脾臓について

 
腹部スクリーミング超音波エコー検査で脾臓が要精密検査の結果となったため、心配になりネットでどのような可能性があるのか調べてみました。

脾臓

脾臓は、人体の左の上腹部に位置し、上方は横隔膜に、内側は左の腎臓と接しています。

前方には胃が存在し、第10肋骨の下に隠れており、通常は体表からは触れられません。

脾臓の大きさは長さ12 cm、幅7.5 cm、厚さ5 cm程度で、腎臓のようなソラマメに似た形をしています。

重量は100 gから200 g程度と、内部に存在する血液量で変化します。

スポンジ状の臓器で、血液が豊富に含まれているため、表面は暗い赤色をしています。

脾臓は、老化した赤血球の破壊・除去という役割を果たすほか、血小板の貯蔵庫としても機能しています。

また、脾臓内にはリンパ球が多くあり、免疫に関するはたらきもすることから、非常に重要な造血・リンパ器官です。

脾臓の機能

免疫機能

白脾髄でB細胞(Bリンパ球)、Tリンパ球、形質細胞を成熟させ、血液を増殖の場とする病原体に対する免疫応答の場となります。

循環血中の莢膜を持つ細菌の濾過とIgMオプソニン抗体を産生する場でもあります。

脾摘されたヒトが肺炎球菌やインフルエンザ菌、マラリアなどに感染すると重症化し易い理由の1つは、この機能が失われるためです。

脾臓の免疫機能は、大きく「一次応答」と「二次応答」の2つに分けられます。

まずは濾過機能で赤脾髄がはたらき、マクロファージをはじめとした細胞が老化した赤血球や外部からの侵入物を察知して破壊します。こうした免疫反応が、一次応答です。

そして、一次応答で対処しきれなかった場合に、二次応答として白脾髄内のヘルパーT細胞がB細胞(形質細胞)に対して、抗原を破壊する免疫グロブリンを作るよう指令。B細胞によって産生した可溶性抗体やキラーT細胞などが異常血球を攻撃し、次々に破壊します。

免疫機能において何らかの反応を示したB細胞やキラーT細胞は、病原体が体内から消滅することでほとんど死滅しますが、一部は感染・破壊の記憶を残したままメモリーT細胞・B細胞となって長期間生存します。

そのため、次に同じ病原体が体内に侵入してきた際は、一次応答時よりも早い段階で病原体を察知し、攻撃や抗体の産生を行えます。

造血機能

脾臓は、造血機能も果たしています。

そもそも造血(血球造血)とは、血液の細胞成分を形成することです。「血球新生」「血球産生」とも呼ばれます。

赤色骨髄での造血が始まるまでの胎生期には、脾臓で赤血球が作られています。

生後はその機能は失われますが、大量出血や赤色骨髄の機能が抑制された状態では、再び脾臓での造血が行われる場合が有り、これを髄外造血と呼びます。

通常、造血作用は造血幹細胞が存在する骨髄内で行われますが、大量出血によって骨髄だけでは対処しきれない場合や、何らかの原因で骨髄そのものの機能が低下した場合は、代わりに脾臓が造血を行うこととなります。

古い血球の破壊

脾臓内には幅が3 μm程度の細い血管が存在し、古くなって充分に変形できなくなった赤血球を、貪食処理して破壊します。

赤血球中のヘモグロビンを破壊し、鉄を回収する働きも有ります。

赤血球以外に、古くなった血小板なども破壊します。

「濾過機能」は、脾臓の最も代表的な機能です。

脾臓内は網目構造となっており、健康な赤血球は問題なくすり抜けます。

ただし、老化した赤血球や変形した異常血球、さらに血液中の微生物や外部から侵入した病原菌・細菌は、構造内のマクロファージによって捕捉され、破壊する形で処理されます。

マクロファージとは白血球の一部であり、比較的大きいアメーバ状の免疫細胞です。

大食細胞ともいわれており、体内に侵入した菌といった異物を貪食する能力に優れています。

血液中の異物除去

免疫機能や古い血球の破壊に関連するものの、血液中を流れてきた細菌だけでなく、異物の処理も行います。

血液の貯蔵機能

赤脾髄の部分に血液を蓄えて、循環血液量を調節する機能があります。

脾臓は、全血小板の約1/3を貯蔵しているといわれています。

そもそも血小板とは、赤血球や白血球と同様に血液中の有形成分の1つであり、主に止血・血液凝固の役割を果たす細胞です。

体内の血管が傷つき出血したときは、脾臓に貯蔵している血小板が活性化し、傷口を防いで血栓を作りながら、そのほかの血小板や赤血球を密着させて止血します。

出血を伴うケガをした際に「かさぶた」ができるのは、体内でこうしたはたらきをしているためです。

脾臓に貯蔵する血小板は、血流の調節機能にも関係します。

激しい運動をするなどして体が酸素を必要としたときは、貯蔵しておいた血液を全身の血液循環内に送り出します。

筋肉が大量の酸素を必要とするような運動時には、脾臓から貯蔵されていた血液を駆出して、充分な酸素を筋肉へ送り届けられるようにします。

こうした重要な機能も、循環器系の一部で機能の代替が行えるため、手術や外傷などにより脾臓を失っても、ただちに致死には至りません。

しかしながら、脾臓を失うと、循環血液中に異常な形状の赤血球が多く観察されるようになります


脾臓の病気に関連する症状

脾臓が弱ると、下記の症状が発生します。

貧血(貧血に伴う顔面蒼白・息切れ・疲労・脱力感など)

不正出血

食欲不振

お腹や背中の痛み

黄疸

これらの症状は、脾臓が一時的に弱っているときだけでなく、脾臓に関する病気の初期症状としても発生します。

血小板減少による出血傾向

皮膚の出血斑、歯肉からの出血、鼻血、血尿、血便、月経過多などが見られます。

遺伝性球状赤血球症:

赤血球膜が脾臓で破壊され、軽度から重度の貧血を引き起こします。

特発性血小板減少性紫斑病:

血小板が減少し、出血しやすくなる症状が現れます。

これらの症状は脾臓の病気によって異なる場合がありますので、注意が必要です。


腹部超音波スクリーニング検査

腹部超音波検査は腹部CT検査と違い被爆がないため人間ドックのスクリーニング検査として行われることが多いようです。

脾臓は体の中で上腹部の左側背部にあり、血液の血球成分を作ったり壊したりしている臓器です。

左腎臓の頭側にあります。

エコーでは脾臓は灰色の臓器としてみえますが、左腎臓の頭側で横隔膜直下にあるために、空気を含む左肺の影が被り、脾臓の全体像が見えにくいことも時にあります。

脾臓は成長とともに増大し、その後加齢とともに萎縮するため、脾臓の大きさは個人差が大きいものの、脾臓が大きい脾腫が時に見られることがあります。


脾臓の病気

脾嚢胞

脾臓の隙間に体液が入り込んでそれが溜まって水が入った袋状のものになり、炎症によって水ぶくれのような状態になります。

脾嚢胞は基本的に良性です。

6ヶ月〜12ヶ月に1度、経過観察をします。

まれに嚢胞成分をもった悪性腫瘍も存在しますので、嚢胞の性状が変わってないか、サイズが増大していないかなど経過観察が重要になります。


脾血管腫(もしくは脾腫瘤)

毛細血管の一部増殖によって、細い静脈が一部ぐにゃぐにゃ複雑に絡み合って発症します。

脾血管腫であれば良性ですが、肝血管腫に比べて脾血管腫は稀 であり初所見の場合は本当に良性疾患なのか調べるために精密検査となることがあります。


脾腫(脾臓の長径が100mm以上)

脾腫とは、脾臓が「触れて分かる程度」に大きく腫れた状態を指します。脾臓が腫れることを脾腫といいます。

その名称から「脾臓の腫瘍・腫瘤」とイメージする方もいますが、脾腫は脾臓そのものの疾患ではなく、ほかの病気の影響によって起こる症状です。

原因となる病気には、肺炎やマラリアをはじめとした細菌感染症のほか、肝硬変、血液がんなど多岐にわたります。

脾臓は通常、成人では肋骨下に隠れており、触知できないのが正常です。

しかし、脾腫の場合は左上腹部で触知可能となることがあり、これが診断の手がかりとなります。

通常、健康な成人の脾臓は重さ120g程度の手のひらサイズですが、脾腫の場合は通常サイズの倍近くの大きさになり、腹部の左上が腫れ、痛みがあります。

腹部左上部の膨満感や痛み、早期満腹感などが特徴的ですが、無症状のことも多いです。

また、吐き気や呼吸困難を伴うこともあります。

脾腫が進むと、脾臓の機能が亢進し、血球を過剰に破壊するため、貧血や出血しやすくなります。

脾臓が大きくなった分、血球と血小板をより貯蔵できるようになるため、血液中の血球と血小板が減少して貧血や出血症状が起こりやすくなります。

また、大きくなった脾臓が裏側の胃を圧迫することから、すぐに満腹を感じたり、腹部や腰、背中に痛みが生じたりするケースもあります。

脾腫を治療するには、脾腫の原因となった病気を治療しなければなりません。

脾腫による症状が重度の場合は、脾臓摘出術を行い脾臓ごと取り除くか、放射線療法によって脾臓を小さくするかのいずれかの治療法を選択することとなります。

脾臓は肝臓に栄養を送る血管(門脈)と繋がっています。

門脈のゴール地点である肝臓に障害が起きていたり門脈自体に癌ができた場合に血流の流れが止まってしまい脾臓が血液を排出しずらくなりパンパンに腫れてできます。

感染症は脾臓腫大の重要な原因の一つです。

特に注目すべき感染症には以下のようなものがあります。

ウイルス性感染症

Epstein-Barr(EB)ウイルス感染(伝染性単核球症)

A型肝炎ウイルス

サイトメガロウイルス感染症

細菌性感染症

細菌性心内膜炎

腸チフス

ブルセラ症

バルトネラ症(猫ひっかき病=主に猫に引っかかれたり咬まれたりすることで感染します。

慢性感染症による脾腫

マラリア

内臓リーシュマニア症(カラアザール)

結核(特に粟粒結核)

梅毒

特に伝染性単核球症(EBウイルス感染)は、温帯地域における脾腫の一般的な原因です。

EBウイルス感染では、脾臓内のリンパ球が活性化し、脾臓が腫大します。

稀ですが、EBウイルス感染に関連した脾臓破裂の症例も報告されています。

2009年に報告された症例では、29歳女性がEBウイルス初感染の経過中に脾臓破裂を来たし、in situ hybridization法によって脾臓へのEBウイルス感染が直接証明されました。

この症例は、感冒様症状の後に心窩部痛が出現し、最終的に脾臓破裂と診断されています。

熱帯地域ではマラリアや内臓リーシュマニア症などの寄生虫感染症が脾腫の主要な原因となっています。

これらの感染症では、原虫が脾臓内で増殖し、免疫反応を引き起こすことで脾腫が生じます。


脾臓の長径が150mmを超えてくると肝硬変や悪性腫瘍が潜んでいる可能性が高いです。

脾臓の大きさが100mm〜150未満の場合は生まれつき脾臓が大きい可能性や若い人の場合は脾臓が大きい(加齢とともにハリツヤがなくなってしぼんでいくイメージ)傾向がありますので、1〜6ヶ月に1度、経過観察となることが多いです。

脾臓の大きさが 150mm以上になると肝硬変(肝臓に重度の障害)や門脈自体に腫瘍が潜んでいる可能性が高くなるので精密検査が必要です。

脾腫は様々な原因が考えられることから、まずは、脾腫の原因となっている病気を特定しなければいけません。

特定できたら、その病気に対する治療が必要です。

それぞれの病気に適した治療を行います。

また、脾腫から出血がおきている場合などは、手術により脾臓を取り除くケースもありますが、細菌やウイルスに対して防御する働きが失われ、感染しやすくなります。


遺伝性球状赤血球症

遺伝性球状赤血球症とは、赤血球膜が脾臓で破壊され、軽度~重度の貧血をきたす疾患です。

三大遺伝性溶血性貧血のなかで最も発症しやすいことでも知られています。

遺伝性球状赤血球症の原因は、赤血球膜の形状をつくる物質が遺伝子的な異常によって欠損し、通常は楕円形の赤血球が球状になる点にあります。

球状の赤血球は脾臓で破壊されやすくなり、血管外溶血を起こすのが特徴です。

主な症状として、貧血・黄疸・脾腫が挙げられます。

赤血球膜の形状をつくる物質の欠損度によって重症度は異なり、症状の程度は個人差が大きいのが特徴です。

血管外溶血によってビリルビン産生が長期間持続するため、胆石症や溶血発作を引き起こす恐れもあります。


特発性血小板減少性紫斑病

特発性血小板減少性紫斑病とは、血小板の減少につながるほかの明らかな基礎疾患や原因薬剤の関与なく、血小板が減少してあらゆる出血症状を引き起こす疾患です。

特発性血小板減少性紫斑病の原因は、自身の体内にある血小板に対する抗体、つまり自己抗体ができるためです。

しかし、なぜ自己抗体がつくられるのかの原因は未だに解明されていません。

自己抗体によって脾臓内で血小板が破壊され血小板が減少すると、出血しやすくなるほか、血尿や血便、月経過多といった出血症状が発生します。

重度の場合は、脳出血を発症する可能性もあります。

特発性血小板減少性紫斑病は、発症から6ヶ月以内に治癒する「急性型」と、血小板減少が6ヶ月以上続く「慢性型」の2種類があります。

急性型は小児に多く、慢性型は成人、特に成人女性に多く発症するのが特徴です。


副脾

副脾とは、生まれつき脾臓の近くにもう一つ小さな脾臓ができているものを称します

副脾は生まれつきできているものですので、基本的に良性です。
サイズの変化がないかどうかだけ、12ヶ月に1回経過観察するだけで問題ありません。

脾腫瘍

脾腫瘍は臓細胞が癌化して発症し、他臓器の癌が転移してできている場合もあります。

脾腫瘍は悪性ですので必ず精密検査が必要です。

ただし、腹部超音波検査で脾腫瘍と診断をされても類似する所見を示す脾血管腫などの良性疾患であることもあります。


腹部大動脈瘤

腹部大動脈瘤は、動脈硬化・高血圧で大動脈壁が厚くなったり膨らんだ状態です。

大動脈経が30mm〜50mm未満の場合は経過観察となることが多いですが、医師の判断によっては精密検査となることがあります。

大動脈径が50mmを超えてくると破裂する危険性が高まってきます ので精密検査・治療が必要になります。


脾機能亢進症

脾機能亢進症は、何らかの原因によって脾臓が腫れ(脾腫)、脾臓の機能が亢進(こうしん)したものです。

脾臓の働きとは古くなった血球を壊すことですが、脾臓が肥大することで、古い血球だけでなく正常な血球まで破壊するようになり、結果、血液中の赤血球・白血球・血小板が減少して、貧血や出血をおこすようになります。

脾機能亢進症の原因は、感染症や白血病など幅広い疾患が考えられますが、最も多いのは肝硬変からおこる門脈亢進症です。

門脈亢進症では、狭窄(きょうさく)や閉塞によって肝臓に流れきれない血液が食道静脈に流れ込むため、しばし食道静脈瘤を伴います。

静脈瘤が破裂すると、大量出血をおこして生命に関わることもあるため、静脈瘤があれば治療が必要です。

治療は、硬化剤の注入、輪ゴムのようなもので縛る結紮(けっさつ)術、風船のようなもの〈バルーン〉を膨らませて圧迫する方法があります。

脾機能亢進症に対しては、脾臓の摘出手術を行いますが、この時、胃上部に静脈瘤があれば、血行遮断術をあわせて行います。


特発性門脈圧亢進症

バンチ症候群ともいいます。

肝硬変などの病気が発見されないのに、肝臓に血液を運ぶ血管のひとつである門脈の圧力が上昇して、血液が肝臓に流れ込めなくなります。

そうすると、他に迂回路(うかいろ)を探して流れ込むため、食道静脈瘤や脾臓の肥大(脾腫)がみられます。

脾臓肥大がすすむと、脾機能亢進症をおこすため、正常な血球までも破壊されて、貧血、出血、出血がとまりにくいなどの症状がおこります。

他にも腹水、息切れなどがあらわれます。

また、静脈瘤が破裂すると大量に吐血下血し危険な状態になります。

治療は症状を抑える対処療法が中心で、静脈瘤の破裂を防止することも重要です。


脾臓破裂

その名の通り脾臓が破裂することです。

交通事故やスポーツなどで腹部を強打して破裂することが多く、特に脾腫(脾臓が腫れている)の人は健康な人に比べて、破裂しやすくなっています。

脾臓は血管の豊富な臓器で、破裂すると大量の血液が腹腔内に流出するため、腹痛がおこり、血圧が下がるため、めまいや意識障害などの症状があらわれます。

大量に出血している場合は、ショックにより生命に関わる危篤(きとく)な状態になることもあるので、すぐに処置しなければいけません。

検査は腹部X線検査、超音波検査、血液検査を行い、通常は脾臓の摘出手術を行います。


脾臓を摘出するとどうなる

脾臓は感染を防ぐ抗体を作ったり、血液中の不要な微生物を除去したりする重要な役割を持っています。

そのため、脾臓を摘出したり、その機能が失われたりすると、これらの能力が低下して感染症にかかりやすくなるリスクがあります。

ただし、脾臓がなくても生きていくことは可能です。

肝臓やその他の臓器が代わりに赤血球の監視や異常な赤血球の除去などの役割を一部補うためです。

脾臓が持つ免疫機能は重要であるものの、日常生活に支障をきたすわけではありません。

摘出後は感染症に対する注意が必要ですが、適切な予防措置を取ればリスクを最小限に抑えることができます。