腎臓に良い生活習慣
歳を取れば腎臓機能が低下すると言われますが、腎臓にとって良い生活習慣とは何かを改めて調べてみました。
腎臓の機能・働き
腎臓には、おもに以下5つの大事な働きがあります。1)血液をろ過して尿を作る
2)ミネラルバランスや体液量を調整する
3)エリスロポエチンを分泌する
4)ビタミンDを産生する
5)レニンを分泌する
腎臓には糸球体と呼ばれるろ過装置があり、ここを血液が通ることで老廃物を取り除くことができるのです。
その他、尿量を調節して体内の水分バランスを整え、ナトリウムやカリウムなど電解質の量を調整して濃度を一定に保つ働きもあります。
エリスロポエチンとは、赤血球を作るために必要なホルモンのことです。
赤血球は酸素を運ぶ役割をしていることから、不足すると貧血になる原因となります。
ビタミンDは、骨を強くするために必要な成分です。カルシウムの吸収を促進する働きもあります。
レニンとは、血圧を上げる働きがあるホルモンのことです。血液中の水分量やカリウムなどの変化に応じてレニンの分泌を調整しながら、血圧のコントロールを行なっています。
慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)
慢性腎臓病(CKD:Chronic Kidney Disease)は、20歳以上の8人に1人以上(1330万人)が罹患しているという推計もあります。この疾患は、腎臓の働きが慢性的に低下している状態を指し、進行すると透析の原因になったり心臓や脳に負担をかけたりすることがあります。
慢性腎臓病は5つの段階に分けられ、腎臓機能の低下の程度によって進行度が評価されます。
通常は「ステージG3a」といって、「腎臓の働き(GFR)が健康な人の60%未満に低下する(GFRが60mℓ/分/1.73㎡未満)か、あるいはタンパク尿が出るといった腎臓の異常が続く状態」から注視することが多いです。
慢性腎臓病が進行すると、むくみ、だるさ、食欲不振、尿の異常などの症状が現れはじめ、腎臓機能が大幅に低下した場合、透析や腎臓移植が必要となってしまいます。
病気の進み方を遅らせるには、腎臓の負担を軽くすることが大切です。
一つの目安になるのは、血圧です。血圧は高すぎても低すぎても腎臓によくありません。
高血圧がある人は血圧を下げるなど、生活習慣病をきちんと治療することで、腎臓の負担が軽くなります。
慢性腎臓病の食事療法は、腎臓の働きが健康なときの60%未満になるステージG3aから始めます。
腎臓は飲食の影響を受けやすいため、食事に気をつけることで腎臓の負担を軽減し、病気の進行を遅らせることが可能です。
食生活
腎臓に負担をかけない食生活は、次のようなちょっとした心がけをすることで簡単に行なえます。
1)塩分を控える
2)食べすぎに気をつけて腹8分目にする
3)タンパク質の摂りすぎに気をつける
成人の場合、男性は一日あたり7.5g未満、女性は6.5g未満を目標に摂取します。
高血圧や慢性腎臓病がすでにある方は重症化を防ぐため、一日6g未満が推奨されます。
複数の論文を検証した論文によると、1日食塩摂取量を4.2g減少させると、収縮期血圧/拡張期血圧は6.1/3.5 mmHg低下し、4.8g減少させると尿蛋白は34%減少、アルブミン尿は36%減少していることがわかっています。
そのため、ガイドラインでは「1日食塩摂取量6g未満」が推奨されています。
・しょう油を減塩にしたり、ポン酢・柑橘類・ケチャップなどの他の調味料で代用する
・漬け物や佃煮などの高塩分食は控える
・だしのうまみで減塩をする
・ラーメンの汁などは最後まで飲まない
など普段からの減塩を意識した食生活が大切といえます。肥満になると血糖値を下げるインスリンの働きが悪くなり、腎臓に負担をかける可能性があるため、注意が必要です。
お腹がいっぱいになるまで食べるのではなく、腹8分目を意識します。
ハム、ソーセージ、ベーコンなどの加工肉は、腎臓に良くない食品の代表例です。
加工肉には、大量の塩分や添加物が含まれており、腎臓に負担をかけます。加工肉の過剰摂取は、高血圧や心臓病のリスクも高めるため、控えめにすることが大切です。
タンパク質
タンパク質は体にとって欠かせない三大栄養素の一つですが、摂りすぎは腎臓に負担をかける原因です。
特に進行した腎不全の人には、タンパク質の代謝産物である「窒素化合物」が尿毒症物質として蓄積することがいわれいます。
そして、タンパク質の制限により、腎機能の低下や尿たんぱくの抑制に関連することがわかっています。
通常、一日の推奨量は18~64歳の男性で65g、65歳以上の男性で60g、18歳以上の女性で50gとなっています。
慢性腎臓病の人ではステージによってタンパク質の量が決められており、ステージG3aの人(GFR 45-59)は、1日タンパク質摂取量 0.8~1.0 g/kg標準体重(身長m×身長m×22)/日、ステージG3bの人(GFR45未満)は、1日タンパク質摂取量 0.6~0.8 g/kg標準体重/日がガイドラインでの推奨量の目安になります。
例えば、身長160㎝の方だと標準体重約56㎏になるので、推奨1日タンパク質摂取量としてはそれぞれステージG3aの人は、1日タンパク質目安量は身長160㎝の人で44.8~56g、ステージG3b以降の人は、1日タンパク質目安量は身長160㎝の方で33.6~44.8g、ということになります。
良質なたんぱく質は老廃物の排出が少なく、体によいエネルギーを豊富に含んでいます。
そのため腎臓の負担を抑えるには、良質なたんぱく質を適量摂取することが必要です。
参考にしたいのが「アミノ酸価」と呼ばれる指標で、良質なたんぱく質の選択に役立ちます。
食品に含まれるたんぱく質のバランスと質を測る指標として用いられます。
アミノ酸価の値が100に近いものが良質のたんぱく質です。
アミノ酸価が理想的な食品は、肉類(鶏、豚、牛)、魚類(アジ、イワシ、サケ)、乳製品(牛乳、ヨーグルト、鶏卵)豆類(枝豆、おから)、等です。
心臓と腎臓は心臓と腎臓が密接に関連しています。
心臓と腎臓が一緒になって働き、血液循環や血圧調節を行い、どちらも動脈硬化や生活習慣病と大きく関係しています。
そのため、米国保険社会福祉省のNIH(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases)では、腎臓に正しい食事の1つとして「心臓によい食べ物を食べる」ことを取り上げており、代表例として、ロースやもも肉などの赤身の部位、皮のない鶏肉、魚、豆、野菜、果物、低脂肪または無脂肪の牛乳、ヨーグルト、チーズ、等の食材をあげています。
オメガ-3脂肪酸(EPAやDHA)が含まれる魚やオリーブオイル、ナッツ類は、血管を柔軟に保ち、炎症を抑制し、血液の粘りを減らす働きがありますし、野菜や果物、豆類、ナッツ類など、抗酸化物質が豊富な食品は、細胞の酸化ストレスを減らし、腎臓への良い影響が期待されます。
カリウムは、私たちの体で重要な働きをしているミネラルの1つで、神経伝達や筋肉の動きを助ける役割があります。
普段は、腎臓がカリウムを適切に体外へ排出して、体内のカリウムのバランスを保っていますが、進行した腎不全の人はカリウムの排出がうまくできなくなります。
その結果、カリウムが体内に溜まってしまい、高カリウム血症(カリウムが血液中に多く含まれる状態)になることがあります。
高カリウム血症は、筋肉の弱さや不整脈(心臓のリズムが乱れる状態)などの症状を引き起こすことがあり、重篤な場合は命に関わることもあります。
このため、慢性腎不全が進行すると、食事や薬によってカリウムの摂取量や体内のカリウムバランスを調節することが重要になります。
実際、血清カリウム値が正常な人(3.6~5.0 mEq/L)よりも高カリウム血症の人(5.5~5.9 mEq/L)は3年死亡率の上昇がみられたとしています。
また、イギリスのステージG3a~5までの慢性腎不全の人で、カリウム値が4.5~5.0 mEq/Lまでの人と5.5~ 6.0mEq/Lまでの人を比較したところ、高カリウム血症により総死亡率が1.6倍に上昇したという報告もあります。
野菜や果物にカリウムが多く含まれる傾向がありますが、「野菜果物の摂取では逆に総死亡率が低下する傾向」にあります。
そのため、医療機関で定期的にカリウム値を測定しながら、適切にモニタリング(3.6~5.0 mEq/L)することが大切です。
腎臓は、体内の酸やアルカリのバランスを保つ役割も持っています。
慢性腎不全の人は、腎臓の働きが弱まるため、酸性物質の排出がうまくできなくなり、体内が酸性傾向になりやすくなります。
これを「代謝性アシドーシス」といいます。
代謝性アシドーシスは、筋肉の弱さや骨密度の低下、疲労感などの問題を引き起こすことがあります。
アルカリ性食品(たとえば野菜や果物)には、酸性物質を中和する働きがあるため、これらの食品を積極的に摂取することで、体内の酸とアルカリのバランスを整える助けとなります。
実際、慢性腎不全ステージG3a ~ 4の人に対する野菜・果物による食事療法は「非介入群と比較してアルカリ療法と同じくらいのGFR低下抑制効果を認めた」としています。
さらに、野菜や果物による食事療法は、重炭酸Naによるアルカリ療法と比較してアルブミン尿低値を認めたことや、心血管障害の発症が少なかったことが報告されています。
野菜や果物は、腎臓の健康維持に欠かせない食品です。
特に、葉野菜やベリー類には、抗酸化物質やビタミン、ミネラルが豊富に含まれています。
これらの栄養素は、腎臓の機能を保護し、老廃物の排泄を助けます。
また、野菜や果物に含まれる食物繊維は、腸内環境を整え、腎臓の負担を軽減します。
全粒穀物は、精製された穀物とは異なり、穀物の外皮や胚芽など、栄養価の高い部分が残されています。
食物繊維やビタミン、ミネラルが豊富に含まれており、腎臓の健康維持に役立ちます。
また、全粒穀物は、血糖値の上昇を緩やかにするため、インスリンの分泌を抑制し、腎臓の負担を軽減します。
リン
腎臓は、体内で使われなくなったリンを尿と一緒に排出する役割があります。
慢性腎臓病の人では、腎臓の働きが弱まるため、リンをうまく排出できなくなります。
その結果、体内のリンの量が増えてしまいます。
リンが多すぎると、カルシウムと結びついて、血管や心臓にカルシウムリン複合体が沈着し、動脈硬化や心臓の働きが悪くなるリスクが高まります。
また、骨の中のカルシウムが減って骨が弱くなることもあります。
リンを制限することで、これらの問題を防ぐことができます。
つまり、腎臓の働きが弱くなった人にとっては、リンをうまく排出できなくなるため、リンの摂取量を制限して体内のリンの量を適切な範囲に保つことが大切ということです。
リンは、肉や魚、卵、豆類、乳製品など、たんぱく質の多い食品に多く含まれます。
また、最近はリンが含まれている食品添加物が増えているので、加工食品にも注意が必要です。
加工食品には食品添加物のリンが含まれているので特に注意が必要です。
肉や魚などに含まれている有機リンは摂取しても半分ほどしか吸収されませんが、食品添加物の無機リンは摂取するとほとんどが吸収されてしまいます。
加工食品を利用する場合は、成分表示をよく見てリンを避けるようにします。
ただし、過度なリン制限は低栄養状態になったり、筋肉が落ちたりして健康を維持できなくなりますので、適切にモニタリングしながらほどほどに制限する方がよいです。
コーヒーが腎臓に良い影響を与える理由は、適量を飲むことで抗酸化作用や利尿作用が得られるためです。
コーヒーには抗酸化物質が含まれています。
抗酸化物質は、体内で活性酸素と呼ばれる悪玉物質と戦う働きがあります。
活性酸素が増えると、体の細胞がダメージを受け、病気になりやすくなります。
コーヒーの抗酸化物質は、この活性酸素を減らし、腎臓を守る役割を果たしてくれます。
また、コーヒーには尿の量を増やし、余分な水分や老廃物を体外に排出する利尿作用があります。
適量のコーヒー摂取によって、利尿作用が促され、腎臓がうまく働くことを助けることができます。
実際、国内外の50万人以上の結果をまとめた論文によると、コーヒー摂取量が1日2杯以上では、1杯以下と比べて、末期腎不全への進行が18%減少し、アルブミン尿のリスクが19%減少、慢性腎不全関連の死亡も28%低下したとされています。
ただし、コーヒーは飲みすぎると逆に胃腸に負担をかけることがありますので、適量を飲むことが大切です。
水
腎臓は脱水によってダメージを受けると言われています。
人が活動している限り体内にはゴミがたまり、ゴミを水と一緒に尿として体外に排出しています。
脱水の状態だと、少ない水にいっぱいのゴミを詰め込むことになるため、腎臓に負荷がかかるのです。
こまめに水分を補給するように心がけると、脱水を防げます。
風邪の時に飲む市販の解熱鎮痛剤には、何日も飲みつづけると腎臓に負担をかけるものがあります。
何日も飲み続けるのではなく、症状が出たらすぐに飲んで、早めに治すことが大切です。
風邪薬を飲んでいる期間を短くすれば、腎臓への負担を軽くできます。
運動
運動は血圧を下げたり肥満を改善したりする効果があるため、腎臓の健康維持に有効です。
腎機能を回復させるためには激しい運動を避け、疲労を翌日まで残さないように配慮することが必要です。
ただし、激しい運動を避けるためにじっとしていることも良くはありません。
血液循環を促すためにもウォーキングなど適度な運動は行うようにします。
腎臓機能低下を防ぐには、一般的に以下2種類の運動を行なうことが推奨されています。
1)有酸素運動
2)筋力トレーニング(レジスタンス運動)
ウォーキングやサイクリング、軽いジョギングなど続けやすいものを選ぶと良いです。
手軽に行なえるのはウォーキングです。
普段の一日の歩数プラス500~1000歩を目標に歩くことで、高血圧や肥満の改善が期待できます。
筋力トレーニングは、片足立ちやスクワットなど簡単なもので構いません。
片足立ちを行なう場合は椅子や机につかまり、片足だけ浮かせてそのまま1分間立ちます。
スクワットは足を肩幅に開き、かかとが浮かないように気をつけながらゆっくりと座ったり立ったりをくり返します。
こちらは10~15回を1セットとし、一度のトレーニングで1~3セットを目安に行ないます。
その他の生活習慣
食生活と運動以外では、禁煙は当然のこととして、定期的に尿検査や血液検査を受けることも腎臓の健康維持に役立ちます。
喫煙は血管の弾力性を低下させ、腎臓に負担をかける原因であり、メタボリックシンドロームやほかの生活習慣病の発症にも影響します。
尿検査や血液検査によって、腎臓の働きを数値として見ることもできます。
健康診断などを受けて定期的にチェックしておくのもよいです。
腎臓の調子を自分で知ることは難しいですが、血圧はいつでも自宅で測れます。
医療機関での血圧より、自宅や職場など、普段の血圧が大切です。
医療機関で血圧を測ると、長い待ち時間によるイライラや緊張から日常より血圧が高くなる傾向があります。
朝と夜の1日2回、自分で血圧を測ると良いです。
最初は週に3、4回で構いません。
自分の体の状態を毎日チェックすることを習慣にするのが大切です。
腎臓の働きが落ちると透析が必要になったり、心臓や脳の負担を増やしたりすることにつながるため、日頃から腎臓をいたわる生活を心がけることが大切です。