わずか30cm上の高さでも時間の遅れがある


一般相対性理論の1つである「
時間の遅れ」は、ある2地点にかかる重力が異なる場合、2地点の時間がそれぞれ異った進み方になるという現象です。

「重力が異なる」と言うと、地球上と宇宙くらいの差が必要なように思えますが、実際には地球上でもわずか33cmの高低差で時間の遅れが観測できることが明らかになっています。

きわめて正確な原子時計を使って、科学者たちが「時間の遅れ」を観測しました。

これは、[運動や重力によって]時間の進み方に違いが生じるという奇妙な現象であり、アルベルト・アインシュタインが相対性理論において予言していたものです。

「非常に精度の高い現代の技術をもってすれば、とらえるのが困難なこれらの効果を、リビングルームのような場所でも観測することができる」と、セントルイスにあるワシントン大学の物理学者Clifford Will氏は話します。

時間の遅れ現象は、2つの状況下で起こります。

1つは、地球など巨大な物体の近くにいるほど、時間の進み方は遅くなるというものです。


たとえば、熱気球に乗って上空にいる人は、地上に立っている人よりも速く年を取ることになります。

一般相対性理論によると、重力は時空を歪ませ、時間の進みを遅らせます。

このため重力場の存在する惑星上では、重力の無い宇宙空間に比べて時間がゆっくり進む事になります。

もう1つは、静止している状態では、動いている状態と比べて時間が速く進むというものです。

この2番目の奇妙な理論は、アインシュタインが[特殊相対性理論として]提示した後、「ウラシマ効果」として知られるようになりました。

つまり、25歳になる双子の兄が、ロケットに乗って光速に近い速度で移動する場合、数ヵ月後に地球に戻ってみると、双子の弟はすでに中年の年頃になっているという思考実験です。

この際に生じる理論的パラドックスを双子のパラドックスと呼びます。


一般および特殊相対性理論が予測したこの奇妙な現象は、すでにロケットや航空機を用いた実験で証明されています。

航空機に載せた原子時計の進みがごく僅かに遅れる事が、実験によって確認されています。

また、地球に近いほど時間の進み方が遅くなるということについては、ハーバード大学にある物理学研究棟で実験が行なわれ、実証されています。

1960年、パウンドとレプカは可視光よりもずっと振動数の高いガンマ線での無反跳共鳴吸収効果(メスバワー効果)を利用して、ハーバード大学の時計台での22メートルの高低差で 2.4 × 10-15 という非常に小さいずれを検出することができました。

GPSデバイスなどの時計も、相対性理論的な影響を受けるため、正確に時を刻み続けるように適宜補正がなされています。

GPSでは、GPS衛星の周回運動による時間の遅れと、重力場の影響によるシグナル到達の時間の遅れを考慮する必要があります。


地球上の測定器が受信する信号が正確に処理されるように、衛星側の内蔵時計は、毎秒100億分の4.45秒だけ遅く進むように補正が行なわれています。

『Science』誌の2010年9月24日号に発表された今回の研究は、コロラド州ボールダーにあるアメリカ国立標準技術研究所(NIST)で行なわれたものです。

アメリカ国立標準技術研究所(NIST)の研究チームが2010年に行ったこの実験によって、わずか33cmの高さでも時間の遅れが発生することが明らかになりました。


実験では、原子などのスペクトル線を用いて時間を計る原子時計が使われています。

原子時計は数ある時計の中でも非常に正確な時間を刻むことが可能な時計で、動作中に生じる誤差は精度の高いものだと3000万年に1秒ほどであるとのことです。

NISTの研究チームは、2010年時点で世界最高レベルの性能を持った原子時計2台の動作を比較することで実験を実施しました。

時計はどちらも、帯電したアルミニウム原子のエネルギーレベルが変わるときに発生する1000兆回以上の振動を利用して時間を測定する時計です。

2つの時計はそれぞれNISTの別の研究室に置かれ、長さ約75mの光ファイバーで接続されていました。

実験では、まず原子時計の1つを研究室の床に置き、もう1つを床から約33cm高い位置に置くことで、それぞれの時間の進み方に差が生じるかを測定しました。

その結果、非常にわずかな差で高い位置にある時計は時間の進みが早く、低い位置にある時計は時間の進みが遅いという結果が得られ、たった33cmの差でも時間の遅れが生じていることが明らかになりました。

なお、実験で観測された時間の遅れは人間が知覚できないほど非常に小さなものでした。


研究チームによると、「人間が地球上で一生のうちに経験する時間の遅れは人生を約80年とした場合、約900億分の1秒ほどである」とのことです。

NISTの研究員で、論文の筆頭著者であるジェームズ・チンウェン・チョウ氏James Chin-wen Chouは、アルミニウムを用いた原子時計が極めて高い精度を持っていたことから、時間の遅れを実証する小さな変化を検出することができたと述べています。

2020年においては、時間の遅れを検出するために原子時計の一種である光格子時計などを使った実験が行われており、日本でも東京スカイツリーの展望台と地上の間で発生する時間の遅れを観測することに成功したことが、東京大学の研究チームによって報告されています。