ヴェガロケットはイタリアが主体となって開発したESAの衛星打ち上げ用固体ロケット

日本のイプシロンロケットと同じ構想のもとに造られた、衛星打ち上げ用の大型固体ロケットはいくつかありますが、その中でも、イタリアが主体となって開発したESAのヴェガロケットは、2012年以来、21回打ち上げられ19回が成功しています。


ヴェガロケット

ヴェガ(Vettore Europeo di Generazione Avanzata, VEGA)ロケットは、欧州宇宙機関 (ESA) が開発した低軌道用人工衛星打ち上げロケットです。


ESAの主力ロケットのアリアン5は静止軌道に6トンものペイロードを投入できますが、300kgから2,000kg程度の小型の科学衛星や地球観測衛星を低軌道 (LEO) へ経済的に打ち上げたいという需要に応えるため、高度700kmの太陽同期軌道 (SSO) に1.5トンの衛星を打ち上げられるヴェガを開発することになりました。

イタリア宇宙機関 (ASI) が開発プログラムを主導しており、ロケット機体および推進システムはフィアットアヴィオ社などが担当するほか、フランス国立宇宙センター (CNES) なども開発に参加し、打上げはCNESのギアナ宇宙センターのELA1から行うこととしました。

参加各国の分担比率はイタリア65%、フランス12.43%、ベルギー5.63%、スペイン5%、オランダ3.5%、スイス1.35%、スウェーデン0.8%となっています。

開発及び製造はヴェガロケットの開発及び製造を目的として2000年12月に設立されたELV S.p.Aによってなされ、最低年4機の打ち上げを確保する予定でした。

当初は2006年中の初飛行を目指していましたが計画は大幅に遅れ、2012年2月13日に初打上げに成功しました


開発経緯

初期の構想は1990年代初頭になされ、アリアンの固体ロケットブースター (SRB) の技術を用いて小型衛星を打ち上げるロケットを補完するというものでした。

これは1988年にASIによって提案されたサン・マルコ・スカウト計画を引き継ぐものでした。

サン・マルコ・スカウト計画は、引退したアメリカのスカウトを置き換える目的でZefiro モーターを用いた新たなロケットを開発するという計画であり、スカウト2として知られている試験機が1992年に1機が失敗し、制式型として予定されていたゼフィーロも含めて凍結されていました。

1995年の段階では3段構成で高度700kmのLEOに700kgの打ち上げ能力をもつロケットであり、直径1.9mのZefiro 16 固体ロケットモーターを1,2段目として用い、3段目としてIRIS (Italian Research Interim Stage) を用いるというものでした。

1997年には2つの型式がフィアット・アヴィオ社とウクライナユージュノエ設計局の共同で提案されました。



ヴェガ K0

前述の構想と同様に1、2段にZefiro 16 固体ロケットモーターを用い、第3段、第4段に非対称ジメチルヒドラジン (UDMH) と四酸化二窒素 (NTO) を用いる液体ロケットエンジンであるRD-861RD-869を用いるとしていました。

高度700kmの極軌道に300kgの打ち上げ能力があります。


ヴェガ K

ヴェガ K0の第1段をアリアン5のブースターであるEAPを短縮したP85 固体ロケットモーターで置き換えたものです。

高度700kmの極軌道に1,600kgの打ち上げ能力をもちます。

1998年においてASIによってアリアンのブースター技術を用いた固体ロケットとして再び提案されました。

同年4月にアリアン5のSRBであるEAPのノウハウを用いたものとしてESAのプリプロジェクトとして採用されました。

これはヴェガ Kの下段に第3段としてZefiro 7 固体ロケットモーターを使用する3段構成のロケットであり、最上段に液体ロケットエンジンを用いた軌道精度向上モジュールの採用を検討していました。

打ち上げ能力は700km円軌道に2,000kgとなる予定でした。

2000年11月27日から28日にアリアンプログラムとして承認され、同年12月15日に7ヶ国による共同開発計画として正式に開始されました。

最終的には2004年に現在の構成に定まりました。

第4段であるAVUMの代替エンジンの開発が進行中です。


構成

主要諸元一覧
全長30 m
外径3 m
質量137 t
ペイロード2,300 kg / 300km LEO
1,500 kg / 700km SSO
段数 (Stage)第1段第2段第3段第4段 (AVUM)
使用エンジンP80 FWZefiro 23 FWZefiro 9 FWRD-843
各段全長10.5 m7.5 m3.85 m1.74 m
各段全径3.0 m1.91 m1.91 m2.18 m
各段質量95,796 kg25,751 kg10,948 kg968 kg
推進剤HTPB 1912HTPB 1912HTPB 1912UDMH/NTO
推進剤質量88,380 kg23,906 kg10,115 kg183 kg / 367 kg
最大推力3,040 kN1,200 kN213 kN2.45 kN
真空比推力280 s289 s295 s315.5 s
ノズル膨張比162556-
有効燃焼時間107 秒71.6 秒117 秒667 秒
(最大)


第1段~第3段の各エンジンは、それぞれ2度の地上燃焼試験にパスすることが義務づけられています。

第1段:P80 固体ロケットモーター

2006年11月30日、2007年12月4日の地上燃焼試験に成功しました。
このP80 固体ロケットモーターの技術は将来アリアン5のブースターにも採用される予定です。
開発費用は123Mユーロです

第2段:Zefiro 23 固体ロケットモーター

2006年6月23日、2008年3月27日の地上燃焼試験に成功しました

第3段:Zefiro 9 固体ロケットモーター

2008年10月23日、2009年4月30日の地上燃焼試験に成功しました

第4段:AVUM (Attitude and Vernier Upper Module) RD-843 液体ロケットエンジン

旧ソビエトのR-36大陸間弾道ミサイルのRD-869エンジンの燃焼室を流用したウクライナのユージュノエ設計局製液体ロケットエンジンです。
燃料にはUDMH、酸化剤にはNTOを使用します。
これによって軌道投入精度99.7%を達成する予定である。

ヴェガC


2014年12月2日に開催されたESAの閣僚レベル会合で、ヴェガC (Vega Consolidated) の開発予算が承認されました。

ヴェガCは1段にP120(既存のP80と比べると推進薬を80トンから120トンへ増加)固体ロケットを使用する発展型です。


ヴェガCロケットは、2012年に初飛行した「Vega(ヴェガ)」ロケットの後継機として開発されました。

高度700kmの極軌道に打ち上げる能力は、ヴェガロケットは1.5トンですが、ヴェガCロケットは2.3トンへと増加しています。

全長もヴェガロケットに比べて、約5m長くなっています。

ヴェガCは2018年に初打上を行う計画でしたが、2019年7月と2020年11月に打ち上げに失敗した影響もあり、計画から大分遅れて2022年7月13日にギアナ宇宙センターから打ち上げられ成功しました。


P120はアリアン6ロケットと共用するため、量産効果が出てコストを低減することが出来るようになります。

ヴェガCは全長約34m・直径3.4m・重量210tの4段式ロケットです。


第1段の「P120」、第2段の「Zefiro-40」、第3段の「Zefiro-9」は、全て固体燃料を使用しています。

第4段の「AVUM+」はエンジンの再点火が可能な液体燃料を用いており、搭載したペイロードを正確な軌道に届けることが可能です。

また、運用終了後は高度を下げ、大気圏に再突入することで、宇宙空間にスペースデブリを残さずミッションを終えることができます。

さらに、衛星を搭載・保護するフェアリングは、ペイロード容積が2倍となり、ヴェガロケットよりも大きい衛星や2つの衛星の同時打ち上げ(デュアルローンチ)、ライドシェアミッションをすることができます。

ヴェガCロケットは、2023年に打ち上げが予定されている再利用型宇宙船「Space Rider(スペースライダー)」の打ち上げ機としても使用される予定です。



ヴェガの1段モータの製造ラインはこれまでイタリアにしかありませんでしたが、この新しい1段P120に備えて2つ目の製造ラインをドイツに設置する予定です。

ドイツはヴェガ計画に7%の出資をしており、P120プログラムに関しては23%の出資比率を持ちます。

新しいP120はヴェガの1段だけでなく、アリアン6の1段(A62型で2本、A64型で4本装備)としても使用されるため、これまで年3基だった製造数が、両方のプログラムを合わせると年37基のP120が必要となる計画です。


過去に検討された将来構想

アップグレード構想として、第2段をP80に換装するESL、第1段をより大型なP230に換装し第3段を液体エンジンエスタスに換装するESLMなどがあります。

3,4段目をLOX/LCH4を推進剤とするMyraエンジンを採用したC10に置き換える構想のライラ (Lyra) では、太陽同期軌道 (SSO) への投入能力が2,000 kgに増大することが見込まれていました。

また、ライラの上段エンジンMyraをVinciに換装するロケットや、ヴェガの第2段を省きSSOに300-400kgの投入能力を持つミニヴェガも計画されていました。