高齢者の転倒は危険
ただ転んだだけで、そのようなことになってしまって、全く不幸と言うしかありませんが、高齢者にはこのようなことが度々あるという話をよく聞きます。
高齢者の転倒の危険性
転倒は若い人なら軽いけがで済んでも、高齢者にとっては大きな事故につながることがあります。
1)転倒は要介護の要因転倒は高齢者によくみられます。
自宅で暮らしている高齢者の約3分の1は少なくとも年に1回転倒し、介護施設に暮らす高齢者は約半数が少なくとも年に1回転倒します。
米国で、転倒は事故死の主要な原因であり、65歳以上では死亡原因の第7位を占めています。
転倒したことがある人は、再び転倒しやすくなります。
「平成27年版 高齢社会白書(全体版)」によると、高齢者が「要介護」となる主な原因は、脳血管疾患(脳卒中)、認知症、高齢による衰弱と続き、「骨折・転倒」は全体の12.2%を占め、4番目の多さになっています。
また、内閣府の「平成22年度 高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査結果(全体版)」によると、自宅内で転倒したことがある男性が6.8%なのに対し、女性は11.8%となっていて、男性よりも女性が転倒しやすいという結果になっています。
転倒により動けない状態が長く続くと、歩行機能が衰え、「要介護」となる可能性があります。
2)転倒が原因で寝たきり状態に
若い人なら少しくらいけがをしたり病気にかかったりしても、安静にして寝ていれば大抵は治ります。
しかし、高齢者にとって過度の安静は、筋力や身体機能の衰えを招き、症状を悪化させる要因にもなります。
中でも転倒が原因で起こりやすい大腿骨の骨折は、歩けるようになるまでに時間がかかるため、そのまま寝たきりになることも少なくありません。
多くの高齢者の骨は小さな穴が多くもろくなっていて(骨粗しょう症)、転倒により骨折しやすい状態にあります。
転倒が原因で生じたけがから死に至ることがあります。
室内、屋外を問わず、暗い場所は転倒する危険性があります。
骨折やけががなかったとしても、転倒により自信を失ったり、自力で動くことに対して恐怖心を持ったりすると、体を動かさなくなり、筋力が次第に衰え始めて、身体機能の低下を招くこともあります。
高齢者にとって一度衰えた筋力や体力を取り戻すことは容易ではありません。
リハビリにも根気が必要になります。
体を動かさない時間が長くなるほど、そのまま寝たきりになる可能性が高くなってしまいます。
転倒が多い場所
高齢者の転倒事故は屋外ばかりでなく、自宅でも多く発生しています。
1)自宅の転倒は「庭」よりも「室内全般」が多い
「平成22年度 高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査結果(全体版)」によると、転倒した自宅の場所では「庭」が最も多く、次に「居間・茶の間・リビング」「玄関・ホール・ポーチ」「階段」「寝室」と続きます。
転倒場所を「庭」と室内に分けると、「庭」よりも「室内」での転倒が多く(複数回答)、高齢者にとっては安全と思われる室内にも危険が潜んでいることがわかります。
2)室内の転倒しやすい場所
室内の転倒場所では「居間・茶の間・リビング」の割合が20.5%と最も多く、次いで「玄関・ホール・ポーチ」が17.4%、「階段」13.8%、「寝室」10.3%、「廊下」8.2%、「浴室」6.2%の順となっています。
身体機能の低下によってすり足で歩きがちな高齢者は、カーペットや敷居などのちょっとした段差でも足を取られて転倒することがあるので、居間などの居室についても注意が必要です。
時には、段差のない廊下やフローリングで足を滑らせることもあります。
また、足を踏み外しやすい階段や玄関、浴室などでは、重傷を負うおそれもあります。
高齢者がいる家庭では、至るところに手すりを取り付けるなどして転倒予防をしておくことが大切です。
高齢者の転倒の原因
1)外的要因
自宅内には転倒につながる外的要因が多く潜んでいます。
例えば、室内のわずかな段差です。
歩幅が小さい高齢者にとっては、普通なら段差と認識しない程度のちょっとした敷居でもつまずくことがあります。
ほかにも、すべりやすいフローリング、手すりが設置されていない階段や玄関、浴室などは転倒リスクの高い場所です。
階段などの大きな段差は、足を踏み外すことにより転倒・転落します。
また敷居などの小さな段差につまずいて転倒してしまうこともあります。
小さな段差での転倒は、気づかない、あるいは忘れていることによって起こります。
屋外では点字ブロックなどにも注意が必要です。
物が散らかっている場所は注意が必要です。
床に放置した新聞や雑誌などで足が滑って転んだり、電気コードに引っかかったりということが起こります。
居住空間は常に整理整頓、なるべく床に物がない状態を作ることが大切です。
高齢者の場合、加齢によって視力機能は落ちていると考えられます。
暗い場所では周りの物や足もとが見えにくく、視野も狭まるため、物にぶつかったりつまづいて転倒するリスクが高くなります。
地面が濡れている場所はすべりやすいため用心しなければいけません。
室内では台所やお風呂などの水場、屋外では雨の日のマンホールやタイルの上を歩く場合にすべって転倒しやすくなるので特に注意します。
身体の状態は、加齢そのもの、体力、病気、使用する薬による変化に左右されます。
転倒を防ぐためには、ベッドや椅子の高さが適切か、廊下や階段、玄関、浴室に手すりが設置されているかなど、生活環境が本人の身体状況に合っているかどうかを確認し、対策を施します。
外的要因の場合は、環境を整備することで転倒予防につながります。
転倒のリスクを増加させる環境内の障害には、以下のようなものがあります。
1. 不十分な照明
2. 小型の敷物
3. 滑りやすい床
4. 通路におかれている電気コードまたは延長コードなど
5. 段差のある歩道や壊れた縁石
6. 周囲の環境に不慣れなこと
転倒につながる内的要因としては、病気や疾患、加齢による筋力の低下、身体機能の低下が挙げられます。
ほかにも、薬の副作用による足元のふらつきや眠気、意欲の減退なども転倒の原因となります。
高齢者は複数の薬を飲んでいたり、体調の変化を口に出したりしないこともあるので、副作用が出ていないかを周囲が注意しておく必要があります。
転倒は、内的要因と外的要因が合わさることで、よりリスクが高まります。
おそらく環境内の障害や危険な状況よりも、身体の状態の方が転倒リスクに及ぼす影響が大きくなります。
身体の状態が悪いか、または身体に障害があると転倒リスクを増加させるだけでなく、危険物や危険な状況に対する反応の仕方にも影響を及ぼします。
転倒リスクを増加させる身体的な障害には、以下のようなものがあります。
1. バランスまたは歩行の障害
2. 視力障害
3. 特に足の感覚不良
4.筋力低下
5.認知障害
6.血圧または心拍動の障害
注意力に影響を及ぼす薬(例えば、オピオイド鎮痛薬、抗不安薬、一部の抗うつ薬)または血圧を下げる薬(例えば、降圧薬、利尿薬、心臓の一部の薬)の使用も転倒のリスクを増加させる可能性があります。
身体の状態に部分的または完全に起因する転倒では、転倒前に症状が出ている場合があります。
転倒を防ぐためには、内的要因・外的要因の両方を減らすことが大切です。
症状
症状には以下のものがあります。
1. めまい
2. ふらつき
3. 不規則または速く激しい心拍(動悸)
転倒後、けがをすることが多く、高齢であるほど重症になる傾向があります。
転倒した人の過半数は、皮下出血、ねんざ、または肉離れなどの軽微なけがをします。
より重篤な損傷には、骨折、靱帯断裂、深い切り傷、腎臓または肝臓などの臓器の損傷などがあります。
転倒の約2%で股関節が骨折します。
転倒の約5%でその他の骨(上腕、手首、骨盤)の骨折が生じます。
転倒により意識を失ったり、または頭部にけがを負うこともあります。
高齢者は転倒しても、転倒は単に老化の現れと考えてしまい、主治医に伝えない可能性があります。
診断
特に、けがをしなかった場合はその傾向が強くなります。
転倒で重篤なけがを負った人や救急外来で治療を受けた人でさえ、転倒を認めたがらないことがあります。
自分が不自由な状態にあり、介護施設などの監視の行き届いた環境に移る必要があると思われたくないと考えていることもあります。
医師は最初に身体を診察してけがの有無を確認し、転倒の原因となりうることについて、情報を引き出します。
診察には、以下のようなものがあります。
1. 血圧測定:立ち上がったときに血圧が下がるようであれば、転倒は起立性低血圧による場合があります。
2. 心音:医師は聴診器で心音を聴き、心拍数の低下、不整脈、心臓弁の異常、心不全の徴候がないか確認します。
3. 筋力と可動域の評価:医師は背中と脚を調べ、足に問題がないか確認します。
4. 視力と神経系の評価:医師は筋力、協調運動、位置覚、平衡感覚などの神経系の機能を調べます。
診察で心臓に問題がある徴候が見つかれば、心電図検査を用いて心拍数とリズムを記録します。
この検査は診療所で行われ、数分で終わります。
または、携帯型心電計(ホルター心電計)を1または2日間携帯するように指示されることもあります。
めまいまたはふらつきを覚えた人に対しては、血算や電解質濃度測定などの血液検査が役に立ちます。
神経系の機能不全が疑われる場合は、頭部のCT(コンピュータ断層撮影)検査またはMRI検査が行われます。
1. 照明器具を増やしたり、またはその種類を変えることにより、照明を明るく改善することができます。
高齢者の転倒を防ぐ
1)転倒しにくい環境
すべりやすい廊下や浴室に手すりを設置したり、床の段差をなくしたりするだけで、不安定な高齢者のバランスを落ち着かせるのに役立ちます。
介護保険を利用すれば、介護リフォームは補助金の対象となりますので、自治体の窓口で相談してみるとよいです。
2. 照明スイッチを手の届きやすいところに付け替えます。動作感知型照明または触れることでつく照明を利用できます。
3. 夜間に使用する階段(屋外・屋内)および屋外部分に十分な照明を設置することが、特に重要です。
階段には滑り止め加工が施された踏面と頑丈で安全な手すりをつけるべきです。
鮮やかな色の粘着テープを貼って階段面をはっきり示します。
4. コンセントを増設するか、電気コードもしくは延長コードを出入口の上に留めるか、または床の敷物の下を通すことで、通路上に伸びているコード類を撤去します。
5. 床や階段に散らかっているものを通路の外に片付けます。
6. トイレや浴槽など、立ち上がる際に捕まるものが必要な場所に手すりを設置します。
手すりは壁から外れないように正しく取り付けなければなりません。
7. 便座を高くしたトイレが助けになります。
8. 固定されていない小さな敷物は取り除くか、テープもしくは鋲でしっかりと留めるか、または裏面に滑り止め加工を施します。
9. 浴室や台所では、滑らないマットを使用します。
10. よく使用するものは、腰から眼の高さにある戸棚、食器棚、またはその他の空間に保管すると、背伸びをしたり、またはかがんだりせずに手が届きます。
定期的な運動として、ウェイトトレーニングまたはレジスタンストレーニングは弱くなった脚を強化する助けになるため、歩行時の安定感が改善されます。
2)筋力とバランス感覚
転倒を予防するためには、高齢者の筋力とバランス感覚の低下を防ぐことも大切です。
普段からウォーキングや散歩をしたり、ストレッチで柔軟性を高めたりしておくことで転倒予防につながります。
その半面、無理な運動や体操をすると、それもまた転倒や骨折につながることがあります。
太極拳や片足立ちなどのバランスをとる運動はバランスをよくする助けになります。
運動プログラムは、個人のニーズに合わせて計画されるべきです。
多くの高齢者施設、YMCA、またはその他のスポーツクラブが無料または低価格で、高齢者に合わせて作成されたグループ運動クラスを提供しています。
底が硬くて滑らず、足首をいくらか支持し、ヒールの低い靴が最適です。
3)転倒しにくい靴下や靴
筋力が低下した高齢者は足が上がりにくく、すり足になりがちなため、多少の段差でもつま先が引っかかって転倒しやすくなります。
そのため、高齢者の靴下や靴を選ぶときは、つま先が自然と反り上がる構造のものにすると、つまずきにくく歩き出しもスムーズになります。
また、靴底や足裏に滑り止めが付いているタイプのものなら、足をすべらせて転倒する可能性も低くなります。
靴の場合は履いたり脱いだりすることを考え、マジックテープやファスナー付きのものを選ぶようにすると良いです。