テロメアを伸ばす方法


テロメアとは

テロメア (telomere) は真核生物の染色体の末端部にある構造です。

染色体末端を保護する役目をもちます。

telomere はギリシア語で「末端」を意味します。

 τέλος (telos) と「部分」を意味する μέρος (meros) から作られた語です。

末端小粒(まったんしょうりゅう)とも訳されます。

細胞の染色体の末端部分にある、遺伝情報が入っていない特殊な構造物がテロメアです。

テロメアの本来の役割は、染色体を保護し、染色体同士がくっついたりするのを防ぐことです。

細胞が分裂するたびにテロメアは短くなっていき、ある程度まで短くなると細胞はもう分裂できなくなります。

そのため、「老化の回数券」「命の回数券」「命のロウソク」とも呼ばれます。

実際、赤ん坊のテロメアは長く、老人のテロメアは短いといわれます。


テロメアが短くなると

そもそも染色体とは、ゲノムDNAにヒストンなどのたんぱく質がくっついて小さく折りたたまれたものです。

DNAには4種類の塩基に遺伝情報が書き込まれています。

4種類の塩基とは、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)です。

DNAの上にはこの4種類の塩基があり、その並び方によって、すべての遺伝情報が伝えられます。

哺乳類の場合、DNAの末端部分は「TTAGGG」という6個の塩基のセットがいくつも続く形になっています。

この6塩基のリピート部分がテロメアです。

ここには遺伝情報が入っていません。

つまり、なくなっても大丈夫なようにできています。

細胞が分裂するときDNAがコピーされますが、完全にコピーすることはできず、末端の部分だけ欠けてしまいます。

この欠ける部分がテロメアです。

染色体として見ると、細胞分裂する度に末端部分のテロメアが欠けて、短くなっていくことになります。

「テロメアが一定以上に短くなると、染色体同士がくっついたり、染色体がちぎれたりすることで、異常な染色体ができてしまいます。

そのため、あるレベルまでテロメアが短くなると細胞は分裂しなくなります。


テロメアと動脈硬化

テロメアの長さは血液中の白血球やリンパ球で調べることができます。

一般に赤ん坊より老人のほうがテロメアは短いように、ある程度は年齢に比例しますが、個人差が大きく、年齢が同じでもテロメアの長さが同じとは限りません。

血管年齢のように、テロメア年齢という表現はできるかもしれませんが、細胞の老化はテロメアの長さだけでは決まりません。

活性酸素による酸化ストレスなど、他の要因もあります。

つまり、テロメアの長さは「細胞の老化度」を見るひとつの尺度にはなりますが、それだけで「あと何年生きられます」と単純に寿命を判断することはできません。

とはいえ、テロメアが短いということは、それだけ細胞が老化しているとはいえます。

実際、テロメアが短い人は動脈硬化が進んでいることが多い、といった報告はいくつもあります。

テロメアが短い人はがんになりやすい、テロメアが短いと心疾患と脳血管疾患のリスクが高くなる、といったことも確認されています。


テロメアは“若返る”

テロメアはすり減っていく一方ではありません。

最近の研究から、運動などの生活習慣によってテロメアが伸びることが分かってきました。

テロメラーゼというテロメアを伸ばす酵素があります。

これがあれば細胞が分裂してもテロメアは欠けません。

近年生物学者のブラックバーン博士らはテロメアを伸ばす酵素「テロメラーゼ」を発見、ノーベル賞を受賞しました。

それならばテロメラーゼを摂取して、少しでもテロメアを伸ばしたいところですが、マウスを使った研究では、若返りはしたものの形の悪い染色体ができ、がんを起こす結果になりました。

人工的なテロメラーゼの摂取は安全性に課題を残しています。

生活習慣を改善することでテロメラーゼが活性化され、テロメア寿命を延ばすことができます。

ちなみに精子や卵子を作る生殖細胞やiPS細胞(人工多能性幹細胞)はテロメラーゼが活性化しているため、何回分裂してもテロメアが短くならない“不死の細胞”です。

同じ平均年齢51歳の集団で、若い頃から運動習慣のある人たちと、ない人たちの白血球を調べた研究があります。

運動している人たちのほうがテロメラーゼ活性が高く、テロメアも長かったという結果が出ています。

カリフォルニア大学予防医学研究所のディーン・オーニッシュ所長は、35人の男性のうち10人にライフスタイルの改善を指導しました。

低脂肪で野菜や果物の多い食事、週5回以上の有酸素運動、ストレス管理など、トータルで「健康的な生活」を送ってもらいました。

5年後に採血してテロメアの長さを測ると、何もやらなかったしなかった人たちが3%短くなっていたのに対し、指導を受けたグループは逆に10%長くなっていました。


座っている時間が長いとテロメアは短くなる

大阪大学が40~70代の日本人約8万人を19年間追跡した調査があります。

1日のテレビ視聴時間が2時間延びるごとに肺塞栓症による死亡率は1.4倍高くなり、1日5時間以上テレビを観る人の死亡率は2時間半未満の人の2.5倍でした。

スウェーデンで平均68歳の49人を運動するグループとしないグループに分けて、運動とテロメアの関係を調べました。

6カ月間運動を続けた人たちは体重や体脂肪率が減少しましたが、意外なことにテロメアの長さは運動量とは関係ありませんでした。

ところが運動と別に「1日に座っている時間」を調べてみると、座っている時間が短い人ほどテロメアが長いことが分かりました。

テロメラーゼ活性を高めてテロメアを伸ばすには、まず健康的な食生活や運動を心がけることと、まめに席を立ち、長時間座りっぱなしでいないことが大切です。


テロメアを伸ばすライフスタイル

1)軽度~中程度の有酸素運動30分~40分を週3回程度行うこと。

2)精製された食品、加工食品が少ない、野菜が多く、魚、海藻なども取り入れた食事を摂ること。

3)7時間以上の睡眠を習慣的にとる。

4)友人やパートナーとの良好な関係を保つこと。


食事

細胞を老化させない食品5つ

①豆類 サラダにビーンズ。

②海藻 ひじきやわかめ、のりなど。

③果物 

④ナッツ類 アーモンド、クルミ。

⑤乳製品 ナッツをトッピングしたヨーグルト。

逆にとり過ぎると、良くない食品は

①赤身肉などの肉類

②甘い炭酸飲料


テロメアと認知症

2,000人の脳の画像とテロメアを分析したところ、テロメアが減って短くなった人ほど脳が委縮していました。

とくに、記憶をつかさどる「海馬」の委縮が顕著でした。

ハンティントン医療研究所 ケビン・キング医師によると
「海馬が縮小すると、認知症のリスクや脳機能が衰えるリスクが高くなると考えられます。テロメアの短縮が、脳の老化に深く関係しているのです」


簡単にテロメラーゼを増やす方法

アメリカでは、自宅でもできる簡単な方法でテロメラーゼを増やすことができないか実験が行われました。

それは、「瞑想」です。

呪文を唱えながら指先を動かし、頭の中に光が差し込むような光景を思い浮かべるヨガの瞑想。

これを40代以上の女性に毎日12分、2ヵ月続けてもらいました。

その結果、23人のテロメラーゼは平均で43%も増加したのです。

実験を行った、カリフォルニア大学ロサンゼルス校ヘレン・ラブレッキー教授は以下のように述べています。

「ストレスを受けると交感神経が働き、カラダの緊張が高まります。逆に(リラックスさせる)副交感神経の働きは低下します。瞑想によって2つの神経バランスが良くなり、テロメアにも良い影響があると考えられます」