認知症の嫉妬妄想

 

認知症には「中核症状」と「周辺症状」があります。

初期は中核症状が多く、物忘れが代表例です。これは同じ話や質問を繰り返すというもので、家族にストレスがかかります。しかし「実害」はあまりありません。

さらに症状が進行すると「周辺症状」が出るようになります。この代表例としては妄想、幻覚、易怒性等です。この周辺症状の「妄想」で、珍しくないものが「嫉妬妄想」です。

「嫉妬妄想」は、レビー小体型認知症に生じやすいと言われます。

嫉妬妄想になると、「配偶者が浮気をした」などと思い込んでしまい、配偶者を責めてしまうことがあります。

嫉妬妄想では「夫や妻が浮気をしている」と信じ込みます。嫉妬妄想の対象にされた配偶者は、面と向かって浮気を非難されます。

嫉妬妄想が起こる原因としては、劣等感や焦燥感という精神的な状態も関係していると考えられています。

徐々に自分が衰えてきたことの自覚から生じる不安や焦りが、配偶者から見捨てられるかもしれないとの恐怖から嫉妬妄想に発展するのだと想像されています。


妄想とせん妄の違い

認知症は、せん妄発症のリスクを高めますが、認知症とせん妄は別の疾患です。

せん妄は急に発症するのに対して、認知症はゆっくりと時間をかけて発症します。

そのため、「ある日突然物忘れが出た」「急に物忘れが悪くなった」といった場合は、認知症や認知症の悪化というよりも、せん妄を発症している可能性が高い と言えます。

せん妄とは、全身状態の影響によって生じる脳の機能不全であり、意識障害に分類されます。

脳波検査を行うと、徐派化といって脳の機能が低下していることを示す所見が得られます。

脳の機能低下が起こった結果、注意の障害や認知の障害が引き起こされ、幻覚や妄想といった精神症状も見られます。

これだけではとても難しい様に感じますが、多少の語弊はあるかもしれませんが「ねぼけのひどい状態」をイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。

せん妄は一般病院の入院患者さんでは10-30%程度に発症するといわれており、決して珍しい病気ではありません。

以下は、国立がん研究センターの記事より引用した「せん妄の主な症状のチェックリスト」です。

どれか一つ当てはまったらという事ではなく、せん妄であればほとんど全てに当てはまる場合が多いとされます。

□意識がくもってぼんやりしている

□もうろうとして話のつじつまが合わない

□朝と夜を間違える、病院と家を間違える、家族のことが分からない

□治療していることを忘れて点滴のチューブ類を抜いてしまう

怒りっぽくなる、興奮する

□見えないものを見えると言ったり(幻視)、あり得ないことを言う(妄想)

□夜、眠らない

□症状は急に生じることが多く、夜になると症状が激しくなる


せん妄は症状に日内変動(1日の中での症状の変化)がみられます。

一般的には、特に夕方から夜間にかけて症状が悪化する傾向にあります。

「お昼ごろは普通に話ができたのに、夕方になったら急に変な話をはじめた。」といった具合です。

認知症では、ゆっくりと少しずつ症状が進行していくため、特別に時間の影響をうけることはありません。

せん妄は、せん妄の原因を取り除くことや、治療を行う事で、症状が改善する可能性があります。

通常は、全身性の内科疾患や、せん妄を起こしやすい薬剤が原因ですので、それを取り除くことができれば、せん妄が消失する可能性は十分にあります。

しかし、認知症 (ここではアルツハイマー型認知症)は、現時点では根治する治療法はないため、症状は持続していくことになります。

体の病気でせん妄になっているのであれば、それをきちんと治療することです。

しかし、その改善に時間がかかる場合は、せん妄を抑えるための薬物療法 を行います。

一方で、せん妄を悪化させないためには、「促進因子」に対しても目を向ける必要があります。

療養環境を整え、睡眠覚醒リズムを良い状態で保つことが大切です。

高齢者では睡眠覚醒リズムが崩れやすくなっているので、昼間によく活動をし、夜はしっかり眠れるような工夫が大切です。

  1. 日中はカーテンを開けてしっかりと光を浴び、夜には照明を暗くするなどして、昼夜のメリハリをつける。
  2. 時計やカレンダーを愛用品や身近な物などの目のつくところに置いて、時間や曜日の感覚を保つ。

また、病気の不安を取り除くため、家族との十分な会話や、馴れ親しんだ医療スタッフとの接触を頻回にすることで安心感を与えることも、せん妄対策になります。


幻覚妄想といった精神症状がみられる場合は、看護や介護をされている家族は、怪我をしないように十分注意が必要です。

また、本人もケガをしないように、危険物は近くに置かないようにします。

薬もせん妄を引き起こす一つの要因ではありますが、せん妄を予防するために、他の持病を悪化させてしまってはいけません。

また、急な薬の中止もせん妄の原因となりえるので、注意が必要 です。

せん妄を誘発する可能性の薬についても、細かくみればたくさんあるのですが、特に脳に作用する薬はよりハイリスクと言えます。

例えば、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬や安定剤が挙げられます。


認知症の妄想

認知症における「妄想」とは、明らかに事実とは異なることを、訂正できないほど固く信じ込んでしまう状態を指します。

妄想が生まれる根本的な原因は、認知症による脳の機能低下にあります。特に、記憶障害や理解力・判断力の低下が大きく関わっています。

認知症の妄想は、以下が代表的です。


物盗られ妄想

物盗られ妄想は、認知症の妄想で頻繁に表れる症状です。

認知症による記憶障害や不安感などが主な原因です。

背景には自尊心を傷つけられたという思いが潜んでいる場合もあります。

特徴的なのは、犯人として疑いの目を向けられるのが、配偶者や子ども(特に同居している嫁など)、介護ヘルパーといった、最も身近で熱心に介護をしている人であることが多い点です。


被害妄想

直接的な攻撃を受けていると訴える被害妄想が起きることもあります。

「近所の人に悪口を言われている」「食事に毒を盛られる」といった被害妄想もよく見られます。

認知機能の低下により、うまく状況を認識できずに起きる妄想です。

認知症によりコントロールできない感情が、周囲の人々や状況に投影されているケースもあります。


見捨てられ妄想

見捨てられ妄想は、できないことが増え、負い目を感じることで現れる妄想です。

家族が外出した場合、自分は訳があって出掛けなかったとしても「自分は家族に必要とされていない」と考えてしまいます。

強い孤独を感じるようになり、人間不信になって引きこもることでコミュニケーションの機会が減少し、認知症がさらに悪化するという悪循環に陥ります。


嫉妬妄想

「嫉妬妄想」は、レビー小体型認知症の方に多くみられるものです。

配偶者が浮気をしていると思い込み、大声で責め立てたり、周囲の人に言いふらしたりするような状態になります。

自身の老いや能力の低下に対する不安、そして「配偶者を失いたくない」という愛情や依存心の裏返しと捉えることができます。


幻覚、見間違い妄想

幻覚は主に「幻視(げんし)」や幻聴、体感幻覚などがあります。

最も多いとされる幻視は、レビー小体型認知症に多く現れる症状です。

「窓に若い男が立っていて、私を監視している」など、現実に存在しないものが見える状態です。

見間違い(錯視)も頻繁に現れる症状で、壁紙の模様が人の顔に見えたり、小さなゴミが虫に見えたりします。


対処法

医療機関への相談が必要です。

まずはかかりつけ医に相談するか、認知症の専門医(精神科、心療内科、神経内科、もの忘れ外来など)を受診します。

症状を緩和するために、抗精神病薬や漢方薬などが処方されることがあります。

薬物療法は副作用のリスクもあるため、必ず医師の診断と指導のもとで行うことが重要です。


嫉妬妄想で、浮気を疑う配偶者に面と向かって否定してもかえって興奮させてしまいます。

本人の訴えが非現実的だったとしても否定せず、まずは耳を傾けることが大切です。

否定され、訴えを繰り返すと、本人の中では被害感情や怒り、悲しみ、苦しみが何度も生まれます。

エスカレートすると、混乱を深めたり、主張が強くなったりして、誰にでも見境なく自身の境遇を訴えるケースもあります。

まずは否定をせずに話を聞くことで、症状が落ち着くこともあります。


認知症患者の特徴は、同時に2つ以上の事柄を処理することが苦手になることです。これを応用します。例えば、話題を変えることで、嫉妬妄想から視点をずらすことが可能になります。

浮気の話題が出れば、お茶やお菓子を勧めます。もちろん、まったく異なった話題に切り替えても良いです。


配偶者が嫉妬妄想の対象となり、本人が激しく混乱したり、介護する方に極度に負担がかかる場合は、デイサービスやショートステイを利用し、一時的に環境を変えてみることも有効です。

本人が自宅に閉じこもりがちになると、社会的な孤立から不安が募り、妄想が悪化することがあります。

デイサービス(通所介護)などを利用して、日中の活動の場を確保することは非常に有効です。

同世代の人と交流したり、レクリエーションを楽しんだりすることで、生活にメリハリが生まれ、精神的な安定につながります。

また、介護している家族が、一時的に介護から離れて心身を休める時間(レスパイトケア)を持つためにも、介護サービスの活用は不可欠です。

ケアマネジャーや専門医とよく相談して対処することが大切です。


治療薬

認知症による妄想は薬によって発症リスクを軽減できます。

向精神薬や漢方薬、抗認知症薬であるメマリーなどで、妄想の症状緩和や認知症の進行対策が可能です。

レビー小体型認知症による幻覚や妄想は一般的にセロクエル、ビプレッソと呼ばれる非定型抗精神薬・クエチアピンの処方で改善する場合もあります。

ただし薬の投与でさまざまな副作用が現れることもあります。

昼夜逆転して眠れなくなったり、症状が悪化したりすることもあります。

とくに高齢の場合は、倦怠感や体調不良による転倒につながるケースもあるので、服薬量などを医師によく相談します。


認知症の進行を抑える治療薬の中でもブレーキ系のメマリーが嫉妬妄想には効果があります。

メマリーは5㎎から治療を開始して、10㎎、15㎎、20㎎と1週間ごとに逓増します。

治療のコツとしては、処方開始から2週間後には確認をして、嫉妬妄想が落ち着ていれば10㎎を維持量とすることです。

もちろん、10㎎で効果がなければ20㎎まで逓増します。

メマリーは確かに効果があるのですが、もう少しコントロールしたい場合は、抑肝散を1日2〜3回追加します。漢方ですが、思いのほか効果があります。

治療のコツは、月に1〜2回は嫉妬妄想が残る程度がコツです。

完全にゼロにしてしまうと少し抑制が強過ぎ、意欲も感情も希薄になってしまいます。