馳星周の「アンタッチャブル」を読んで

馳星周の「アンタッチャブル」を読み終わりました。

この前に読んだ「約束の地で」とは全く別の作者が書いたかのような趣の異なる小説でした。

一言で表現すると、「明るく楽しいドタバタ劇」といった感じです。

この「アンタッチャブル」、先に読んだ約束の地で」のいずれも直木賞候補となった小説です。

最初にこの小説を手にした時は、500ページ以上もあるため、分厚くて最後まで読み通せるか心配しましたが、隙間時間に読んでいる間に読み終わりました。


あらすじ

主人公の宮澤は、かつて交番勤務からたたき上げて26歳で所轄の刑事になり、4年前に待望の捜査一課に配属され、通算18年間必死に職務に励んできた30代半ばの巡査部長でした。

ある日、車で容疑者を追跡している途中で、信号無視の自転車を跳ねる事故を起こしてしまい、左遷されてしまいます。

異動先は警視庁公安部外事三課の窓際部署である資料室でした。

直属の上司は、「公安のアンタッチャブル」と呼ばれた190cmはあろうかという巨漢の警視である椿でした。

椿警視はかつて東大法学部を主席で卒業、国家公務員Ⅰ種試験をトップ合格し、その知性はずば抜けていました。

加えて父は外務省キャリアで駐米大使を務めたこともある大物で、母方の祖父は流通業界で名を馳せた名物経営者でした。

そのような経歴の持主だった椿警視は、かつて将来は警察庁長官かと噂された有能な超エリートキャリアだったものの、最愛の妻が、同僚の出世競争から脱落した元キャリアの塚本と浮気し、妻と離婚して塚本と再婚したのを境に頭がおかしくなってしまったといわれています。

椿警視は頭のねじはゆるんでしまったものの、目の届かないところに追いやったら何を言い出すかわからないし、かつて極秘資料にも目を通していたので、それが外部に漏れたら公安警察は大打撃を受けるため資料室に押し込められたのでした。

これが椿警視が「公安のアンタッチャブル」と呼ばれるようになった由縁でした。

宮澤から見ても、周囲を全く顧みず、飄々とした椿の行動は、禁煙である署内でパイプをふかしたり、ホームレスを北朝鮮の工作員だと思い込むなど、明らかに異状でとてもまともとは思われませんでした。

そんな椿に宮澤は、北朝鮮の女性スパイと思われるイ・ヒョンジョンを監視し、テロを未然に防ぐのに協力するよう求められます。

しかし、イ・ヒョンジョンは、ソウル大学で日本語と日本文化を学び、来日して日本で通訳の仕事をしている、ただの一般人でした。

椿の荒唐無稽な発言や、横暴とも思える行動に辟易しながらも、宮澤は椿と行動をともにするうちにイ・ヒョンジョン北朝鮮のスパイである証拠が発見され、ストーリーは大きなテロ事件へと展開していきます

何とか捜査一課へ戻りたい宮澤は、外事三課の滝山課長に脅されて、椿と追っている捜査の内容を漏らします。

そして、椿と宮澤の2人で追っていた捜査は、瞬く間に外事三課全体を巻き込んで、大量の捜査官を動員し、警察庁全体を揺るがす大事件に発展することになります。


読者は、イ・ヒョンジョンの点検作業で何度も巻かれる宮澤とともに、どこまでが本当で何が嘘か分からなくなるほど、疑りながら事件の筋を追っていくことになります。


宮澤の車に跳ねられ植物人間となってしまった中年男の娘である浅田千沙が、椿に言いくるめられて、いつのまにか宮澤の婚約者となり、宮澤の捜査に協力するようになります。


また共産主義者イラストレーターの老婆である佐藤節子や、椿家の渡会執事などのキャラクターが椿の捜査に協力して、話はコメディータッチでテンポ良く進んでいきます。

最後の結末に、少し納得のいかないところもありますが、さらにその裏があるのではとつい勘ぐってしまいます。

この続編もあるようなので、いつか読んでみたいと思います。