ヴェガロケットはイタリアが主体となって開発したESAの衛星打ち上げ用固体ロケット
ヴェガロケット
ヴェガ(Vettore Europeo di Generazione Avanzata, VEGA)ロケットは、欧州宇宙機関 (ESA) が開発した低軌道用人工衛星打ち上げロケットです。
ESAの主力ロケットのアリアン5は静止軌道に6トンものペイロードを投入できますが、300kgから2,000kg程度の小型の科学衛星や地球観測衛星を低軌道 (LEO) へ経済的に打ち上げたいという需要に応えるため、高度700kmの太陽同期軌道 (SSO) に1.5トンの衛星を打ち上げられるヴェガを開発することになりました。
イタリア宇宙機関 (ASI) が開発プログラムを主導しており、ロケット機体および推進システムはフィアットアヴィオ社などが担当するほか、フランス国立宇宙センター (CNES) なども開発に参加し、打上げはCNESのギアナ宇宙センターのELA1から行うこととしました。
参加各国の分担比率はイタリア65%、フランス12.43%、ベルギー5.63%、スペイン5%、オランダ3.5%、スイス1.35%、スウェーデン0.8%となっています。
開発及び製造はヴェガロケットの開発及び製造を目的として2000年12月に設立されたELV S.p.Aによってなされ、最低年4機の打ち上げを確保する予定でした。
当初は2006年中の初飛行を目指していましたが計画は大幅に遅れ、2012年2月13日に初打上げに成功しました。
開発経緯
初期の構想は1990年代初頭になされ、アリアンの固体ロケットブースター (SRB) の技術を用いて小型衛星を打ち上げるロケットを補完するというものでした。
これは1988年にASIによって提案されたサン・マルコ・スカウト計画を引き継ぐものでした。
サン・マルコ・スカウト計画は、引退したアメリカのスカウトを置き換える目的でZefiro モーターを用いた新たなロケットを開発するという計画であり、スカウト2として知られている試験機が1992年に1機が失敗し、制式型として予定されていたゼフィーロも含めて凍結されていました。
1995年の段階では3段構成で高度700kmのLEOに700kgの打ち上げ能力をもつロケットであり、直径1.9mのZefiro 16 固体ロケットモーターを1,2段目として用い、3段目としてIRIS (Italian Research Interim Stage) を用いるというものでした。
1997年には2つの型式がフィアット・アヴィオ社とウクライナのユージュノエ設計局の共同で提案されました。
ヴェガ K0
前述の構想と同様に1、2段にZefiro 16 固体ロケットモーターを用い、第3段、第4段に非対称ジメチルヒドラジン (UDMH) と四酸化二窒素 (NTO) を用いる液体ロケットエンジンであるRD-861とRD-869を用いるとしていました。
高度700kmの極軌道に300kgの打ち上げ能力があります。
ヴェガ K
ヴェガ K0の第1段をアリアン5のブースターであるEAPを短縮したP85 固体ロケットモーターで置き換えたものです。
高度700kmの極軌道に1,600kgの打ち上げ能力をもちます。
1998年においてASIによってアリアンのブースター技術を用いた固体ロケットとして再び提案されました。
同年4月にアリアン5のSRBであるEAPのノウハウを用いたものとしてESAのプリプロジェクトとして採用されました。
これはヴェガ Kの下段に第3段としてZefiro 7 固体ロケットモーターを使用する3段構成のロケットであり、最上段に液体ロケットエンジンを用いた軌道精度向上モジュールの採用を検討していました。
打ち上げ能力は700km円軌道に2,000kgとなる予定でした。
2000年11月27日から28日にアリアンプログラムとして承認され、同年12月15日に7ヶ国による共同開発計画として正式に開始されました。
最終的には2004年に現在の構成に定まりました。
第4段であるAVUMの代替エンジンの開発が進行中です。
構成
全長 | 30 m | |||
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外径 | 3 m | |||
質量 | 137 t | |||
ペイロード | 2,300 kg / 300km LEO 1,500 kg / 700km SSO | |||
段数 (Stage) | 第1段 | 第2段 | 第3段 | 第4段 (AVUM) |
使用エンジン | P80 FW | Zefiro 23 FW | Zefiro 9 FW | RD-843 |
各段全長 | 10.5 m | 7.5 m | 3.85 m | 1.74 m |
各段全径 | 3.0 m | 1.91 m | 1.91 m | 2.18 m |
各段質量 | 95,796 kg | 25,751 kg | 10,948 kg | 968 kg |
推進剤 | HTPB 1912 | HTPB 1912 | HTPB 1912 | UDMH/NTO |
推進剤質量 | 88,380 kg | 23,906 kg | 10,115 kg | 183 kg / 367 kg |
最大推力 | 3,040 kN | 1,200 kN | 213 kN | 2.45 kN |
真空比推力 | 280 s | 289 s | 295 s | 315.5 s |
ノズル膨張比 | 16 | 25 | 56 | - |
有効燃焼時間 | 107 秒 | 71.6 秒 | 117 秒 | 667 秒 (最大) |
第1段:P80 固体ロケットモーター
ヴェガC
2014年12月2日に開催されたESAの閣僚レベル会合で、ヴェガC (Vega Consolidated) の開発予算が承認されました。
ヴェガCは1段にP120(既存のP80と比べると推進薬を80トンから120トンへ増加)固体ロケットを使用する発展型です。
ヴェガCロケットは、2012年に初飛行した「Vega(ヴェガ)」ロケットの後継機として開発されました。
高度700kmの極軌道に打ち上げる能力は、ヴェガロケットは1.5トンですが、ヴェガCロケットは2.3トンへと増加しています。
全長もヴェガロケットに比べて、約5m長くなっています。
ヴェガCは2018年に初打上を行う計画でしたが、2019年7月と2020年11月に打ち上げに失敗した影響もあり、計画から大分遅れて2022年7月13日にギアナ宇宙センターから打ち上げられ成功しました。
P120はアリアン6ロケットと共用するため、量産効果が出てコストを低減することが出来るようになります。
ヴェガCは全長約34m・直径3.4m・重量210tの4段式ロケットです。
第1段の「P120」、第2段の「Zefiro-40」、第3段の「Zefiro-9」は、全て固体燃料を使用しています。
第4段の「AVUM+」はエンジンの再点火が可能な液体燃料を用いており、搭載したペイロードを正確な軌道に届けることが可能です。
また、運用終了後は高度を下げ、大気圏に再突入することで、宇宙空間にスペースデブリを残さずミッションを終えることができます。
さらに、衛星を搭載・保護するフェアリングは、ペイロード容積が2倍となり、ヴェガロケットよりも大きい衛星や2つの衛星の同時打ち上げ(デュアルローンチ)、ライドシェアミッションをすることができます。
ヴェガCロケットは、2023年に打ち上げが予定されている再利用型宇宙船「Space Rider(スペースライダー)」の打ち上げ機としても使用される予定です。
ヴェガの1段モータの製造ラインはこれまでイタリアにしかありませんでしたが、この新しい1段P120に備えて2つ目の製造ラインをドイツに設置する予定です。
ドイツはヴェガ計画に7%の出資をしており、P120プログラムに関しては23%の出資比率を持ちます。
新しいP120はヴェガの1段だけでなく、アリアン6の1段(A62型で2本、A64型で4本装備)としても使用されるため、これまで年3基だった製造数が、両方のプログラムを合わせると年37基のP120が必要となる計画です。
過去に検討された将来構想
アップグレード構想として、第2段をP80に換装するESL、第1段をより大型なP230に換装し第3段を液体エンジンエスタスに換装するESLMなどがあります。
3,4段目をLOX/LCH4を推進剤とするMyraエンジンを採用したC10に置き換える構想のライラ (Lyra) では、太陽同期軌道 (SSO) への投入能力が2,000 kgに増大することが見込まれていました。
また、ライラの上段エンジンMyraをVinciに換装するロケットや、ヴェガの第2段を省きSSOに300-400kgの投入能力を持つミニヴェガも計画されていました。