iPS細胞の技術を応用した「若返り」研究が進んでいる


iPSで「若返り」研究

iPS細胞の国からの支援のあり方を考える文部科学省の検討会が2021年5月11日あり、京都大学iPS細胞研究所長の山中伸弥教授が2023年度以降の研究方針を明らかにしました。

iPS細胞の技術を応用した「若返り」研究などに注力すると説明しました。

国際的な競争力の維持のために、引き続き国からの支援が必要だと訴えました。

iPS細胞を中心とした再生医療に対し、国は13年~22年度の10年間で約1100億円の巨額支援を続けています。

一方、23年度以降の支援は未定で、文科省で3月から検討を続けています。

山中さんによると、23年度以降にiPS細胞をつくる技術を使い、老化現象の解明に挑むと述べています。

iPS細胞は皮膚や血液の細胞に、「初期化」する遺伝子を入れて再び変化できるようにします。

この技術の研究をさらに深めることで細胞の老化を抑え、「若返り」への応用をめざすといいます。

山中さんは「iPSを使った治療を、ふつうの治療にする」とも話しました。

京都大学iPS細胞研究財団で製造、供給しているiPS細胞の高品質化、質の均一化、低コスト化なども進めるといいます。(朝日新聞 2021年5月11日)


「若返りの泉」をもたらす細胞リセット

将来、細胞を部分的にリセットすることで「若返りの泉」を得られる日が来るかもしれません。

それを示唆するマウスを用いた研究の結果がこのほど明らかになりました。

この研究は米ソーク研究所のJuan Carlos Izpisua Belmonte氏らが実施したもので、詳細は、「Nature Aging」に2022年3月7日発表されました。

生物が年を取ると、外見や健康状態が変わるだけでなく、体内の全ての細胞が、時間の経過を記録する分子時計を持っているのだそうです。

高齢者や動物から分離した細胞は、DNAに沿った化学物質のパターン(エピジェネティック・マーカーと呼ばれる)が、若い人や動物とは異なっているのです。

4つの初期化分子(Oct4、Sox2、Klf4、cMyc、別名「山中因子」)の混合物を細胞に加えると、これらのエピジェネティックマークを元のパターンにリセットできることが報告されています。

Belmonte氏らは今回の研究で、中年期および高齢期のマウスの細胞に山中因子を導入することで、細胞を部分的にリセットし、若返らせることができるかどうかを検討しました。

マウス細胞への山中因子の導入は、1)月齢15カ月から22カ月(ヒトで約50~70歳に相当)のとき、2)月齢12カ月から22カ月(ヒトで約35~70歳に相当)のとき、3)月齢25カ月(ヒトで80歳に相当)の時点で1カ月間だけ、の3群のマウスで行われました。

その結果、7カ月間または10カ月間にわたって処置を受けたマウスの腎臓や皮膚に若返りの兆候が認められ、これらのマウスのエピジェネティクスのパターンは、より若齢のマウスに現れるものと類似していました。

この論文の筆頭著者であるソークのスタッフ科学者プラディープ・レディ氏は、「私たちが本当に確立したかったのは、この方法をより長い期間使用しても安全だということです。実際、我々は、これらの動物の健康、行動、体重に、何の悪影響も見ませんでした。研究チームは、どのグループの動物にも癌を発見されませんでした。」と話しています。

さらに、この治療を受けたマウスの老化の兆候を調べたところ、多くの点で若い動物に似ていることが分かりました。

腎臓と皮膚のいずれにおいても、治療を受けた動物のエピジェネティクスは、若い動物に見られるエピジェネティクス・パターンとより密接に類似していたのです。

一方、処置を受けた期間が1カ月のみのマウスでは、そのような変化は生じませんでした。

研究論文の共著者である米ソーク研究所のPradeep Reddy氏は、「われわれは、このアプローチの長期的な安全性を示したかった。実際、マウスの健康や行動、体重などへの悪影響は全く認められなかった」と話しています。

Belmonte氏は、「このアプローチにより、幅広い年齢層の正常な動物において老化を遅らせることができ、われわれは非常にうれしく思っている。この技術は、マウスでは安全かつ有効であることが示された」と語っています。

そして、「このアプローチは、加齢に関連する疾患に対して用いることができるだけでなく、バイオメディカルの領域でも、神経変性疾患などで細胞の機能と回復力を改善し、組織や生物体の健康を修復する新たなツールとなる可能性がある」と期待を示しています。

Belmonte氏らは現在、この山中因子を導入するアプローチによる処置を長期間にわたって行うことで、特定の分子や遺伝子にどのような変化が生じるのかを分析する研究を計画しています。

また、これらの因子を導入する新たな手法についても開発中だとしています。

Reddy氏は、「われわれが目指すのは、1日の終わりに老いた細胞が回復力と機能を取り戻し、ストレスや傷害、疾患に対する抵抗力を高めることだ。今回、少なくともマウスにおいては、その達成に向けて進むべき道が示された」と述べています。(HealthDay News 2022年3月8日)