衛星打ち上げ能力を持つ国

ISS国際宇宙ステーションがアメリカ・ロシア・欧州・カナダ・日本が協力して運用開始されて以来、宇宙開発に参加している国は、数多くあると思いますが、人口衛星を自力で打ち上げている国が一体どれだけあるのか、興味があったので調べてみました。

米国


言わずと知れた世界ナンバーワンの宇宙開発国です。
最初の人工衛星は、当時のソ連に遅れること4か月の1958年の2月でした。
米国が人類史上初めてアポロ月面着陸を果たして以来すでに50年が経ちました。
サターンV(サターン5型ロケット)は2019年現在においても、実際に打ち上げられた最大のロケットの座を保持し続けています。


現在打ち上げに使用されている最大のロケットは、スペースXのファルコンヘビーです。
ファルコンロケットは第1段目の3本クラスターされた液体燃料ロケットが、別々に地上へ自動で軟着陸して再使用され、第2段目の液体燃料ロケットは再使用されません。

ロシア


1957年に世界で初めて人工衛星を打ち上げ、1961年に世界初の有人宇宙飛行を実現させました。
ソビエト時代には米国と激烈な宇宙開発競争を繰り広げました。

国際宇宙ステーションは、ロシアが軌道に投入したザーリャモジュールが一番最初のベースとなり、建設がすすめられました。
現在はロシアのソユーズが、人間輸送できる唯一の宇宙機になっています。

現在ロシアで運用している最大のロケットはアンガラ-A5ロケットで、低軌道投入能力24.5tの能力を有します。

中国


ソ連から中国への技術導入は1957年から行われ、中ソ対立の進行によって技術陣の引き上げが完了する1960年まで2年半続きました。
ロケットの開発においては1993年に渡米し1955年に帰国した銭学森が中心的な役割を果たしました。

長征1号の初飛行は1970年4月に、同国初の人工衛星「東方紅1号」を軌道に乗せ、日本に次ぐ世界で5番目の衛星打上国となりました。

 2003年に、長征2F型によって、有人宇宙船「神舟5号」の打上げに成功しました。
打ち上げに用いられた長征2F型は、低軌道LEOへの最大搭載能力は9.2t(長征2E)、静止トランスファ軌道GTOへの最大搭載能力は5.2t(長征3B)の能力を有しています。

2018年12月に嫦娥4号を搭載した長征3号Bロケットが、四川省にある西昌衛星発射センターから打ち上げられました。

中国の無人探査機「嫦娥4号」(じょうが4号)は2019年1月、月の裏側に世界で初めて着陸しました。

探査機は地表に到着してまもなく画像を数枚送信し、月面探査車「玉兎号」も送り出しています。

後継機種である大型ロケット長征5号は、低軌道LEOへの最大搭載能力は25t、静止トランスファ軌道GTOへの最大搭載能力は14tの能力を有しています。

アメリカの科学技術誌、MITテクノロジーレビューが2018年に最もロケットを多く打ち上げた国は中国であると報じました。
記事の中で、2018年12月中旬時点で、軌道投入に成功したロケットの数は、アメリカの30に対し、中国が35であると書いています。
中国は今後数年間で世界最大の宇宙望遠鏡と、国際宇宙ステーション(ISS)に対抗できる宇宙ステーションを建設する計画です。
なお宇宙望遠鏡は、世界最重量の長征5号ロケットで打ち上げられる予定です。

欧州

フランス

フランスは1965年にアルジェリアのアマギール射場からの、ディアマンロケットによる衛星打ち上げで世界で3番目に人工衛星の打ち上げ能力を保有する国家となりました。
現在も欧州の宇宙開発の中心的役割を担っており、欧州宇宙機構(ESA)への最大の資金拠出国となっています。


イギリス

イギリスは軍事・科学両面から独自ロケットを開発し、1969年オーストラリアのウーメラ試験場からブラック・アロー・ロケットにより独自に衛星を打ち上げることに成功し、世界で6番目の衛星打ち上げ国となりました。

しかし、その後は科学者の米国への流出や、戦後植民地を失い資金が大きく減ったことなどから独自開発の道は諦めざるを得なくなり、アメリカ、欧州宇宙機関などとの協力によって宇宙開発を行うようになりました。

ブラック・アローは酸化剤して過酸化水素、燃料としてケロシンという珍しい組み合わせの推進剤を使用しており、燃焼ガスが無色となることが特徴的なロケットです。 

NASAの運用するスカウトロケットの方が安価であるという理由で、1971年にブラックアロー計画の中止が発表されました。
計画中止に伴い、イギリスは宇宙開発を独自に行う力を失いました。

以後の衛星打ち上げは他国のロケットに依存しなければならなくなりました。
英国は独自の打ち上げシステムの開発に成功したが、それを放棄した唯一の国です。


ESA

アリアン(Ariane、アリアーヌ)は、欧州宇宙機関 (ESA) が開発した人工衛星打ち上げ用ロケットシリーズです。
欧州宇宙機関 (ESA)にはフランスをはじめ、ドイツ、イタリア、イギリス、他欧州22か国が参加しています。

打上げはフランス領ギアナに設けられたフランス国立宇宙センター (CNES) のクールー宇宙センターから行われますが、ここは北緯6度と赤道に近く静止軌道に打上げを行うには極めて適した場所です。

そのためか、ロケットの信頼性もあって、アリアンは衛星打ち上げの市場で、世界で最も競争力の高い、商業的に成功したロケットとされています。

大型ロケットのアリアン5ECAは低軌道への最大搭載能力は21t、静止移行軌道への最大搭載能力は10.5tの能力を有しています。

アリアン5は第1段に水素燃料エンジンと2本の固体燃料ブースターを備え、第2段は水素燃料エンジンまたはモノメチルヒドラジンを燃料とする再着火可能なエンジンを用途により使い分けます。

さらに打ち上げ費用を20%から30%低減したアリアン6を開発中で、2020年の初打ち上げを目指しています。

日本


日本は1970年2月に、固体4段ロケットラムダ4Sで世界で4番目の衛星打ち上げ国になりました。

現在の日本の衛星打ち上げロケットの主力は固体燃料ブースター4本+液体水素モーター2段のH-2Bロケットです。

低軌道LEOへの最大搭載能力は19t、静止トランスファ軌道GTOへの最大搭載能力は9t、ロングコースト静止移行軌道5.5t、HTV軌道16.5tの能力を有しています。

H-2Bの後継の次世代基幹ロケットとなる、打ち上げ費用半額の50億円を目指したH3ロケットが開発中であり、2020年度に試験機1号機が打ち上げ予定です。 

インド


インドの宇宙開発はインドの原子力部門の主導で1960年代に開始されています
国産打ち上げ機の固体燃料式4段ロケットSLV3の初打ち上げは1979年に行われ、一度目は失敗だったものの、1980年から83年の3回の打ち上げでは40kg級の衛星を低軌道に投入しました。

2000年代には初の月探査機チャンドラヤーン1号を打ち上げ、月周回軌道へ投入に成功しました。
更に2013年にPSLVロケットにより打ち上げられたインドの探査機「マンガルヤーン」が2014年に火星を周回する軌道に予定どおり投入されました。

地球以外の惑星を周回する探査機の軌道投入成功は、アメリカ、旧ソ連、欧州についで4か国目、アジアでは初となりました。
PSLVロケットは低軌道への最大搭載能力は3.25t、静止移行軌道への最大搭載能力は1.06tの能力を有していました。

現在、インドが保有する最大のロケットはPSLVロケットをベースに開発されたGSLV-Ⅲです。
GSLV-Ⅲは低軌道LEOへの最大搭載能力は5t、静止トランスファ軌道GTOへの最大搭載能力は2.5tの能力を有しています。
第1段は固体燃料モーター、第2段およびブースターはフランスからライセンスされた液体燃料エンジンを使用しています。
第3段エンジンはロシア製の液体水素エンジンを搭載していましたが、GSLV-MkIIではインドが開発した液体水素エンジンへ変更されました。
 2014年に国産エンジンを搭載したGSLV-MkIIによる衛星打ち上げに成功しました。


イスラエル



1988年に、オフェック衛星(Ofek)シリーズが初めて打ち上げられました。
この成功により、イスラエルは世界で9番目の「独力での人工衛星の軌道投入に成功した国」となりました。

射場は地中海に面したパルマチン空軍基地に設けられ、ロケットは地球の自転とは反対に西側に向けて発射されます。
人工衛星を打ち上げる際には地球の自転速度を最大限利用するため東回りに打ち上げるのが一般的ですが、イスラエルの場合は周辺のアラブ諸国への配慮により地中海へ向けて西回りに打ち上げられます。

シャヴィトはイスラエルが開発した人工衛星打ち上げロケットです。
最上段に球形固体ロケットモータを用いる3段式の全段固体燃料ロケットです。
LEO低軌道投入能力は160㎏です。

改良したシャヴィト1 (LK-A)でLEO低軌道投入能力は225㎏、更に改良されたシャヴィト2 (LK-1)にてLEO低軌道投入能力は300㎏が開発され打ち上げに成功しています。

イラン



2009年に初の国産衛星「オミード」がサフィール-2によって低軌道に打ち上げられ、イランは世界で10番目の衛星打ち上げ能力を有するとなりました。

全長22m、直径1.25mの2段式の液体燃料ロケットで、現在使用されているサフィール1Bの低軌道への打ち上げ能力は50kgです。

北朝鮮中国から技術協力を受けて開発されたと推測されており、サフィールの原型となった準中距離弾道断ミサイル(MRBM)のシャハブ3も北朝鮮の弾道ミサイルノドンのイラン版と言われています。

北朝鮮


2012年12月に、北朝鮮の東倉里にある西海衛星発射場から、銀河3号によって打ち上げられ、『光明星3号2号機』は打上げ後まもなくして北朝鮮は衛星の軌道投入に成功した事を発表しました。
同日中に北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)も、この発射により北朝鮮が人工衛星の軌道投入に成功したと見られる事を発表しました。

銀河3号は北朝鮮で開発・製造された3段式の液体ロケットです
以前に人工衛星の軌道投入に失敗した銀河2号の改良型です。
銀河2号を含めてテポドン2号ミサイルの改良・派生型と考えられています。

韓国



羅老ナロ NaroKSLV-Iは、ロシアの技術をベースとして、韓国(KARI) で開発された2段式人工衛星打ち上げ用ロケットです。
 低軌道への最大搭載能力は100㎏の能力を有しています。

羅老はロシアのアンガラ・ロケットの第1段を基盤としており、射場となる羅老宇宙センターもロシアの技術援助のもとに設立されました。
第2段固体燃料ロケットの設計及び製造は韓国によって行われています。

ロシア製の第1段は高性能ですが、機体構成が固体ロケットブースターや補助ロケットがない2段式ロケットな上に、韓国製の第2段が推力・比推力共に低性能です。
LEO投入能力が100 kgしかなく同規模のロケットと比べて極めて低性能です。
(羅老と同程度の140トン前後の総質量の日本のM-VロケットのLEO投入能力は1,850 kg、H-Ⅰロケットは2,200 kgです)
2009年8月と20106月に1号機と2号機の打ち上げに失敗し、2013年1月に3号機の打ち上げに成功しました。

韓国本土から初めて人工衛星を打ち上げた羅老は、ロシアからの全面的な技術協力を受けて共同開発されたロケットでした。
後継のKSLV-II(ヌリ号、低軌道投入能力1.5t)では基本的に韓国独自で開発が行われ2021年打ち上げが予定されています。
ロシアとの契約により、ロシアから第一段の技術移転が不可能なことが見込まれたため、KARIは苦労してウクライナから30トン級の液体燃料エンジンの設計図を入手しました。
このエンジンを基に羅老の後継のKSLV-IIに使用する予定の75トン級のエンジンの開発が開始されています。