EMドライブという宇宙エンジン

推進剤なしで推力を生み出すという、夢のようなエンジンが実験されているそうです。

実用化されている、イオンエンジンのような電気推進エンジンとは全く異なるようです。

NASA

米NASAジョンソン宇宙センターの研究チームは2016年11月17日、推進剤を使うことなく真空で宇宙船に推力を与えられる電磁(ElectroMagnetic)推進システム「EMドライブ」の実験的証拠を公式に発表しました。


EMドライブは、円錐形の鏡の密封された容器の中でマイクロ波(電磁波の一種)を反射させるだけで、電力を推力に変換する装置です。

その原理は現在も解明されていませんが、既存のロケットエンジンやイオンエンジンが推進剤を噴射する反作用で加速するのとは異なり、推進剤を用いず推進力が得られるとしています。

これは、太陽電池などで電力を確保できれば、半永久的に加速が続けられることを意味しており、実現するのであれば画期的な推進機関になると考えられています。 

通常半年以上かかる火星への旅も理論的にはわずか70日でロケットを火星まで飛ばせられるといわれます。 

しかし、EMドライブは古典的な物理法則に反していることが以前から指摘されており、NASAが言うように実際に動いたとしても、その原理は依然としてわかりません。


これまでも、EMドライブに関する検証は報告されていましたが、疑問視する意見も多く、ほとんどの物理学者はこれを似非科学の領域に押しやっていました。


ところが、NASAの最新論文は第三者の科学者の審査を経て発表されたもので、これによってEMドライブ実現の可能性は一気に高まりました。

今回の発表

NASAの研究チームは、論文審査のある科学誌に実験の結果を発表しました。

審査があるからと言って必ずしも論文が正しいというわけではありませんが、少なくとも数人の独立した科学者らが実験の設定、結果、解釈を査読して、納得できると決断を下したということです。 

論文の中で研究チームは、宇宙空間と同じほぼ真空の状態でEMドライブをどのように試験したかを説明しています。

エンジンをねじり振り子の上に置いて作動させ、それが動いた距離からどれだけの推力が生まれたかを調べました。

その結果、EMドライブは電力1キロワットあたり1.2ミリニュートンの推力を得られると論文著者は推定しています。

従来のエンジンと比較すれば大した力ではありませんが、燃料を全く使わない条件であれば見過ごすことのできない数字です。

EMドライブとは

EMドライブ(英: EM-drive、electromagnetic drive)は、イギリスの航空宇宙技術者のロジャー・ショーヤー(Roger Shawyer)が考案した宇宙機の推進方法です。


ロケットエンジンなどの既存の推進機関とは異なり、推進剤なしで推力を生み出すとされています。

EMドライブは、サテライト・プロパルジョン・リサーチ社により2001年に発表されました。

Radio frequency resonant cavity thruster(無線周波数共振空洞推進器)とも言われます。

外部とのやり取りをせずに推進力を得られるという主張に対しては、運動量保存の法則に反しているとの激しい批判をする科学者も多く、英国政府の援助も打ち切りとなっています。 

20年近く前に英国の科学者ロジャー・ショーヤー氏によって提唱されたEMドライブは、その後NASAの先端推進物理学研究所、別名イーグルワークスのエンジニアたちによって開発され、試験されてきました。 

簡単に言えば、イーグルワークスのEMドライブは電磁エネルギー(この場合はマイクロ波光子)を、円錐形の密閉容器の中で反射させて推力を得ます。

光子が容器内の壁にぶつかると、容器からは何も噴射されないのに装置はどういうわけか前に進みます。 

広大な宇宙空間を高速で効率よく移動するには軽量化を目指すことが重要ですが、EMドライブが実現すれば、宇宙船は文字通り何トンもの推進剤を積み込むことなく飛行できることになります。

物理法則に反したエンジン 

問題は、EMドライブがニュートンの第3の法則である作用・反作用の法則に反していることです。

この法則は、全ての力にはそれと反対で大きさの等しい力が存在するというもので、ジェットエンジンは、高温のガスを後方へ噴射させることで飛行機を前進させることができます。

ところが、EMドライブは何も噴射しません。

これはニュートンの第3の法則と、もうひとつの古典力学の教義である運動量保存の法則と矛盾します。

EMドライブが何も後方に噴射させずに前進するとすれば、その推進力を説明する反作用の力が何も存在しないことになります。

たとえば、宇宙船の乗組員が壁を押すだけで目的地に到着できたりするようなものです。

推力発生のメカニズム

EMドライブが本当に推力を生み出すことができるのかはいまだはっきりしません。

しかし、その推力発生のメカニズムについてはいくつかの説があります。 

イーグルワークスは、量子レベルで行き交う粒子の荒海である「量子真空仮想プラズマ」を、マイクロ波光子が押しているのではないかと考えています。

しかし、量子真空仮想プラズマなるものが実在するという証拠はないと、米カリフォルニア工科大学の物理学者ショーン・キャロル氏は言います。

量子真空は存在しても、光子が押せるプラズマは生み出さないとしてます。 

論文はさらにパイロット波理論を使い、量子真空を使っていかに推力を生み出すかを説明していますが、この解釈は現在の物理学の主流ではないとも断っています。 

英プリマス大学の物理学者マイク・マカロック氏は、EMドライブがウンルー輻射に関する慣性の新理論を証明していると主張しています。

ウンルー輻射とは、加速する物体が感じる熱のようなものです。

マカロック氏によると、円錐形のEMドライブは広い部分と狭い部分でウンルー輻射の波長が異なるため、内部の光子がぶつかるたびに慣性が変化し、推進力が生まれるといいます。 

しかし、ウンルー輻射の存在もまだ実験的には証明されていません。

ウンルー効果は理論的に予言されているものの、実験的な検証の目処は現在もたっていません。

またEMドライブの容器内で光の速度が変化するという点も、アインシュタインの特殊相対性理論に反すると、米ローチェスター技術研究所の物理学者ブライアン・コーバーライン氏は言います。

この仮説は光子が質量を持ち、真空中の光速が変化するとする仮定に立脚しているため、主流科学とは大きく乖離しています。

物理の法則に反した理論の研究が、結局は欠陥的な実験の結果であったという例は過去にいくつもあります。 

各国で繰り返される検証実験 

EMドライブの追試は、複数の研究機関により試みられています。

中国の西北工業大学の研究チームは2010年、2.5 kW の電力を使用したシステムで720 mN の推力を生み出すことに成功したと発表しました。

2014年に、アメリカ航空宇宙局 (NASA) のイーグルワークスはEMエンジンが実際に動作したことを示唆する初期試験結果を発表し、科学界を驚かせました。

NASAは中国チームによる報告の一万分の一以下ではありますが、30〜50 µNの推力が発生したことを発表しました。

その後は、条件をさらに厳格化して実験を繰り返してきました。 

2015年には、真空チェンバー内でも推力が発生したことが報道されています。

2016年11月改めてNASAが発表した報告による1.2±0.1mN/kWの推力を生じるとされています。

一方で、2018年5月に発表されたドイツのドレスデン工科大学による追試結果では、同じくEMドライブから4 µNの推力が観測されたものの、EMドライブの向きを90度変えても、またEMドライブを稼働させず実験装置のみを起動させた状態でも同じ推力が観測されてしまったことが報告されています。

研究チームはこの結果について、EMドライブの推力とされてきたものは、地球の磁場と電源ケーブルの電磁相互作用によって生じた力ではないかと分析しています。

宇宙空間におけるテスト

2016年11月、International Business Timesは、米国政府がボーイングX-37B のEMドライブ版をテストしており、また中国政府がEMドライブをその軌道宇宙実験室天宮2号に組み込む予定であると報道しました。

2016年12月、Yue Chenは、中国科技日報の記者に、チームが同地で5年間の資金調達を受けEMドライブを軌道上でテストを行っていたと語りました。

Chenは、プロトタイプの推力は「マイクロニュートン〜ミリニュートン」のレベルであり、決定的な実験結果を得るために少なくとも100-1000mNまでスケールアップしなければならないと指摘しました。