朝比奈秋の「サンショウウオの四十九日」を読んで

 


本作は、2024年第171回芥川賞を受賞作品です。

朝比奈 秋(あさひな あき、1981年 - )は、現役の医師(消化器内科医)で、『植物少女』で第36回三島由紀夫賞を受賞、同年、『あなたの燃える左手で』で第51回泉鏡花文学賞、第45回野間文芸新人賞を受賞し、男性作家としては初となる純文学新人賞三冠を達成しました。

主人公は、一つの身体を持つ結合双生児である二人の女性、「わたし(杏)」と「私(瞬)」です。

父親も、特殊な誕生の仕方で、胎児内胎児として生まれています。

wikipediaによると、「およそ50万出生あたり1人程度の割合で発生すると記載されています。

物語は、わたしと私の二人の特異な体や思考、意識が、交互に切り替わり、それぞれ二人の視点から描かれています。

幼少の頃は、周囲からは左右で歪な一人の人間だと思われていましたが、五歳になった頃に「結合双生児」だと医師から診断を受けました。

成長して、大学病院の看護学部を卒業しました。

卒業後、大学病院の系列の老健施設で認知症患者の看護をするようになりましたが、患者の家族からいわれのない投書があり、1年も経たずに自分たちから離職しました。

二人は29歳になった現在、パン工場で働いています。


「サンショウウオの四十九日」の作中、左右の半身が結合した双生児である姉妹の杏と瞬は、人体としては一つですが、二つの人格を持っています。

二重人格者のようですが、医学的に双生児が半身ずつ融合した人体構造をもった姉妹です。

作中で、「そもそも交代せずに在り続けられるこの二つの人格は、やはり二重人格ではなく、どちらかというと独立した並行人格、あるいは同時人格だった。」と書かれています。

人格とは意識のことであり、死とは意識を喪失することであるとしています。

別々の独立した意識を持つ結合双生児の片方が死んだときにはどうなるのかと、自問自答が繰り返されていきます。

役所への出生届け、叔父の死と四十九日、日常やエピソードが普通のことのように描かれています。

作中の結合双生児が実際にどの程度の確率で出生するのか、wikipediaで検索してみました。

wikipediaによると、「およそ5万〜20万出生あたり1組程度の割合で発生するといわれる。中東およびアフリカではより発生率が高いといわれるが、正確・確実な統計は無く、推計の域を出ていない。1970年 - 1977年に行われたアメリカの大規模調査では出生790万3000件に対し81組(出生10万に対し約1.025組の割合)であった。」と記述されています。

結合双生児は体の一部が結合されている場合がほとんどで、結合部位により胸結合体、臀結合体、頭蓋結合体などが分類されます。

出生後、生命維持に必要な器官が共有されていない場合には、分離手術を施術されたいくつかの事例もありますが、脳や心臓などの非常に重要な臓器が結合している2人を分離して両者が生存した例もあります。

同性以外の結合双生児や、3人以上の結合児は確認されていません。

出生した双生児の半分は死産であり、さらに3分の1が出生後24時間以内に死亡します。

生き残りやすいのは女性の双生児で、死産しやすいのは男性の双生児であるようです。

「サンショウウオの四十九日」の作中に登場するような、双生児が半身ずつ融合した結合双生児の事例は無いようです。