窪美澄「夜に星を放つ」を読んで
本作は、2022年直木賞受賞作品です。
女性作家の柔らかい視点で描かれた全5話からなる短編集です。
第一話「真夜中のアボカド」
主人公は32歳のOLである綾、コロナの自粛期間中のリモートワークで、家で仕事をしているときに、朝食で食べたアボカドの種を水耕栽培で育て始めます。
綾は、去年の冬、34歳のフリーのプログラマー麻生と、婚活アプリで知り合って付き合いはじめ、いずれは彼と先結婚したいとも思います。
夏には彼と泊りがけで海にも行きました。
秋が過ぎ冬が来て2020年が過ぎたころ、麻生からのLINEの返事が滞りがちになり始めます。
綾は、一覧双生児の妹の弓を2年前に脳内出血で亡くしていました。
綾は、弓と同棲をしていた、弓と同年齢の、文房具メーカーの営業職、村瀬と1年ぶりに、弓の1月7日の命日に居酒屋で会い、二人で弓のことを話しながら弔いの食事をします。
熊のような村瀬は、弓のことが忘れられない男で、弓が無くなって数年経つのに、弓の使っていた歯ブラシや、弓の使っていたものが、村瀬の部屋にはそのままの形で残っていました。
ある日、綾は、週末の電車の中で、麻生を見かけます。
その横には、泣き続ける赤子を抱いた若く綺麗な女がいて、麻生はおもちゃを揺らして赤子をあやしていました。
麻生には妻が居て、生まれたばかりの子供までいたのでした。
この後、綾はLINEで麻生を非難し、村瀬に会い、母親に電話をします。
村瀬と最後の弓の月命日のお別れ会を居酒屋でやった後、綾が失恋で傷ついた心のけじめをつける顛末が描かれています。
この話の中で、次第にアボカドは成長していき、アボカドに対する都度の扱いが、綾の心の内を映し出します
今風の世情と背景のもとに、三十路を過ぎた女性のほろ苦い恋と揺れ動く心を描いた話でした。
綾は、去年の冬、34歳のフリーのプログラマー麻生と、婚活アプリで知り合って付き合いはじめ、いずれは彼と先結婚したいとも思います。
夏には彼と泊りがけで海にも行きました。
秋が過ぎ冬が来て2020年が過ぎたころ、麻生からのLINEの返事が滞りがちになり始めます。
綾は、一覧双生児の妹の弓を2年前に脳内出血で亡くしていました。
綾は、弓と同棲をしていた、弓と同年齢の、文房具メーカーの営業職、村瀬と1年ぶりに、弓の1月7日の命日に居酒屋で会い、二人で弓のことを話しながら弔いの食事をします。
熊のような村瀬は、弓のことが忘れられない男で、弓が無くなって数年経つのに、弓の使っていた歯ブラシや、弓の使っていたものが、村瀬の部屋にはそのままの形で残っていました。
ある日、綾は、週末の電車の中で、麻生を見かけます。
その横には、泣き続ける赤子を抱いた若く綺麗な女がいて、麻生はおもちゃを揺らして赤子をあやしていました。
麻生には妻が居て、生まれたばかりの子供までいたのでした。
この後、綾はLINEで麻生を非難し、村瀬に会い、母親に電話をします。
村瀬と最後の弓の月命日のお別れ会を居酒屋でやった後、綾が失恋で傷ついた心のけじめをつける顛末が描かれています。
この話の中で、次第にアボカドは成長していき、アボカドに対する都度の扱いが、綾の心の内を映し出します
今風の世情と背景のもとに、三十路を過ぎた女性のほろ苦い恋と揺れ動く心を描いた話でした。
第2話「銀紙色のアンタレス」
第2話「銀紙色のアンタレス」は、16歳の男子高校生、真(まこと)があるひと夏に経験したプラトニックラブの話です。彼は、夏休みに祖母が一人住む海辺の町へ行きます。
その浜辺で小さな赤子を抱いた若い女性に会います。
彼はその女性に一目ぼれします。
女性は、祖母が親しくしている近所の家の娘、たえで、離婚して実家にもどってきていたのでした。
しばらくして、彼の同い年の幼馴染である女子高生、朝日が祖母の家へ一泊するために訪れます。
彼は、朝日から、中学生の頃からずっと好きだったと告白されますが、大事な幼馴染だと言って、朝日を避けます。
朝日は翌日帰っていきますが、その日に祖母は熱中症で倒れ、入院します。
その時に、祖母の家へ母親がもらった鰯のおすそ分けを届けるために訪れていた、たえに救急車を呼んでもらい入院に際し世話になります。
数日後、祖母が退院する前日に、たえが病院に見舞いに来ました。
たえは、明日、夫が迎えに来て東京へ帰ると祖母に伝えました。
真とたえは一緒に病院を出て、海岸にある竜宮窟に寄り、夜空に輝く星座を見上げます。
第3話「真珠星スピカ」
母親を交通事故で失った女子中学生、佐倉みちるは、学校でいじめられていました。家では、母親の幽霊が表れて、みちるが料理を作るのを見守ってくれています。
しかし、母親の幽霊は外へ出られません。
ある日、みちるは、いじめグループの主犯格の女子、瀧澤の指示により、両腕をつかまれて、屋上へ連れてこられました。
いじめグループの女子たちは、みちるについている霊を取り払うと言って、「こっくりさん」を始めます。
いじめグループの輪の中で、みちるは十円玉の上に指を置かせられます。
儀式は厳かに始まり、十円玉があいうえおの文字の間を動き出します。
「い、し、め、た、ら、の、ろ、う」「こ、の、こ、を、い、し、め、た、ら、ゆ、る、さ、な、い」
恐怖のあまり、いじめグループは屋上の出入り口に向かって駆け出しました。
みちるは、外へ出られないはずの母親の幽霊が助けてくれたのだと思います。
この噂は学校で広まり、みちるに対するいじめはなくなりました。
しかし、あの日以来、みちるの母親は、幽霊の世界の掟を破ったためか、みちるの前に現れなくなりました。
夕食後、みちるは、父親と物干し台に並んで座って、夜空を眺め、あれはスピカ(真珠星)かなと言いながら、母親について父親と話します。
第4話「湿りの海」
離婚をした37歳の男、沢渡は、元妻の希里子、4歳になる一人娘の季穂のことが忘れられなくて、ことに娘のことがいつも夢の中に出てきます。沢渡は中堅医療品メーカーの営業職、希里子はフリーランスの通訳として、仕事も生活も順調でしたが、ある日希里子から好きな人ができたから分かれて欲しいと言い渡されました。
希里子は、離婚後、再婚して夫アンディと米国のアリゾナに住んでいます。
季穂とは定期的にSNSで会話をしていますが、いつも娘のことが頭から離れません。
ある日、彼が住むマンションの隣室に、季穂と同じ年頃の沙帆という3歳の娘を連れたシングルマザー、船場が引っ越してきました。
船場は栄養食品メーカーの広報の仕事をしていました。
隣室から子供の泣き声がよく聞こえていましたが、やがて、沢渡はいつも行く公園で、懐いてくれる沙帆を間に介して、船場と親しくなります。
沙帆に海を見せたくて、沢渡は船場親子と、生憎天気が良くない日に、車で海岸に行きます。
沢渡は、雨が降り、湿った海で、傘をさしながらも、初めての砂浜に喜ぶ沙帆を見ながら、季穂のことを思い出します。
ある夜、残業を終えて、いつもより早い8時半過ぎにマンションへ帰ると、船場の部屋の前で数人の人が立っていました。
中からは、耳をつんざくような沙帆の泣き声が聞こえていました。
中から「ママ、やめて、ぶたないで」という声が聞こえます。
沢渡は、玄関のチャイムを何度も鳴らし、ドアを叩いて船場の名前を呼びますが反応はありませんでした。
隣の部屋の老婆、佐内は「毎晩、毎晩こうよ、…… 児相にも相談したのに」と言います。
船場は、その後しばらくしてマンションから引っ越していきました。
沢渡は、「あなたは、自分以外のことにはまるで興味がないのよ」と詰った妻の希里子が、残していった寝室のチェストの陰鬱な絵画「湿りの海」を見やり、「皆、僕の元を離れ、消えていく」と一人想います。
第5話「星の随(まにま)に」
主人公は、小学4年生の男の子、想(そう)です。両親は離婚して、父親と父親が2年前に再婚した渚(なぎさ)とマンションで暮らしています。
父親は、駅前でカフェを経営しています。
想には、父親と渚の間の子供で、まだ1歳に満たない弟、海(かい)がいます。
想はいつも夜、中学受験のため、塾に通っているため、夕飯の弁当は渚が作っていました。
想が住むマンションから電車で10分くらいのところにあるワンルームマンションに、想の実の母親が一人で住んでいます。
想の母親は、結婚前に務めていた看護師の仕事に戻り、早く仕事に慣れようと、週末も忙しく働いていました。
ある日、想が学校から帰ってマンションに戻り、玄関のドアを開けるとドアガードがかかったままでした。
ドアの隙間から渚を呼んでも、返事がありませんでした。
仕方なく、マンションのエントランスのソファで待つことにしました。
そこで、腰の曲がった老婆に声をかけられました。
老婆は想と一緒に部屋のドアのところまで行き、チャイムを鳴らしますが、やはり返事はありませんでした。
想が、ドアの隙間から渚を呼ぶと、老婆はドアを拳でガンガンと叩き始めました。
そこで、ようやく渚が、目の下にクマを作って、眠そうな顔で廊下を歩いてきました。
その翌日からも、想が帰ってきてもドアにはドアガードがかかったままでした。
渚は海の世話で疲れて眠りこけていました。
想は、マンションのエントランスで本を読んで待って、夕方5時頃にもどると、ドアは何事もなかったかのように開いていました。
数日後、エントランスで先日の老婆に呼び止められました。
想は、母親が赤子が夜泣くから寝られないので、昼間は二人を寝かしてあげたいから、夕方までエントランスのソファで待っていると老婆に説明しました。
その日から、想は老婆こと佐喜子の部屋で待つことになりました。
老婆は夫に先立たれて、部屋には夫の残した多くの古い本があり、老婆が描いた油絵が何枚もありました。
老婆が描いていたのは、戦時中の東京大空襲の夜空の下、真っ赤な炎が渦巻く絵でした。
老婆は、焼夷弾が落ちてきて、東京の下町はみんな焼けてしまったと想に説明しました。
想は学校から帰ると、いったんはドアガードが外れていないか確かめた後、佐喜子の部屋へ向かいそこで時間を潰すようになりました。
佐喜子は、想におやつとして、紅茶とお菓子を出してくれました。
想は、あまりおしゃべりもせず、図書館から借りてきた本を読み、佐喜子は絵を描き続けました。
そして、ある日、佐喜子は、養老施設へ行くことを想に伝えました。
佐喜子は、自分がいなくなってしまうから、想の両親に、想のことを話してあげると言います。
そして、佐喜子は、青空の絵のキャンバスを持ってきて、戦争が終わった日、太陽がかっと照り付け、蝉が鳴いていることにその日、初めて気が付いたと語ります。
そこには、青空に真昼の月と、どこかへ飛んでいこうとする小さな蝉が描かれていました。
佐喜子は、空襲の夜に父母と妹を亡くしたことを想に語り、どんなにつらくても途中で生きることをあきらめてはいけない、生きていればきっといいことがある、と話します。