川崎C-2輸送機

新聞紙上では、三菱スペースジェットほど話題になりませんでしたけれど、新しく開発された川崎C-2輸送機が、すでに正式配備されています。

難航している三菱スペースジェットと比較して、型式証明取得の困難さはありませんでしたが、開発途中で発生した数々の問題を乗り越えて、すでに開発が完了し、日本の各地の空を飛んでいます。

川崎 C-2

C-2は、日本の航空自衛隊が保有する輸送機です。 

C-1の後継機として防衛省技術研究本部と川崎重工業がC-Xの計画名で開発し、川崎重工業が製造しています。


配属先の美保基地では Blue Whale(シロナガスクジラ)の愛称が付与されています。 


概要

C-2は、C-1の後継として2000年(平成12年)に「第二次C-X」として計画され、防衛省技術研究本部と川崎重工業によって開発が進められた、ターボファンエンジン双発の大型戦術輸送機です。


2001年11月26日に防衛庁は主契約企業に川崎を選定したと発表し、三菱が中胴と後胴、富士重工が主翼と垂直尾翼の開発・分担製造を担当することとなりました。

川崎は社内に大型機設計チーム・MCETを設置し、三菱・富士・日本飛行機などの出向を含め約650名によって設計作業を開始しました。

C-Xの製造図は2004年(平成16年)に完成しました。

また、6月には岐阜県岐阜工場に川崎重工最大規模のハンガーが竣工し、C-Xの製造をここで開始しました。

2004年12月2日に岐阜工場内でP-X/C-Xの実大模型を公開しました。

2005年(平成17年)には富士重工から#01号機用の主翼が納入、川崎で組み立てられた地上試験用の#01号機は2006年(平成18年)3月15日に防衛庁に引き渡されました。


2007年(平成19年)3月6日にロールアウトし、地上での整備と試験を経て、同年夏に初飛行予定でした。

しかし直前の2007年2月に、輸入した米国製のリベット(長さ13.5mm)に強度不足が判明し、交換が必要なリベット数は3663点に上りました。

ほとんどのリベットは川崎によって交換され、369カ所の交換不能な不適合リベットについては、周囲のリベットをより強度の大きいファスナー類に交換することで処置しました。

2007年(平成19年)7月4日にロールアウト(完成披露式典)が行われましたが、その後の静的強度試験機の不都合発生により、改修のため初飛行は大幅に延期されました。


2007年(平成19年)7月30日に、防衛省は静強度試験において、C-Xの水平尾翼の変形、主脚及びその付近の胴体構造の一部に変形及び接触、胴体の床構造の一部にひび・変形といった不都合事象が複数発生したと公表しました。

このため、各部の改設計が行われることとなりましが、三菱が担当した中部胴体の改善に予想外の時間がかかったことから、その後の計画に遅れが生じました。

2010年(平成22年)1月26日に試作初号機の初飛行が行われ、3月30日に防衛省へ納入されました。

初飛行に際して、試作機に対しXC-2の型式名称が与えられました。 


2014年1月7日、岐阜基地で機体の強度を確認する地上試験中に貨物扉が脱落する不具合が発生しました。

機内の圧力を、通常の運用で想定される上限よりも1.5倍にまで高めようとしたところ、1.2倍に加圧した段階で機体後部の貨物扉が破損し、一部が脱落したということでした。

2014年7月4日、防衛省は加圧試験中に扉が外れた原因について、試験機後部のフレーム強度が不足していた事を発表し、再度試験のため平成26年度末に予定していた部隊配備を2年間延期する事を発表しました。

2014年11月以降、機体構造地上試験中に発生した不具合対策として、試作1号機に対し量産機と同じ胴体への交換作業を実施し、 2015年10月に機内の圧力を通常の運用で想定される上限よりも1.35倍まで高め、強度に問題ないことが確認されました。


2016年5月17日、C-2量産初号機「68-1203」が岐阜基地で初飛行に成功しました。
当初の計画では2014年(平成26年)度末に美保基地に配備する予定でしたが、開発途上で機体の強度不足が発覚したことなどにより配備が予定より遅れました。

2017年3月27日に開発完了し、C-2として制式採用、部隊使用承認されました。


2017年3月28日に3機、2019年3月31日時点の保有数は試作機を含めて10機となっています。

開発総額は2016年時点で約2,610億円とされます。

2018年末に、計画では25機の調達予定でしたが、価格高騰により22機に減らすことで防衛省と財務省は合意しました。



機体 

C-2は戦後日本が自主開発する機体としては過去最大のサイズとなります。


機体はターボファンエンジン双発、主翼は高翼配置、尾翼はT字タイプ、胴体後部に貨物出し入れ口を設け、主脚は胴体下部にバルジ(膨らみ)を設けて収納するようにしています。

現行のC-1と同様の形式ですが、サイズ・性能共にC-1を凌駕しており、C-1と比較し全長は1.51倍、全幅は1.45倍、全高は1.42倍、空虚重量は2.5倍、最大積載量は3.75倍、最大速度は1.2倍、エンジン合計推力は約4.24倍となっています。

また航続距離は、C-1が有効積載量2.6t搭載時に約1700km、C-130Hは5t搭載時に約4,000kmなのに対し、XC-2は12t搭載時に約6,500kmです。 

C-2開発での基本的なコンセプトは、大搭載量・長距離航続・高速巡航です。

川崎C-1

C-1での航続距離不足は輸送任務において足かせになっており、C-130Hと共に搭載量も大きくはありませんでした。

C-130H

また、旅客機は早くから高速化に取り組んできたため、民間航空路は「高速路線」と化していますが、戦術輸送機は人員や荷物の空中投下が容易なように高翼配置が多く、旅客機に多い低翼配置に比べて、貨物室をできるだけ広く取るため胴体側面及び底面の補強のための張り出しなどが空気抵抗となり、高速化には不利です。

加えて車両などの大型貨物を搭載する為に断面積が旅客機より大きく、広い機内スペースを確保する為にバルジを設けて主脚を収納するために、いびつになった機体形状によっても空気抵抗が増えるため、高速巡航には向かなくなりがちです。 


このような条件がある中でC-2には、ISO 40フィートコンテナを積んだセミトレーラを牽引車込みで搭載可能なスペースと高速巡航という相反する性能が求められました。


これらの課題解決のため、C-2の主翼は胴体より上にあり、主翼桁が貨物室を圧迫しない配置になっています。

これにより、例えばA400Mの貨物室高さが主翼部でそれ以降の4mより15cm低い3.85mに対し、C-2は全貨物室で4mの高さを確保しています。


なおこの主翼配置によって増大する空気抵抗は、主翼前後を大型のフェアリングで覆うことで抑えており、C-2の外見上の特徴となっています。

また高速巡航のため主翼形状を遷音速領域に適応したスーパークリティカル翼型とし、エンジンもボーイング製やエアバス製の旅客機にも使われている大推力エンジンを採用しました。 

上記の通り機体サイズ・最大積載量・航続距離のいずれの点においてもC-1、更にC-130Hを大きく上回り、国際共同開発のエアバス A400Mに匹敵しますが、ターボプロップエンジン推進のA400M、あるいは他のジェット輸送機に比べて巡航速度が速く、民間の旅客機並みの高亜音速で、民間の旅客機と同じ高度や航路を活用して目的地への迅速な輸送が可能となりました。

エアバスA400M

またC-1等より大型の機体ですが、スラストリバーサー搭載型大推力エンジンの搭載等によりC-1並みの短距離離着陸(STOL) 性能を維持しており、滑走路の短い地方空港への輸送にも運用できます。

一方で不整地での運用能力は有していません。 

機体形状はC-1同様、曲線を多用したものとなっています。


胴体後部の貨物扉は平たい形状で、C-1が観音開き扉を備えていたのに対し、XC-2ではそのままローディングランプとなります。


降着装置は主脚が片側6輪ずつ12輪の車輪を持ちます。


主翼前縁にスラットを装備、フラップカウリングは片側に4ヶ所あります。

垂直尾翼の方向舵は2分割式で、後縁はアンチバランスタブの役割も果たします。

水平尾翼は全遊動式で、さらに後縁に昇降舵を持ちます。

機首には航法・気象レーダーを搭載します。

レーダードームの左右横と機体後部にはミサイル警報装置 (MWS) とレーダー警報受信機 (RWR) のセンサーを備えます。

編隊飛行時に点灯する編隊灯は、後部側面と垂直尾翼に設置されます。

上部には空中給油口を備えており、空中受油が可能です。


機体下部に大きく張り出した主脚バルジに補助動力装置 (APU) を持ちます。

ペイロード搭載量の増加により、大型の手術車や装輪装甲車などの空輸も可能となり、災害や有事の際の実用性が増します。

後部空挺扉にはデフレクター(風除け)が追加され、空挺部隊降下の際の安全性が高められています。

前部胴体、水平尾翼には川崎重工が開発した軽くて強く、低コストの航空機用炭素繊維強化複合材料「KMS6115」を採用しています。 


同時に開発されたP-1哨戒機とは、機体では操縦席風防、主翼外翼(全体の3分の1)、水平尾翼、システムでは統合表示機、慣性基準装置、飛行制御計算機、APU(補助動力装置)、衝突防止灯、脚揚降システムコントロールユニットの共通化を図り、機体重量比で約15パーセントの共通部品、搭載システム品目数で約75パーセントの共通装備となっており、これにより、開発費を250億円程度削減できたとしています。


一方、P-Xはフライ・バイ・ライトや国産エンジンなど新技術を採用しているのに対し、C-Xは運用が確立された操縦系・エンジン系を採用して将来の民間転用を考慮しています。 

機体の配色は、試作1号機(#201)は白地に赤いストライプと胴体下面が灰色の、技本試作機の標準色であるが、試作2号機および量産機は青みがかった灰色中心の迷彩色でした。

また海外派遣時には、C-130Hに採用された水色一色のような、特別迷彩が施される可能性もあります。 

2015年には量産型を使用しての積雪時離陸滑走試験を成功させるなど、主力輸送機としての地位を盤石な物にしつつあります。 

機体の開発・製造では、三菱重工業が中胴・後胴・翼胴フェアリング、富士重工業(現SUBARU)が主翼を分担し、日本飛行機も参加しています。

システムでは、搭載レーダーは東芝、管制装置は神鋼電機(現シンフォニア テクノロジー)、自己防御装置は三菱電機、空調装置は島津製作所、脚組み立ては住友精密工業など、国内大手企業が参加しています。


機内

コックピットはP-1と同じく大型液晶ディスプレイを6台と HUD(ヘッドアップディスプレイ)を備えたグラスコックピットを採用しました。

戦術輸送飛行管理システムにより、低空飛行の際、操縦席のヘッドアップディスプレイ画面に飛行経路が誘導表示される他、経路上の脅威も示唆し、その回避経路を表示することで生存性の向上を図っています。

NVGにも対応しています。

機体の大型化により操縦席の位置も高くなり下方の視界が悪化したため、操縦席の足下外側に窓が設けられました。


また斜め上にも小型の窓が設けられています。 

哨戒機であるP-1はセンサーや電子機器へのノイズを抑えるため光ファイバーを使用したフライ・バイ・ライトを採用し、機外の監視が多いためコックピットは機上整備員(航空機関士)を含めた3名体制となりましたが、輸出を考慮した輸送機であるC-2では信頼性を重視したフライ・バイ・ワイヤ (FBW) 方式を採用、コックピットを2名体制としたためP-1とはスイッチのレイアウトが若干異なっています。 

C-1では貨物室の上部に動翼のワイヤが露出していましたが、C-2ではケーブル類は全て格納されています。
 

貨物のバランスを検知する重量センサーや監視カメラ、陸上で積み降ろし作業を効率化するため省力化搭載卸下システム、降下する隊員への指示などに使用する電光掲示板など任務を補助する機能が搭載されました。

これらの機能は貨物室前方のロードマスター(空中輸送員)席でコントロールできます。


長時間の任務に備え、操縦席後部には仮眠用の2段ベッドの他、冷蔵庫や電子レンジを有するギャレーが設けられました。

トイレは乗員が多くなるため民間旅客機と同等の設備が2カ所用意されています。


エンジン

装備するジェットエンジンは防衛庁が2002年(平成14年)からロールス・ロイス(トレント500)、ゼネラル・エレクトリック(CF6)、プラット・アンド・ホイットニー(PW4000)の3社からの提案を検討した結果、2003年(平成15年)8月にゼネラル・エレクトリック(GE)のCF6-80C2K1F型エンジン(推力:約27.9t)とナセルシステムを採用しました。
 

このエンジンの選定にあたっては、当時すでに航空自衛隊に導入されていたボーイング747-400(初代政府専用機)、E-767、KC-767が同一のエンジンを採用しており、整備面で都合が良いことから決定されたと思われます。

海外でも民間で広く普及しているため、渡航先での整備拠点もあり、また日本国内の航空会社もボーイング製の機体と共に、同系統のエンジンを600基以上採用しており、形式は新しく無いが、信頼性の高さと国内での運用経験も選定の根拠とされています。 

性能・主要諸元

乗員: 3名(操縦士2名・ロードマスター(空中輸送員)1名)、2〜5名(補助席)+110名(貨物室)

全長: 43.9m
全高: 14.2m
翼幅: 44.4m
貨物室: L15.7×W4×H4m ランプ長5.5m
翼型: 高翼機
空虚重量: 60.8t
有効搭載量: 32t(2.5G)、36t(2.25G)
基本離陸重量: 120t
最大離陸重量: 141t(YCXからの参考値)

動力: GE・アビエーション CF6-80C2K1F ×2 ターボファンエンジン、22,680kg (50,000lb) × 2 



最大速度: マッハ 0.82 (917 km/h)
巡航速度: マッハ 0.8(890 km/h)(高度12,200m)
航続距離: 9,800km/0t、7,600km/20t、5,700km/30t、  
    4,500km/36t、(XC-2向け要求: 6,500km/12t)
実用上昇限度: 40,000 ft (12,200 m)
最短離陸滑走距離: 500 m


比較

主な軍用輸送機の比較
日本の旗C-2 欧州連合の旗A400M アメリカ合衆国の旗C-17 中華人民共和国の旗Y-20 アメリカ合衆国の旗C-130J ブラジルの旗KC-390 ウクライナの旗An-178 ロシアの旗Il-276
画像 Kawasaki C-2 ‘78-1206 206’ (47792100432).jpg Airbus A400M 5D4 0638 (28854385597).jpg Boeing C-17 Globemaster III (8130940943).jpg Y-20 at Airshow China 2016.jpg C-130J 135th AS Maryland ANG in flight.jpg Farnborough Airshow 2018 (43426030302).jpg Antonov An-178 in military grey colours.jpeg MTS Il214 maks2009.jpg
乗員 3名 3-4名 2-4名 3名 3-6名 2名 3名 2名
全長 43.9m 45.1m 53.0m 47.0m 29.79m 33.43m 32.95m 33.2m
全幅 44.4m 42.4m 51.8m 45.0m 40.41m 33.94m 28.84 m 30.1m
全高 14.2m 14.7m 16.8m 15.0m 11.84m 11.43m 10.14m 10.0m
空虚重量 60.8t 76.5t 128.1t 100t 34.25t - 48.5t -
基本
離陸重量
120t - 263t - 70.305t - - -
最大
離陸重量
141t 136.5t 265.35t 220t 79.38t 81.0t - 68.0t
最大
積載量
32t(2.5G)
36t(2.25G)
30t(2.5G) 77.519t 66t 19.050t 27t 18.0t 20.0t
発動機 CF6-80C2K1F×2 TP400-D6×4 F117-PW-100×4 D-30KP-2×4 AE2100-D3×4 V2500-E5×2 D-436-148FM×2 PD-14M×2
ターボファンターボプロップターボファンターボプロップターボファン
巡航速度 マッハ0.80
890km/h
(高度12,200m)
マッハ0.68-0.72
781km/h
(高度9,450m)
マッハ0.74
830km/h
(高度8,530m)
マッハ0.75 マッハ0.59
671km/h
(高度6,700m)
マッハ0.80
850km/h
マッハ0.77
825km/h
マッハ0.75
810km/h
航続距離 0t/9,800km
20t/7,600km
30t/5,700km
36t/4,500km
0t/8,710km
20t/6,390km
30t/4,540km
0t/9,815km
72t/4,630km
40t/7,800km
66t/4,500km
0t/6,445km
16.3t/3,150km
13.335t/4,815 km
27t/2,593 km
0t/5,500km
5.0t/4,700km
18.0t/1,000km
0t/7,300km
4.5t/6,000km
20t/3,250km
最短離陸
滑走距離
500m 770m 1,000m - 600m - - 1,050m
運用状況 現役 実用試験中 開発中