宇佐見りん「推し、燃ゆ」を読んで
宇佐見りん作「推し、燃ゆ」を読み終わりました。
本作は、2020年芥川賞受賞作です。
アイドルを「推す」こと、いわゆる「追っかけ」に生活の全てをかける高校2年生の少女あかりの日常を描いた作品です。
作者の 宇佐見りんは1999年生まれですから、まだ24歳です。
デビュー作『かか』が、史上最年少で第33回三島賞を受賞し、第2作目の本作でいきなり芥川賞を受賞しました。
作品は、はた目には、ほとんど異常としか思えないほど、アイドルに入れ込んでいる少女を描いています。
あかりの家庭は、大学受験勉強中の姉ひかりと、仕事をしている母親、海外へ単身赴任をしている父親の4人でした。そして2年前に胃ろう手術をして入院している祖母がいます。
あかりは、ブログで、推しこと、男女混合グループまざま座メンバーの上野真幸(まさき)のコンサートやラジオやテレビ放送の感想記事を書きます。
推し始めて1年、上野真幸の20年かけて発した情報を書き留めたノートは20冊以上、写真は幼少期、舞台俳優期、アイドル期のフォルダにきっちり分類し、いつでも引っ張り出せるようになっています。
しかし、あかりは見返りを求めるわけでもなく、真幸の存在を愛でること自体に幸せを感じ、一定の隔たりのある場所でその存在を感じ続けられることに安らぎを感じていました。
ブログのコメントのやり取りだけでつながった友達の間では「文章が大人」「落ち着いた」「しっかり者」「優しい」「賢い」「冷静」ととらえられています。
にも拘らず、友人に借りた教科書を返すことを忘れ、成績は振るわず、バイト先でもよくミスをして叱られます。
作中、明らかにされていませんが診断名がふたつついたとあるので、なんらかの障害があって、結局、学校の授業にもついていけず、留年が決まり中退することになります。
バイト先の定食屋といってもほとんど居酒屋のような店ですが、あかりは稼いだお金のほとんどを、真幸のライブコンサートや舞台のチケット、ポスター、写真、グッズ、CDなどの購入につぎ込んでいました。
あかりの家庭は、大学受験勉強中の姉ひかりと、仕事をしている母親、単身赴任をしている父親の4人でした。
祖母が急に亡くなって、一時帰国した父親も含めて、家族4人は祖母の実家で、葬儀をします。
夜、父親に、あかりは学校を中退してから半年間の就職活動について聞かれます。
あかりは、面接に行った会社で中退した理由を聞かれて上手く答えられず、都度不採用となっていました。
その夜は、母親が怒鳴り、姉が抑えて、父親がなだめる修羅場となりました。
結局、あかりは、祖母の家で一人で暮らすことになりました。
バイト先も、数日の欠勤連絡を忘れていて、解雇されていました。
推しの真幸に20代美女との同棲の噂が立ち、しばらくしてグループの解散の記者会見があります。
真幸は、解散を機に芸能界を引退することになります。
あかりは、最後のファイナル・ライブコンサートに行きます。
コンサート会場では、盛り上がり、はじけていましたが、周りが燃え上がるような興奮に包まれるほど、合間に行ったトイレの中で一人、言いようも知れぬ寂しさに深く落ち込んでいく様が描かれています。
ファイナルコンサートが終わりしばらく経って、あかりは電車を乗り換え、バスに乗って、地図アプリを頼りに真幸の住むマンションの近くまで来ます。
マンションのベランダに洗濯物を抱えて出てきた女と、目が合いそうになり、逸らして歩き過ぎ、最後は走ります、
ひかりは家へ帰ってきて、出しっぱなしのコップ、汁が入ったままのどんぶり等が散らかった部屋で、綿棒のケースを投げつけ散らします。
読者は、あかりの人物像に同期も同情もすることはありませんが、作家の描き出す少女の住む世界にある種のパワーや勢いを感じさせられます。
アイドルに夢中になるティーンエージャーは程度の差こそあれ、今も昔もいますが、小説の中で描かれているのは、きらきらした女の子の世界であるにもかかわらず、ギャンブル狂や、アル中の自己破壊と相通じるような危うさも感じさせます。
