ガブリエル・ゼヴィン作「書店主フィクリーのものがたり」を読んで


ガブリエル・ゼヴィン作「書店主フィクリーのものがたり」を読み終えました。

この小説は、本屋大賞翻訳部門で1位となった作品です。

ちょっと風変わりな本好きな書店主の物語です。


あらすじ

主人公は、インド系アメリカ人、A・J・フィクリーです。

舞台は、マサチューセッツのアリス島にあるたった一軒の本屋、アイランド・ブックスです。

物語の始まりは、ナイトリー・プレスという出版社の営業であるアメリア・ローマンが、アリス島に渡るところから、始まります。

アメリアは、フィクリーよりも10センチは背が高いブロンドの女性でしたが、フィクリーに散々嫌味を言われて追い返されてしまいます。

本屋は、元々島出身の美人の妻ニックから持ち掛けられて始めたのでした。

本屋のほとんどのイベントは、妻が切り回していました。

ところが、ある書店イベントがあった日、自動車免許を持たないフィクリーにかわって、当時妊娠していた妻のニックが作家をフェリーの最終便に間に合わせるため車を走らせていたところ、車は湖に突っ込んで、妻は亡くなってしまいます。

妻の死後、フィクリーは酒浸りになり、ますますひねくれた変人として日々を送ることになります。

ある日、フィクリーが酔いつぶれた翌日、彼が所蔵していたエドガー・アラン・ポーの稀覯本『タマレーン』が盗まれました。

『タマレーン』は40万ドル以上の高値で売れたかもしれませんでした。

数日後、フィクリーは店内の通路の床の上に2歳の女の子が置き去りにされているのを見つけます。

母親からの「どうぞお願いを」という置手紙を読むと、女の子の名前はマヤということが分かりました。

マヤはライトブラウンのふさふさした巻き毛、目は赤味を帯びた青、褐色の肌はフィクリーよりもほんのり淡い、それは愛らしい小さな女の子でした。

翌日、マヤの母親の21歳の黒人女性マリアン・ウォレスが、12月のアリス島の冷たい入り江で溺死体として見つかりました。

フィクリーはマヤを警察に届けますが、養女として育てる決心をします。

数年後、フィクリーは、手ひどい仕打ちをして追い返したアメリアと仕事を通じてやりとりしているうちに、彼女に魅かれていきます。

アメリアもフィクリーを感性を共有できる人として認めるようになります。

フィクリーは、アメリアがフィアンセと別れたことを知り、ある作家のサイン会イベントを利用して彼女に結婚を申し込もうとします。

イベントは招待した作家が酒を飲みすぎ散々な結果に終わりましたが、フィクリーはアメリアと再婚することができます。

こうして、フィクリー、アメリア、マヤとの生活が始まり、マヤは本好きな女の子へと成長していきます。

しかし、フィクリーは脳を病魔に蝕まれていました。

多額の治療費がかかることから、フィクリーは手術をしないことを決めました。

フィクリーのかつての妻ニックの姉で学校の教師である51歳のイズメイは喧嘩の末、作家であった夫を交通事故で失いますが、しばらくしてから幼馴染でもあった警察署長のランビアーズと一緒に暮らすようになります。

ランビアーズは、クロゼットの一番上の棚にマヤの名前が書かれたリュックサックの中に、表紙にクレヨンの落書きがある「タマレーン」を見つけます。

実はイズメイの夫は浮気性の男で、作家である彼のファンであったマヤの母親マリアンと一度関係を持っていたのでした。

マヤは白人の作家と黒人の母親の間にできた混血の子供でした。

当時大学に通っていたマリアンに経済的援助を申し込まれて、イズメイが義弟から「タマレーン」を盗んでマリアンに与えたのでした。

しかし、警察から捜索の手がまわり「タマレーン」は売れず、マリアンからイズメイの元へ返されたのでした。

しかし、当時2歳だったマヤが、マリアンとイズメイが話をしている隙に「タマレーン」の表紙にクレヨン書きをしてしまったのでした。

マリアンとマヤが去った後、残されていたのが、クレヨンで傷物になってしまった「タマレーン」とマヤのリュックサックでした。

イズメイから話を聞いたランビアーズは、「タマレーン」を封筒に入れ「これがドアの上にのってたよ」と言って、フィクリーの手元に戻します。

「タマレーン」はクリスティーズでオークションにかけられ、7万2千ドルで競り落とされます。

フィクリーの手術と放射線治療の費用を支払うのに十分な金額でした。

フィクリーはマヤの大学進学の資金にと考えていましたが、当のマヤに奨学金を獲得するから大丈夫と反対され、アメリアにも説得されて、手術を受けることになりました。

脳の悪性腫瘍の手術と、放射線治療を受けた後、腫瘍専門医は、彼の腫瘍が縮みもせず、成長もしていないことを認めます。

フィクリーはやがて、本を読むことも難しくなり、言葉も切れ切れになり、マヤと話しても上手く伝わらなくなります。

フィクリーの死後、アメリアは眠れぬほどあれこれと思い悩んだ1週間の後、店を閉じることを決意します。

イズメイとランビアーズが地元の軽食堂で目玉焼きを食べながら、「ひとつの時代の終わりだね」と、買い手があらわれない書店の話をしています。

ランビアーズは、来春には警察勤務も25年になるし、かなりの蓄えもあるので、ボートを買いフロリダで暮らそうと考えて、イズメイを説得していました。

フィクリーの話をしている間に、二人で本屋を引き継いだらどうだろうと話し始めます。

こうして元教師イズメイと元警察署長ランビアーズはアイランド・ブックスを買い取り、店主となりました。

数年後、マヤはもうじき高校を卒業し、アメリアはほうぼう出張することにうんざりして、大型書店の書籍仕入れ担当に転職しました。

この物語の最後の場面は、出版社の若い営業担当の青年がアイランド・ブックスを訪れ、梯子の上にいる中年の男性に片手をさしだし、「ランビアーズさん、本をおもちしましたよ!」と声をかけたところで終わります。

ひとつの物語が終わり、新たな物語が爽やかなウィンド・チャイムの音とともに始まります。