李琴峰「彼岸花が咲く島」を読んで
李琴峰「彼岸花が咲く島」は、2021年第165回芥川賞を受賞した作品です。
作者は台湾生まれで、現在は日本で活躍する小説家です。
本作は、全188ページの中編で、芥川賞作品としては、比較的読みやすい小説でした。
台湾に近い沖縄諸島の西端のある島を想定しています。
島は、ノロと呼ばれる女性たちが統治している設定です。
あらすじ
少女の周辺には、炎の触手のような赤一面の彼岸花が咲き乱れています。
少女を最初に見つけたのは、彼岸花を採りに来た15歳の少女・游娜(ヨナ)でした。
游娜は、自分と同い年くらいの少女に「ノロ?」と聞きます。
ノロとは、游娜が住む島を統治し、島の歴史を伝承する女性たちのことでした。
少女は乗っていた船が遭難し、島へ流れ着いたのでした。
少女は記憶喪失に陥っており、自分が誰で、どこから来たのか全く覚えていません。
游娜は少女に「宇実(ウミ)」という名前をつけてあげました。
島はノロと呼ばれる女性たちが統治していて、ノロの中でも最年長の老婆である大ノロが長として祭事や死者供養など〈島〉のすべての宗教儀礼を取り仕切っていました。
「女語」は女性しか学べない漢字まじりの日本語でノロたちだけが御嶽(うたき)での儀式や歴史の伝承に使う古語でした。
「ニホン語」は日本語と中国語の漢字まじりの言葉の語尾に「アー」「ダー」「マー」等がつく独特の言葉で、時々文頭に出てくる「ター」とか「リー」は、「彼女」とか「あなた」という中国語の人称代名詞です。
〈島〉では、海の向こうにある「ニライカナイ」という楽園があると信じられていました。
母親や父親という概念もなく、あるのは「オヤ」だけです。
ノロになる道が閉ざされた拓慈は、学校では屠畜者になる職業教育を受けていました。
島では「ニホン語」と「女語(じょご)」が使われていました。
一方宇美が無意識に話す「ひのもとことば」は、一切漢字が使われず、ひらがな、カタカナ、英語で構成された、島の女語に近いものでした。
游娜は宇美は「ニライカナイ」からやってきたと思っています。
島には家族という概念がありません。
島では血の繋がりへのこだわりが全くなく、生まれた子供は2歳まで学校の乳児部に預けられ、育児経験が豊富なノロに育てられます。
2歳を過ぎると、募られた養育希望者がオヤとなり、その後、島で成人と認められる16歳になるまで育てられます。
それ故、游娜と〈オヤ〉である晴嵐の間には血の繋がりが無いのでした。
島では婚姻制度もなく、島民たちは自由に恋愛し、女性は妊娠したら生むかどうか自分で選び、生まれた子供は学校に預けられます。
子供が成人したらノロから家を与えられ、基本的に一人で暮らすことになりますが、誰かと一緒に共同生活をすることもできます。
それは、宇実のわずかな記憶に残っていた家族関係とは全く異なるものでした。
游娜の幼馴染の少年・拓慈(タツ)は女語を話すことができ、ノロになりたいと思っていました。
拓慈はノロになって、自分が何故<島>に生まれたのか、<島>の人々がどこから来たのか、海の向こうには一体何があるのか、確かめてみたいと思いました。
しかしそれはかなわぬ夢でした。
歴史を知ることができるのも、海の向こうへ渡ることができるのもノロだけで、島のオキテではノロになれるのは女性に限られていました。
ある日、宇実は大ノロと対面します。
島の外から流れ着いた宇美に対して大ノロは、島から出ていくよう命じます。
宇美が島に残れるよう、游娜と晴嵐は、大ノロに懇願します。
大ノロは頑としてその願いを退けますが、宇実が島の言語である「二ホン語」と女語を春までに習得し、島の歴史を担うノロになることを条件に、島に残ってもよいと言い渡します。
宇美は、来年の夏、游娜と一緒に「成人の儀」に参加し、その後で行われる大ノロの女語の試問を受けて、ノロになれるかどうか決まることになります。
1年が経ち、成人の儀が予定通り執り行われ、宇美も盛装して儀式にのぞみます。
その時に大ノロから「お前にゃ期待しているぞ」と声をかけられます。
成人の儀が執り行われたその夜、月が出ると、女語の試験が始まりました。
宇美も、游娜に続いて、大ノロの試問を受けました。
三日後、游娜と宇美の合格の知らせが入りました。
なぜ、男はノロになれないのか、ニライカナイは存在するのか、大ノロの驚くべき出自、そして、季節を問わず<島>に咲く彼岸花の本当の「価値」とは何であったのかが明かされます。