと電動モーターを組み合わせたハイブリッド方式です。ハイブリッド方式には、パラレルハイブリッドとシリーズハイブリッドの2種類があります。

パラレルハイブリッド方式



パラレルハイブリッドは、ターボファンエンジンのファンを、ジェットエンジンと電動モーターの両方で駆動させる方式です。
現在のターボファンエンジンに、二次電池と二次電池で駆動する電動モーターを接続した形です。ジェットエンジンだけでファンを駆動することも、電動モーターだけでファンを回すこともできます。

シリーズハイブリッド方式

シリーズハイブリッドは、ジェットエンジンによって生み出された電気を電動モーターに供給し、ファンを回転させる方式です。現在検討されている電動航空機の多くは、この方式を採用しています。JAXAが目指している電動航空機もシリーズハイブリッド方式です。


シリーズハイブリッドでは、ジェットエンジンがタービンを回転させます。そのタービンの回転が発電機へと伝わり発電します。原理は、地上のガスタービン発電と同じです。ジェットエンジンは発電機の駆動用として使用するため、機体のどこに置くかは比較的自由です。また、推力を生み出す電動ファンの配置やファンの数も自由という自由度の高さが特徴です。また、余剰の電力が発生する場合にはバッテリーに充電しておき、必要な場合に使用するという使い方もできます。また、電動モーターを使わない時には、エンジンの回転による回生エネルギーでバッテリーを充電することもできます。

ジェット燃料を燃焼させて発電してから電動モーターを駆動するため、発電時にエネルギーロスが生じますが、推進ファンの配置や数を最適化することで推進効率を向上させることが可能です。その結果、トータルの燃費が改善され、二酸化炭素の排出量を減らすことができます。