今村夏子の「むらさきのスカートの女」は、いつも見ている「わたし」の存在が不穏で不気味な読後感を残す


今村夏子の芥川賞受賞作「むらさきのスカートの女」を読みました。

今村夏子の作品は以前に「こちらあみ子」を読んでいますが、こちらは少し趣が違います。

いずれも少し常軌を逸した女性がでてきます。

「こちらあみ子」はあみ子という周りの空気を全く読めない女の子でしたが、「むらさきのスカートの女」は、ぼさぼさ頭で登場するくだんの女ではなく、この女をじっと観察している「わたし」が異状な女なのでした。

冒頭「むらさきのスカートの女」が誰に似ていると延々と描写されているのですが、それは「わたし」の姉妹や子供時代の記憶を通じて「わたし」自身の描写になっています。

「むらさきのスカートの女」は後半で、30前後の女と書かれており、「むらさきのスカートの女」は子供の時に両親の離婚により20年会っていない姉や、中国人の同級生に似ていると書いているので、「わたし」の年齢は20代後半と考えられます。

近くに住む「むらさきのスカートの女」は、いつも公園の決まったベンチにやってきて俯いて座っているので、子供たちが考えだした肩タッチの遊びの恰好のターゲットになっていました。

「黄色いカーディガンの女」こと「わたし」は近所の安アパートに住み、パートの職を転々とする「むらさきのスカートの女」が気になっていて、彼女と友達になりたくて、彼女がいつもやってくる公園のベンチで待ちかまえています。

そしてさりげなく求人誌をベンチの片隅に置いて、「
わたし」の働いている職場の求人面接を受けるよう誘導します。

「むらさきのスカートの女」はいくつもの求人の面接に落ちて、ようやく目論見の私の「来るもの拒まず」の職場の面接を受け採用されます。

そして、最初の自己紹介の時こそ、小心で控えめな大人しい女のようでしたが、この職場で働くうちに「むらさきのスカートの女」はごくごく普通の女に変わっていきます。

この職場は大きなホテルの客室掃除係の仕事で、所長を除いて周りは女ばかりの職場でした。

「むらさきのスカートの女」の名前は日野まゆ子と言いました。

ぽっちゃり体形の所長から発声練習の特訓を受けて、普通に大きな声であいさつができるようになると、他の女性チーフたちの見る目も変わってきます。

「むらさきのスカートの女」は仕事を教えてもらう塚田チーフに気に入られ、勤務5日目にトレーニング終了の判子をもらい、翌日からマスターキーを腰に下げて、自分1人で客室の掃除をするようになります。

「むらさきのスカートの女」は同じ仕事場の女性たちとの飲み会などの付き合いにも、如才なく付き合うようになり、益々評判が良くなっていきます。

仕事場で一人前と認められ自信もつくようになると、休みの日の過ごし方にも変化が見られるようになってきました。

公園で遊ぶ子供たちの遊びのターゲットにされていた「むらさきのスカートの女」は、いつのまにか子供たちに持ってきたチョコレートをあげて手なずけていたのでした。

「むらさきのスカートの女」は次第に化粧が派手になっていくのと同時に、女だけの職場に悪いうわさが立つようになります。

妻子のある所長との不倫の噂でしたが、「
わたし」がある日曜日「むらさきのスカートの女」の後をつけていくと、それは事実でした。

職場では「むらさきのスカートの女」は「所長のコレ」と言われ、彼女の噂話は更に悪いものになります。

何の根拠もなく、時給が他のチーフよりも高い千円であると噂され、チーフ陣を始めスタッフ全員が「むらさきのスカートの女」を無視するようになります。

マネージャーから部屋の多くの備品が紛失していると指摘され、それらが、小学校のバザーに出品されているという匿名の通報があり、駆け付けたホテル関係者に確認されました。

品物を販売していたのは、小学校に通う子供たちで、女の人にたのまれたと口を揃えて言いました。

チーフ陣スタッフたちは「むらさきのスカートの女」を取り囲み、犯人であることを白状しろと吊し上げます。

「むらさきのスカートの女」は、チーフたちに取り囲まれて、通用口に向かって走り去りました。

その夜、所長が「むらさきのスカートの女」のアパートを訪ね、所長まで疑われていることを伝えるとともに、
「むらさきのスカートの女」に全部1人でやったと、マネージャーに証言してくれと頼みます。

「むらさきのスカートの女」は怒り、所長とアパートの2階にある彼女の部屋の前で争い始めます。 

所長は股間を蹴り上げられ、さらに平手打ちを受け、錆びた手すりを掴んだ拍子に折れて、まっさかさまに地面に落ちました。

打ち所が悪く、所長は動かなくなりました。

あわてふためく「むらさきのスカートの女」の目の前に「わたし」は姿を現して「むらさきのスカートの女」に所長の心臓が止まっていると伝え、早く逃げるように言います。

この時、初めて「
わたし」が「むらさきのスカートの女」の働いていた職場の権藤チーフであることが明かされます。

「わたし」は、 必要なものは、駅のコインロッカーに隠してあると言い、後で落ち合う場所を伝えてから、ロッカーの鍵を渡してます。

「むらさきのスカートの女」は、バスの時間1分前にバス停へ向かって走り去っていきました。

その後、「わたし」は「むらさきのスカートの女」と落ち合うことになっていたビジネスホテルで、彼女に会えませんでした。

先日、「わたし」の職場にまた新人が一人入ってきました。

「あいさつの声が小さい」と古参スタッフが陰で文句を言っているのを聞きながら、わたしは新人の様子をみています。

所長は幸い、脳震盪と骨折で済んで、リハビリ病院を再来週に退院できる予定でした。

「わたし」は、病院で、所長の奥さんと仕事仲間の皆が席を外した時を見計らって、所長がホテルに宿泊した女性タレントの下着を盗んだことをネタに脅し、お金を貸してくれと頼みました。

「わたし」が孤独で厳しい生活をしていた「むらさきのスカートの女」以上に貧乏で悲惨な生活を送っていることが明らかにされます。

所長は、しばらくの沈黙の後、「考えときます」と小さな声で呟きました。

「わたし」が「むらさきのスカートの女」が座っていた公園のベンチでクリームパンを食べているところを、子供にポンと肩を叩かれ、子供たちが笑いながら逃げていくところで、この物語は終わります。

「むらさきのスカートの女」の姿は消え、「わたし」がその同じ場所にすっぽり入れ替わり、読者である「わたし」が見ています。

この見ている「わたし」が不穏で不気味です。

かつて映画で観た「コレクター」の最初の方の不気味さと相通じるところがあります。

「コレクター」は猟奇的な男が若い女を狙うストーリーなので全く異なりますが、普段あまりものを言わない孤独な女が、同類を求めて、同性で寂しそうな女をじっと見ていている光景が一層不気味で尋常ならざる世界を描いています。

「類は友を呼ぶ」ではなく「類は友を求める」異様で不可思議な空気感が漂う小説でした。