手術ロボット
手術をロボットを使って行うことは、聞いたことはありますが、もし手術中に暴走したり、停電で急停止したらどうなるのだろうと心配になります。
しかしそのようなことのために、安全機能が装備されています。
ロボットの位置精度は、人間と比べると格段に高く、安定した正確な手術が可能と言われています。
da Vinci (医療ロボット)
da Vinci(ダビンチ)(da Vinci Surgical System ダビンチ・サージカルシステム、ダビンチ外科手術システム)は、米国インテュイティヴ・サージカル社が開発したマスタースレイブ型内視鏡下手術用の手術用ロボットです。胸腔ないし腹腔の内視鏡下手術用ロボットとして初めて開発された製品であり、患者への低侵襲な手術を可能にします。
システムは、サージョンコンソール、ペイシェントカート、ビジョンカートなどから構成されます。
3つのアームと1つのステレオ3Dカメラを搭載し、アームのカセットを交換することで、様々な処置を行うことが出来ます。
術者は数m離れた場所に置かれたコンソールに座って操作を行います。
両眼視で見る3Dモニターを使用して下向きの目線で操作を行うために術者の疲労が少なく、視野も広く奥行きの把握も良好とされます。
操作は直感的で手振れ防止機能もあるために、ロボットアームで毛筆で米粒に漢字を書くような細かい作業や、1円玉より小さな折り鶴を折ることもできます。
アームの先端には、人間の手首に相当する関節があり、先端を自由に屈曲・回転させることが出来ます。装着可能な鉗子は40種類以上あり、スケーリング(手元で6cmの動きが、鉗子2cmの動きにも設定可能)も可能です。
患者の横には吸引作業やカセットを交換したりする補助作業者が立ちます。
前立腺の全摘術では、出血量の削減、術後の尿路系トラブル(主に排尿障害)の減少、患者の手術満足度の向上などのメリットが確認されています。
鉗子は40種類以上の形状を有します。臨床実績は年間28万例に達します。
3Dカメラを8Kの高解像度カメラにしたり、手術前に3D-CTのデータを転用したVRで模擬手術の演習を行うなどの工夫も行われています。
欠点
一方、手ごたえ等の触感を感知する機能が無いために、縫合糸の操作等の手加減が難しく糸を引き千切ってしまったりすることもあります。
アームが臓器や腹壁に接触していればわかる膵損傷を合併して死亡した例が日本で報告されていますが、通常の開腹手術でも起こり得るケースでした。
開腹手術にしても、ロボット手術にしても、習熟度が重要です。
複雑な装置ゆえにトラブルも多く、広島大学の集計では約1/7の手術で、何らかのマイナーなメカニカルトラブルが発生していると報告されています。
しかし、このトラブルとは安全機構であるセーフティーストップが働いたことを指します。
元々は、1980年代末にアメリカ陸軍が国防高等研究計画局(DARPA)に開発を依頼したものでした。
アメリカ本土またはアメリカ空母に滞在中の医師によって、遠隔操作で戦場の負傷者に対して必要な手術を行うことが目的とされました。
しかし、湾岸戦争が予想より早く終結したために開発は軍の関与を離れ、以後民間で開発が続けられ1999年に完成しました。
2000年7月にアメリカ食品医薬品局(FDA)より承認されました。
国内利用事例
2000年3月に慶應義塾大学病院にアジアで初めて導入されました。その後、九州大学病院の消化器・総合外科(第二外科)とともに2001年から2002年に治験として62例の胸腹部の手術が行われました。
2009年に厚生労働省薬事・食品衛生審議会で国内の製造販売が承認されました。
2012年4月に前立腺がんの全摘出手術が初めて行われました。
当時は先進医療としての認可申請はされているものの、日本においては認可されておらず、医療費は健康保険の対象となっていませんでした。
2012年4月1日より前立腺癌の全摘手術のみ保険適用となりました(2017年現在も前立腺癌全摘術のみが適応)。
診療報酬制度により前立腺癌の手術では黒字になるものの、胃癌に使用した場合には赤字になります。
日本国内最初の大学病院内へのダビンチのトレーニングセンターは2012年4月に、宇山一朗をセンター長として藤田医科大学に開所されました。
肺癌や消化器癌、婦人科手術にも使用されていますが、保険適応が認められていない為に病院側または患者側の個人負担で使用されます。
日本ではda Vinci Surgical System Siモデルが2億4800万円、Si-eモデルが1億7000万円であり、2016年9月末現在で大学病院を中心に237台導入されています。2018年の診療報酬改定で、腹腔鏡下直腸切除・切断術などの12件の術式について承認されました。
人工股関節置換手術支援ロボット「ROSA Hip」をアジアで初めて導入
2022年10月22日にばんたね病院で1例目手術を実施しました。藤田医科大学病院(愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪1番地98 病院長:白木良一)と藤田医科大学ばんたね病院(同名古屋市中川区尾頭橋三丁目6番10号 病院長:堀口明彦)に、米国ジンマー・バイオメット社が開発した人工股関節置換手術支援ロボット「ROSA Hip システム」がアジア※で初めて導入されました(※オーストラリアを除く)。
ばんたね病院整形外科で2022年10月22日に1例目の人工股関節置換術を実施し、良好な成績を収めています。
〈配 備〉藤田医科大学ばんたね病院 整形外科 1セット(新規設置)
藤田医科大学病院 整形外科 1セット(システム追加)
「ROSA」は、2007年にフランスで開発された神経外科領域・整形外科領域の手術支援ロボットです。
藤田医科大学病院は、2020年9月に人工膝関節置換術用の「ROSA Kneeシステム」を導入。今年9月末までに290例の置換術に成功しています。
膝関節置換術用の「Kneeシステム」に加え、同じロボットに新たに人工股関節用の機能が追加されたものが、今回、両病院に配備する「ROSA Hipシステム」です。
ROSA Kneeの本体に、人工股関節置換術のシステムをインストールし、ハンドル部分を入れ替えることで、人工股関節置換術のサポート機能を追加することが可能です。同システムは、人工股関節の股関節側インプラントの設置角度サポートや両脚のバランスのズレを計測し最適なインプラントを選択できる機能をを備えています。
インプラントの設置角度を1.0°、1.0mmといった細かい単位で設定できます。正確なナビゲーション機能で手術中の執刀医をサポートするのが特長です。
これまで術者の経験にゆだねられていたインプラントの設置をロボットがアシストすることによって、より低侵襲で合併症リスクの少ない手術を可能としています。
一般的な側臥位(横向き)ではなく、仰臥位(仰向け)でアプローチすることによって、最小侵襲手術と呼ばれるMIS法との併用が可能となり、より低侵襲な手術が実現できます。「ROSA Hipシステム」による人工股関節置換手術は保険適応となっています。