回転デトネーションロケットエンジン


セントラルフロリダ大学の研究

セントラルフロリダ大学(UCF)はアメリカ空軍研究所(AFRL)と共同で、デトネーション波と呼ばれる爆発的な燃焼波を利用した「回転デトネーションロケットエンジン(RDRE)」を開発しました。


従来のロケットエンジンよりも少ない燃料でより大きなパワーを生むため、ロケットの打ち上げコストの低減が期待されます。

研究結果は、2020年4月公開の『Combustion and Flame』に掲載されています。

回転デトネーションは、ロケットエンジンの内部で、連続的に回転しながら伝播する爆発的な燃焼現象です。

適切な量の推進剤をシステムに供給することで燃焼を維持します。

時速4500~5600マイル(約7200~9000km)という、音速の5倍以上の速さで燃焼エネルギーが伝播するため、エンジンボディは銅と真鍮で作り耐久性を保ちます。

エンジンは2重円筒形とシンプルな構造ながら効率が良いため、1960年代から研究されてきたが、使用する推進剤やそれらの混合方法など、実用化へはまだ課題が多いです。

研究チームは、エンジン内部に放出する水素-酸素推進剤のバランスに着目することで、連続デトネーションが可能なシステムを開発しました。

適切に推進剤を供給し続ければデトネーションは続きますが、適切でないと爆発するか燃焼速度が低下します。

研究を主導したUCFのKareem Ahmed助教授によれば、「部分的な水素-酸素混合物の混合を高めるためには、推進剤を放出するジェットのサイズを調整する必要がある」といいます。

合わせて、水素燃料と一緒にトレーサーを投入し、ハイスピードカメラを使ってデトネーション波を定量化しました。

「正確に内部で起こっている爆発を観察し、その動きを追跡するためには、トレーサーが必要になります。

デトネーション波の動きを特性化する方法の開発は、この論文のもうひとつの成果でもある」と、Ahmed助教授は語っています。

研究チームは、当量比や流量を変えながら、連続した5つの共回転デトネーションを確認し、このシステムが宇宙ミッション用の上段ロケットエンジンとしての可能性があることを示しました。

燃料の重量を減らせるので、軽量なロケットを使って、より遠方までクリーンな宇宙探査が期待できます。

「我々はRDREにおいて初めて、水素-酸素推進剤のデトネーションの機能性と安全性を実験的に証明した」と、Ahmed助教授は述べています。

今回の結果を受けて、RDRE内部の水素デトネーション燃焼について再検証しているプロジェクトもあるということです。


構造・メカニズム

回転デトネーション・エンジン [RDE:Rotating Detonation Engine] は、 爆発が回転するエンジンです。

- RDEのイメージ図 -
左) 全体:2つの同心円状の筒が組み合わせれ、その隙間(Gap)が示されている
右) 詳細:燃料(Fule)と酸化剤(Oxidiser) が隙間に入るルートが示されている 

燃料と酸化剤が混合され、点火により燃焼・爆発し 推力発生する という基本的なメカニズムは同じですが、この燃焼・爆発する部分が 従来と大きく異なります。
  

これまでは、燃焼器と呼ばれる 小さなタンクのような構造でしたが、RDEでは円筒2つに囲まれた 薄い筒の空間が相当し、ここで燃焼・爆発(D)が起こります。

最大の特徴は、その爆発が 周上で少しづつずれて起き、炎が 回転(R)して見える事です。
薄い筒の部分で起こる 燃焼・爆発のシミュレーション例


回転デトネーションエンジンのプロセス/Credit:AVBP CERFACS (gif)

大きなメリットは、これまでの液体燃料ロケットでは必要だった 大型のターボポンプや複雑な機械類の 加圧系統 が不要となり、低コストで高い安全性が狙えることです。

メカニズムも特徴的です。

最初は、水素と酸素を 燃焼室に送り込み、一発だけ点火されます。

その最初の爆発は、細い管を使って 超音速衝撃波を発生し、それが燃焼室に送られ 推力を発生すると共に、次の爆発(D:デトネーション)を誘発し 連鎖反応していきます。

回転により、最初の点火・爆発が継続されていきます。

RDE 点火スタートの一コマ 
Rotating Detonation Engine Start Up



動画にある実験で用いた試験機の図面



RDE試作品の点火試験


アイデアから、半世紀以上の時を経て 米国ワシントン大学で 基本的な実証が成功しました。

これには、試行錯誤・細かな調整、そして 精度の高いシミュレーション技術が必要でしたが、燃料効率が格段と向上すると期待され、面々と研究が継続されてきました。

質量的には 30%も削減できるという試算もあり、次の時代に、主流となるのは、このRDEかもしれません。

初号ロケットは 2025年となっており、期待が高まります。


日本での研究

RDEの研究は、日本でも行われています。

名古屋大学、慶應大学、JAXA、室蘭工業大学がチームとなり、エチレン/酸素 の組み合わせに挑戦中です。


慶応大学:回転デトネーションエンジンの排気流解析 (gif)



名古屋大学:回転デトネーションの試作エンジン と 滑走試験


米・ロシア・中国・フランスで研究
世界的には、米国を筆頭に、ロシア、中国、フランスでも研究が行われるという、世界的に注目の技術となっています。




Simulating Supersonic Combustion in a Rotating Detonation Engine


(Aerojet Rocketdyne)「エアロジェット、ロケットダイン社」では、不安定な「RDE」燃焼とタービンとの相互作用の実験を続けている。