ニンジンのトリビア


ニンジンは一番多く使われる食材の一つです。

野菜の常備品といってもよいほど、必ずキッチンにはストックされています。


ニンジンとは

(人参、学名:Daucus carota subsp. sativus)はアフガニスタン原産のセリ科ニンジン属の2年草です。


名称

carota はラテン語で「ニンジン」の意味です。
英名 carrotや、栄養素カロテン(カロチン)の名はこのcarotaに由来します。

なお、本来、ニンジン(人参)とはオタネニンジン(朝鮮人参)を指す語であり、本種は本来は胡蘿蔔(こらふ・こらふく)と呼ばれた外来野菜でした。


現在でも中国では胡蘿蔔と記述しています。

ちなみに「蘿蔔」(らふ)とは「すずしろ」(ダイコンの異名)のことであり、「胡」(こ)は外来であることを示しています。

(胡麻=ゴマ・胡椒=コショウ・胡桃=クルミ・胡瓜=キュウリなども同様です) 


歴史

ニンジンは原産地のアフガニスタン周辺で東西に分岐し、世界各地に伝播しました。

オランダを通りイギリスへと西方へ伝来しながら改良が行われた西洋系、中国を経て東方へと伝わった東洋系の2種類に分類できます。

東洋系は細長く、西洋系は太く短いですが、ともに古くから薬や食用としての栽培が行われてきました。

日本への伝来は16世紀で、この頃は葉も根と同様に食用としていましたが、明治時代以降では一般に根のみを食べるようになりました。

現在でも地域によっては、間引きのため抜去された株が葉を食べる商品として出荷されることがあります。

日本で江戸時代に栽培されていた品種は東洋系が主流でしたが、栽培の難しさから生産量が減少し、西洋系品種が主流になっています。


朝鮮ニンジンはニンジンの仲間ではない

ニンジン(人参)の名前の由来となった、オタネニンジン(朝鮮人参・高麗人参とも)は薬草として用いられていることが多いですが、ウコギ科の植物であり、植物分類学上ニンジンとは異なる植物です。



栽培には涼しい気候が適しているが、苗の段階では比較的高い温度にも耐えられます。

そのため夏に種を撒いて9月頃から12月頃の秋から冬に収穫する方法が最も容易です。

秋ニンジンは北海道が全国の8割以上を占め、冬ニンジンは千葉、埼玉、茨城、春夏ニンジンは千葉や徳島で主に栽培されています。


東洋系ニンジン

中国で改良された東洋系のニンジンは、16世紀に日本に伝えられ、各地で作られるようになりました。

赤色の金時にんじんを筆頭に、甘味が強くてニンジン特有の臭いは強いですが、煮ても形が崩れにくいので和風の料理に重宝されます。

なかでも京料理では比較的多く用いられることから金時ニンジンは「京人参」とも呼ばれ、京野菜のひとつに数えられています。

しかし、栽培しにくいことがネックとなり、第二次世界大戦後は西洋系ニンジンが主流となってきています。

沖縄県の伝統野菜のひとつで黄色い島ニンジンまたはチデークニーと呼ばれる品種や、アフガニスタン原産の黒人参などが東洋系に含まれます。 


西洋系ニンジン

西洋系ニンジンは、オランダやフランスで改良がすすみ、江戸時代末期に日本に伝来しました。

主にオレンジ色をしており、甘味もカロテンも豊富に含んでいます。

金時ニンジンなどと比べて太めなのが特徴です。

東洋人参とは異なりニンジン臭が少ないです。

季節に応じた品種が栽培されていて、1年中市場に出回っていますが、ニンジン本来の旬は9月頃から12月頃です。


カラフルなニンジン

日本の人参はオレンジ色が頭に浮かびますが、原産地といわれるアフガニスタン周辺の野生種や現在栽培されているものは、白色、黄色、紫色、黒紫色など様々です。

これらは人参に含まれる栄養素の色素の割合で変化します。

例えば、「βカロテン」が多けれ
ばオレンジになり、「キサントフィル」が多いと黄色い人参、紫色は、「アントシアニン」の影響があると言われています。

そのため、様々な色の人参を食べることで、たくさんの栄養素を摂取することができます。


電子レンジでの発火現象

未調理の状態のごく少量のニンジンを電子レンジで加熱すると、電子レンジのマイクロ波によってニンジン内に電気が発生し、眩いスパーク現象と共に発煙して炭化することがあります。

これらの現象を回避するには、ニンジンに少量の水をかけるか、一度に調理する量を100 g以上に増やすことが必要です。


馬の鼻先にニンジン

日本では『馬の好物』とされ、観光牧場ではエサやりイベント用飼料の定番となっています。

このイメージから、「馬の鼻先にニンジンをぶら下げて走らせる」という連想が生まれ、人にやる気を出させるための「褒美」のたとえとして「ニンジン」が使われるようになりました。

ウマに限らず動物は一般に甘味のあるものを好むため、家畜の調教などで褒美として甘い飼料を与える事があります。

ウマの場合、ヨーロッパではリンゴなどの果物やパン・角砂糖が、日本では(安価な)ニンジンが用いられました。

このため、日本で育ったウマはニンジンを好みますが、他国で育ちニンジンを食べ慣れていないウマは食べなかったり、むしろ嫌う事もあります。


おいしいニンジンの選び方

ニンジンを選ぶ時には外側の皮の色が濃く鮮やかなもの、表面がなめらかで大きな傷が入っていないものを選びます。

持った時にスカッとかるいもの、外側が萎びているように見えたり、しんなりしているようなニンジンは鮮度が下がっているので避けたほうが無難です。

先端部分が細く尖っているものよりも。丸みのあるものの方が良いと言われています。

また頭部分にある茎を切り落とした跡は、小さい方が芯が細く柔らかいと言われています。

茎・芯が見える場合はきれいな緑色をしており、瑞々しいものを選ぶと鮮度が良いです。

色や形状については品種によっても違いがありますが、普通のオレンジ色系のニンジンであれば赤みの強い色の方がカロテンが豊富です。


風邪予防

ニンジンは「緑黄色野菜の王様」と呼ばれることのあるほど豊富なβ-カロテンを筆頭に、食物繊維(ペクチンなど)やビタミンB1、ビタミンB2、鉄分、カルシウムなども含んでいます。

にんじんの栄養価として特出しているのがβ-カロテンです。

100gあたりのβ-カロテン含有量は8600μgと、同グラムで比較した場合はほうれんそうやかぼちゃの2倍以上です。

緑黄色野菜の中でもトップクラスで、β-カロテン補給源として優れた食材と称されます。

β-カロテンは抗酸化作用を持つカロテノイドであると同時に、必要に応じて体内でビタミンAに変換されるプロビタミンA(ビタミンA前駆物質)の一つでもあります。

ビタミンAは皮膚・喉・気管支・肺などの上皮組織を正常に保つ働きがあり、不足すると細菌やウイルスの侵入を許しやすい状態を作ってしまう可能性があります。

β-カロテンの適切な補給は呼吸器粘膜の強化し、ウィルスの侵入を防いで風邪やインフルエンザに罹りにくい状態を作るにも一役買ってくれると考えられます。

ビタミンAの形で摂取するよりも過剰症の心配が低く、ビタミンAに変換されなかったβ-カロテンは抗酸化物質として免疫機能低下予防をサポートしてくれる点もメリットと言えます。


がん予防

βカロテン以外にも、にんじんに含まれているリボフラビン(ビタミンB2)や葉酸には抗癌作用があると言われており、がんの予防にも繋がります。


老化防止

β-カロテンはカロテノイドと呼ばれる天然色素成分の一種で、抗酸化力を持つ成分です。

抗酸化物質は体内の活性酸素の除去・抑制効果のある物質を指しますから、細胞の酸化によって進行する老化現象や疾患のリスクを低減する働きが期待されています。

金時人参の赤みはカロチンではなくリコピン、紫ニンジンであればアントシアニン系色素に由来していますが、これらも抗酸化作用が認められている物質です。

これらの補給に役立つことからニンジンはアンチエイジング食材として注目されています。


目の健康維持

ニンジンにはβ-カロテンと同じくカロテノイドに分類されるルテインが含まれていることも注目されています。

ルテインも優れた抗酸化作用を持つことから目の黄斑部や水晶体などを酸化ダメージから守り、眼病や視機能の老化を抑制する働きが期待されています。

加えてルテインは「天然のサングラス」とも称されるように、スマホやパソコンの画面などから発生するブルーライト(青色光)を吸収して目を守る働きも報告されており、パソコン・スマホ・テレビなどに囲まれて生活している現代人の目を守ってくれる存在としても注目されています。

実験などで眼病予防に有効性があると考えられている1日のルテイン推奨量摂取量は6~10mgです。

にんじんだけでこの量のルテインを補給しようと考えると、10本以上の量が必要となることが分かっています。

ただし野菜類の中では豊富な部類であり、食事の中で毎日補給することを考えるとホウレンソウと並んで最も取り入れやすい食材です。

にんじんにはビタミンAに変換されることで目の粘膜を保持してくれるβ-カロテンも豊富です。

β-カロテン(ビタミンA)は網膜で光を感知するロドプシンの生成にも利用されることから、合わせて目の疲れの緩和・視界をクリアにするなどの働きが期待されています。

β-カロテンには黄斑変性症や老人性白内障の予防に対する有効性も報告されていますから、疲れ目やドライアイが気になる方に、眼精疲労や眼病予防としてなど、にんじんは目の健康をサポートしてくれる食材としても取り入れられています。


夜盲症予防

ビタミンAは、眼で見た情報を脳に伝えるロドプシンと呼ばれる物質を構成しており、わたしたちの視覚には欠かせません。

たとえば、明るい場所から暗い場所へ移動すると、最初はモノが見えづらいですが、次第に見えるようになっていきます。

これは、眼のなかでロドプシンが再合成することで、暗さに適応しているためです。

ビタミンAを摂取すると、ロドプシンの再合成が促進されるため、夜盲症の予防につながります。


高血圧・動脈硬化予防

にんじんはミネラルがさほど多い食材ではありませんが、カリウムは100gあたり270mgと野菜類の中でも平均的な量が含まれています。

カリウムは余剰ナトリウム排出を促すことで体内の水分バランスを調整する働きがあります。

カリウムが不足していると体は血中ナトリウム濃度を保つために血液の水分量を増やし、血液量が増えることでなるため血液を送り出す心臓の負荷が増えて血圧が高くなります。

このため余剰ナトリウムや水分の排出を促すカリウムは高血圧予防に意識的に摂取したい栄養素に数えられてます。


にんじんには抗酸化作用を持つβ-カロテンも豊富に含まれていますから、酸化を予防するという面からも血液循環をサポートしてくれます。

また、LDL(悪玉)コレステロールが活性酸素と結合すると“酸化LDL(過酸化脂質)”と呼ばれる物質に変化し、これを処理したマクロファージの残骸はドロドロした粥状物質となって血管内に蓄積することが認められています。

このマクロファージの死骸が積み重なるとプラークとなり、血管を狭めたり柔軟性を損なわせ動脈硬化の原因になると考えられています。

このため抗酸化物質の補給は動脈硬化の予防にも繋がりますし、にんじんに含まれている香り成分でポリフェノールの「クマリン」は血液を固まりにくくする作用を持つことが報
告されています。

カロテン類の補給と合わせて血栓や心筋梗塞・脳梗塞の予防にも役立つのではないかと期待されています。


血行不良・むくみ対策

人参に含まれている芳香成分クマリンは抗凝固作用=血液を固まりにくくする作用があります。

この働きから血液の粘度を低下させてスムーズな血流を促すことに繋がると考えられており、血液循環を良くすることでリンパの循環を整える働きも期待されています。

クマリンの働きにより、血行不良やむくみ緩和に役立つのではないかと言われています。

加えてクマリンはポリフェノールでもあるので抗酸化作用も期待できますし、にんじんには抗酸化作用を持つβ-カロテンやルテインなどのカロテノイドも豊富です。

抗酸化物質の補給からも血流悪化や代謝低下の予防をサポートしてくれると考えられますから、冷え性の改善に一役買ってくれる可能性もあります。

カリウムも余剰ナトリウムを排出させることで水分排出を促す働きがありますから、むくみ予防としても効果が期待できます。


お腹の調子を整える

にんじんは食物繊維が豊富と紹介されることもありますが、100gあたりの食物繊維総量で見ると2.4gと野菜類では中堅くらいのポジションに位置しています。

しかしニンジンは100gあたりの食物繊維の内訳が水溶性食物繊維0.6g/不溶性食物繊維1.8gと、水溶性食物繊維が比較的多く含まれているという特徴があります。

食物繊維にはそれぞれ得意な働きがあり、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維をバランスよく摂取するのがお腹の調子を整えるポイントです。

にんじんは理想的な摂取バランスとされる不溶性2:水溶性1の形で食物繊維を含んでいることが特徴と言えます。

特にペクチンなどの水溶性食物繊維は、腸内で善玉菌(ビフィズス菌)のエサとなり善玉菌の増殖・活性化を促す働きがあります。

便自体の容量を増やして蠕動運動を促進させる働きや、便の水分量を調整し排便までをスムーズに行わせる働きもありますが、水溶性食物繊維は文字通り水に溶けてゲル化することで水分量の多過ぎる便を固める働きもあります。

これらの働きから腸内環境を整える・便秘を解消する・下痢を改善するという幅広い働きが期待できます。


肌老化予防・紫外線対策

にんじんは抗酸化作用を持つβ-カロテンが100gあたり8600μgと豊富で、その他にもカロテノイド系色素やポリフェノールの一種クマリンなどの抗酸化物質を含んでいます。

際立って多くはないものの抗酸化作用を持つビタミンCとビタミンEを含んでいますから、様々な抗酸化物質を補給できる食材と言えます。

このため内側から肌のアンチエイジングをサポートしてくれる食材としても注目されており、肌細胞の酸化によって引き起こされるシワやシミ・たるみなどの肌老化を予防する働きが期待されています。

抗酸化作用は紫外線によって発生した活性酸素を抑制・除去することにも繋がるので、内側からの美白(シミ予防)をサポートしてくれる可能性もあります。

ルテインも目だけではなく肌を紫外線などの有害光から保護する働きが期待されていますし、β-カロテンは体内でビタミンAに変化することで皮膚や粘膜を健やかに保つ働きや、皮膚の新陳代謝を高める働きがあります。

ビタミンAとして働くことで肌のバリア機能向上や乾燥肌予防にも繋がりますし、クマリンによる血行促進作用と合わせて肌のくすみ改善・ターンオーバーを正常化する手助けもしてくれます。


皮と思っている部分は皮ではない

ニンジンの皮は非常に薄い白っぽい部分で、出荷前に既に剥かれているものが多いです。

皮だと思っている部分はグルタミン酸やカロテンなどが豊富な部分です。

洗うだけでも食べられると言われていますので、皮ごとにんじんジュースなどを作ると栄養補給には最適です。


生ニンジンはビタミンCを含む野菜と食べ合わせしない方が良い

生ニンジンに含まれるアルコスビナーゼという酵素はビタミンCを酸化させる性質があります。

このためビタミンCを含む野菜との食べ合わせはよろしくないとする説もありますが、日本食品標準成分表ではビタミンCは酸化しても効能は変化しないとされています。

すりおろしやジュースにしてしまうと酵素が活性化すると言われていますので、気になる場合は熱を加える・生のままならば酸()を加えてアスコルビナーゼの働きを抑えて摂取すると良いです。


ニンジンの保存方法

にんじんは湿気に弱く、また水分が抜けてしまうと食感が悪くなるので、新聞紙などに包んで保存すると良いです。

涼しい時期であれば風通しの良い冷暗所で、夏場などであれば新聞紙の上からポリ袋などを掛けて冷蔵庫の野菜室に保存するとよいです。

日持ちは良い部類ですが、当分食べる予定がなければ冷凍したほうが確実です。

冷凍する場合は使いやすい大きさに切って軽く茹でてから冷凍すると、そのまま料理に使えて便利です。

エチレンガスを出すリンゴやキウイと一緒に貯蔵すると、苦みがでる場合があるので避けた方がよいです。


カロテンは調理した方が吸収されやすい

カロテンは、生で食べるよりボイ ルしたり、油で調理した場合のほうが、ずっと吸収率がよくなるという利点がありま す。

カロテンの吸収率は、生で10%、煮ると30%、油料理だと5070%と、油に溶けると吸収率が良くなります。
油炒めやきんぴらがお勧めです。