ヒラリー・マンテルの「罪人を召し出せ」を読んで
前作「ウルフ・ホール」に続く続編として、史上初の2作連続受賞作ですが、思いの外、読みづらく完読するのにかなりの忍耐を要する作品でした。
前作『ウルフ・ホール』ではアン・ブーリンの王妃即位とエリザべス誕生までの30年あまりが描かれていましたが、本書はアンの凋落までの1年が語られています。
全596ページのハードブックは分厚く、これだけでも重く、先を見ずに1歩1歩ゆっくり歩き続けてようやく最終頁に辿りつきました。最期の一説、「終わりはない。そう思っているのなら、あなたは、終わりの性質について惑わされているのだ。」全編このような表現が続きます。
英国流のシニカルな表現もあって、翻訳もあまり良くないのか、非常に分かり難く、染めない文章が連綿と続きます。
物語は、16世紀のロンドン、鍛冶屋の倅から、自らの才覚だけで成り上がり、国王ヘンリー8世の寵臣、秘書官として辣腕を振るったトマス・クロムウェルが主人公です。
あらすじは、前王妃キャサリンを除けて、国王ヘンリー8世の寵愛を受けたアン・ブーリン王妃の隆盛と妊娠、流産を経て、廷臣たちとの密通の噂から裁判により、容疑をかけられた5人男たちともども処刑されるまで、わずか1年たらずに起きた虚実混沌とした展開が描かれています。
この主題にまつわり、前王妃キャサリンの死、娘のメアリの処遇、などの幾つかの挿話が、行きつ戻りつ描かれる物語の流れとなっています。
国王ヘンリーが、男子を産めなかったアン・ブーリン王妃を除け、後に王妃として迎えようとしている侍女のジェーン・シーモアへの想いは、一途なものとして描かれていますが、前妃キャサリン、アンへと心を移していった、国王ヘンリーの権力者としての身勝手な心のうつろいとも言えます。
アンやジェーンの一族が王の寵愛を受ける女性にあやかり、地位や権力を得ようとする図式は、日本の江戸幕府の大奥と一部重なるイメージがあります。
トマス・クロムウェルは、本作の描かれた時代背景である1536年からわずか4年後には処刑されることになります。
そのような史実から、第3部の上梓も予想されています。