町田そのこ「52ヘルツのクジラたち」を読んで
町田そのこの「52ヘルツのクジラたち」を読み終わりました。
タイトルは、他の鯨からは聞き取れない高い周波数で鳴き、懸命に歌っても仲間に気が付かれないため「世界でもっとも孤独なクジラ」といわれている52ヘルツの鯨から取られています。
本作は、2021年に本屋大賞を受賞しています。
この小説のテーマは、児童虐待・ネグレクト・DV・介護・不倫・トランスジェンダー・毒親、等々のかなり広い範囲に渡っています。
主人公は、26歳の女性三島貴瑚(みしま きこ)です。
貴瑚は、「毒親」である実母からネグレクトを受けてきました。
実父は遊び人で外に女を作って家を出て母と離婚しました。
貴瑚の母は再婚して、義父との間に男の子が生まれ、貴瑚は母と義父から折檻されネグレクトされるようになりました。
兄弟がいるにもかかわらず、21歳で義父の介護をたった一人で全て押し付けられ、死ぬことを決意して道を歩いていたところを通りすがりの岡田安吾(アンさん)と同級生の美晴に救われました。
貴瑚は、安吾と美晴のおかげで立ち直り、200人規模の工場に就職しましたが、勤めている会社の社長の息子である8歳年(ちから)専務と付き合うようになり男女の関係になりました。
しかし、彼は他の女性と婚約し、貴瑚は裏切られたことに憔悴します。
しかし彼と別れることができず、さらに愛人関係に陥ってしまいます。
そして貴瑚を「俺の女だ」と言って支配しようとする彼からDVを受けるようになりました。
挙句、ある日包丁を持った貴瑚と彼がもみあう間に、逆に彼の手に取り上げられた包丁が貴瑚の腹に刺さり、近くの住民が警察を呼ぶ騒ぎとなり、彼はその場で逮捕されました。
この障害事件は、社長から貴瑚に対して和解を申し込まれました。
貴瑚は社長から、多額の和解金を使って、まだ貴瑚に未練がある彼からできるだけ遠く行って欲しいと言われ、それならばとこの申し込みを受け入れました。
彼女は、過去を断ち切って、東京から大分の海辺の町にある亡くなった祖母の住んでいた家に移り住んできました。
ある日、彼女は、その海辺の家へ帰る途中で雨に会い、ずぶ濡れにながらも歩いていた、まるで少女としか見えない美しい13歳の少年と出会います。
その後、再開して、まだ少女と思っていた少年を家に連れて帰り、少年の体中にある痣を見て、少年が母親から虐待を受けていたことを知ります。
少年を見た貴瑚は、自身のかつての姿と少年を重ね合わせて、「聞き逃した声に対する贖罪」として少年を助け出そうとします。
最後はハッピーエンドで終わるのですが、色々な問題が網羅された小説でした。