熱中症或いは脱水症の予防
梅雨が明け、本格的な夏の訪れとともに、熱中症や脱水症が心配されています。
自分は大丈夫と思っていても、いつ何時そのような事態に陥るか誰も予測できないだけに、予め対策をしておくことは大切なことです。
熱中症
熱中症(hyperthermia)とは、気温が高い環境で生じる健康障害の総称です。
体内の水分や塩分などのバランスが崩れ、体温調節が働かなくなり、体温上昇、めまい、失神、頭痛、吐き気、強い眠気、倦怠感、異常な発汗(又は汗が出ない)、けいれんや意識障害などの症状が起こります。熱中症が原因で死亡することもあります。
熱中症になった場合には、速やかな対処が必要です。熱中症は、重症度に応じてⅠ度からⅢ度まであります。
熱中症の約60%はⅠ度。脱水が進んでいますが、体温調節機能が破綻して体温上昇するのはⅡ度以降です。
Ⅱ度以降は症状が重篤になります。体温が上がらないⅠ度の段階で対処することが大切です。
III度の熱中症においては致死率は30%に至るという統計もあり、発症した場合は程度によらず適切な措置を取る必要があるとされています。また死亡しなかったとしても、特に重症例では脳機能障害や腎臓障害の後遺症を残す場合があります。
熱中症の重症度分類
分類 | 症状 | 対応例 | 従来の分類 |
---|---|---|---|
I度 (軽症) | 眼前暗黒、気分が悪い、手足のしびれ 四肢・腹筋の痙攣、こむら返り、筋肉痛、硬直 血圧低下、皮膚蒼白 | 日陰で休む 水分補給 衣服を緩めるとともに体を冷やす | 熱痙攣、熱失神 |
II度 (中等症) | 強い疲労感、頭痛、吐き気、倦怠感 脱力感、大量発汗、頻脈、めまい、下痢 | 医療機関での治療(輸液)、管理 | 熱疲労 |
III度 (重症) | 深部体温上昇 脳機能障害による意識混濁、譫妄状態、意識喪失 肝臓機能障害・腎臓機能障害 血液凝固障害 | 救急車で救命医療を行う医療施設に搬送して治療、管理 | 熱射病 |
2)深部体温40℃以上または脇の下の体温38℃以上。
3)脳機能・肝臓機能・腎臓機能・血液凝固のいずれか一つでも異常徴候がある。
血液凝固は体温の過度の上昇によって体タンパク質が壊れて内出血をした結果、内出血を止めるために血液が凝固するために起こります。言い換えれば、熱射病になった後に起こる症状です。
脱水症
脱水症(dehydration)とは、体内の水分が不足した状態に陥る病気のことです。
ヒトの体は全体重の60~70%、乳幼児では80%が水分で占められています。
これらの水分は“体液”と呼ばれますが、全体液の3分の2は細胞の中に存在し、残りの3分の1は血液や間質液(組織において細胞を浸す液体)として細胞の外に存在しています。
脱水症はその原因によって細胞外、細胞内どちらかの水分が失われるのかが異なります。
また、脱水症は、水分摂取不足や水分が過剰に体外へ排出される状態であることによって引き起こされます。
ヒトの体内にある水分は尿や汗として排泄されます。
また、運動後などの目に見えるような発汗以外にも皮膚からは常に水分が失われており、呼吸をする際には呼気として水分が吐き出されます。
このように、生命活動を行ううえで失われる水分を“不感蒸泄”といいます。
全体重の2%の水分を失うと喉の渇きなどを自覚するようになるとされていますが、症状の現れ方は脱水の程度によって異なります。
さらに水分が失われると食欲不振や疲れなどが生じ、5%にまで及ぶと頭痛や嘔気が見られます。
また、体温の上昇や尿量の減少・濃縮といった身体所見も現れるようになり、20%の水分が失われると尿が完全に出なくなって死亡することもあります。
また、下痢・嘔吐や出血などが原因の脱水では、水分のほかに大量の電解質(体の中のカリウム、ナトリウム、マグネシウムなどのミネラル)が失われます。
このため、血液の浸透圧は低下して細胞内へ水分が移動しやすくなります。
この結果、喉の渇きや皮膚・粘膜乾燥などの自覚症状が少なく、気付かぬ間に脱水がさらに進んで倦怠感けんたいかんなどの症状が現れます。
また血液量が減るため、それに伴って血圧が下がったり脈が早くなったり、手足の末端が冷たく変化するのも特徴です。
一方、水分摂取不足や多量の発汗などが原因の脱水では、電解質よりも水分が主体となって失われ、血液の濃度が濃くなるため血管内側に水分が多く移動します。
結果として、1つひとつの細胞内の水分量が減少するため、喉の渇きや皮膚・粘膜の乾燥が著明に現れます。
しかし、血液量は維持されているため、血圧が下がったり脈が早くなったりするなどの変化は生じにくいのが特徴です。
小児や高齢者は発熱や下痢・嘔吐など、ささいなきっかけで脱水症に陥ることがあり、場合によっては命に関わることもあるので注意が必要です。
かくれ脱水
かくれ脱水とは、自覚症状のない脱水症の一歩手前の状態です。
徐々に身体を暑さに慣らしていく「暑熱馴化(しょねつじゅんか)」を行なう時期に、コロナ対策で家にこもっていると。汗をかいて体温を調節する機能がなまっています。また活動量の低下で、本来は水分を蓄えてくれる筋肉量も減っており、どうしても脱水傾向になります。
高齢者は、加齢によって脳の「口渇中枢」が衰えて口渇感が鈍っているほか、気温や湿度などの環境を認識できなかったり、発汗機能も衰えているなど、自分では脱水に気づきにくいです。
暑さ指数(湿球黒球温度)
湿球黒球温度しっきゅうこっきゅうおんど、wet-bulb globe temperature)は、酷暑環境下での行動に伴うリスクの度合を判断するために用いられる指標です。
1954年にアメリカ海兵隊新兵訓練所で熱中症のリスクを事前に判断するために開発されました。日本の環境省では、暑さ指数(WBGT)と称しています。
軍隊のほか、高温となる労働環境や運動環境等での熱中症を予防するために国際的に利用されており、ISO 7243、JIS Z 8504などとして規格化されています。
熱中症は、屋内・屋外を問わず、高温・多湿が原因となって起こります。
湿球黒球温度21 - 25℃あたりから要注意になります。日本の国立衛生研究所の資料によると、25℃あたりから患者が発生し(段階的に増え)、31℃を超えると熱中症が急増します。日本の気象庁と環境省は、2020年からWBGTが33 ℃以上になると予報された場合に熱中症警戒アラートを発表しています。
WBGT | 警戒レベル | 注意事項 |
---|---|---|
≧ 31.0°C | 危険 | 高齢者においては安静状態でも発生する危険性が大きい。外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する。 |
28.0 - 30.9°C | 厳重警戒 | 外出時は炎天下を避け、室内では室温の上昇に注意する。 |
25.0 - 27.9°C | 警戒 | 運動や激しい作業をする際は定期的に充分に休息を取り入れる。 |
≦ 24.9°C | 注意 | 一般に危険性は少ないが激しい運動や重労働時には発生する危険性がある。 |
熱中症の応急手当
3)太い血管の通っている首やわきの下、太ももの付け根を冷やす。
4)水分(できれば経口補水液*やスポーツドリンク)を少しずつ何度も飲ませる。
予防
熱中症は毎年多くの命を奪う恐ろしい病気です。その熱中症の背景には脱水症が潜んでいます。脱水症を予防することが熱中症を予防するうえで大切になります。のどが渇く前からこまめな水分、塩分補給をする事が脱水症や熱中症の予防には大切です。熱中症の発生は、当日の水分、塩分不足だけではなく、数日前からの不足が原因で発生します。常日頃から水分と塩分補給を心がけましょう。
一日に必要な水分量は全部で約2.5リットルですが、1日に必要な水分のうち1.3~1.5リットルは食事や体内でつくられます。
よって、残りの1.0~1.2リットルを水分補給する必要があります。
一度に大量の水を摂取すると、かえって体内の電解質のバランスが崩れ体調不良を引き起こします。
水分補給をする時には、コップ1杯の水を(約120~150ml)を8回に分け摂取します。
あわせて塩分の補給も行います。水分と塩分を同時に補給できるスポーツドリンクや経口補水液、また水や麦茶には、塩や梅干しなどを足して塩分も補給すると良いです。
緑茶やウーロン茶にはカフェインが含まれているので利尿作用があるため要注意です。
尿の色による脱水状態の把握
脱水尿色チャートを使うと、尿の色によって簡易的に脱水状態を知ることができます。
状態 | 水分摂取の行動 |
---|---|
問題無し | 普段通りに水分摂取 |
問題無し | コップ1杯の水分を摂取 |
脱水 | 1時間以内に 250ml の水分を摂取 屋外あるいは発汗していれば 500ml の水分を摂取 |
脱水 | 今すぐ 250ml の水分を摂取 屋外あるいは発汗していれば 500ml の水分を摂取 |
脱水 | 今すぐ 1000ml の水分を摂取 この色より濃い、あるいは「赤色」「茶色」が混ざっていたら直ちに医療機関へ |
※厚生労働省 職場の安全サイト「尿の色で脱水症状チェック」の記載を参考(表示環境によって色調が異なる)。
脱水症の簡易診断
脱水症の簡易診断(2つ以上あてはまる場合は要注意) | |
・爪をおしたあと、色が白色からピンク色に戻るまで3秒以上かかる ・手の甲をつまみあげた後が戻らない「富士山」ができる ・口の中が乾燥している ・舌の赤身が強い ・舌の表面に亀裂がある ・舌が白いものにおおわれている | ・皮膚に張りがない ・手足が冷たくなっている ・血圧が低い ・脈拍が速い ・体重が減少 ・微熱が続く |