サッチャー錯視の不思議





サッチャー錯視

サッチャー錯視(サッチャーさくし、 Thatcher illlusion)は、上下を反転させた倒立顔において、局所的特徴の変化の検出が困難になる現象です。

同一の変化は、正立顔では簡単に検出できます。

この錯視はヨーク大学のピーター・トンプソン(Thompson)が発表した"Margaret Thatcher : a new illusion"という論文にもちいられたイギリス元首相マーガレット・サッチャーの画像にちなみ命名されました。

これは、彼女の写真を用いたとき錯視が顕著にあらわれたことによります。

上のサッチャー元首相の写真で、まず最初に上の正立した写真の下の少し加工された倒立した写真を見ると、何の違和感もありませんが、その下の正立した写真を見たとたん、目と口が上下逆さであることが分かります。

概要




上の倒立した写真を見ると、ごく普通に見えますが、下の写真は随分と奇妙に見えます。

実はこれ全く同じ写真です。

どちらも、目と鼻を垂直に反転し加工しています。

ただ1つ違うことと言えば、写真が上下逆さ(左)になっているか、正立(右)になっているかだけです。

「これらの変化は、写真を普通に見ると明らかです。

しかし、写真が逆さまに提示されたとき、私たちは変化に気づかないのです」とスミス博士は語ります。

サッチャー錯視は「顔認識の倒立効果」という心理学的現象としても知られていて、私たちが顔を上下反転して見ると、顔のパーツを正しく認識できていないことを示しています。

この効果は、倒立した2つの同一の写真を用いて示されることが多いです。

片方の写真ははっきりと(かつきわめてグロテスクに)改変され、目と口が垂直方向に反転していますが、この変化は写真が正立しないかぎりははっきりとは分かりません。

こうした現象が生じるのは、特別な心理的な過程が顔知覚にはたらいており、正立顔が特に効率的な処理を受けるためであると考えられています

顔はそれぞれの類似性がきわめて高いにも関わらず、ある顔が他の顔と同じように見えることはありません。

我々は、顔を区別するための特別な過程を発達させており、顔処理の過程は全体的な配置(顔にある個々の特徴の構造的な関係)と同様に、などの個々の特徴の細部に依存していると推測されます。

顔が倒立したときには、配置についての処理は生じないため、小さな違いであっても検出するのはより困難になります。

こうした効果は、相貌失認の患者では生じません。

相貌失認とは、脳手術や病気などによって、顔の処理が阻害される障害です。

相貌失認(そうぼうしつにん、Prosopagnosia)は、脳障害による失認の一種で、特に「顔を見てもその表情の識別が出来ず、誰の顔か解らず、もって個人の識別が出来なくなる症状」を指します。 

俗に失顔症とも呼ばれます。

頭部損傷や脳腫瘍・血管障害などが後天的に相貌失認を誘発する要因となります。

このことは、特定の脳部位の損傷により、顔の構造を解析する過程が障害されることを示唆しています。

応用

昨年「サッチャー・イリュージョンカード」という、この錯視を利用した商品が出て話題になりました。

顔の画像の一部を変形すると不気味な印象を引き起こすはずなのに、同じ画像をひっくり返してみせると、そういう印象があまり起こらない、という現象を利用したものです。