静粛性の高い潜水艦
通常型潜水艦と原子力潜水艦
潜水艦には通常型潜水艦と原子力潜水艦があります。
潜水艦は静粛性が高く、その存在が探知されないことが最も重要とされます。
原子力潜水艦は原子炉を搭載しているため、動力を完全に止める事は出来ません。
スクリューなどを止めても、原子炉周辺で駆動している機器の音を完全にゼロにすることは出来ず、どうしても音が出てしまいます。
また、発生する熱量も膨大で、赤外線の探知装置に発見されるリスクも高いです。
2018年1月10日に中国の「商」級093A型攻撃型原子力潜水艦が、尖閣諸島に侵入し、2日間にわたって、探知した海上自衛隊に追跡され、1月12日に中国国旗を掲げて浮上した事件がありました。
通常型潜水艦はディーゼル主機を止めてしまうと、全くの無音になり、たとえ永久磁石モーターを駆動しても極めて静粛です。
静粛性に関しては、通常型潜水艦の方が原子力潜水艦よりも有利です。
海の王者と言われ、大国の象徴でもある原子力潜水艦ですが、騒音の高い原子力潜水艦は、静粛性の高い通常型潜水艦に沈められるという可能性もあります。
水中速度は原子力潜水艦では40ノット以上出すものもあり、通常潜水艦の20ノット前後からすると雲泥の差で、高性能の原潜は水上艦の追跡を振り切ることも可能ですが、対潜哨戒機などからみればほとんど停止しているのと同等です。
潜行時間に関しては、ほとんど無限といってよい原子力潜水艦が圧倒的に有利ですが、最近はAIPシステムにより、通常型潜水艦でも数週間の潜行が可能となりました。
ゴトランド級潜水艦(スウェーデン)
ゴトランド級潜水艦(スウェーデン語:
Gotlandsklass ubåt)は、スウェーデン海軍が運用する通常動力型潜水艦です。
スウェーデンのコックムス社製の、スターリングエンジンによる非大気依存推進(AIP)システムを搭載した世界初の量産型潜水艦として有名です。
起工は1992年11月27日
、進水は1995年2月2日
、竣工は1996年9月2日
です。
搭載されるスターリングAIPシステムはV4-275R
Mk.IIIと称されています。
タンクに貯蔵した液体酸素とケロシン燃料による燃焼反応で熱(約800度)を発生させ、これを熱交換器でヘリウムガスに伝えることによる膨張と、海水冷却による圧縮を繰り返すことでピストンの上下動を生じさせます。
24トンの液体酸素が搭載されており、最大で3週間、速力5ノットで14日間の潜航が可能とされています。
搭載数は2基ですが、さらに2基を追加する余地が確保されています。
スターリングAIPシステムは非常に静粛性に優れており、また船体には反響を抑えるゴム製の水中吸音材も装備されているため、ソナーによる探知はきわめて困難であるとされています。
スウェーデン海軍では女性も潜水艦に乗り組んでおり、ゴトランドの航海長は女性です。
仕様
基準排水量:1,580トン
全長:62
m
全幅:6.06
m
機関
:ディーゼル・スターリング・エレクトリック方式
V4-275R
Mk.IIIスターリング発電機
速力
:水中:20ノット、水上:10ノット
潜航深度:通常:200
m
乗員:25名
ラーダ型潜水艦(ロシア)
ラーダ型潜水艦(
Lada
class submarine)は、ロシア海軍の通常動力型潜水艦です。
ロシア海軍の計画名は677型潜水艦、1番艦は「サンクトペテルブルグ」です。
輸出版は、アムール型潜水艦(Amur
class)と呼ばれます。
起工は1997年、進水は2004年10月です。
建造された艦の機関はディーゼル・エレクトリックですが、艦体を10m延長して燃料電池区画を挿入することで、燃料電池「クリスタール27E」と呼ばれるAIP機関の搭載も可能で、世界最高の隠密性を誇ります。
魚雷発射管は6門有し、艦首上方に集中配置されています。
艦首中心には、ソ連の潜水艦で初めて魚雷搭載用のハッチを有しています。
魚雷発射管からは、長魚雷はもちろんのこと、ノヴァトール設計局が開発した3M54E1「クラブS」対艦ミサイル、「クラブ」の対潜型である91RE1対潜ミサイルも発射できるなど通常動力型潜水艦では世界最強クラスです。
仕様
排水量:潜行時2,700英トン
(2,700
t)、浮上時1,765
t
長さ:72
m
幅:7.1
m
推進器:永久磁石モータによる電気推進
長寿命化蓄電池
D49ディーゼル機関2基
1軸、2,700馬力
速力:潜行時21ノット、浮上時10ノット
潜航深度:300
m
乗員:34人
(または38人)
212A型潜水艦
212A型潜水艦(U-Boote
der Klasse 212)は、ドイツが開発したAIP搭載通常動力型潜水艦です。
1番艦U-31の起工は1998年7月1日、
進水は2002年3月20日、就役は2005年10月19日
です。
ドイツ海軍のほか、イタリア海軍で運用されています。
ドイツ海軍ではU-31からU-36までの6隻が就役済みで、イタリア海軍でも「サルヴァトーレ・トーダロ」、「シレ」の2隻が就役済みです。
本艦級の特徴はAIPにPEM燃料電池を採用することによって数週間の潜水が可能である点と、水中での高度な機動性確保のため舵がX舵である点です。
AIPには水素燃料電池が使用されており、長時間の静粛航行が可能なうえ、音も熱もほとんど出ません。さらにモーターからの駆動音も極限まで抑えられています。
燃料電池の性能や船殻の丈夫さもあり、最大潜行深度700m、3週間以上の連続潜行可能という圧倒的な性能から諸外国からは世界最高の潜水艦の呼び声も高いです。
仕様
排水量
:水上 1,450トン
、水中 1,830トン
全長:57
m
全幅:7m
吃水:6m
機関:ディーゼルエンジン:MTU
16V 396×1 (3.12MW)
AIP:U31→HDW
PEM燃料電池×9
(各30-40
kW)
U32,
U33, U34→HDW PEM燃料電池×2
(各120
kW )
電動機:
シーメンス
Permasyn×1
(1,700kW)
7翼スクリュー 1軸
最大速力:水上:12ノット
/
水中:22ノット
航続距離:水上:
14,800km (8,000nm) / 8kt、水中:
780km (420nm) / 8kt
最大深度:700m
乗員:27名
そうりゅう型潜水艦
そうりゅう型潜水艦(
Sōryū-class
submarine)は、海上自衛隊が運用する通常動力型潜水艦の艦級です。
一番艦「そうりゅう」の起工は2005年、就役は2009年です。
そうりゅう型の10番艦まではスターリング発電機による非大気依存推進(AIP)システムが搭載されています。
本型で搭載されたシステムは、「あさしお」やスウェーデン海軍A-19型で搭載された4V-275R
Mk.II(連続定格出力65キロワット)の発展型である4V-275R
Mk.III(連続定格出力75キロワット)を4基用いており、第4防水区画の上層にスターリング発電機が両舷2基ずつ、下層には液体酸素タンクが両舷に1基ずつ配置されています。
なお4V-275R
Mk.IIIは川崎重工業でライセンス生産化されています。
ただしスターリングAIPシステムは出力が低い低速機(4~5ノット程度)であるため、高速力を発揮する際には、従来通りのディーゼル・エレクトリック方式が用いられます。
ディーゼルエンジンとしては、はるしお型(61SS)以来用いられてきたV型12気筒の高速4ストローク機関である川崎重工業12V25/25Sの小改良型である12V25/25SBが搭載されています。
AIPとともに本型で導入された新機軸の1つが永久磁石同期電動機です。
従来の潜水艦では直流電動機を採用してきたが、このシステムは、速度切替の機構操作が不要であり、また整流子・ブラシ・界磁励磁回路・スリップリングがなく、保守が容易であるなど多くのメリットを備えていたことから、世界的にも珍しい潜水艦用交流電動機装備が開発されて搭載されたものです。
11番艦のおうりゅう(SS-511)以降はリチウムイオン蓄電池搭載型となりました。
搭載にあたっては、鉛蓄電池のみをリチウムイオン蓄電池に置き換える手法と、スターリングAIPシステムと鉛蓄電池の双方をリチウムイオン蓄電池で置き換える手法が検討され、後者のほうが前者より高コストだが大出力なため、在来潜やAIP潜より高速での水中連続航行が可能となることが期待されました。
その後、水中持続力等向上のため、スターリングAIPと鉛蓄電池の双方を廃した上でリチウムイオン蓄電池を搭載する方式に決定し、リチウムイオン電池はGSユアサが受注しました。
仕様
基準排水量:2,900トン(5番艦以降50トン増)
水中排水量:4,200トン
全長:84m
最大幅:9.1m
機関方式:・ディーゼル・スターリング・エレクトリック方式(10番艦まで)
(水上:3,900ps/水中:8,000ps)
・ディーゼル・エレクトリック方式(11番艦以降)
主機:・12V25/25SBディーゼル機関×2基
・川崎/コックムス4V-275R
MkIIIスターリング機関
×4基(10番艦まで)
・鉛蓄電池(10番艦まで)
・リチウムイオン電池(11番艦以降)
・推進電動機×1基
推進機:スクリュープロペラ×1軸
速力:水上13ノット、水中20ノット
潜行深度:未発表
乗員:65名