認知症の嫉妬妄想

 

認知症には「中核症状」と「周辺症状」があります。

初期は中核症状が多く、物忘れが代表例です。これは同じ話や質問を繰り返すというもので、家族にストレスがかかります。しかし「実害」はあまりありません。

さらに症状が進行すると「周辺症状」が出るようになります。この代表例としては妄想、幻覚、易怒性等です。この周辺症状の「妄想」で、珍しくないものが「嫉妬妄想」です。

「嫉妬妄想」は、レビー小体型認知症に生じやすいと言われます。

嫉妬妄想になると、「配偶者が浮気をした」などと思い込んでしまい、配偶者を責めてしまうことがあります。

嫉妬妄想では「夫や妻が浮気をしている」と信じ込みます。嫉妬妄想の対象にされた配偶者は、面と向かって浮気を非難されます。

嫉妬妄想が起こる原因としては、劣等感や焦燥感という精神的な状態も関係していると考えられています。

徐々に自分が衰えてきたことの自覚から生じる不安や焦りが、配偶者から見捨てられるかもしれないとの恐怖から嫉妬妄想に発展するのだと想像されています。


認知症の妄想

認知症における「妄想」とは、明らかに事実とは異なることを、訂正できないほど固く信じ込んでしまう状態を指します。

妄想が生まれる根本的な原因は、認知症による脳の機能低下にあります。特に、記憶障害や理解力・判断力の低下が大きく関わっています。

認知症の妄想は、以下が代表的です。


物盗られ妄想

物盗られ妄想は、認知症の妄想で頻繁に表れる症状です。

認知症による記憶障害や不安感などが主な原因です。

背景には自尊心を傷つけられたという思いが潜んでいる場合もあります。

特徴的なのは、犯人として疑いの目を向けられるのが、配偶者や子ども(特に同居している嫁など)、介護ヘルパーといった、最も身近で熱心に介護をしている人であることが多い点です。


被害妄想

直接的な攻撃を受けていると訴える被害妄想が起きることもあります。

「近所の人に悪口を言われている」「食事に毒を盛られる」といった被害妄想もよく見られます。

認知機能の低下により、うまく状況を認識できずに起きる妄想です。

認知症によりコントロールできない感情が、周囲の人々や状況に投影されているケースもあります。


見捨てられ妄想

見捨てられ妄想は、できないことが増え、負い目を感じることで現れる妄想です。

家族が外出した場合、自分は訳があって出掛けなかったとしても「自分は家族に必要とされていない」と考えてしまいます。

強い孤独を感じるようになり、人間不信になって引きこもることでコミュニケーションの機会が減少し、認知症がさらに悪化するという悪循環に陥ります。


嫉妬妄想

「嫉妬妄想」は、レビー小体型認知症の方に多くみられるものです。

配偶者が浮気をしていると思い込み、大声で責め立てたり、周囲の人に言いふらしたりするような状態になります。

自身の老いや能力の低下に対する不安、そして「配偶者を失いたくない」という愛情や依存心の裏返しと捉えることができます。


幻覚、見間違い妄想

幻覚は主に「幻視(げんし)」や幻聴、体感幻覚などがあります。

最も多いとされる幻視は、レビー小体型認知症に多く現れる症状です。

「窓に若い男が立っていて、私を監視している」など、現実に存在しないものが見える状態です。

見間違い(錯視)も頻繁に現れる症状で、壁紙の模様が人の顔に見えたり、小さなゴミが虫に見えたりします。


対処法

医療機関への相談が必要です。

まずはかかりつけ医に相談するか、認知症の専門医(精神科、心療内科、神経内科、もの忘れ外来など)を受診します。

症状を緩和するために、抗精神病薬や漢方薬などが処方されることがあります。

薬物療法は副作用のリスクもあるため、必ず医師の診断と指導のもとで行うことが重要です。


嫉妬妄想で、浮気を疑う配偶者に面と向かって否定してもかえって興奮させてしまいます。

本人の訴えが非現実的だったとしても否定せず、まずは耳を傾けることが大切です。

否定され、訴えを繰り返すと、本人の中では被害感情や怒り、悲しみ、苦しみが何度も生まれます。

エスカレートすると、混乱を深めたり、主張が強くなったりして、誰にでも見境なく自身の境遇を訴えるケースもあります。

まずは否定をせずに話を聞くことで、症状が落ち着くこともあります。


認知症患者の特徴は、同時に2つ以上の事柄を処理することが苦手になることです。これを応用します。例えば、話題を変えることで、嫉妬妄想から視点をずらすことが可能になります。

浮気の話題が出れば、お茶やお菓子を勧めます。もちろん、まったく異なった話題に切り替えても良いです。


配偶者が嫉妬妄想の対象となり、本人が激しく混乱したり、介護する方に極度に負担がかかる場合は、デイサービスやショートステイを利用し、一時的に環境を変えてみることも有効です。

本人が自宅に閉じこもりがちになると、社会的な孤立から不安が募り、妄想が悪化することがあります。

デイサービス(通所介護)などを利用して、日中の活動の場を確保することは非常に有効です。

同世代の人と交流したり、レクリエーションを楽しんだりすることで、生活にメリハリが生まれ、精神的な安定につながります。

また、介護している家族が、一時的に介護から離れて心身を休める時間(レスパイトケア)を持つためにも、介護サービスの活用は不可欠です。

ケアマネジャーや専門医とよく相談して対処することが大切です。


治療薬

認知症による妄想は薬によって発症リスクを軽減できます。

向精神薬や漢方薬、抗認知症薬であるメマリーなどで、妄想の症状緩和や認知症の進行対策が可能です。

レビー小体型認知症による幻覚や妄想は一般的にセロクエル、ビプレッソと呼ばれる非定型抗精神薬・クエチアピンの処方で改善する場合もあります。

ただし薬の投与でさまざまな副作用が現れることもあります。

昼夜逆転して眠れなくなったり、症状が悪化したりすることもあります。

とくに高齢の場合は、倦怠感や体調不良による転倒につながるケースもあるので、服薬量などを医師によく相談します。


認知症の進行を抑える治療薬の中でもブレーキ系のメマリーが嫉妬妄想には効果があります。

メマリーは5㎎から治療を開始して、10㎎、15㎎、20㎎と1週間ごとに逓増します。

治療のコツとしては、処方開始から2週間後には確認をして、嫉妬妄想が落ち着ていれば10㎎を維持量とすることです。

もちろん、10㎎で効果がなければ20㎎まで逓増します。

メマリーは確かに効果があるのですが、もう少しコントロールしたい場合は、抑肝散を1日2〜3回追加します。漢方ですが、思いのほか効果があります。

治療のコツは、月に1〜2回は嫉妬妄想が残る程度がコツです。

完全にゼロにしてしまうと少し抑制が強過ぎ、意欲も感情も希薄になってしまいます。