経鼻経管栄養

経鼻経管栄養とは、鼻から挿入したカテーテルを介して消化管内に栄養剤や水分を注入する方法です。

この方法は、意識障害や嚥下障害などの理由で経口摂取が困難な患者に対して実施されます。

経鼻経管栄養のメリットには、穴をあけるなどの手術が不要で挿入が簡便であること、腸から栄養を吸収させることで腸粘膜の萎縮を予防し、消化管機能を維持できる点があります。

メリットとして、すぐに始めてすぐにやめることができることが挙げられます。

咀嚼・嚥下機能が低下しても必要な栄養を摂取できるメリットがあるものの、胃食道逆流症や誤嚥性肺炎などの合併症のリスクを伴います。

経鼻経管栄養はあくまでも一時的な処置であり、3週間以内が目安です。

4週間を超えて経鼻経管栄養が必要な場合は、胃ろうなどほかの栄養摂取方法の検討が必要です。

経鼻経管栄養の対象となるのは、嚥下機能が低下している一方で、消化管の機能が正常である患者です。

脳や神経の病気、口やのどの手術を受けた直後などで対象となることがあります。


経鼻経管栄養の種類

経鼻経管栄養には、以下の2種類があります。

経鼻胃管ルート:鼻腔から胃にカテーテルを留置する

経鼻十二指腸(空腸)ルート:鼻腔から十二指腸または空腸にカテーテルを留置する

経鼻十二指腸(空腸)ルートは、栄養剤の逆流が起こりにくいのが特徴です。


経鼻経管栄養のメリット

経鼻経管栄養にはさまざまなメリットがあり、栄養を摂取できなくなったときに検討するケースは少なくありません。

手術が必要ない

経鼻経管栄養のメリットは、手術の必要がないことです。

胃ろうや腸ろうの場合は腹部に穴を開けて胃や腸に直接チューブを挿入するための手術が必要ですが、患者が受ける身体的・心理的負担は大きいといわざるを得ません。

一方、経鼻経管栄養は鼻からチューブを挿入するため、手術をしなくても栄養剤を注入できます。

いつでも処置を中止できる

経鼻経管栄養には、いつでも処置を中止できるメリットもあります。

口から食事や栄養を摂取できる状態になれば、チューブを挿入しておく必要はありません。

チューブは抜き取りが比較的簡単になっているため、口から食事や栄養を摂取できるようになったときには、経口摂取への切り替えをスムーズに行えます。

誤嚥性肺炎を防げる

経鼻経管栄養によって誤嚥性肺炎を防げる点もメリットのひとつです。

嚥下機能が低下している方は食事を通じて誤嚥性肺炎を起こすリスクがありますが、経鼻経管栄養は胃や腸に直接栄養剤を流すため、誤嚥性肺炎を引き起こさないようにする効果があります。

消化管の機能を維持できる

経鼻経管栄養によって注入された栄養剤は消化管を流れることから、身体の自然な働きに近い形で栄養摂取が可能です。

消化吸収のために胃腸を使うことになるため、消化管の働きの維持につながります。

また、消化管の機能の維持によって、腸の免疫機能が保たれることもメリットです。

血糖値の急変動が起こりにくい

経鼻経管栄養は、腸ろうや経静脈栄養と比べて血糖値の変動が起こりにくいメリットがあります。

腸ろうは直接腸に、経静脈栄養は血液に直接栄養剤が流れるため、血糖値が急変動することは珍しくありません。

しかし、経鼻経管栄養の場合は鼻から胃に栄養剤が流れていくため、自然に近い流れで腸まで栄養剤が届きます。

そのため経静脈栄養などに比べると、血糖値の急激な変動が起こりにくくなるのです。

ほとんどの患者が受けられる

経鼻経管栄養は、消化器官が正常であればほとんどの患者が受けられます。

胃ろうや腸ろうを造設する際は条件が厳しく、希望したからといって必ずしも受けられるとは限りません。

受けられる可能性が高い分、食事がとれなくなったときや嚥下機能が低下したときの対処法として選ばれることが多い傾向にあります。

在宅でも利用できる

在宅で利用できる点も、経鼻経管栄養のメリットといえます。

チューブの挿入は医師や看護師が行いますが、栄養剤の注入や普段のチューブの管理は家族でも行えます。

チューブの入れ替え処置のために通院する必要はなく、訪問診療や訪問看護で医師や看護師が訪れた際に交換ができるのも経鼻経管栄養の特徴です。

自宅でも経鼻経管栄養を受けられるため、自宅で過ごしたい患者も受け入れやすいといえます。


経鼻経管栄養のデメリット

経鼻経管栄養にはさまざまなメリットがありますが、デメリットもあります。

鼻の違和感

経鼻経管栄養を行うと、チューブが鼻腔からのどを通って胃まで挿入された状態で日常生活を送る必要があります。

常にチューブがあるため、鼻やのどに違和感を生じる患者も少なくありません。

認知症を患っている患者の場合、その違和感から自己抜去につながるケースもあります。

また、鼻の粘膜はとてもデリケートで、チューブが常に触れているため、痛みやかゆみが出やすくなります。

挿入の瞬間は「オエッ」となる感覚が強く、何度も経験していても「次もつらいかも」と思ってしまいます。

つば・鼻水の処理が難しい

チューブがあることで、飲み込みがスムーズにできず、のどに流れてむせたり気持ち悪くなることがあります。

皮膚トラブル

チューブを固定するテープの部分がかぶれたり赤くなったりして、さらに不快感が強まります。

肌にやさしい固定テープやチューブカバー、カラフルなデザインの補助具などのアイテムは、皮膚トラブルを防ぐだけでなく、本人や周囲の心理的負担も軽減してくれます。

誤ってチューブを抜いてしまう可能性がある

鼻から胃に挿入しているチューブを誤って抜いてしまいかねない点がデメリットとして挙げられます。

チューブは鼻や頬などにテープを使って固定しますが、絶対に抜けない保証はありません。

とくに、認知症を患っている方の場合は誤ってチューブを抜いてしまうことがあります。

鼻にチューブが入っていることへの違和感によって、チューブに触れてしまうことも少なくありません。

チューブを誤って抜いてしまうと、栄養剤を注入するために再度チューブの挿入が必要です。

栄養剤を注入するまでの時間が空いたり、再挿入のために負担がかかったりすることにも注意しなければなりません。

何度も何度も抜いてしまう場合、ミトンという手袋で手が使えないようにします。

場合によっては、体を拘束することもあります。

介護施設では抜去や誤嚥のリスクが大きいため経鼻経管栄養よりも胃ろうを推奨するパターンが多いです。

病院ではおおよそ2週間毎に、施設に入るとなると1か月に1回はカテーテルを交換することになります。

事前に見学をし、経鼻経管栄養への対応状況を確認する必要があります。

鼻からの管の栄養は、なかなか管理が難しく、退院先が非常に限られます。

費用面の安い、特別養護老人ホームや老健などは基本的に鼻からの管の栄養は受け入れできない場合が多いのです。

そうなると、有料老人ホームの中で探すことになるのですが、費用面がどうしても高くなってしまう傾向にあります。

鼻の管を入れて、上手に栄養ができている場合、基本的には中止をするという選択肢は命を限る行為となってしまい、難しい選択になります。


チューブが肺に入ってしまう危険性がある

チューブが肺に入ってしまう危険があることも、経鼻経管栄養のデメリットのひとつです。

胃ろうの場合は腹部から胃に直接チューブを挿入しますが、経鼻経管栄養では鼻からチューブを通して胃まで挿入します。

挿入の際に誤って気管にチューブが挿入されてしまうリスクを伴いますが、そのような事故を起こさないように医師や看護師は細心の注意を払ってチューブを挿入しています。

定期的にチューブを交換しなければならない

経鼻経管栄養で用いるチューブは細く、栄養剤が詰まりやすいことから定期的にチューブを交換しなければなりません。

汚れたチューブをそのままにしておくと、胃に汚れが流れてしまったり、チューブが詰まって栄養剤が流れなかったりとさまざまなリスクが生じます。

そのため、1~4週間に1回の頻度でチューブを交換する必要があります。

目立ってしまう

前述したように、経鼻経管栄養はチューブを鼻や頬にテープで固定します。鼻から出ているチューブや顔に貼られたテープが目立ってしまうことは避けられません。

胃ろうや腸ろうは衣類で隠せますが、経鼻経管栄養は目立ってしまう点にデメリットを感じる患者もいます。

高齢者は、「鼻に管が出ている」こと自体が恥ずかしさやストレスにつながります。

口からの食事や嚥下訓練が難しい

経鼻経管栄養のデメリットとして、口からの食事や嚥下訓練が難しい点も挙げられます。

経管栄養を行っていても経口摂取が可能なケースもあり、いずれチューブを抜く方向で嚥下訓練を行うことがあります。

しかし、同じ経管栄養の中でも経鼻経管栄養と胃ろうとで違いがある点に注意が必要です。

胃ろうの場合はのどに違和感がないため、口からの食事と併用しやすいメリットがあります。

一方、チューブが鼻腔からのどを通る経鼻経管栄養の場合は、口からの食事の併用や嚥下訓練を行うことが難しくなってしまいます。

長期間に及ぶと、ヨウ素や食物繊維などが不足しやすい

経鼻経管栄養では、消化管を通じて適切な栄養剤を注入するため、必要なカロリーや栄養素を十分に補給できます。

ただし、長期間に及ぶと、ヨウ素や食物繊維などが不足しやすくなります。

医師や管理栄養士が患者の状態に合わせて栄養管理を行います。

空腹感を完全になくせるとは言えない

経管栄養によって栄養剤が消化管を通じて吸収されるため、通常の食事と同じようにエネルギーが補給されます。

ただし、食事を摂るときの「噛む」「味わう」「匂いを楽しむ」といった感覚がないため、空腹感を完全になくせるとは言えません。

経鼻経管栄養の管理

経鼻経管栄養の管理は、医師や看護師が主に担当します。

また、認定特定行為業務従事者として認定された介護職員も対応可能です。

家族が自宅で行う場合は、医師や看護師の指導を受けたうえで実施します。


胃ろう

胃ろうは、腹部に小さな穴を開け、直接胃に栄養チューブを挿入して栄養を投与する方法です。

誤嚥のリスクが高い人や、長期的に経管栄養の必要性がある患者に適しています。

経鼻経管栄養と異なり長期的な栄養管理が可能で、違和感が少なく、誤嚥リスクも低減できます。

通常、経鼻経管栄養が3~4週間を超える場合に検討されます。

胃ろうのメリットとしては、鼻からチューブを通すよりも、利用者様の負担が少なく栄養を注入することができる点です。

デメリットとしては、まず胃ろうを作るために手術が必要であることや、胃ろう部分に皮膚トラブルが出現したりする可能性もあることが挙げられます。

また、半年に1回程度定期的にカテーテルを交換する必要があるので、費用や手間がかかります。


腸ろう

腸ろうは、胃ろうと同様に胃に穴を開けて栄養チューブを挿入しますが、胃ではなく小腸(十二指腸や空腸)までチューブを挿入する方法です。

胃の運動が低下している場合や、胃食道逆流症のリスクがある場合は、胃ろうではなく腸ろうが選択されます。

手術などによって胃が切除されてしまっている人など、胃ろうができない人も対象で行われます。

消化吸収の負担を軽減しながら、安定した栄養補給が可能です。

腸ろうのメリット・デメリットは胃ろうとほぼ一緒です。

腸に直接栄養剤を注入するので、下痢を起こしやすくなったり、ゆっくりと注入しなければならないところもデメリットと言えます。


末梢静脈栄養

末梢静脈栄養は、腕の静脈などに点滴を挿入し、ブドウ糖やアミノ酸などの栄養を投与する方法です。

末梢静脈栄養は1週間以内などの短期で、胃や腸管などの消化管が機能していない人への栄養注入方法です。

手や足の静脈は、細いため高濃度の栄養を注入することが難しいため、1日に投与できるカロリーの上限は1000kcal程度なので、栄養を短期的かつ補助的に補充したい人に向いています。

短期間の補助栄養として使用され、消化管を使わずに栄養を補給できるため、腸の機能が低下している患者に適しています。

末梢静脈栄養のメリットとしては、消化管が機能していなくても、栄養を摂取することができることです。

しかし、デメリットとしては、投与できるカロリーの上限が決まっているため、この末梢静脈栄養だけでは、長期間の栄養管理はできないところです。

また、高カロリーの輸液は血管に負担がかかってしまって、血管が炎症を起こしてしまったり、点滴を挿入している部分から感染を起こしてしまう可能性もあるため、定期的に点滴を入れ替えなければならず、対象者への身体的な負担もあります。

多くの医師は予後1~2カ月くらいで衰弱して最期を迎えます、と説明することがあります。

中心静脈栄養

中心静脈栄養は、首や鎖骨下の太い静脈(中心静脈)にカテーテルを挿入し、必要な栄養素を直接血管内に投与する方法で、IVHとも呼ばれます。

手や足などとは違い、心臓に近い位置にある太い静脈に点滴を入れて栄養を注入する方法です。

一般的には、鎖骨の下や首を通る太い静脈に中心静脈カテーテルと呼ばれる比較的太い点滴の管を挿入して、高カロリーの点滴をします。

消化管が機能しない場合に選択されることが多く、末梢静脈栄養よりも高カロリーな輸液ができるため、長期的に管理が必要な患者に適用されます。

中心静脈栄養のメリットとしては、太い管を太い血管に挿入するため、末梢静脈栄養よりも高カロリーの2500kcal程度の栄養を投与することができることが挙げられます。

そのため、胃腸などの消化管を使うことができない人や栄養状態がよくない人を長期的に栄養管理するために向いている栄養補給方法と言われています。

デメリットとしては、中心静脈カテーテルを挿入するために、医師による一定の手技が必要であることや、挿入部分から感染症を起こす可能性があることなどが挙げられます。

鎖骨の下や首には、静脈の他に太い動脈が通っていたり、肺が近くにあったりします。

そのため、手技を誤ってしまうと、違う血管を傷つけてしまって血種(血の塊)ができてしまったり、誤って肺を傷つけてしまうと肺気胸(肺に穴があくこと)や血胸(肺に血がたまること)を起こしてしまったりする危険性もあります。

挿入部から感染症を発症した場合には、挿入し直したり感染症の治療を行わなければなりません。

また、高カロリーの輸液を投与するため、急激に血糖値が上昇してしまうこともあります。

特に糖尿病が持病にある人は、血糖値のコントロールが難しくなってしまうことがあるので注意が必要です。