世界最大の洋上風力発電

海上に風力発電機を設置することを洋上風力発電(オフショア風力発電、海上風力発電、海洋風力発電)と呼びます。

地形や建物による影響が少なく、より安定した風力発電が可能となります。

また立地確保、景観、低周波騒音の問題も緩和できるという利点もあります。

欠点は、洋上風力発電のコストは、陸上に設備するよりも2倍はコストがかかると言われ、通常の陸上風力発電に比べて信頼性が重視されます。

船を用いた定期的なアクセス手段が必要で、ギアボックスの交換などの作業のためにジャッキアップ・リグ(海洋掘削装置)なども必要とされます。

陸上設備と同様にバードストライクなどよって野鳥への影響もあります。


世界最大の洋上風力発電

発電用風力タービンの大型化が進んでいます。

スコットランドのアバディーン沖に18年4月中旬、世界最大の発電能力をもつ風力タービンが完成しました。



これは、スコットランド最大の洋上風力発電施設となる「ヨーロッパ洋上風力配備センター(European Offshore Wind Deployment Centre:EOWDC)」で、11基で構成されます。

この洋上風力発電施設は着底式で、スウェーデンのヴァッテンフォールが開発しました。

この風力発電施設により、アバディーンの家庭向けエネルギー需要の70パーセント、総需要の23パーセントを超える発電が可能です。

プロペラが1回転するだけで、平均的な家庭のまる1日分の電力をつくり出すことができるといいます。

ヴァッテンフォールが今回設置した新しいタービンは、定格出力が8.4MW、ブレードローターの直径が164m、ブレードの長さが80m、頂上部の高さが187mだといいます。

今回建設した発電施設には、業界で初めて「サクションバケット基礎工法」を採用し、従来のものより低コストでタービンを固定しています。

上向きにした鋼鉄製の“バケツ”をひっくり返して海底に沈め、巧妙に設計された吸引技術を利用し、これから掘ろうとする場所で流砂現象を発生させます。

このバケツを少し上に引き上げると、トイレの詰まりを直すラバーカップのように内部が真空になり、その場所に根を下ろすようにしっかりと固定される仕組みでした。


さらに世界最大の風力発電を目指して

ベルギーのブリュッセルに本部がある業界団体「ウインド・ヨーロッパ」の広報担当者であるアンドリュー・カニングは、「17年に設置された洋上風力タービンの平均出力は5.9MWでしたが、ゼネラル・エレクトリック(GE)は2018年3月に12MWのタービンの開発を発表しました。」と語ります。

タービンが大きくなるほど、風からより多くのエネルギーを取り込めます。

ローターを大きくすれば出力MWも大きくなり、ブレードも長くなります。

高度が高くなると、風速も上がるので、支柱をさらに高くするのも有利になります。

GEが3月に開発を発表した「Haliade X」は、ローターの直径が220m、ブレード先端の高さは260mに達し世界最大となります。


世界初の洋上浮体式風力発電

ノルウェーのエネルギー企業であるスタトイル(Statoil)は、2017年10月18日に世界初の海に浮かぶ浮体式風力発電施設をスコットランド北東部・アバディーンシャー州にある町「ピーターヘッド」から25km沖合に建設しました。

2億ポンド(約293億円)をかけて建設されたこの「Hywind Scotland」では、78mの深さまで達する水中バラストと、海底に取り付けた3本のケーブルを使ってタービンを係留しています。

ここで用いられた風車は長さ75メートルのブレードを3枚組み合わせた直径154メートルというものでした。

風車は、基礎を海底に固定しない浮上方式を採用しています。

洋上に風車を建設する場合、工事の大変さや海流の影響などを考慮すると、水深50メートル前後が建設の限界といわれています。

しかし、スタトイルが開発した風車は、釣りの時に使う「浮き」のような構造となっており、そこに取り付けた重りでバランスをとりながら洋上で発電できるように設計されています。
Hywindで用いられているloose mooring catenary係留システム


カテナリーケーブルによって係留された円筒形の浮体式構造物が浮かんでいます。
今回の設置場所では水深が120メートル前後となっており、海底と風車をアンカーケーブルでつなぐことで、一定の位置に留まるようになっています。


Hywindはballasted catenaryと呼ばれる係留方法を用いており、それぞれの係留ケーブルの中央に60トンの錘を設置し、張力を加えています。

風車の高さは、海面から羽根の先までが最大で175メートルです。

海面下には78メートルもの主塔延長部分が沈んでおり、全長は253メートルにもなります。


巨大な羽根が回転することで、1基あたり6メガワットという電力を作り出します。

ビッグベンと比べるとその大きさがよく分かります。


風車は海上に浮かぶ部分と海中に沈む部分が別々に作られ、海の上で2つを合体させることで完成させるというプロセスとなっていました。

巨大なクレーン船を使って、完成した「上半身」をつり上げて下半身と合体させます。

重さは主塔が670トン、羽根が1枚あたり75トン、3枚で225トンあり、上半身の総重量は895トンあります。


海上で合体されて完成した風車は、船にえい航されてスコットランド沖まで運ばれ、所定の位置へと係留されました。

構想の段階から数えると、じつに16年がかりのプロジェクトとなったそうです。


日本

長崎県の五島列島の沖合で実証を続けていた日本初の浮体式による洋上風力発電所が営業運転に入りました。

五島列島で最も大きい福江島の沖合に設置場所を移して、5キロメートルの海底ケーブルを通じて島に電力を供給します。

発電能力は2MWで、年間の発電量は1700世帯分を見込んでいます。

愛称「はえんかぜ」で知られる日本で初めての浮体式による洋上風力発電所です。

風車の直径は80メートルに達して、最大で2MW(メガワット)の電力を供給できます。

実証事業では五島列島の椛島(かばしま)の沖合1キロメートルの場所に発電設備を設置していましたが、現在は五島列島の中で面積・人口ともに最大の福江島(ふくえじま)の沖合5キロメートルで運転中です。

発電した電力は海底ケーブルで福江島の変電所まで送電しています。

はえんかぜは全長が172メートルで、全体のほぼ半分が海中にあります。

円筒形の「ハイブリッドスパー型」と呼ぶ鋼とコンクリートの浮体構造物の上に、風力発電設備を搭載しています。

総重量は3400トンにのぼります。

大型の風車は後方から風を受ける「ダウンウィンド型」で、やや下側から風を受けた時に効率よく回転する方式です。


2012年9月には戦後最大級となる台風16号が五島列島付近を通過し世界で初めて台風の直撃に耐えた浮体式洋上風力発電になったといいます。