名大とJAXAがデトネーションエンジンの宇宙実証試験に成功

名古屋大学(名大)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は8月19日、衝撃波に伴って化学反応による熱解放が行われることで、可燃性ガスを高速燃焼させることができる「デトネーション」現象を利用した次世代のロケット・宇宙機用エンジン「デトネーションエンジン」の宇宙飛行実証に成功したことを発表しました。


ノズル後方に搭載されたカメラにより撮影された、回転デトネーションエンジンが宇宙空間において作動した瞬間の様子。オレンジ色に光っているノズルが、二重円筒型の回転デトネーションエンジンの燃焼器部分。

デトネーション(detonation)とは、爆発・爆発音という意味もあるが、今回の場合は燃焼現象のことを指すことから「爆轟」と訳されるといいます。

しかし爆轟だとわかりにくいため、「極超音速燃焼」などとも呼ばれます。

現象としては、衝撃波に伴い、化学反応による熱解放が行われるというものであり、その伝播速度は毎秒約2kmにもなるため、可燃性ガスを高速で燃焼させることが可能です。

地上付近での音速が毎秒約340mであることを考えると、およそマッハ5~6の速さということになります。

デトネーションエンジンのシステム全体像 (C)名古屋大学 (出所:名大プレスリリースPDF)

同燃焼現象を利用したデトネーションエンジンは、高い周波数(1~100kHz)でデトネーション波や圧縮波を発生させることにより反応速度を高めることで、ロケットエンジンの軽量化と高性能化を実現しようというものです。

室蘭工大の白老試験場における、デトネーションエンジンの地上燃焼試験の様子 (C)名古屋大学 (出所:名大プレスリリースPDF)

従来のロケットエンジンに比べ、デトネーションエンジンは「革新的」ともいえるほどだといいます。

ロケットや探査機などの宇宙用エンジンを高性能化しつつ軽量化を図ることができることから、デトネーションエンジンの実用化を目指した研究が盛んに行われています。


今回、研究チームが開発したデトネーションエンジンシステムは、観測ロケット「S-520-31号機」のミッション部に搭載され、2021年7月27日午前5時30分にJAXA内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられました。

第1段ロケットの分離後、宇宙空間にて推力500Nの「回転デトネーションエンジン」を6秒間作動させたほか、姿勢制御用である「パルスデトネーションエンジン」も2秒間の作動を3回、計画通りに正常に動作させることに成功しました。

このときに取得された画像、圧力、温度、振動、位置、姿勢などのデータはすべてテレメトリおよび展開型エアロシェルを有する大気圏再突入カプセル「RATS」の洋上回収によって無事取得されました。

今回の宇宙飛行実証実験の成功により、デトネーションエンジンは、深宇宙探査用キックモーター、ロケットの初段・2段エンジンなどとして実用化に大きく近づいたといいます。

デトネーションエンジンシステム(DES)の概要図。図(左)から、DESアビオニクス(DES-PDU、DES-MCU、PI-BAT-L)、メタン・酸素・窒素のガスタンク、ガス供給システム、パルスデトネーションエンジンのノズル部、回転デトネーションエンジン(RDE)のノズル部、そしてRDEノズル部を撮影したカメラとKu-TV用アンテナ (C)名古屋大学 (出所:名大プレスリリースPDF)

既存のロケットエンジンがデトネーションエンジンとなることで、エンジンの軽量化と高性能化を同時に実現できるため、将来的にロケットのエンジンはデトネーションエンジンへと置き換わっていくことになるだろうと研究チームでは説明しています。

またJAXAでは、今後デトネーションエンジン技術を深宇宙探査ミッションなどに展開することにより、探査機システムの小型軽量化、惑星間航行など、より遠くに、より自在な宇宙探査を実現できるように宇宙科学研究に役立てる計画としているほか、研究チームは2023年度に、さらに高性能化したデトネーションエンジンで、再びS-520観測ロケットによる実証実験に挑戦するとしています。


これまでのロケットエンジンが燃料と酸化剤を連続で燃焼室に送り込み、燃焼したガスを噴き出して推進力を得るものに対して、デトネーション方式のエンジンは、燃料(今回はメタンガス)と酸化剤の混合ガスを燃焼室に注入、点火爆発を繰り返し連続で起こします。

これまでの連続燃焼式のロケットが、大量の極低温の燃料(液体水素)と酸化剤(液体酸素)を、高温高圧の燃焼室に途切れることなく、強い圧力で正しい量の極低温の液体を供給する必要があり、技術的に大変に難しいものでした。

日本はH2ロケット用のLE-7エンジンを完成し、現在は後継のH3ロケット用のLE-9エンジンを開発中です。

LE-7、LE-9エンジンは地上から重量物を一気に衛星軌道に打上げますが、このデトネーションエンジンシステムDESは爆発1回ごとに燃料を入れるので、その間にエンジンを冷却させることができ、注入時は燃焼室の圧力が低いので推進剤のポンプの負担は大幅に軽くなります。

DESは宇宙空間で使うのであれば、第2段目以後のロケットエンジンとしては十分な推進力が有り、構造が単純なので低価格化が可能です。

DESの爆発は、圧力波が音速を超えた衝撃波、つまりデトネーション(爆轟)であり、従来のロケットの連続燃焼型とは違います。実際には、デトネーションを繰り返し連続で作る、パルスデトネーション方式がロケット用には使われます。

JAXAが打ち上げたS-520ロケットのDESは、パルスデトネーション方式に加えて、回転デトネーション方式も試験しました。

回転DESは、径の異なる円筒の隙間に推進剤を回転させながら吹き込んで点火し、デトネーションを回転しながら生じるものです。

大推力が得られますが、安定したデトネーションを得るのはまだまだ難しいようです。

はやぶさのイオンエンジンが、わずかな推進力を長時間発生させて枠星間飛行をしたのに対して、DESは地球の引力から抜け出す2段目ロケット用のエンジンとして想定しており、大きな力も出せます。

DESは日米欧そして多分中国も、実用化を競っています。

JAXAは、西側グループとして宇宙空間での実験を初めて行ったとのことで、パルスデトネーションと回転デトネーションの両実験を行いました。

共に数秒間の燃焼を数回行い、成功とのことですが、宇宙空間で長時間の安定な燃焼を達成するのはまだです。