垂直離着陸機 VTOL
垂直離着陸機またはVTOL機ブイトール機とはその名の通り、陸上滑走をせずに垂直に離陸した離着陸したりできる航空機のことです。
ヘリのようにホバリングができるということで、離着陸場所を比較的自由に選べるなどの利点があります。
ヘリのようにホバリングができるということで、離着陸場所を比較的自由に選べるなどの利点があります。
最も有名なハリアー、そして最新のF-35以前の、実用に近かった垂直離着陸機について調べてみました。
VJ101(ドイツ)
1960年代から1970年代初頭にかけて、西ドイツはF-104を基にして、実験機であるVJ
101を開発し、X-1、X-2という2機の試作機が作られました。
翼端に搭載されたエンジンそのものを90度方向転換して垂直上昇し、かつコックピット直後のリフトエンジンを併用する方式でした。
この機体は音速飛行が可能でしたが、コスト高と政治的な都合から実用化されませんでした。
2機の試作機X-1とX-2が作られ、1963年4月10日にX-1号機が最初のホバリング飛行を行いました。
ホバリング飛行から水平飛行への遷移は1963年9月20日に行われました。
VJ
101C X-1号機は40回の空力飛行と24回のホバリング飛行に14回の完全遷移を行いました。
これらのテストの間に垂直離着陸機では初めて音の壁を突破しましたが1964年9月14日に自動操縦の欠陥が原因で墜落しました。
1964年7月29日にVJ
101Cはアフターバーナーを使用せずにマッハ1.04で飛行しました。
1965年10月22日に新しい自動操縦装置を取り付けたX-2号機は遷移飛行を成功させました。
テストは引き続きX-1号機には無かったアフターバーナーを付けたX-2号機で続けられました。
しかし開発プロジェクトは1968年にキャンセルされました。
マッハ2級の迎撃機になると目されたVJ
101D型は造られませんでした。
VJ
101C X-2 仕様
- 乗員 - 1名
- 全長 - 15.70 m
- 全幅 - 6.61 m
- 全高 - 4.10 m
- 最大離陸重量 - 6,100 kg (13,420 lb)
- 最高速度 - マッハ1.04 を達成
- エンジン – 6 * ロールス・ロイス RB145 ターボジェット (それぞれ2,750 lbf (12.20 kN))
1960年代には、フランスがミラージュIIIを基にして、バルザック
Vという機体を開発しました。
この機体は音速飛行が可能であり、水平飛行でマッハ1.3という速度を出すことができました。
同機体は1966年3月に垂直離陸から水平飛行への移行に成功しました。
水平飛行用と垂直上昇用に別のエンジンを用い、垂直上昇用エンジンを8基搭載していました。
ミラージュIII
Vはバルザック
Vの発展型であり、実用化を目指したものです。
リフトエンジンには、より強力な8基のロールス・ロイス
RB162エンジンを、推進用エンジンにはプラット・アンド・ホイットニーJTF10を改良しライセンス生産した1基のプラット・アンド・ホイットニーSNECMA
TF106を採用するものとして設計されました。
ミラージュIII
V 01とされた機体は、SNECMA
TF104Bにより1965年2月12日に初飛行を行い、1965年12月には、計画通りのTF106による飛行に成功しました。
1966年3月24日には、ホバリングから水平飛行への移行を成功させています。
ミラージュIII
V 02はプラット・アンド・ホイットニー
TF30を元にしたSNECMA
TF306エンジンを使用し、1966年6月22日に初飛行、11回目の試験飛行となった9月12日にはマッハ2.03を記録しました。
しかし、1966年11月28日に事故により機体が失われ、これをもって計画は中止されることとなりました。
ミラージュIII Vは最新のF-35(米国)も含めて、垂直離着陸機で実際に最高速度マッハ2を超えた唯一の機体です。
ミラージュIII Vは最新のF-35(米国)も含めて、垂直離着陸機で実際に最高速度マッハ2を超えた唯一の機体です。
ミラージュIII
V 01 仕様
- 全長:16.3m
- 全幅:8.8m
- 空虚重量:6,750kg
- 最高速度:マッハ2.03
- エンジン:SNECMA TF106 1基
- 出力:78.14kN
- リフトエンジン:ロールス・ロイス RB.162 8基
- 出力:19.6kN×8
- 乗員:1人
Yak-141(ロシア)
Yak-141はリフトエンジン併用式ですが、メインエンジンは優れた推力偏向ノズルを備え、超音速戦闘機として一流の能力を持っていましたが、ソ連崩壊によって予算がなくなったこと、試作機が事故で喪失したことなどを理由として生産されずに終わりました。
開発計画は1971年に開始され、1975年から正式に作業が開始された。Yak-38の改修作業のために本格的な開発作業は大幅に遅れ、計画が実働したのは1970年代の末に入ってのことでした。
1987年3月9日に初飛行が行われ、1989年12月29日にはホバリングに成功しました。
以後開発は順調に進み、世界で最初の実用型超音速VTOL機となることが期待されましたが、ソ連の崩壊により開発は中断を余儀なくされ、キエフ級の退役と1991年の事故による試作2号機の損失や、冷戦終結による世界規模の軍縮とロシアの財政難による予算不足から計画は再開されませんでした。
Yak-141のVTOL方式は、リフトエンジンと方向可変ノズルを組み合わせる方式でした。
コックピットの直後にRD-41リフトエンジン2基を搭載し、さらにその後方にメイン・エンジンとしてジンバル式の可変機構を持つ可変推力ノズルとアフターバーナーが装備されたR-79V-300を1基を搭載しています。この可変推力ノズルは3ベアリング方式で最新のF-35(米国)と同じ方式です。
リフトエンジンは水平飛行の際には単なる死重(デッドウェイト)となりますが、RD-41は推力4,100kgに対し重量290kgで推力重量比は14に達しており、機体全体の空虚重量も11,650kgと後のF-35B(13,888kg)と比較して軽量でした。
Yak-141はペイロード、飛行高度、上昇率などで12の世界記録を更新しています。
Yak-141 仕様
- 全長:18.30 m
- 全幅(翼幅):10.10 m
- 全高:5.00 m
- 翼面積:31.70 m2
- 最大離陸重量:19,500 kg
- エンジン:
- ソユーズ R-79V-300(推進用) 推力(A/B時)15,500 kg ×1
- リビンスク RD-41(離陸用)推力 4,100 kg ×2
- 最大速度:1,800 km/h(マッハ1.47)
- 航続距離:2,100 km
- 実用上昇限度:15,000 m
- 武装:
- 固定武装:GSh-30-1 30 mm機関砲 ×1
- 空対空ミサイル:R-77、R-27、R-73、R-60 各種 最大6 発
- その他:爆弾、ロケット弾等 最大 1,000 kg(VTOL時)/2,650 kg(STOL時)
ドルニエ Dornier Do 31(ドイツ)
ドルニエ
Do
31は、西ドイツの航空機メーカーのドルニエで製造されたVTOLジェット輸送機の実験機です。
設計では両翼の内側ナセルにブリストル
ペガサス推力偏向ターボファンエンジンを、両翼端のナセルにロールス・ロイス
RB162を各々4基搭載することになっていました。
より大きなロールス・ロイスRB153ターボファンエンジン(おおよそ5,000lbfの推力)が使用できるようになったあかつきには翼端のノズルとエンジンは使用しないで済ます予定でした。
エンジンをポッドに搭載したために胴体は後部ローディングランプ付の容量の大きなスペースを確保していました。
試作機(E3)は10基全てのエンジンを搭載し1967年7月に飛行しました。
最初のホバリング飛行は1967年11月22日に実施され、1967年12月には前進と後退の完全遷移飛行が行われました。
Do
31は1969年のパリ航空ショーへのフェリー飛行中に幾種類かのFAI公認の世界記録を打ち立てました。
開発プロジェクトは1970年4月にキャンセルされたが、1970年5月4日にハノーファーのILAで最後の公開飛行が行われました。
開発がキャンセルされた一因は、大きな抗力と、通常の輸送機と比較して有用なペイロードの少なさと、航続距離を減じるエンジン・ポッドの重量でした。
最新の実用化に成功したティルトローター機のV-22オスプレイ(米国)の最高速度速度565kmよりも、ジェット機ですのでDo
31の方が勝るなど現在でも多くの特徴を持った機体でした。
Do
31は世界最初の現在に至るまで唯一の垂直離着陸可能なジェット輸送機です。
V-22オスプレイの次世代には、Do 31のようなVTOLジェット輸送機が開発されると考えられます。
V-22オスプレイの次世代には、Do 31のようなVTOLジェット輸送機が開発されると考えられます。
Do
31の仕様
- 乗員 - 2名
- 搭乗可能数 - 兵員 36名または担架24床
- 全長 - 20.53 m (67 ft 4 in)
- 全幅 - 18.00 m (59 ft 3 in)
- 全高 - 8.53 m (28 ft)
- 翼面積 - 57.00 m2 (613.56 ft2)
- 運用時重量 - 22,453 kg (49,500 lb)
- 最大離陸重量 - 27,422 kg (60,500 lb)
- 最大搭載量 - 3,500 kg (7,715 lb)
- 最高速度 - 730 km/h (452 mph)
- 巡航速度 - 650 km/h (404 mph)
- 巡航高度 - 10,700 m (35.100 ft)
- 航続距離 - 1,800 km (1.120 miles) 最大搭載量にて
- 上昇率 - 19.2 m/s (3,780 ft/min) ペガサス エンジンのみ使用時
- エンジン – 2 * ロールス・ロイス ペガサス BE.53/2 ターボファンエンジン(それぞれ15,500 lbf (68.95 kN))
8 * ロールス・ロイス RB162-4D 垂直装着ターボジェットリフトエンジン(それぞれ4,400 lbf (19.57 kN))