変形性膝関節症

40代以上で、膝が痛くなった場合に、まずは考えられるのが変形性膝関節症です。

加齢による筋力や柔軟性の低下で発症するとも言われており、変形性膝関節症で悩まされている人は多いです。


変形性膝関節症

変形性膝関節症(へんけいせい しつかんせつしょう、へんけいせい ひざかんせつしょう、osteoarthritis)は、関節のクッションである軟骨が、加齢や筋肉量の低下などによりすり減って、痛みが生じる病気です。

日本では、厚生省の大臣官房統計情報部が行なった国民生活基盤調査では患者数が約700万人と推定されています。

年だからとあきらめたり、我慢しているケースが多いのもこの病気の特徴で、行動が制限されがちになるため、適切なケアが望まれます。

40歳以上の男女の6割が罹患しているというデータもあります。

また、どの年代でも女性が男性に比べて1.5-2倍多く、高齢者では男性の4倍といわれています。

加齢とともに発症しやすく、中高年の女性に多くみられます。

2005年の東京大学の関節疾患総合研究講座の吉村典子教授らが板橋区と和歌山の日高川町の住人の合わせて約2,200人を対象に行なったX線撮影を含む調査では50歳以上の女性で74.6%、男性で53.5%が変形性膝関節症の患者であるとされました。

軟骨がすり減った分、膝関節の骨と骨のすき間が狭くなって内側の骨があらわになり、骨のへりにトゲのような突起物ができたり、骨が変形したりします。

また、関節をおおっている関節包(かんせつほう)と呼ばれる繊維膜の内側に炎症が起こるため、黄色味がかった粘り気のある液体が分泌され、いわゆる「膝に水がたまった」状態になります。


変形性膝関節症の症状

変形性膝関節症は時間をかけて進行し、徐々に症状が重くなっていきます。

変形性膝関節症が進み、一度すり減った軟骨は元には戻らないので、できるだけ早く治療を始め、病気の進行を食い止めることが大切です。



初期症状

起床後、からだを動かし始めたときに膝のこわばりを感じます。

起き上がったり、歩き出そうとしたりすると、なんとなく膝がこわばる、重くて動かしにくい、はっきりわからないような鈍い痛みを感じるなどの自覚症状が現れます。

しかし、しばらくからだを動かすと自然と治まるため、あまり気にならない場合が多いようです。

もう少し症状が進むと、正座や階段の上り下り、急に方向転換したときなどに痛みを生じるようになります。

中期症状

中期になると、しばらく休んでいたら治まっていた膝の痛みが、なかなか消えなくなります。

正座や深くしゃがみこむ動作、階段の上り下りなどが、膝の痛みがつらくて困難になります。

関節内部の炎症が進むため、膝が腫れて熱感も生じます。

関節液の分泌量が増えるにしたがい、膝の変形が目立つようになるほか、関節がすり減って摩擦が大きくなるため、歩くときしむような音がします。

末期症状

関節軟骨がほとんどなくなり、骨同士が直接ぶつかるようになります。

この段階になると、初期、中期段階でみられた症状がすべて悪化して、普通に歩いたり、座ったり、しゃがんだりするのも困難になります。

日常生活にも支障をきたし、行動範囲が狭まるため、精神的な負担も大きくなりがちです。


原因

変形性膝関節症は、原因がはっきりしない一次性のものと、原因が特定できる二次性のものに分けられます。

そのうち多くを占めるのは、加齢、筋肉の衰えや肥満などのさまざま症状が複雑に絡み合って発症する一次性変形性膝関節症です。

一方、二次性変形性膝関節症は、ケガや病気、関節リウマチ、関節構造の損傷などによって引き起こされます。


加齢

膝の関節は、骨と骨の間にある軟骨がクッションのような役目をして、スムーズに動くようになっています。

ところが、加齢とともに軟骨がすり減ると滑らかな動きが阻害されるため、炎症が起こって痛みが生じてしまうのです。

磨耗した軟骨は再生しないので、早い段階で進行を食い止めることが大切です。

筋肉の衰え

足を支えている筋肉が衰えると、からだの重みを受ける部分が不安定になり、膝関節への負担が大きくなります。

膝が痛いからといって動かさないでいると、ますます筋肉が衰えて、さらに痛むという悪循環に陥ってしまいます。

適度な運動が必要です。

肥満

体重が増えると、それだけ膝への負担が大きくなります。

中高年になると、運動不足や食べ過ぎで内臓脂肪がつきやすく、体重が増加しやすいので注意が必要です。

食事の改善や適度な運動を取り入れて、体重をコントロールします。

O脚・X脚

O脚やX脚などの脚の変形は、膝への負担を大きくし、痛みが起こる原因になります。

特に日本人に多いのがO脚です。

O脚は両膝の間の隙間が開くため、体重のかかる場所が偏り、膝関節の内側に大きな負担をかけてしまいます。

かつてはO脚やX脚は体質だから治らないと考えられてきましたが、最近ではさまざまな矯正グッズや治療法があります。

膝関節の損傷

激しいスポーツや転倒などによる半月板損傷や靭帯損傷も膝の関節を傷つけて、変形性膝関節症の原因となります。

若いときに半月板や靭帯を痛めると、そのときは治っても、中高年以降に変形性膝関節症などの膝の病気になりやすいといわれています。


治療法 

変形性膝関節症は、膝の関節にある軟骨が少しずつすり減って、骨が変形してしまう中高年に多い病気です。

膝を動かすと痛みが生じたり、曲げ伸ばしが難しくなったりして、最終的には歩くのも困難になります。

変形性膝関節症は少しずつ進行するので、早めの治療が推奨されます。

変形性膝関節症の治療法には大きく分けて、手術をせずに運動や薬で症状を緩和させる保存療法と手術療法の2種類があります。

まず取り組みたいのが、保存療法にあたる運動療法とつらい痛みへの対症療法の基本となる薬物療法です。

保存療法を2〜3ヵ月続けても効果がなく、さらに膝の痛みや変形が悪化している場合は、手術療法が行われます。ここでは、運動療法・薬物療法・手術療法についてご紹介します。


運動療法

運動療法とは、運動によって疾患や機能障害の改善、回復を図る方法です。

糖尿病の運動療法や脳卒中後のリハビリテーションなどが知られています。

運動療法に期待できる効果として、次のようなものが挙げられます。

・痛みによって緊張した筋肉をほぐす
・痛みや緊張で拘縮した関節の可動域を拡大する
・血行を促進させる
・痛みをきっかけに低下した筋力を向上させる
・運動機能を回復させる

有効なトレーニング

変形性膝関節症が進行すると、痛みで足を動かさなくなるので、膝の周りの筋力が落ちて、関節の安定性が悪くなります。

すると、ますます膝に負担がかかって痛みが強くなるという悪循環に陥りがちです。

この負のスパイラルを断ち切るためには、膝の周りの筋肉を鍛えて、膝の負担を軽減する必要があります。

運動療法は、変形性膝関節症をはじめとする膝痛の改善に効果的です。ウォーキングなどの有酸素運動や簡単な筋トレ、ストレッチなどを取り入れて、運動習慣を身につけます。

ただし、運動療法のやりすぎはよくありません。激しい運動は、症状を悪化させる場合があります。

無理のないよう、医師や理学療法士と相談しながら行います。太ももの前にある筋肉のトレーニング

1.背もたれのある椅子に深く腰掛けます

2.片足をゆっくり水平まで持ち上げます

3.5秒間キープします4.ゆっくりと元に戻します



膝の動きをよくするトレーニング

1.足を伸ばして座り、かかとの下にタオルを置きます

2.かかとをゆっくりとお尻に近づけて、できるだけ膝を曲げます

3.かかとをゆっくりお尻から遠ざけて、できるだけ膝を伸ばします

膝を曲げて行うストレッチ
膝の柔軟性を高めるストレッチです。

1.まっすぐ立ち膝を曲げ、足をつかむ

2.バランスが取れない場合は反対側の手を壁に付いて、身体を安定させる

3.膝を曲げた状態で10秒ほどキープする膝を曲げきれない場合は、後方に椅子をおいてそこに足をかけるようにするとよいです。

膝の柔軟性を高めて曲がるようにするには、大腿四頭筋と言われる太もも前面の筋肉をストレッチするのがおすすめです。


薬物療法

膝が腫れているときや変形の少ない初期の段階では、薬物を用いて炎症と痛みを抑える薬物療法も行われます。

変形性膝関節症の薬には、外用薬、内服薬、座薬、注射薬があります。


外用薬

外用薬には塗り薬として用いるクリームや軟膏(なんこう)、ゲル、それから貼り薬として用いる湿布があります。

これらの成分には非ステロイド系抗炎症剤が含まれており、これらは経皮的に吸収され、炎症を起こしている局所で腫れや痛みを抑える作用があります。

また貼り薬として冷湿布と温湿布があり、どちらも痛みや炎症を抑える効果は持っていますが、冷湿布は打ち身や捻挫、急な関節の腫れなどの急性期に用いられ、温湿布は慢性的に持続する痛みに用いられます。


内服薬

膝の痛みが激しい場合は、比較的短時間で効果が出やすい内服薬を使用します。

ただし、長期間使用すると副作用の心配があるため、痛みが軽くなってきたら塗り薬や湿布に切り替えるのが一般的です。

内服薬には非ステロイド系の消炎鎮痛剤のジクロフェナク、ロキソプロフェン、インドメタシンなどがあります。

座薬

特に痛みが激しい人や、胃腸が弱くて内服薬が使えない人には、座薬(肛門から挿入する薬)が用いられます。

薬を直接粘膜から吸収させるので、即効性が期待できます。

インドメタシンやジクロフェナクなどの座薬があります。

関節内注射

膝の関節内にヒアルロン酸を注射する方法です。

ヒアルロン酸はもともと膝の関節液に多く含まれており、関節の滑りを滑らかにしたり、関節の衝撃を和らげたりする役割がありますが、変形性膝関節症になると、このヒアルロン酸が少なくなるといわれています。

ヒアルロン酸注射を1週間ごとに5回ほど続けると効果が出てきます。

薬物療法に対する注意点

変形性膝関節症で処方される薬は、炎症を抑えて痛みを軽くするのが目的で、病気そのものを治すためのものではありません。

膝関節にかかる負担を減らすために、毎日の生活習慣を見直して、体重管理と運動習慣の定着に取り組むことが大切です。

また、症状が改善したからといって、自己判断で勝手に薬をやめるのは禁物です。

医師の指示に従って、正しく服用します。


手術療法

保存療法を2〜3ヵ月続けても効果がなく、さらに膝の痛みや変形が悪化している場合は、手術療法を行います。

代表的な変形性膝関節症の手術療法には、①関節鏡視下手術、②高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)、③人工膝関節置換術の3つの方法があります。

①関節鏡視下手術

関節鏡下手術(AS:Arthroscopic surgery)は、先端にカメラのついた内視鏡という器具を関節内に挿入し、内部の異常を詳細に観察しながら、体への負担が少ない治療を行う手術方法です。

膝の皮膚の一部を切開して関節に光ファイバーと小さな高性能カメラで構成された内視鏡を挿入し、軟骨の破片を取り出したり、軟骨の表面をなめらかにしたりするなどの処置を施します。

関節鏡を挿入するために皮膚を6㎜ほど2~3箇所の小さな穴を開けるだけなので、患者の負担が少ないのがメリットです。従来の手術法(関節鏡を使用しない)と比較すると、生理食塩水を流しながら行うので感染症を起こしにくい、正常組織を傷つけにくい、痛みが少ない、などの利点があります。

入院期間は3日から1週間ほどで、手術の翌日から装具をつけて歩けます。

②高位脛骨骨切り術

高位脛骨骨切り術(こういけいこつこつきりじゅつ)は、O脚変形が進行したことにより膝の内側に痛みを訴える患者に対して行われます。

膝関節の下にある脛骨の一部をくさび形やアーチ型に切り取って、膝への荷重のかかり方を矯正し、関節にかかる力が均等になるように調整します。

特に、脛骨に歪みがある場合に有効な方法です。骨がつくまでに2ヵ月ほどかかるため、その間にリハビリを行う必要があります。

回復までに半年ほど要するので、筋力が衰えやすい高齢者にはあまり向いていません。

高位脛骨骨切り術は、ある程度の年数が経つと再手術が必要となる可能性があります。

その年数は10〜20年程度といわれており、高位脛骨骨切り術の手術後に再度変形が起こった際には、人工膝関節置換術が適応されています。

③人工膝関節置換術

病気がかなり進行して、膝の関節軟骨だけでなく、骨まで破壊されている重度の患者に対して行う治療です。

変形した膝軟骨の表面を薄く削って、人工関節に置き換えます。人工関節は、ステンレスやチタン合金、プラスチック、セラミックなどの材質でできています。

重症度に応じて削り取る軟骨や骨の量は変わります。

重症で多くの骨を削り取った場合、人工関節も多くの部品を必要とします。

手術後は1〜3週間で歩行が可能で、入院期間も1ヵ月ほどで済むため、高齢者にも適しています。

術後の違和感も少なく、ショッピングや旅行などを以前のように楽しめるようになる場合もあります。

人工関節は、体に入れてから徐々に劣化していき、10〜20年で緩みなどの不具合が出てきますが、活発に動かすと、その寿命はさらに早まる可能性もあります。

寿命がきたら再手術が必要となる場合があります。

人工膝関節置換手術は、通常、あまり若い方におすすめすることはありません。早くても60歳を過ぎてから検討することが多いです。

ちなみに、厚生労働省の統計資料によると、この手術を受ける方の平均年齢は75歳とのことです。

手術の選択

重症度に応じて、軽度〜中程度の場合は、関節鏡視下手術や高位脛骨骨切り術が選択されるケースが多いようです。

重度の場合は、人工膝関節置換術が行われます。


先端医療

PRP療法

PRP(多血小板血漿)とは特殊なキットを使用して、患者の血液を遠心分離した後の血小板と白血球を多く含む血漿層のことです。

血小板は組織が傷ついた箇所に集まって血を固め組織を修復する働きがあり、白血球は炎症が生じている個所に集まり炎症を抑える働きがあります。

これらの効果を期待して変形性膝関節症の膝にPRPを注射します

PRPは筋・靭帯や腱などの組織修復を促すことも知られておりスポーツ選手にも多く用いられています


APS(次世代PRP)療法

APS(自己タンパク溶液)は、さらに別のキットを使用してPRPの中に含まれる特殊なたんぱく質を精製し変形性膝関節症の膝に注射するものです。

次世代PRPとも呼ばれます。

痛んだ組織の修復を促進するたんぱく質(成長因子)を血小板から精製することで、組織の修復が期待されます。

また、白血球からは炎症を抑えるたんぱく質(抗炎症性サイトカイン)を精製し、その働きにより炎症が抑えられ痛みや腫れの軽減が期待できます。

ASC療法は、脂肪幹細胞を用いる再生医療です。

脂肪組織には、幹細胞と呼ばれさまざまな細胞に変わることのできる能力(多分化能)を持つ細胞が含まれています。

この細胞自身は分裂して増殖する機能(自己複製能)も持っています。

変形性膝関節症の場合、患者自身の脂肪組織を採取し、幹細胞を培養増殖したのち、膝関節に注射します。

幹細胞は膝関節内で周囲の細胞や組織に作用し、炎症を抑え、組織の修復をもたらす作用があると言われています。

また、軟骨の修復作用を高めたという報告もあり変形性膝関節症における関節軟骨の再生が期待されています。

参考サイト/@CellSource


ASC療法の流れ

1)局所麻酔を行い、腹部の皮下組織から約20mlの脂肪組織を採取します

2)採取した脂肪組織を6週間かけて約3000万個の幹細胞に増殖させ、凍結保存します

約3000万個の幹細胞は2回分に相当する量です。両方の膝に使うことや、一定期間経過後に再度注射することができます。

※2回分の量を使用する場合は料金が変わります。

3)膝への注射日が決まったら、凍結保存されている幹細胞の解凍および洗浄処理を行います

4)膝へ幹細胞を注射します




重工記念病院より

費用について

(名古屋市熱田区、医療法人桂名会 重工記念病院より)

■基本料金 / 一部位あたり : 1,320,000円
■2部位もしくは2回に渡って使用する場合/ 1,980,000円
基本料金 / 1,320,000円+追加料金 / 660,000円

※上記は税込み価格です。
※冷凍保存している幹細胞を1年以上保管する場合
1年間の保管料は基本料金に含まれます。
2年目以降保管の継続を希望される場合は、1年ごとに59,400円(税込み)が必要になります。


急に膝が痛い場合に考えられる変形性膝関節症以外の原因

関節リウマチ

関節リウマチとは免疫の異常により関節が破壊される病気です。

関節に炎症を伴うことで、腫れや痛みを感じます。

膝関節だけではなく、指や肩といったあらゆる関節に炎症が起こる場合があるのも特徴です。

関節リウマチを判別するには病院で血液検査を受け、リウマチ学会の分類をもとにした医師の診断を仰いだりする必要があります。


痛風

痛風は体内で過剰になった尿酸が、関節内で結晶化することで発症する病気です。

足の親指で起こることが多い病気なのですが、膝関節で発症することもあります。

関節内で炎症が起こるため、膝の腫れや痛みをともないます。

痛み方の特徴として一時的に強い痛みが出たあとに、すぐに収まるといったことが挙げられます。

また、痛みを繰り返すうちに症状が悪化して、腎臓や尿管の病気を併発することもあるため注意が必要です。


大腿骨顆部骨壊死

大腿骨顆部骨壊死になると、夜間や安静時といった膝を動かさない状況でも、強い痛みを感じます。

大腿骨下方にある大腿骨顆部が壊死して、へこんでしまう病気。女性に多いと言われており、その原因は不明です。

初期のころは見逃されやすい病気なため、悪化させないためにも病院でMRI検査を受ける必要があります。