超音速旅客機の計画

イギリスとフランスが共同開発したコンコルドが、2003年11月にてブリティッシュ・エアウェイ営業就航終了して以来、後継の超音速旅客機は現れていません。

軍用機が当たり前に、音速で飛ぶ時代に、民間機が存在しないというのも不思議に思われます。

超音速で飛ぶ民間旅客機として、どのような計画があるのか調べてみました。


低ソニック・ブーム設計手法

最近では、機体形状に工夫を凝らすことにより、超音速飛行時でもあまりソニックブームを出さない航空機が研究されています。


2003年からはNASAなどがSSBD (Shaped Sonic Boom Demonstration 低ソニック・ブーム設計手法飛行実証) の元、F-5戦闘機を改造した実験機によって飛行試験を行っており、実際にソニックブームの減少が観測されています。

使用している機体はノースロップF-5で、機首の形状を整形することによりソニックブームの低減を試みました。







D-SENDプロジェクト(日本)

また、日本でも宇宙航空研究開発機構 (JAXA) が精力的に研究を行なっており、低ソニックブーム設計概念実証プロジェクト(D-SENDプロジェクト)が進められています。


試験には航空機形状の無人試験機である超音速試験機(英: Silent SuperSonic Concept Model、S3CM)が用いられました。

S3CMは無動力の滑空機で、非軸対称低ブーム機首、多目的最適設計による低抵抗 / 低ブーム主翼、逆キャンパ水平尾翼、後胴揚力面などといったJAXA独自の低ソニックブーム設計概念を用いて設計されました。

試験は215年7月24日に行われ、S3CMは正常に飛行を完了させました。

JAXAは2015年10月27日に、50人規模の小型超音速旅客機(コンコルドの重量の約40%)に適用した場合、ブーム強度0.5 psf以下で、ソニックブームをコンコルドの約1/4まで低減することに成功したとの計測データの詳細解析結果を発表しました。


ソニックブームを相殺する超音速複葉翼理論



ブーゼマン複葉翼(二枚の翼に発生した衝撃波を干渉させ打ち消す)の欠点を解消するため、全翼機のように胴体を上の翼上に配置し、上下の翼端を接触させる案などが研究されています。


この二枚翼コンセプトは、将来のサイレント超音速旅客機実現のための重要な糸口であり、衝撃波による空気抵抗(造波抵抗)が従来型に比べ最大85%カット出来き、その結果、衝撃波による騒音が大幅に減少し、かつ燃費も向上することが期待されています。
スーパーコンピュータで実際に計算した結果を見ても、外に広がる衝撃波が軽減していることがわかります。

水色が大気の圧力、緑~黄~赤と圧力が次第に高くなることを示しています。

逆に青いところは圧力が下がっています。

一枚翼の先端から緑になることで、圧力が上がり衝撃波ができていることが分かります。

流れが角を回るとき圧力が下がり最後は元の圧力に戻ります。
二枚翼の中には非常に圧力の高いところがありますが、お互いの頂点を過ぎると逆に圧力が下がります。

衝撃波は二枚翼の中にだけあって、外の衝撃波が消えていることが分かります。


欧州超音速機研究計画

1994年4月にアエロスパシアル社・ブリティッシュ・エアロスペース(現BAEシステムズ)社・DASA社は第二世代のコンコルドを2010年までに就航させることを目標として、欧州超音速機研究計画 (ESRP: European Supersonic Research Program) を開始しました。

並行して、スネクマ・ロールス・ロイス社・MTU München社・フィアット社では、1991年から新型エンジンの共同開発を行っていました。

年間1,200万ドル以上が費やされ、研究計画は材料、空気力学、各種システムやエンジンの擬装に至る分野をカバーしていました。

ESRP計画はマッハ2で飛行し、座席数は250席、航続距離は5,500海里を目指すもので、基本設計案の外観はコンコルドを大型化してカナードを付けたようなものです。 


NASAのSST研究

同じ頃、NASAでもSSTの研究が開始されていました。

Tu-144のエンジンを換装した実験機Tu-144LLを使用して、1996年から1998年にかけてロシアで19回の飛行試験を行いました。 


Boom Technology (米国)

2016年11月15日、アメリカコロラド州のスタートアップ企業、Boom Technologyが超音速旅客機のサブスケール技術実証機、XB-1を公開しました。


飛行速度はコンコルドを超えるマッハ2.2(時速約2,716km)とされており、実用の旅客機やビジネスジェットは2020年代はじめの運行開始を目指しています。 




2017年にはかつてコンコルドの導入を計画し仮発注も行った日本航空はブーム・テクノロジーと資本提携し、20機の優先発注権を確保する予定があると発表しました。 


「アエリオン AS2」 (米国)


2019年、ボーイングが12人乗りの超音速ビジネスジェット「アエリオン AS2」を開発するアエリオン・コーポレーションへの出資を発表しました。




PDE(パルス・デトネーション・エンジン)

超音速機のエンジンとしては、PDE(パルス・デトネーション・エンジン)が注目されています。

現在のターボファンエンジンよりも効率を向上させつつ、高速度での飛行も可能にするもので、NASAはマッハ5で飛行する航空機のためのPDEエンジンの研究を行っています。


予冷ターボジェットエンジン(日本)

この他JAXAと東京大学の研究チームではマッハ5クラスの極超音速旅客機に搭載するエンジンとして、液体水素を燃料とするターボジェットエンジンに高温となった空気を燃料の液体水素で冷却する機構を追加した『予冷ターボジェットエンジン(Precooled jet engine)』の研究を行っています。