市川沙央の「ハンチバック」を読んで


市川沙央の「ハンチバック」は2023年、第169回の芥川賞受賞作品です。

割と短い全93ページのハードブックです。

作者は、1979年生まれ、、早稲田大学人間科学部eスクール人間環境科学科卒業、20歳を過ぎた頃から、20年に渡ってSFやファンタジーなどエンターテインメント系の作品を書き続けてきました。

本作品の主人公の井沢釈華(しゃか)と同じ難病の筋疾患先天性ミオパチーによる症候性側弯症の疾患があり、喉の真ん中に穴を開け、気管切開口にカニューレを嵌めた気道に、横になる時は人工呼吸器を必要とします

主人公、井沢釈華(しゃか)は、1979年生まれ42歳、親が残したグループホームで暮らす重度障害者です。

某有名私大の通信課程を受講し卒論を書きながら、Webライターとして、SNSの裏アカウント名Buddhaを使って、コタツ記事(独自に取材をせずインターネット上の情報などのみで書く記事)を書いています。

記事を書いて稼いだ収入は、全額を子供シェルターやフードバンク、あしなが育英会に寄付しています。

両親が残した財産は、グループホーム・イングルサイドの土地建物以外に、数棟のマンションから管理会社を通して家賃収入があり、億単位の現金資産はあちこちの銀行に手つかずで残っていました。

十畳ほどの部屋とキッチン・トイレ・バスルームがスペースのすべての部屋で、365日、ヘルパーとケアマネと訪問医スタッフと呼吸器レンタルの業者以外は訪ねてくる者はいません。

一方で、Twitterの個人アカウント紗花(しゃか)を使って「生まれ変わったら高級娼婦になりたい」「普通の人間の女のように子どもを宿して中絶するのが私の夢」などとツイートします。

釈華は、彼女の裏アカウントを暴いた、34歳の男性ヘルパー、田中に彼の身長155㎝分の1億5500万円の額面の小切手をエサに、彼女の企ての共犯者となるよう目論見ます。

しかし、最後は田中が彼女の所有するグループホーム・イングルサイドのスタッフを辞め去っていったため、結局は失敗します。

釈華は、自らをハンチバック(せむし)の怪物と自称し、出版界は健常者優先主義(マチズム)とフォーラムに書き込みます。

中学2年の時、教室の窓際で朦朧と意識を失った時から29年間、釈華は涅槃に生きてきました。

歩道に靴底を引き摺って歩くことをしなくなって、もうすぐ30年になります。

背骨が曲がりはじめたのは小学校3年の頃、今では、背骨は、右肺を押し潰すかたちで極度にS字に湾曲していました。

カミューレの穴を塞げば声を出せるが、喉に負担がかかって痰が増すので殆ど喋れない、頻繁に呼吸器のアラームが鳴り、痰を引く吸引器は片時も手放せない、そんな重苦しい疾患を抱えながら釈華は生きてきました。