ピエール・ルメートル作「その女アレックス」は凝った展開のミステリー小説
ピエール・ルメートルのミステリー小説「その女アレックス(Alex)」(2011年刊行)を読み終わりました。
本作は本屋大賞の翻訳小説部門第一位の作品で、英国推理作家協会インターナショナル・ダガー賞受賞作でもあります。
449ページの単行本の表紙の絵は、陰湿で禍々しいものですので、電車の中では表紙をそのまま晒して読むのは憚れます。
読み始めは、アレックスという30歳の美しい女が攫われる場面から始まるので、これは猟奇誘拐犯か精神異常犯罪のサイコ小説かと思っていました。
ところが、これが中々面白く、つい夜遅くまで読みふけってしまいました。
この小説の主人公は、題名のアレックスという女と、パリ警察の警部で小人症のカミーユです。
被害者アレックス誘拐の目撃者からの通報で、パリ警察は全力を挙げて捜索を始めるのですが足取りはつかめずいたずらに時間だけが経過していきます。
誘拐犯は犯行に使ったバンから特定されるに至り、カミーユは車で追跡しますが、犯人は橋の上から身を投げて自害します。
それがためにアレックスが囚われ監禁されている場所を知るすべが無くなってしまいます。
場所はある晩、使われていない老朽化した倉庫にスプレーで落書きをしていた青年からの通報で特定されます。
カミーユは現場に急ぎますが、アレックスは既に自力で脱出した後でした。
実は調査により、アレックスは連続殺人犯であったということが分かり、捜査は急転回することになります。
それからカミーユは連続殺人犯アレックスを追うことになるのですが、6人目の被害者を出した後、アレックスは睡眠薬自殺をして、カミーユはアレックスの遺体と対面することになります。
実に凝った小説で、なぜ、どうしてという疑問が連続してたたみかけてくる展開から目が離せなくなります。
警察の取調室で行われる尋問により、物語はアレックスの悲惨な過去を明きらかにしていきます。
おぞましい過去がこの事件の発端であったことが分かります。
この小説の最後に予審判事ヴィダールの言葉が振っています。
「われわれにとって大事なのは、真実では無く正義ですよ。」
ピエール・ルメートルは1951年パリ生まれです。
作家としてデビューしたのは遅く、55歳の時でした。
本作以外に、カミーユ・ヴェルーヴェン刑事シリーズとして、ルメートルのデビュー作であり、本作の中でも時々出ていたカミーユの妻の殺人事件を描いた「悲しみのイレーヌ[別題=丁寧な仕事](Travail soigné)」(2006年)本作後に上梓された「わが母なるロージー、[別題=ロージーとジョン](Les Grands Moyens
別題Rosy & John)」(2011-2014年)、「傷だらけのカミーユ、[別題=犠牲](Sacrifices)」(2012年)があります。
ルメートルは、ストーリー展開の意外性に長けた作家で「死のドレスを花嫁に(Robe de marié)」(2009年)でも読者を唖然とさせる展開を魅せているそうです。
ミステリー作品ではありませんが、ゴンクール賞を受けた「天国でまた会おう」(2013年)は第一次世界大戦を生き延びた兵士の戦後の生きざまを描くことで、戦争の実態に迫った秀作でした。
本作のひねりようから推して、一度読み始めたら止まらなくなるような、スピード感と意表をついた展開がルメートルの持ち味なのかもしれません。