手の擦り傷を早く治す方法


車を弄っていると、不注意で、つい手に擦り傷をつくることが多くなり、いつも手に生傷が絶えません。

手の擦り傷を直す方法としては、水道で洗う、消毒をする、赤チンを付ける、バンソコウを貼る、というのが昔からの方法でしたが、最近はどうも違うようです。


湿潤療法

傷口を乾燥させずに潤わせた状態を保つ方法を「湿潤療法(しつじゅんりょうほう)或いは湿潤治療(しつじゅんちりょう)」と言います。

湿潤療法は、創傷(特に擦過傷)や熱傷、褥瘡その他の皮膚潰瘍に対し、従来のガーゼを当て消毒薬による消毒をすると言う治療から、消毒をせず、創傷部を乾燥させず、ガーゼの代わりに創傷被覆材(ドレッシングフォーム)を使用する、従来とは異なる治療法です

1980年代より、湿潤環境を保ち傷を治すという概念はすでに存在していました。

日本国内でも、ようやく2001年ごろから賛同する医師らによって急速に普及が図られています。

湿潤環境下の方が創傷の治療経過が良いことは、欧米においては1960年代後半から臨床報告で知られており、これを応用した治療法は Moist Wound Healing と呼ばれていました。

湿潤療法で、擦り傷や切り傷を早くキレイに治すためポイントは、以下の通りです。

1)消毒液は使わず、流水(=水道水)で傷をキレイにします。

大量の水道水、あるいは清潔な水で傷口の汚れを完全に洗い落とします。

この時、決して消毒を行ってはいけません

必要であれば、圧迫によって止血を行います。

止血が困難な場合などは、家庭で治療を行うべきではありません。

2)傷は乾燥させずに潤った状態をキープします。

3)絆創膏やキズパワーパッドで傷を守ります。

出血が止まったら、ラップなどの創傷被覆材ドレッシング材を傷より大きめに切り、患部に当てます(保湿効果のある白色ワセリンをラップに塗り患部に当てます)。

貼ったラップを包帯、医療用紙テープなどにより固定します。

4)傷をキレイに保つ

ラップは、毎日傷を洗って貼り替えます。


水道水で傷口を洗う

傷口をしっかり消毒しないと、ばい菌が入って腫れてしまったり化膿したりすると思われがちですが、現代の科学では、むしろ逆で「消毒液を使うと、傷を治すための細胞まで殺してしまい、治りが遅くなる」と言われています。

ではどうするかといえば、「水道水で洗ってキレイにする」ことが大切です。

蒸留水やミネラルウォーターなどの特殊な水を使う必要は全くありません。

転んでしまってすり傷ができた、という場合は、まず水道を探して、水を流しっぱなしにしながらたくさんの水を使って、傷口から砂や土をしっかり落としてキレイにします。

キズを洗い流すには、水道水(流水)が最適です。

水道水は塩素消毒してあり、雑菌がほとんどいないからです。

砂や土などが傷に残ったままになってしまうと化膿しますので、しっかりと水で洗浄することがまず何より大切です。

傷口を洗うときは、石鹸やボディーソープなどを使う必要もありません。

合成界面活性剤が使われているタイプのせっけんや液体ソープで傷口を洗うと、皮膚の細胞膜が壊されて傷を深くし痛みも増すことがあります。

とにかく「傷口に異物が残らないようにする」ことがポイントです。


擦り傷は乾燥させない

すり傷や切り傷ができて、水でしっかりと傷口をキレイに洗い流したら、次はその傷をキレイなままキープする必要があります。

上記した「消毒液は使うべきではない」と同じように、傷口をキレイにキープする方法も、数年前までは「バンドエイドを貼って傷口を守っておけば、数日するとかさぶたができて、やがてかさぶたが剥がれて治る」というプロセスがベストだと思われてきました。

確かにこの方法でも傷は治るのですが、早くキレイに治すためには、「かさぶたを作らずに治す」方法の方がより早くキレイに傷が治ります。

浸出液の多いときは、1日2回洗浄します。

浸出液には、傷を治すために必要な成分がたくさん含まれています。

かさぶたを作るよりも早く、きれいに治せます。

傷口をキレイなままキープするには、ワセリンやオロナイン軟膏などを傷口に塗って、乾燥させずに潤った状態にするのがベストです。

特にワセリンは、このような傷の処置にも使えますし、乾燥肌にも使えます。

寒い地域にいる人や水を扱う仕事をしている人は、手のあれやアカギレにもワセリンが使えます。

ちょっとした傷であればワセリンだけ塗って放置します。

風呂に入るときに傷を洗って、出たらワセリンを塗ります。

湿潤治療は、その名の通り「傷口を湿らせて治す」治療法で、傷が治る過程で体内から排出される、皮膚や組織を再生させる体液を傷口に保ち続ける、というのがコンセプトです。


ワセリンの上から絆創膏や包帯

傷口を水でキレイにして、ワセリンを塗って乾燥を防いだら、傷を早くキレイに治す環境はこれで充分整ったといえます。

しかし、その傷口に何かが直接当たってしまうと、痛いのはもちろん、さらに傷を悪化させてしまう可能性がありますので、絆創膏(ばんそうこう)を貼ったり、保護パッド+包帯・自着性テープなどを使って、傷を守ります。

ワセリンを塗っているので、あまり小さい絆創膏だとうまく貼れません。

大きめの絆創膏を用意しておくと良いです。

スポーツをする人は、大きな傷口保護パッドのようなものを傷口に置いて、その上から包帯を巻いたり、肌にくっつかずテープ同士がくっつく自着性テープを巻くと、運動中に絆創膏が剥がれてしまうということが防げます。

ハイドロコロイドと呼ばれる医療用の素材で作られた絆創膏は、傷口が乾燥しないように潤った状態を、貼るだけでキープすることができます。

ドレッシング材のハイドロコロイドを利用した医療用具製品が、2004年にジョンソン・エンド・ジョンソンから「バンドエイド キズパワーパッド」が一般向けに発売されたのをきっかけに、他社からも類似製品が発売されるようになりました。

キズパワーパッドは、ワセリンを塗る必要がないので大きいサイズの絆創膏である必要もなく、傷口さえ覆えれば問題ありません。

密閉タイプ(湿潤療法)の絆創膏がなければ、白色ワセリンをラップに塗り患部に当て、ラップの上からガーゼや包帯を当てて保護する方法もあります。

ラップは1日に一回交換します。

夏などは1日に数回取り替えます。

この際、流水などで創傷の周囲を洗います。

特に夏場にかぶれなどにより傷の周囲に痒みが強くなるので、夏期にラップ療法を行うのは困難なことが多いです。

そのような時は、医師の診察を受けるべきです。


擦り傷は1日1回キレイに洗う

傷はキレイにキープし続ける必要があります。

1日に何度も何度も洗う必要はないですが、汗をかいた後や、シャワーを浴びたときなどには、傷をしっかり洗います。

何か異物がついていないかも確認します。


上皮化完了後は紫外線に注意

上皮化が完了すれば、治療完了となります。

上皮化のサインとして、傷がピンク色になり新たな皮膚ができ、痛みがなくなります。

上皮化してすぐの皮膚はしみになりやすいため、少なくとも一ヶ月は紫外線に注意します(衣服により物理的に日光を遮断するなど)。


湿潤治療をやってはいけないケース

NPO法人 創傷治癒センターによると、湿潤治療が不適切なケースもあるようです(参考資料:不適切な湿潤治療による被害 いわゆる“ラップ療法”の功罪)

縫う必要があるくらいの深いキズの場合は、放っておいても治らないので、すぐに病院(形成外科・外科・皮膚科・救急外来など)に行く必要があります。

縫うくらいの深いキズなのか迷う場合も、病院に行きます。

動物に咬まれた傷も、医師に診てもらいます。

わからないときは自分で判断せず、専門家に任せることが必要です。

糖尿病や末梢動脈疾患を持っている人には適していない治療法です。

それ以外にも、治癒過程でなにか異変や違和感を感じた場合はすぐに医師に相談することが大切です。

また、「感染症」による腫れや傷などは、密閉しては逆効果です。

もしその腫れや傷がズキズキしていつまでも痛みが和らがない場合は、それは感染によるものの可能性があるので、すぐに病院へ行く必要があります。