自転車による最高速度記録が面白い

自転車と言えば、華奢なフレームと軽量なスポーク支持の細い車輪に支えられた人力頼りの乗り物ですが、ここに出てくる自転車による最高速度記録の数々は、無謀とも思われるほど、命知らずの挑戦です。

全風圧を受けての最高速度記録

平地単独走行で全風圧を受けての最高速度記録は、2013126日、メキシコのアグアスカリエンテス・二百周年自転車競技場(Velódromo Bicentenario)でフランス人フランソワ・ペルヴィがUCIトラック自転車競技ワールドカップ・メキシコ大会のスプリント予選(200 mフライングタイムトライアル)で出した世界記録9347が速度換算77.03 km/hとなります。

速度を求める記録挑戦ではありませんが、これがユネスコ所管の唯一公式にしてサイクリストが全風圧を受ける通常形態の安全型自転車による最速記録といえます。



人力によるカウル付き自転車の最速記録

機材の形態にとらわれない記録挑戦では2015919日、米国ネヴァダ州バトルマウンテン(Battle Mountain)郊外の一時的に閉鎖した公道でカナダ人トッド・ライカート(Todd Reichert)がタイヤ接地面のみわずかに開口したストリームラインボディのリカンベントEtaで達成した139.45 km/hがヒト一人のみの出力による最高速度記録でした。






Etaは極めて低い位置に仰向いて座り前輪を両脚で挟むように前端のクランクを回すため、後輪駆動は構造上ほぼ不可能で前輪駆動を採用しています。

また前を見通す視界はなくカメラ映像に依存します。
2016919日、同地、同プロジェクトによって記録は144.17 km/hに更新されました。


人力+斜面落下を使った自転車の世界最速

標高差による位置エネルギーを利用した斜面降坂では2015328日、フランス・ヴァール(Vars)のスピードスキー用滑降路シャブリエール(piste de Chabrières)でフランス人エリック・バローヌ(Éric Barone)が223.30 km/hを記録しています。

これには肩と胸元まで覆うエアロシェルを備えた2重構造ヘルメットと、上腕および脛の後方をボートテール形状にしたコーティングスーツ、スン(Sunn)の専用特殊自転車F2.0が用いられました。

2017318日、エリック・バローヌは同地で再度挑戦し、227.72 km/hを更新しました。

当然200㎞/hを超えるスピードで転倒したら、生身の人間の命の保証は全くありません、


スリップストリームを利用した自転車最高速度

風圧の多くを他に負担させて走行した最高速度記録は1995103日、米国ユタ州のボンネビル・スピードウェイでオランダ人男性サイクリストのフレート・ロンペルベルフ(Fred Rompelberg)が二段増速の極めてギア比が高い特殊な自転車によって記録した268.831 km/hです。

これは前走するドラッグスターの後端に取り付けた後続自転車用カウル(整流覆い)に肉薄追走して達成されました。



それから23年後の2018916日、アメリカ、ボンネビルのソルトフラッツで、アメリカの女性サイクリスト、デニス・ミューラー=コレネクが296.010 km/h を記録しました。


自転車のギアは最高速にあわせたギヤ比で、非常に高く設定されているため、停止状態からこぐことは不可能です。

およそ160 km/h に到達すると、デニスはドラッグレーサーから切り離れ、自身での加速を開始しました。

最高速チャレンジの瞬間に使われる動力は2本の脚だけです。



ドラッグレーサーが風の抵抗を抑えているものの、高速度へ加速しそれを維持するには、とてつもないパワーと持久力が必要です。

デニスは、モーターサイクル用の重いレザージャケットを、炎天下のなか装着しながら、自転車のトラックレースのエリートたちと同様のパワーを1分以上発揮し、およそ5.6 km 走行し続ける必要がありました。

自転車をこぐスピードが先導するレーシングカーに追いつけなくなれば、風によって後方に吹き飛ばされる恐れがありました。


ロケット推進を使った最速自転車記録

ロケットエンジンを使った場合の世界最速自転車の記録は333km/hです。

2014117日、自転車の世界最高速チャレンジが南フランスのポール・リカール・サーキットで行われ、前代未聞ともいえる「時速333km」という記録が樹立されました。

チャレンジの様子やイタリアの跳ね馬「フェラーリ 430スクーデリア」をいとも簡単に置き去って行く様子を収めたムービーが公開されています。


自転車はヴェロ・ヒュゼこと「KAMIKAZE V」でロケットを積んでいること以外は普通の自転車と同じに見えます。


この自転車の0-100km/h加速はなんと1.1秒、加速時の最大Gは、3.1Gにも達するというレーシングカー顔負けの加速力を誇ります。

パワーの源は3基搭載されたロケットエンジンで、その推進力は4.2kN(キロニュートン)1Nの力は1キログラムの質量をもつ物体に1メートル毎秒毎秒の加速度を生じさせる力となるので、4200ニュートンともなればものすごいパワーを発生していることがわかります。


いわゆる「ゼロヨン」と呼ばれる1/4マイル加速は6.8秒ですが、これはニッサン・GT-R7秒台後半をはるかに上回るとてつもないタイムです。

ここまでくると自転車と呼べるのか疑問ですが、写真に見るような頼りなさそうな自転車のフレームに乗った生身の人間が、300㎞/h以上のスピードで風を切って走ること自体が驚きです。