高橋弘希の「送り火」を読んで


高橋弘希の「送り火」を読み終わりました。

この作品も芥川賞受賞作品です。

東京から東北青森の山間集落へ春先に転校してきた、15才になる歩という一人の少年の物語です。

翌年には廃校になることが決まっている学校で、同学年の男子生徒がわずか6人という閉鎖的で不気味な学校生活が描かれています。

山の豊かな自然が美しく描写されている一方で、ナイフを万引きしたり花札で遊ぶ危うい校友達との関係、通学途中で時々おやつと甘酒をご馳走してくれる老婆の伝承のような話が混然一体となって語られていきます。

6人の中でも暴力的で素行の悪い晃という少年が、グループの中心になっていろいろと陰湿な話が続いていきます。

いじめられっ子である稔は、いつも晃の理不尽な餌食になってしまいどうにも救い難く、この歩の逃げられない暗い交友関係の中で、いくつかのエピソードの被害者として登場します。

この不穏な空気感のある物語の背景には、森のもののけのような怪しい伝承世界が漂っているようです。

サラリーマンの父親や、小さい頃農村育ちであった母親、天真爛漫な教師達、道端で愛想良い農夫達は、皆優しく明るくて、危ない歩の交友関係がいっそう不気味に感じられます。

最後に突然展開する、不良の先輩卒業生達の稔への残酷な仕打ちと、凄惨な血なまぐさい光景が衝撃的です。

決して気持ちよい小説ではないけれど、緊張感で最後まで読み通してしまう、さすがの純文学です。