32年間も飛行距離と滞空時間の世界記録を保持する人力飛行機

人力飛行機は、夏の風物詩のように毎年琵琶湖で開かれていた大会をテレビでよく見ていました。

ところが、人力飛行機の飛行距離と滞空時間の世界記録は、なんと32年間もの長い間、未だに破られていません。

その記録を打ち立てたのは、米国のMITで制作されたダイダロス88という人力飛行機です。



ダイダロス

ダイダロス(Daedalus)とは、1980年代後半にマサチューセッツ工科大学(以下、MIT)のリンカーン研究所で開発された人力飛行機、および一連の人力飛行機のシリーズです。

概要

ダイダロスはMITの学生・教授陣・卒業生で構成されたチームによってリンカーン研究所で製作されました。

全部で3機の機体が開発・製作され、3機目の機体ダイダロス88は1988年4月23日にギリシャ・クレタ島のイラクリオンからサントリーニ島までを飛行し、総飛行距離115.11km・飛行時間3時間54分を記録しました。

この記録はFAIにより飛行距離・滞空時間の世界記録として認定され、2020年現在でもその記録は未だに破られていません。

名前の由来はギリシア神話に登場する名工ダイダロスで、クレタ島からイーカロスとともに人工の翼を使って脱出するという神話にちなんで名付けられました。

ライトイーグル


ライトイーグル(Light Eagle)とは、ダイダロスの試作として製作された機体です。
正式名称はMichelob Light Eagle(MLE)で、クルーからは「Emily」という愛称でも知られていました。

1987年1月、エドワーズ空軍基地内のNASAドライデン飛行研究センターにて、同基地所属のGlen Tremmlをパイロットに迎えて記録飛行を行い、直線距離・周回コース無着陸飛行距離・滞空時間の世界記録を更新しました(飛行距離59.9km、滞空時間2時間13分)。

また、女性トライアスロン選手のルイス・マッコーリンをパイロットに迎えて記録飛行を行い、直線飛行距離・周回コース無着陸飛行距離・滞空時間の女性記録も更新しました(飛行距離15.44km、滞空時間37分38秒)。

記録飛行後、ライトイーグルはバージニア州マナサスに保管されていましたが、2008年よりダイダロスプロジェクトの参加者が設立したオーロラフライトサイエンスによって修復され、太陽電池を動力源とした無人飛行機「サンライトイーグル(SunLight Eagle)」として改造されました。

主翼に太陽光電池が取り付けられ、リチウムイオン電池と新しい駆動系が取り付けられましたが、機体の基本設計はそのままでした。

サンライトイーグルはFAAより耐空性証明を受け、また2009年5月にニューメキシコ州にて飛行試験が2度行われました。


ダイダロス87



「ダイダロス」として初めて製作された機体です。

1988年2月17日にドライデン飛行研究センターのロジャース乾湖にて飛行試験が行われましたが、飛行中方向舵の制御がきかなくなり、スパイラルダイバージェンスによりクラッシュしました。

このクラッシュにより右翼・胴体・プロペラが損傷しましたが、バックアップ機としてのちに修復されました。

ダイダロス87は2009年までボストン科学博物館に展示されていましたが、現在はワシントン・ダレス国際空港のターミナルB停留所に展示されています。


ダイダロス88


ダイダロス87に続いて製作された機体です。

パイロットにはロサンゼルスオリンピック自転車競技への出場経験を持つ、ギリシアのカネロス・カネロプーロスが迎えられました。

1988年4月23日に記録飛行がおこなわれました。

ギリシア・クレタ島のイラクリオン飛行場をスタート地点に、FAIの規定のもと自力水平飛行によって離陸しました。

飛行高度は5~10mを維持され、ボートの誘導にしたがって飛行を続けました。

サントリーニ島にさしかかったとき、観客が大勢いた狭いビーチを避けるため機体をビーチに沿うように方向転換させましたが、そのときビーチからの熱によって右翼の揚力が増してしまい、海側へ流されてしまいました。



さらに風によってテールブームがねじり下がったことでコントロールを失い、機首が上がり、加えて別の風によって主翼桁も下がり、そのまま海へ着水しました。

着水地点はサントリーニ島のペリッサビーチ沖7mの地点で、総飛行距離115.11km・飛行時間3時間54分がFAIより認められ、この記録はFAI公式の飛行距離・滞空時間の世界記録として認定されました。

この飛行中、パイロットが水平飛行を維持するために出し続けなければならなかった出力は、約4分の1馬力(約190W)程度でした。

現在、ダイダロス88はスミソニアン博物館に保管されています。

高翼、後尾翼、トラクター(前プロペラ)、リカンベント(仰向けのパイロット姿勢)という人力プロペラ機のスタイルは「ダイダロス型」と呼ばれ、今では最もポピュラーな形式になっています。


諸元


-Light EagleDaedalus 87/88
空虚重量41.7 [kg]31.8 [kg]
全備重量109.8 [kg]103.9 [kg]
スパン34.75 [m]34.14 [m]
翼面積30.65 [m^2]30.84 [m^2]
アスペクト比39.437.8
巡航速度6.3 - 8.0 [m/s]6.3 - 7.6 [m/s]
必要パワー0.30 [馬力]以下0.27 [馬力]以下