老化を防止するセノリティクス薬への期待が高まっている
健康年齢
ただし、男女とも70歳を超えれば日常生活に何らかの支障が出始めるというデータもあります。
日常生活を不自由なく送れる上限の年齢は健康寿命と呼ばれ、健やかに暮らすためにはこの健康寿命が重要になってきます。
腸内細菌叢
腸には大腸と小腸がありますが、それぞれの働きはまったく違います。
腸には大腸と小腸がありますが、それぞれの働きはまったく違います。
小腸は食べたものを消化吸収する臓器であり、一方の大腸は、栄養を吸収したあとの残りカスから大便を形成する臓器です。
生命維持にかかせないこの働きに加え、私たち人間の腸内には、体内に棲む細菌のうち約9割が棲みついています。
生命維持にかかせないこの働きに加え、私たち人間の腸内には、体内に棲む細菌のうち約9割が棲みついています。
その数はおよそ100兆から~1000兆個で、種類は約1,000種類、重さにして約1キログラムから2キログラムと言われています。
私たち人間の細胞は約60兆個といわれていますが、身体の中には、自分の細胞よりもはるかに多い細菌がいることになります。
大腸に棲む細菌を「腸内細菌」といいます。
大腸に棲む細菌を「腸内細菌」といいます。
通常ウイルスなどの異物は免疫システムにより体内から排除されるのですが、免疫寛容という仕組みによって排除されないものがあります。
この仕組みによって共存を許された細菌のひとつが、腸内細菌です。
腸内に棲んでいる細菌は、菌種ごとの塊となって腸の壁に隙間なくびっしりと張り付いています。
腸内に棲んでいる細菌は、菌種ごとの塊となって腸の壁に隙間なくびっしりと張り付いています。
この状態は、品種ごとに並んで咲くお花畑(flora)にみえることから「腸内フローラ」と呼ばれるようになりました。
正式な名称は「腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)」です。
腸内フローラを形成している菌は、働きによって3つに分けられています。
1つめは私たちの身体を守る善玉菌、2つめが増えすぎると身体に悪影響がある悪玉菌、そして3つめは状況によって善玉菌の味方をしたり悪玉菌の味方をしたりする日和見菌です。
善玉菌は糖分や食物繊維を食べて発酵させ、乳酸や酢酸などを作り出し、腸内を弱酸性に保ちます。
一方の悪玉菌は腐敗活動を行い肉類などのタンパク質を分解して、便として処理排泄しますが増えすぎると毒性物質がつくられます。
腸内細菌叢に悪玉物質が増えると老化細胞が蓄積
老化細胞に着目した老化制御としてまず注目されるのが、老化細胞がたまることを防ぐための研究とその成果です。
老化細胞がたまらないようにするため、大阪大学微生物病研究所遺伝子生物学分野の原英二教授が第一に勧めるのは、肥満を防ぐことです。
細胞の老化
最近の研究では、まず個々の細胞に老化が起こり、それがやがて体全体の不調につながっていくということがわかってきつつあります。
老化細胞に着目した老化制御としてまず注目されるのが、老化細胞がたまることを防ぐための研究とその成果です。
老化細胞がたまらないようにするため、大阪大学微生物病研究所遺伝子生物学分野の原英二教授が第一に勧めるのは、肥満を防ぐことです。
原研究室では、マウスを用いた研究で、高脂肪食を食べ過ぎて肥満になると、腸内細菌が変化して悪玉物質が産出され、それが肝臓に運ばれることによって老化細胞がたまって過度のSASPが発生し、肝臓がんが発症するリスクが高まることを解明しました。
そして、さらに怖いのは、高脂肪食で飼育されたマウスの約3割は、肝臓がんだけではなく肺がんも併発していたことです。
また、肥満や脂質異常症などで、脂肪が肝臓に蓄積する脂肪肝から非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)になり、肝臓がんを発症した患者の腫瘍を調べたところ、約3割の患者の肝星細胞が細胞老化とSASPを起こしていました。
また、肥満や脂質異常症などで、脂肪が肝臓に蓄積する脂肪肝から非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)になり、肝臓がんを発症した患者の腫瘍を調べたところ、約3割の患者の肝星細胞が細胞老化とSASPを起こしていました。
一般的に、NASHから肝臓がんになる場合は肝硬変を経て発症しますが、老化細胞が蓄積していた患者の中には、肝硬変を経ずにいきなりがんを発症していた患者もいたといいます。
「私たちの体の中には、30兆から100兆個の腸内細菌が存在しており、その構成は食事の内容や栄養状態によって変化します。高脂肪食や過食が続くと、腸内細菌叢が変化して悪玉物質が増加し、肝臓がん以外にも大腸がんの発症の引き金になる可能性があるので要注意です」と原教授は述べます。
「私たちの体の中には、30兆から100兆個の腸内細菌が存在しており、その構成は食事の内容や栄養状態によって変化します。高脂肪食や過食が続くと、腸内細菌叢が変化して悪玉物質が増加し、肝臓がん以外にも大腸がんの発症の引き金になる可能性があるので要注意です」と原教授は述べます。
さらに、高脂肪食によって腸内細菌叢に悪玉菌が増えると、がん以外にも、うつ病、認知症、糖尿病などにつながる恐れもあります。
ただ、定期的に適度な運動を続ければ、老化細胞の蓄積を抑えられる可能性もあります。
ただ、定期的に適度な運動を続ければ、老化細胞の蓄積を抑えられる可能性もあります。
中年マウスを高脂肪食で飼育すると脂肪組織に老化細胞が蓄積してインスリンの分泌が低下し血糖値が上がりやすくなりますが、有酸素運動をさせると老化細胞がたまりにくくなり、糖尿病リスクも改善するといいます。
ウォーキング、ジョギング、水泳などの有酸素運動は生活習慣病を防ぎ健康維持に役立つばかりか、老化細胞の蓄積を防ぐことにもつながります。
もう一つ、老化細胞の蓄積を防ぐために原教授が重視するのは、DNAを傷つけないようにする「体に優しい生活」です。
もう一つ、老化細胞の蓄積を防ぐために原教授が重視するのは、DNAを傷つけないようにする「体に優しい生活」です。
「喫煙、PM2.5(微小粒子状物質)、過度の紫外線、過度の飲酒は、修復不可能なDNAダメージを引き起こし、老化細胞を蓄積させ、発がんを誘発します。家族や同僚などの喫煙による受動喫煙も含めて、DNAダメージの要因になることはできるだけ避けましょう」と原教授は強調します。
ということは、老化した細胞を取り除けば年をとっても不調が出ないのではないか、というのがセノリティクス薬の出発点です。
細胞の老化とは、細胞が分裂を完全に停止した状態を指します。
これは古い機械が不調になるような経年劣化とは違います。
研究により明らかになったことは、老化は細胞のがん対策のひとつだということです。
対して体全体のいわゆる加齢は、老化現象が起こった細胞が体の中にたまることで、正常な細胞にも影響が及んでいる状態といえます。
細胞の老化現象がまず起こり、それが積もり積もって体全体の不調を引き起こすのです。
細胞の老化は、DNAの損傷やがん遺伝子の存在に反応して起こります。
DNAが傷ついた細胞が分裂すると、DNAも傷ついたまま複製され、新しい細胞へと受け継がれます。
そんな細胞が増えると体全体に影響が出るので、老化を起こすことでそれを防ぐのです。
そこでまず細胞分裂を完全に停止し、不良品の細胞が増えるのをストップします。
その後、細胞の骨格ともいえる細胞外マトリクスの構造変化が発生し、細胞自体の形が変わっていきます。
分裂を完全に停止した細胞からはさまざまな物質が放出されます。
これはいわば免疫系へ送られるシグナルです。
その後、これに反応した免疫のはたらきや、細胞の自殺プログラムであるアポトーシスが起こることで、老化した細胞は体の中から取り除かれます。
細胞の老化自体は必ずしも悪いものではありません。
問題になるのは、老化した細胞がうまく取り除かれなかった場合です。
体内に残ってしまった老化細胞は、細胞としての正常な機能を失ったまま生き続けます。
これは「ゾンビ細胞」とも呼ばれます。
老化した細胞が分泌する物質の中には、周辺の細胞への炎症を誘発するものも含まれます。
これは近くにある健康な細胞にまで悪影響を及ぼすので、ゾンビ細胞がそこにあるだけで周辺の組織を痛めつけ続けます。
ゾンビのように生き続ける老化細胞が体の中にたまっていけば、その影響も深刻になってきます。
これが積もり積もって、やがて体に深刻な不調が起こる、これが老化細胞と肉体全体の加齢についての現在の仮説です。
老化細胞を除去する薬の開発も進行中
老化細胞を除去する薬(セノリティクス/老化細胞除去薬)により、過度のSASPによって発症する加齢性疾患を減らし、寿命を延ばす研究も進められ、期待が高まっています。
セノリティクスが、世界的な注目を集めるきっかけとなったのは、特定の薬を投与すると老化細胞を除去できるように遺伝子改変されたマウスの研究でした。
老化細胞を除去する薬(セノリティクス/老化細胞除去薬)により、過度のSASPによって発症する加齢性疾患を減らし、寿命を延ばす研究も進められ、期待が高まっています。
セノリティクスが、世界的な注目を集めるきっかけとなったのは、特定の薬を投与すると老化細胞を除去できるように遺伝子改変されたマウスの研究でした。
遺伝子改変された高齢マウスに、週2回、老化細胞除去を引き起こす薬を投与した研究では、脂肪、腎臓、心臓などの組織から老化細胞がなくなり、毛並みもふさふさして見た目が若返って元気に動き回るようになって、健康寿命も延びました。
米国では、この研究の結果が報告された2011年以降、老化制御ビジネスを進めるベンチャー企業が次々と設立されました。
その代表格が、同研究を進めていたメイヨークリニックのヤン・ファン・ドゥールセン博士らが設立し、米アマゾン創業者のジェフ・ベゾフ氏が投資したことでも知られる米ユニティ・バイオテクノロジーでした。
日本では、原教授の研究グループが、約4万7000の化合物を調べた結果、ARV825というがんの増殖阻害剤をベースにした化合物が有望な老化細胞除去薬候補に選ばれました。
日本では、原教授の研究グループが、約4万7000の化合物を調べた結果、ARV825というがんの増殖阻害剤をベースにした化合物が有望な老化細胞除去薬候補に選ばれました。
肥満が原因で肝臓がんになりやすいマウスにARV825を注射すると、細胞内の不要な物質を除去するオートファジー経路が活性化され、肝臓にたまった老化細胞が除去されました。
その結果、肝臓がんの発症が抑えられたといいます。
ヒトの大腸がん細胞を用いた実験でも、ARV825が老化細胞を除去する効果が確認されています。
とはいえ原教授は、「セノリティクスの社会実装には、越さなければならいハードルが多数あり、ここ1~2年で実用化されるというような段階ではありません。最も実用化が近そうだったのがユニティ・バイオテクノロジーの変形性膝関節症に対する老化細胞除去薬ですが、その開発のために行われていた治験は、当初期待された結果が出なかったために中止されました。また、仮に老化細胞の除去に成功したとして、正常な細胞まで攻撃したり、SASPの良い面が失われたりする弊害はないのかなどのエビデンスも必要で、研究は慎重に進めていかなければなりません」と指摘します。
セノリティクスは“老化制御の切り札“との見方もあり、開発は世界中で進められています。
とはいえ原教授は、「セノリティクスの社会実装には、越さなければならいハードルが多数あり、ここ1~2年で実用化されるというような段階ではありません。最も実用化が近そうだったのがユニティ・バイオテクノロジーの変形性膝関節症に対する老化細胞除去薬ですが、その開発のために行われていた治験は、当初期待された結果が出なかったために中止されました。また、仮に老化細胞の除去に成功したとして、正常な細胞まで攻撃したり、SASPの良い面が失われたりする弊害はないのかなどのエビデンスも必要で、研究は慎重に進めていかなければなりません」と指摘します。
セノリティクスは“老化制御の切り札“との見方もあり、開発は世界中で進められています。
歳を重ねても元気でいられるというのは誰もが望むことです。
過度な期待は禁物でも、それが実現する可能性が見えてきたというのは、とても素晴らしいことと言えます。