劇症型溶連菌の予防

急性咽頭炎などを起こす溶連菌が重症化した「劇症型溶血性レンサ球菌感染症((streptococcal toxic shock syndrome : STSS)」の患者数が、過去最多ペースで増加しているとのことです。

多臓器不全や手足の壊死(えし)などを引き起こし、致死率は約30%にのぼります。

感染症の増加

致死率が非常に高く、「人食いバクテリア」と呼ばれる劇症型溶血性連鎖球菌感染症の2023年の患者報告数は941人と過去最多となりました。

劇症型溶血性連鎖球菌感染症の増加は、日本だけのことではありません。

ヨーロッパ諸国(イギリス、アイルランド、フランス、オランダ、スウェーデン、スペインなど)でも、2022年後半から2023年にかけて劇症型を含む重症のA群溶血性連鎖球菌感染症の増加が報告されています。

感染力が強いとされる株の検出数も増えており、識者は患者の目立つ高齢者を中心に警戒を呼び掛けています。

溶連菌は、主に人との接触や飛沫(ひまつ)で感染します。

症状が出ないことも多いですが、血液や筋肉などの組織に侵入して、まれにSTSSを発症します。

「人食いバクテリア」と呼ばれる細菌は、「A群溶血性連鎖(レンサ)球菌」以外に「ビブリオ・バルニフィカス」があります。

2種類はいずれも劇症化(急激に症状が出ること)すると、体中に広がり激しい症状とともに、感染者を死亡させることがあります。


症状

劇症型溶血性レンサ球菌感染症の場合、初期症状には、発熱、のど・筋肉の痛み、(感染元となった)傷口の痛み、下痢、吐き気
などがあります。

これらの症状は風邪と共通しているものもあるため、誤認の危険性があります。

怪我をしているときにこれらの症状が出たら要注意です。

腕や脚の痛み、腫れ、発熱、悪寒といった初期症状から急速に進行し、血圧低下なども見られ、発症後数十時間以内に、皮膚軟部組織の壊死や多臓器不全を来たしショック状態に陥ることがあります。

医療機関を受診しても早期の診断は困難で、症状の経過で判断するしかないといいます。

足が腫れて急速に拡大し、39度以上の高熱などが出た場合は早急に対応が必要で、菊池教授は「早い段階で抗生物質を投与すれば治療できるが、進行すると感染部位の切断が必要になる。強い症状があれば、入院設備のある病院を受診してほしい」と話します。

CDC(アメリカ疾病予防管理センター)は、いわゆる「感染症」に関する研究や、対策の取り組みで世界的に評価されています。

「壊死性筋膜炎になるほとんどの人は、感染に対抗する免疫システムに問題を抱えた人です。例えば糖尿病や腎臓病、がん、その他の免疫を弱める慢性的な病気です。もしあなたが健康で免疫システムが正常であり、衛生やけがの管理に気を付けていれば、壊死性筋膜炎を発症することはほとんどないでしょう。」

出典:CDC「Necrotizing Fasciitis」より

上記の記述によれば、リスクが高いのは、糖尿病や腎臓病など「免疫」の仕組みを弱める病気にかかった人だとされています。

経路

手足にできた切り傷を経路として細菌が侵入することなどが原因となります。

感染症に詳しい東京女子医科大病院の菊池賢教授は「STSS患者は65歳以上の高齢者が大半。靴擦れなど足の小さな傷や、水虫のただれから菌が入ることが多い」と指摘します。

高齢者介護に携わる人は、足が清潔に保たれているか毎日観察してほしいと呼び掛けています。

海外ではボールが顔にぶつかったときに口内で出血したときの傷や、親知らずの手術跡から溶連菌が入り込んで劇症型の感染症になってしまった事例もあります。

切り傷のように直接外気に触れる怪我でなくとも、あざや水虫、靴擦れなどの水ぶくれが経路となって感染することもあるようです。

出典: http://medical-checkup.inf

ビブリオ・バルニフィカスは溶連菌ほど身近な存在ではないのですが、海や汽水域(海と川の境目)などに生息する細菌です。

ビブリオ・バルニフィカスの初期症状としては、発熱と悪寒があります。

こちらも風邪に似ていますが、皮膚(主に脚の部分)の痛みを伴う点が異なるようですが、初期のうちに治療をしないと、血圧が低下し、皮疹や紫色の斑点などの症状が出るということです。

細菌が筋肉に侵入すると壊死性筋膜炎を起こし、血液内に侵入するとそこから全身に細菌が回って死亡率が50~70%にも達するといわれます。

ビブリオ・バルニフィカスを保有する魚介類を食べたり、溶連菌の場合と同様に、傷口を経路としてビブリオ・バルニフィカスが体内に入り込むことで感染し発症します。

魚の刺身などが感染経路になってしまう場合があります。

米国では、川に転落した際にふくらはぎを岩で傷つけ、その傷口を経路としてビブリオ・バルニフィカスに感染した事例もあります。

また、タトゥーを入れたばかりの男性が海で泳いだところ、そのタトゥーが経路となってビブリオ・バルニフィカスが体内に入り込み、症状を起こして亡くなってしまったというニュースもあります。

ビブリオ・バルニフィカスの感染事例は、日本国内では特に九州で多く、熊本・福岡・佐賀・長崎の4件で半分近くになるということです。

このほか愛知県でも感染例が多く報告されており、愛知県衛生研究所が注意を呼びかけています。


予防

A群溶血性連鎖球菌感染症を予防するワクチンは開発中であるものの、まだありません。

しかし、A群溶血性連鎖球菌の伝播は接触感染と飛沫感染によって起こるので、この2つの感染経路を遮断することが大切です。

接触感染対策

うがい手洗い、手指消毒

傷がある場合には、傷をきれいに保つ、絆創膏などでしっかり保護をして直接接触しないように注意

傷や皮膚感染症がある場合には、温泉、プール、川や海に入るのは避けたほうが良い

飛沫感染対策

マスクの着用が有用


ビブリオ・バルニフィカスについては、症状が重くなる傾向のある人がある程度把握されています。

「注意をしなければならないのは、免疫機能が減弱している人や、肝硬変、肝臓がんなど肝臓疾患のある人、鉄欠乏貧血などで鉄剤を内服している人など、感染危険度の高い(ハイリスク)人です。 さらには、糖尿病の人、アルコールを大量に嗜む人、喘息などの治療目的でステロイド薬剤を使用中の人なども注意が必要です。」引用元: http://www.pref.aichi.jp/eiseiken...

上の条件に当てはまる人は、魚介類の生食を避けて、過熱して食べると感染を予防できます。


受診

劇症型をはじめとした重症のA群溶血性連鎖球菌感染症は、短時間で急激に悪化するため、早期の受診が必要です。

下記のような症状がある場合は、ためらわずに受診することが肝要です。

1)急速に広がる皮膚の赤みや熱感・腫れがある
2)痛みの程度が強い、または赤みのある部位を超えた痛みがある
3)意識がはっきりしない

受診に適している診療科は内科や皮膚科です。

夜間や休日であれば救急科を受診するなど、速やかに医療機関へ行くことが重要です