トーン・テレヘンの「ハリネズミの願い」を読んで


トーン・テレヘンの「ハリネズミの願い」を読み終えました。

子供の読む童話のようでありながら、登場する、動物たちが、抽象的な概念について語り合う、少し変わった物語です。


ある日、ひとりぼっちで、自分に自信がないハリネズミは、動物たちみんなにあそびにきてもらおうと思い立ち、招待状を書き始めます。

「親愛なるどうぶつたちへ。きみたちみんなをぼくの家に招待します。

……でも、誰も来なくてもだいじょうぶです。

ハリネズミは、迷ったあげく、戸棚の引き出しにしまい、「送るのはやめておこう、今はまだ」と思います。

招待状を送る前に、あれこれ考え込んでしまい、せっかく書いた招待状を出さないまま、ハリネズミの妄想と不安はとめどもなく広がっていき、59の短い章で語られていきます。
ハリネズミの想像の物語の中では、クマはハチミツを勝手にたいらげてしまうし、ゾウはテーブルと椅子の上でピルエットを失敗して落下し、それらを残骸にしました。

ダチョウはどこにでも頭を突っ込むし、カバは家の前面の壁に衝突して壊し、欲しくもない風呂をプレゼントだと言って、部屋の真ん中に置き、壁を水浸しにして帰っていきました。

キリギリスは、ハリネズミの家のものを何でもかんでも売ってしまいました。

これらの話の間に間奏曲のように、カメとカタツムリが抽象的で禅問答のような話をしながら、ゆっくりゆっくり、ハリネズミの家へ向かっている様子が描かれています。

ハリネズミは深呼吸をして、それからしばらく、訪問を受けものに起こりうる予想外の状況や悲劇について考えていました。

ロブスターは、ハリネズミのハリを全部抜いてしまうし、スズメバチはハリでどうしても刺さずにはいられなくなります。

こうしてハリネズミは訪ねてきてほしくない動物たちについて考えます。

ビーバーはハリネズミの家の中に勝手に壁を作って、家を2分してしまいました。

しかし、春の夜、訪れてきたナイチンゲールは哀愁に満ちた歌をうたってくれました。

バイソンは走ってきましたが、速度を落とすことができず、玄関のドアを突き破り、家の裏手でようやく止まり、ハリネズミは、すんでのところで、ランプにつかまって難を逃れました。

ミーアキャットは何に対しても質問し、ハリネズミは何も答えられなくなってしまいます。

クジラは空に浮かんでやってきて、欲しくもない噴水をハリネズミの背中に取り付けると、水が上に噴出して、家のまわりの森が徐々に浸水し、クジラは泳いで海へ帰っていきました。

カメがカタツムリを置いて、ようやくハリネズミの家を訪れますが、すぐに帰ることになり、ゆっくり向きを変えて「ぼくのことを待っているよね?」「すぐもどるよ。友だちだろう?これ以上ゆっくりは歩けないんだ。ごめんね」とささやくのを聞きます。

ベッドの横の床で寝ていたハリネズミは目を覚まし、戸棚までそろそろ歩いていくと、引き出しから手紙を出して細かく破りました。

そのとき、ドアをノックする音がして、「だれ?」と聞くと、リスが訪ねてくれたことが分かりました。

ハリネズミとリスは紅茶を飲み、ハチミツを舐め、ときどきうなずきあって、お互いが時間がとまればいいのにと思いました。

冬のはじめのある日、予期せぬお客をむかえたハリネズミは、眠りに落ち、冬じゅう眠りつづけました。


それぞれの章が、童話の挿話のように書かれており、おとぎ話の中にときどき哲学的な言葉が散りばめられています。

いろいろなことを心配しすぎて、堂々巡りになってしまったハリネズミの自縛状態をファンタジーのように描き、そのハリネズミを優しく見つめている作者の存在を感じさせる不思議な作風でした。

トーン・テレヘンは、1941年、医師の父とロシア生まれの母のもと、オランダ南部の島で誕生しました。

ユトレヒト大学で医学を修め、ケニアでマサイ族の医師を務めたのちアムステルダムで開業医になり、67歳で引退するまで医師の仕事を続けました。

1984年、幼い娘のために書いた動物たちの物語『一日もかかさずに』を刊行し、以後、動物を主人公とする本を50作以上発表し、子供から100歳を超える高齢者にまで愛読され、オランダで最も敬愛される作家の1人です。